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第32話 いつもの帰り支度
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「うん、師匠のバット、すごくいい。売ってるのと違って、思いっきり殴っても壊れなかった」
「そりゃあ、普通のバットが探索者の力に耐えられるわけないし。というかあんた、今まで武器はどうしてたのよ」
「すぐ壊れるから、素手」
「うわぁ……」
日が傾き、そろそろ夜も近付いてきたところで、私達は《機械巣窟》から外へ向かうべく歩いていた。
星さんの発言に茜お姉ちゃんがドン引きし、一方の星さんは自慢気に鼻を鳴らしてる。
実際、星さんはすっごく強くて、中層のモンスター達も私のバット一本でバッタバッタ薙ぎ倒して、サポートなんて全然いらないくらいだったの。
だから、素手でダンジョンに潜ってたっていうのも、嘘じゃないと思うんだけど……。
“師匠より強い弟子っていうのも面白いな”
“越えるとかじゃなくて最初から強い”
“もう可愛さの師匠ってことにしよう”
“それだ”
「それだ、じゃなーい!」
私と星さんとの圧倒的な実力差もあって、師匠としての威厳なんて早々にどこかに飛んでっちゃった。
ぐぬぬ、後輩を教え導くかっこいい師匠になるはずだったのに、どうしてこうなったの。
そう思っていたら、私の頭を星さんがポンポンと撫でてくれた。
「大丈夫、師匠は立派に私の師匠だよ」
「星さん……!!」
慈愛に満ちた表情で、星さんはそう言ってくれる。
ああ、やっぱり持つべきものは優しい弟子……。
「自分が強くなくても、周りが強ければ大成するのが探索者だって教えてくれたから」
「うわーん! テュテレールぅー、みんながいじめるーー!!」
『…………』
「何も言ってあげないの?」
『今ここで発言した場合、どのような内容でもアリスが更に拗ねる可能性、100%』
「ああうん、それは分かる」
テュテレールに泣きつくと、お姉ちゃんと二人でそんな会話を交わし始めた。
むーっ、別に拗ねてるわけじゃないもん、納得行かないだけだもん!
「それで、星さんはこの後どうするんですか? せっかくなら、みんなでご飯食べますか?」
膨れっ面になりながらも、私は星さんにそう提案する。
たとえ実力差がどうであれ、星さんは私の弟子だから。どうせならもっと仲良くなりたいし、ご飯は大勢の方が楽しいよ。
「あ、もしかしてご馳走してくれるの? だったら……」
「星さん?」
目をキランと輝かせた星さんだけど、急に私達の向かう先──地上の方を見たかと思えば、ガックリと肩を落とす。
「……師匠、嬉しいけど、今日はダメみたい。また今度ね」
「そうなんですか?」
「アリスちゃ~ん!」
それは残念、と素直に思っていたら、地上の方から菜乃花さんの声が聞こえてきた。
振り返って手を振ると、一気に加速した菜乃花さんが私に抱き着いて来る。もう、早すぎて声を出す暇もなかった。
「あ~、久しぶりのアリスちゃんだ~、癒されるぅ~」
「わぷっ……菜乃花さん、久しぶりって、昨日一緒に北海道から帰ってきたところじゃないですか」
「もうウチは丸一日アリスちゃん成分を摂取出来なかっただけで禁断症状を起こす体になっちゃったの! 特に今日は、朝からずっと働き詰めで疲れちゃったし、鬼の局長が仕事はまだまだ山積みだっていうし、もう働きたくないぃ~、アリスちゃん養ってぇ~」
「えぇぇぇぇ!?」
よっぽど疲れてるのか、菜乃花さんはそう言って私に延々と頬擦りしてくる。
や、養ってって言われても、どちらかというと私、菜乃花さんに養って貰ってる立場のような……。
「ちょっと菜乃花さん、取締局のエースが、何をアリスちゃんみたいな幼気な女の子を困らせるようなこと言ってるんですか!? 今この映像も配信されてるんですよ!? いいんですか!?」
「いいのいいの、ウチはビジュアル採用だし、フレンドリーでいつでも会いに行ける身近な取締局員っていうイメージを目指してるからさー」
“局員とお近づきに……なりたくねーw”
“絶対に嫌だw”
“だけどアリスちゃん成分がないと一日持たないのは分かる”
“日々の癒しだからな”
“生き甲斐”
ピースピース、とテュテレールの方にポーズを決める菜乃花さんへ、コメントはすげなくお断りの返事を送っている。
それでも全くめげる様子のない菜乃花さんは、改めて私に向き直る。
「それで? 今日はどんなことしてたの? アリスちゃん。ウチ、忙しくって配信見れなかったんだよねー」
「ああ、それなら、聞いてください! 私、弟子が出来たんですよ!」
「弟子? アリスちゃんに?」
「はい! ね、星さん……って、あれ?」
ずっと話し込んでいたからだろうか。いつの間にか、星さんがいなくなってる。
おかしいな、と思ってテュテレールの方を見ると、珍しく驚いたかのように固まっていた。
『……不明。私のセンサーには、彼女が移動した反応はなかった』
『お、おおお、同じ、く』
「ウィーユも?」
テュテレールはあくまで戦闘がメインになってるからともかく、索敵専門として作ったウィーユでも見失ってたなんて……本当に、何が起きたんだろう?
「……怪しいヤツ?」
「怪しいと言えばめちゃくちゃ怪しいし、怪しすぎて逆に怪しくない気もする、とにかく変わった人でしたね」
「ふーん……? まあ、局長や歩実が何も言ってこないなら、ひとまず大丈夫かな?」
後で確認しよっ、と呟きながら、菜乃花さんがようやく私から離れて立ち上がる。
「それじゃあ、外で歩実が待ってるし、帰ろっか? ああ、それとテュテレール君、後でお仕事の話があるから、よろしくね」
『了解』
「菜乃花さん、お仕事って?」
「うーん、アリスちゃんにはまだちょっと早いかな?」
「むぅ~」
子供扱いされて膨れっ面を向けると、菜乃花さんはからからと笑いながら私の頭を撫で始めた。
「大丈夫、アリスちゃんが良い子で寝ててくれれば、夜の間に片付くから」
「んぅ……それだと、今度は菜乃花さんが大変じゃないですか?」
テュテレールはロボットだから、人間みたいに眠ったり、休んだりする必要はあまりない。
でも、菜乃花さんは疲れてるって言ってたのに、夜遅くまでお仕事なら……ちょっと心配だ。
「えへへ、平気平気。ちょーっと、悪い奴らを懲らしめて来るだけだからさ」
それっきり、菜乃花さんはお仕事の話はしてくれなくなり、疑問は有耶無耶になったまま終わってしまう。
良くわからないけど……テュテレールもいるなら、大丈夫だよね?
「そりゃあ、普通のバットが探索者の力に耐えられるわけないし。というかあんた、今まで武器はどうしてたのよ」
「すぐ壊れるから、素手」
「うわぁ……」
日が傾き、そろそろ夜も近付いてきたところで、私達は《機械巣窟》から外へ向かうべく歩いていた。
星さんの発言に茜お姉ちゃんがドン引きし、一方の星さんは自慢気に鼻を鳴らしてる。
実際、星さんはすっごく強くて、中層のモンスター達も私のバット一本でバッタバッタ薙ぎ倒して、サポートなんて全然いらないくらいだったの。
だから、素手でダンジョンに潜ってたっていうのも、嘘じゃないと思うんだけど……。
“師匠より強い弟子っていうのも面白いな”
“越えるとかじゃなくて最初から強い”
“もう可愛さの師匠ってことにしよう”
“それだ”
「それだ、じゃなーい!」
私と星さんとの圧倒的な実力差もあって、師匠としての威厳なんて早々にどこかに飛んでっちゃった。
ぐぬぬ、後輩を教え導くかっこいい師匠になるはずだったのに、どうしてこうなったの。
そう思っていたら、私の頭を星さんがポンポンと撫でてくれた。
「大丈夫、師匠は立派に私の師匠だよ」
「星さん……!!」
慈愛に満ちた表情で、星さんはそう言ってくれる。
ああ、やっぱり持つべきものは優しい弟子……。
「自分が強くなくても、周りが強ければ大成するのが探索者だって教えてくれたから」
「うわーん! テュテレールぅー、みんながいじめるーー!!」
『…………』
「何も言ってあげないの?」
『今ここで発言した場合、どのような内容でもアリスが更に拗ねる可能性、100%』
「ああうん、それは分かる」
テュテレールに泣きつくと、お姉ちゃんと二人でそんな会話を交わし始めた。
むーっ、別に拗ねてるわけじゃないもん、納得行かないだけだもん!
「それで、星さんはこの後どうするんですか? せっかくなら、みんなでご飯食べますか?」
膨れっ面になりながらも、私は星さんにそう提案する。
たとえ実力差がどうであれ、星さんは私の弟子だから。どうせならもっと仲良くなりたいし、ご飯は大勢の方が楽しいよ。
「あ、もしかしてご馳走してくれるの? だったら……」
「星さん?」
目をキランと輝かせた星さんだけど、急に私達の向かう先──地上の方を見たかと思えば、ガックリと肩を落とす。
「……師匠、嬉しいけど、今日はダメみたい。また今度ね」
「そうなんですか?」
「アリスちゃ~ん!」
それは残念、と素直に思っていたら、地上の方から菜乃花さんの声が聞こえてきた。
振り返って手を振ると、一気に加速した菜乃花さんが私に抱き着いて来る。もう、早すぎて声を出す暇もなかった。
「あ~、久しぶりのアリスちゃんだ~、癒されるぅ~」
「わぷっ……菜乃花さん、久しぶりって、昨日一緒に北海道から帰ってきたところじゃないですか」
「もうウチは丸一日アリスちゃん成分を摂取出来なかっただけで禁断症状を起こす体になっちゃったの! 特に今日は、朝からずっと働き詰めで疲れちゃったし、鬼の局長が仕事はまだまだ山積みだっていうし、もう働きたくないぃ~、アリスちゃん養ってぇ~」
「えぇぇぇぇ!?」
よっぽど疲れてるのか、菜乃花さんはそう言って私に延々と頬擦りしてくる。
や、養ってって言われても、どちらかというと私、菜乃花さんに養って貰ってる立場のような……。
「ちょっと菜乃花さん、取締局のエースが、何をアリスちゃんみたいな幼気な女の子を困らせるようなこと言ってるんですか!? 今この映像も配信されてるんですよ!? いいんですか!?」
「いいのいいの、ウチはビジュアル採用だし、フレンドリーでいつでも会いに行ける身近な取締局員っていうイメージを目指してるからさー」
“局員とお近づきに……なりたくねーw”
“絶対に嫌だw”
“だけどアリスちゃん成分がないと一日持たないのは分かる”
“日々の癒しだからな”
“生き甲斐”
ピースピース、とテュテレールの方にポーズを決める菜乃花さんへ、コメントはすげなくお断りの返事を送っている。
それでも全くめげる様子のない菜乃花さんは、改めて私に向き直る。
「それで? 今日はどんなことしてたの? アリスちゃん。ウチ、忙しくって配信見れなかったんだよねー」
「ああ、それなら、聞いてください! 私、弟子が出来たんですよ!」
「弟子? アリスちゃんに?」
「はい! ね、星さん……って、あれ?」
ずっと話し込んでいたからだろうか。いつの間にか、星さんがいなくなってる。
おかしいな、と思ってテュテレールの方を見ると、珍しく驚いたかのように固まっていた。
『……不明。私のセンサーには、彼女が移動した反応はなかった』
『お、おおお、同じ、く』
「ウィーユも?」
テュテレールはあくまで戦闘がメインになってるからともかく、索敵専門として作ったウィーユでも見失ってたなんて……本当に、何が起きたんだろう?
「……怪しいヤツ?」
「怪しいと言えばめちゃくちゃ怪しいし、怪しすぎて逆に怪しくない気もする、とにかく変わった人でしたね」
「ふーん……? まあ、局長や歩実が何も言ってこないなら、ひとまず大丈夫かな?」
後で確認しよっ、と呟きながら、菜乃花さんがようやく私から離れて立ち上がる。
「それじゃあ、外で歩実が待ってるし、帰ろっか? ああ、それとテュテレール君、後でお仕事の話があるから、よろしくね」
『了解』
「菜乃花さん、お仕事って?」
「うーん、アリスちゃんにはまだちょっと早いかな?」
「むぅ~」
子供扱いされて膨れっ面を向けると、菜乃花さんはからからと笑いながら私の頭を撫で始めた。
「大丈夫、アリスちゃんが良い子で寝ててくれれば、夜の間に片付くから」
「んぅ……それだと、今度は菜乃花さんが大変じゃないですか?」
テュテレールはロボットだから、人間みたいに眠ったり、休んだりする必要はあまりない。
でも、菜乃花さんは疲れてるって言ってたのに、夜遅くまでお仕事なら……ちょっと心配だ。
「えへへ、平気平気。ちょーっと、悪い奴らを懲らしめて来るだけだからさ」
それっきり、菜乃花さんはお仕事の話はしてくれなくなり、疑問は有耶無耶になったまま終わってしまう。
良くわからないけど……テュテレールもいるなら、大丈夫だよね?
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