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第30話 変人探索者の上層攻略
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「よし、これで私も探索者再び。今日の宿代と食事代を稼ごう」
自分のことを星って名乗ったお姉さんは、現在私のバットを持って《機械巣窟》上層を進んでいた。
まさかの、自分の武器すら持っていなかったという事態に、茜お姉ちゃんが心配そうに尋ねる。
「あの、星さん? あなた、どんなスキルを持ってるんですか?」
「あ、それは私も気になります!」
お姉ちゃんに便乗するように、私も手を挙げて質問した。
星さんは、今現在私の弟子ってことになってる。形式的なものだし、そんなに気にしなくてもいいのかもしれないけど……それでも、やっぱり師匠として、私は星さんがどんな力を持っているのか、把握しておきたい。
師匠として、アドバイスも出来るかもしれないからね!
「私の力? ……すっごく力持ち」
「強化系ってことですね。まあ、一般的かぁ」
「お姉ちゃん、強化系って?」
「……え、本気で言ってる? アリスちゃん」
"ここに来て更に判明するアリスちゃんの世間知らずっぷり"
"まあ、ついこの前までずっとダンジョン暮らししてたわけだし"
"仕方ないね"
視聴者のみんなに擁護されながら、私はお姉ちゃんにスキルの分類について教えて貰った。
探索者が目覚めるスキルには、大きく分けて三種類あるんだって。
一つ目は、強化系。自分自身や、自分が身に着けているものの性能を引き上げる、シンプルな力。
探索者の七割はこの強化系で、強化系以外のスキルに目覚めた人も、ある程度は体の性能が引き上げられてるから、一番地味で一般的なスキルって認識みたい。
二つ目は、自然操作系。炎や氷、電気みたいな自然現象を意図的に起こし、操ることが出来るスキル。
茜お姉ちゃんや、信護さんがこれ。目覚めた人はほぼ例外なく二級以上の探索者になっているっていう、エリート探索者のスキルなんだとか。全体の二割くらいしかいないんだって。
「そして三つ目が、支援系、あるいは超感覚系って呼ばれてるスキル。単なる感覚強化じゃなくて、現実にはあり得ない超能力みたいな感知能力で、周囲にあるものを把握したり、解析したりする力。このスキルに目覚めた人は、探索者以外の仕事につくことも多いかな。アリスちゃんの《機巧技師》もこれね」
「なるほど。……あれ? でも私、金属を好きな形に変形させられますよ? これは?」
「あくまで大雑把な分類だから、スキルによっては複数の系統に跨ってるのも多いのよ。その意味では、アリスちゃんは自然操作系と超感覚系のハイブリッドスキルってことになるのかしら?」
「ハイブリッドスキル……なんだかカッコイイ……!!」
"アリスちゃん、ちょっと中二病に目覚めつつない? 大丈夫?"
"それはそれで可愛いからよし!"
"もはや何しても可愛いじゃん"
"当たり前だよなぁ"
なんだか色々と言われてるけど……纏めると、星さんのスキルはあんまり強力なものじゃないってことかな?
なら、何かあっても大丈夫なように、私がしっかりフォローしてあげなきゃ。なんてったって、師匠なんだし!
「頑張ろう、ポワン、フロン、ウィーユ。テュテレールも、何かあった時はサポートお願いね」
『がん、がが、頑張る』
『了解。だが、この上層で彼女に支援は不要だと判断する』
「え? 支援は不要って、どうして?」
まだ何もしてないのに、テュテレールが断言するなんて珍しい。
そう思って尋ねると、テュテレールは珍しく歯切れ悪く答えた。
『……少なくとも、上層で足踏みするような実力の者であれば、あのような場所に眠っていて無事で済むはずがない』
「まあ、確かにそうかも?」
状況証拠としては、テュテレールの言い分は間違いなく正しい。
でも、いつもは自分で観測したデータを第一にするテュテレールが、そんな理由で星さんのことを判断するなんて……。
「ねえ、あなた、あの変な人のこと何か知ってるの?」
『黙秘権を行使する』
同じことが気になったのか、茜お姉ちゃんが問いかけると、テュテレールからまさかの回答が返って来た。
びっくりする私達に、テュテレールは一言。
『アリスの夢を壊したくはない』
「私の……?」
どういう意味? と首を傾げるも、それ以上は答える気がないのか、テュテレールが完全に沈黙しちゃった。
お姉ちゃんと顔を見合わせると、肩を竦められる。
「まあ、ひとまず後ろから様子を見守ってればいいんじゃないかしら」
「そうですね」
そんなお姉ちゃんの結論に、私も大きく頷いた。
けど……ただの様子見で終わらせるには、星さんのダンジョン攻略はすっごく危なっかしかった。
「おお、機械バッタだ。懐かしい~」
『────』
正面から襲って来た機械バッタを、星さんはバットで殴り壊す。
そこまではいいんだけど……すぐ真上まで来ていた機械クモに気付かなかったのか、降って来たそれに頭をがっちりと掴まれてしまった。
「わっ、急に真っ暗になった」
「真っ暗になった、じゃないですよ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫、平気平気~」
機械クモは、ああやって不意に死角から飛びついたところで、体から飛び出した針を相手に突き刺すっていう機能を持ったモンスターだ。
早く助けなきゃ、と思ってる私を余所に、お姉さんは余裕そうにサムズアップまでして……。
「ふんっ」
壁を頭突きして、組み付いた機械クモを破壊していた。
代わりに、自分の怪力が反動として返って来たことで頭が揺さぶられたのか、フラフラと後ろに倒れそうになって……。
「ほ、星さん! そっちは危ないです!」
「おっとっと……え、何?」
踏み抜いた床に仕掛けられていた、トラバサミのトラップが作動。その足に、鋭い刃が思い切り食いついた。
あまりにも痛そうなその光景に、思わず目を閉じそうになるけど……星さんは特に気にした様子もなく、それを興味深そうに眺めてる。
「前から気になってたけど、これどういう仕組みなんだろうね。バネとかがあるようには見えないんだけど」
足に食いついたそれを開いては閉じ、開いては閉じと繰り返して、その構造を眺めている。
当たり前だけど、その間に何度もトラップの刃が足に突き刺さって……ないんだけど、血の一滴も出てないんだけど、でも見てるこっちが痛そうでなんか嫌!
「星さん! そんなおもちゃ、私が同じ構造で作ったのを後で見せてあげますから! そんな風に自分の足でガチャガチャするのはやめてください!」
「え、ほんと? ありがとう、師匠は優しいね」
「え、ええと……どういたしまして……?」
「俄然やる気も出て来たし、さっさとお仕事済ませよっか」
「はい、そうしましょう……って、星さん!! トラップ、まだ足にくっついたままですよ~~!!」
足の力だけでトラップを床から引っぺがした星さんが、ガッチャガッチャと金属音を響かせながら歩いていく。
それを慌てて追いかけながら……私の後ろでは、お姉ちゃんが困り顔で口を開いていた。
「ねえ、あれで本当に支援は不要だと思う?」
『……攻略とは別の意味で、支援が必要だと評価を改める』
「まさか、アリスちゃん以上に手のかかりそうな探索者がいるとは思わなかったわ……」
"茜ちゃん、一回神社でお祓いした方がいいんじゃない?"
"苦労人属性がこれでもかってくらい染み付いて来たしなw"
「うっさいわ」
自分のことを星って名乗ったお姉さんは、現在私のバットを持って《機械巣窟》上層を進んでいた。
まさかの、自分の武器すら持っていなかったという事態に、茜お姉ちゃんが心配そうに尋ねる。
「あの、星さん? あなた、どんなスキルを持ってるんですか?」
「あ、それは私も気になります!」
お姉ちゃんに便乗するように、私も手を挙げて質問した。
星さんは、今現在私の弟子ってことになってる。形式的なものだし、そんなに気にしなくてもいいのかもしれないけど……それでも、やっぱり師匠として、私は星さんがどんな力を持っているのか、把握しておきたい。
師匠として、アドバイスも出来るかもしれないからね!
「私の力? ……すっごく力持ち」
「強化系ってことですね。まあ、一般的かぁ」
「お姉ちゃん、強化系って?」
「……え、本気で言ってる? アリスちゃん」
"ここに来て更に判明するアリスちゃんの世間知らずっぷり"
"まあ、ついこの前までずっとダンジョン暮らししてたわけだし"
"仕方ないね"
視聴者のみんなに擁護されながら、私はお姉ちゃんにスキルの分類について教えて貰った。
探索者が目覚めるスキルには、大きく分けて三種類あるんだって。
一つ目は、強化系。自分自身や、自分が身に着けているものの性能を引き上げる、シンプルな力。
探索者の七割はこの強化系で、強化系以外のスキルに目覚めた人も、ある程度は体の性能が引き上げられてるから、一番地味で一般的なスキルって認識みたい。
二つ目は、自然操作系。炎や氷、電気みたいな自然現象を意図的に起こし、操ることが出来るスキル。
茜お姉ちゃんや、信護さんがこれ。目覚めた人はほぼ例外なく二級以上の探索者になっているっていう、エリート探索者のスキルなんだとか。全体の二割くらいしかいないんだって。
「そして三つ目が、支援系、あるいは超感覚系って呼ばれてるスキル。単なる感覚強化じゃなくて、現実にはあり得ない超能力みたいな感知能力で、周囲にあるものを把握したり、解析したりする力。このスキルに目覚めた人は、探索者以外の仕事につくことも多いかな。アリスちゃんの《機巧技師》もこれね」
「なるほど。……あれ? でも私、金属を好きな形に変形させられますよ? これは?」
「あくまで大雑把な分類だから、スキルによっては複数の系統に跨ってるのも多いのよ。その意味では、アリスちゃんは自然操作系と超感覚系のハイブリッドスキルってことになるのかしら?」
「ハイブリッドスキル……なんだかカッコイイ……!!」
"アリスちゃん、ちょっと中二病に目覚めつつない? 大丈夫?"
"それはそれで可愛いからよし!"
"もはや何しても可愛いじゃん"
"当たり前だよなぁ"
なんだか色々と言われてるけど……纏めると、星さんのスキルはあんまり強力なものじゃないってことかな?
なら、何かあっても大丈夫なように、私がしっかりフォローしてあげなきゃ。なんてったって、師匠なんだし!
「頑張ろう、ポワン、フロン、ウィーユ。テュテレールも、何かあった時はサポートお願いね」
『がん、がが、頑張る』
『了解。だが、この上層で彼女に支援は不要だと判断する』
「え? 支援は不要って、どうして?」
まだ何もしてないのに、テュテレールが断言するなんて珍しい。
そう思って尋ねると、テュテレールは珍しく歯切れ悪く答えた。
『……少なくとも、上層で足踏みするような実力の者であれば、あのような場所に眠っていて無事で済むはずがない』
「まあ、確かにそうかも?」
状況証拠としては、テュテレールの言い分は間違いなく正しい。
でも、いつもは自分で観測したデータを第一にするテュテレールが、そんな理由で星さんのことを判断するなんて……。
「ねえ、あなた、あの変な人のこと何か知ってるの?」
『黙秘権を行使する』
同じことが気になったのか、茜お姉ちゃんが問いかけると、テュテレールからまさかの回答が返って来た。
びっくりする私達に、テュテレールは一言。
『アリスの夢を壊したくはない』
「私の……?」
どういう意味? と首を傾げるも、それ以上は答える気がないのか、テュテレールが完全に沈黙しちゃった。
お姉ちゃんと顔を見合わせると、肩を竦められる。
「まあ、ひとまず後ろから様子を見守ってればいいんじゃないかしら」
「そうですね」
そんなお姉ちゃんの結論に、私も大きく頷いた。
けど……ただの様子見で終わらせるには、星さんのダンジョン攻略はすっごく危なっかしかった。
「おお、機械バッタだ。懐かしい~」
『────』
正面から襲って来た機械バッタを、星さんはバットで殴り壊す。
そこまではいいんだけど……すぐ真上まで来ていた機械クモに気付かなかったのか、降って来たそれに頭をがっちりと掴まれてしまった。
「わっ、急に真っ暗になった」
「真っ暗になった、じゃないですよ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫、平気平気~」
機械クモは、ああやって不意に死角から飛びついたところで、体から飛び出した針を相手に突き刺すっていう機能を持ったモンスターだ。
早く助けなきゃ、と思ってる私を余所に、お姉さんは余裕そうにサムズアップまでして……。
「ふんっ」
壁を頭突きして、組み付いた機械クモを破壊していた。
代わりに、自分の怪力が反動として返って来たことで頭が揺さぶられたのか、フラフラと後ろに倒れそうになって……。
「ほ、星さん! そっちは危ないです!」
「おっとっと……え、何?」
踏み抜いた床に仕掛けられていた、トラバサミのトラップが作動。その足に、鋭い刃が思い切り食いついた。
あまりにも痛そうなその光景に、思わず目を閉じそうになるけど……星さんは特に気にした様子もなく、それを興味深そうに眺めてる。
「前から気になってたけど、これどういう仕組みなんだろうね。バネとかがあるようには見えないんだけど」
足に食いついたそれを開いては閉じ、開いては閉じと繰り返して、その構造を眺めている。
当たり前だけど、その間に何度もトラップの刃が足に突き刺さって……ないんだけど、血の一滴も出てないんだけど、でも見てるこっちが痛そうでなんか嫌!
「星さん! そんなおもちゃ、私が同じ構造で作ったのを後で見せてあげますから! そんな風に自分の足でガチャガチャするのはやめてください!」
「え、ほんと? ありがとう、師匠は優しいね」
「え、ええと……どういたしまして……?」
「俄然やる気も出て来たし、さっさとお仕事済ませよっか」
「はい、そうしましょう……って、星さん!! トラップ、まだ足にくっついたままですよ~~!!」
足の力だけでトラップを床から引っぺがした星さんが、ガッチャガッチャと金属音を響かせながら歩いていく。
それを慌てて追いかけながら……私の後ろでは、お姉ちゃんが困り顔で口を開いていた。
「ねえ、あれで本当に支援は不要だと思う?」
『……攻略とは別の意味で、支援が必要だと評価を改める』
「まさか、アリスちゃん以上に手のかかりそうな探索者がいるとは思わなかったわ……」
"茜ちゃん、一回神社でお祓いした方がいいんじゃない?"
"苦労人属性がこれでもかってくらい染み付いて来たしなw"
「うっさいわ」
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