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第37話 星の神

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「せ……星羅せら!? アンタ、どうして……いつ日本に戻って来たの!? 茜ちゃんまで連れて!!」

「いつだっけ? まあ、そんなことはどうでもいいよ。私はただ、師匠の保護者からの救援要請を受けて、ここに来ただけだから」

 アリス特製のバットを担ぎ、薄い笑みを浮かべるのは、アリスの弟子となった不審な探索者、星。
 そんな彼女の登場に、菜乃花は驚きも露わに叫んでいた。

 だが、星羅と呼ばれた彼女は、そんな菜乃花の問いかけに雑な返答を返しながら、何気なく一歩踏み出し──次の瞬間には、茜の傍まで戻って来ていた。

 その腕に、菜乃花を抱きかかえて。

「うわっ、い、いつの間に!?」

「茜を連れて来たのは、怪我人を運ぶ人手がいるかなって思ったから。茜なら、余裕でしょ? お願いね」

「そりゃあ余裕ですけど……あなた、菜乃花さんと知り合い? 本当に、一体何者なんですか!?」

「うーん……ヒーロー?」

「答えになってない!!」

 キーキーと叫ぶ茜に菜乃花を預けた星は、俊三に向けて一歩踏み出す。

 その余裕そうな態度は、彼の神経を逆なでした。

「てめえ、急に現れてヒーローだぁ? 舐めやがって……どうやら、状況が分かってねえみてえだなぁ!! おいおめぇら、やっちまえ!!」

 戦車が暴れている間、危険だからと退避していた仲間を呼び寄せようとする俊三。
 しかし、いくら待っても彼の仲間は現れなかった。

「外にいた連中なら、全員寝かせといたよ」

 あっさりと口にするが、曲がりなりにも何十人といるスキルを持った人間達だ。
 それを、俊三に悟られることすら許さずに制圧しきるなど、只者ではない。

「ちっ、使えねえ……なら、こいつの出番だ!!」

 だが、その程度のことで俊三が焦ることはない。
 彼が手を掲げると、倉庫を突き破って再び戦車が現れる。

 その威容に、茜は腰を抜かした。

「な、な、な、戦車ぁ!? こ、こんなのどうするんですか!?」

「あー……茜ちゃん、そこの物陰に隠れて、それで大丈夫だから」

「大丈夫って、あの人は!?」

「大丈夫だよ、あいつなら」

 菜乃花に促され、茜は物陰に身を潜める。

 反対に、戦車を前にしても星の態度は何も変わらなかった。

「うわぁ、戦車なんて初めて見た」

「このっ……その余裕そうな面、二度と人前に出せねえようにしてやる!!」

 俊三の叫びと共に、戦車に搭載された機関砲が火を噴いた。

 一発一発が、ダンジョンモンスターさえ貫く強力な弾丸だ。
 嵐のように降り注ぐそれを、しかし星は防ごうとすらしない。

「……これが相手なら、久しぶりに"本気"で殴っても大丈夫かな」

 弾丸は、確かに当たっている。ボロボロの衣服が更に削れ、素肌の一部が露わになっていくが、そこには傷の一つすらついていない。

 まるでそよ風の中に佇んでいるかのように、星はバットで構えを取った。

「星の導きよ、私に力を──《星ノ力スタードライブ》」

 星の体が、握り締めたバットごと星のように煌々と輝く。
 それを脅威と見て取ったのか、俊三が焦り始めた。

「くそっ、なら、こいつでどうだ!!」

 戦車の砲塔が動き、主砲の照準を星に合わせる。

 その様子をハラハラとした様子で見守る茜に、菜乃花は語り出した。

「あの人はね、日本に三人しかいない超級探索者の一人だよ」

「えっ……マジですか!? アレが!?」

「そう、アレが。更に言うと、私の知る限り、日本最強の探索者」

 菜乃花の言葉に、茜は少なくない衝撃を受けた。

 何せ、彼女はテュテレールのことを知っているのだ。
 その性能を目にしたことのある菜乃花が、それでも星を最強だと呼んでいる。

 それが意味するところを察して、茜は戦慄した。

「どんな攻撃も彼女には通じず、どんな守りも彼女を前にしたら意味をなさない」

 戦車の主砲が、容赦なく火を噴く。

 ダンジョンボスさえ打ち倒すという目的で開発された砲弾が、星に向かって放たれて──星は、それを真正面から突っ切り、生身の体で弾き返す。

 あまりにも理不尽な光景に、目の前で見ていた俊三は「は?」と気の抜けた声を漏らした。

「これで終わり。──《星ノ一撃シューティングストライク》!」

 振り抜いたバットが俊三を乗り越え、その背後にある戦車の正面装甲に直撃し、耳をつんざく轟音が鳴り響く。

 大地が揺れ、まともに立っていられないほどの衝撃にバランスを崩した茜は……顔を上げた先に、戦車も、周囲にあった倉庫街さえも、全てが残骸の山と化しているその光景に、頬を引き攣らせた。

「《星神》──浮雲うきぐも星羅。それが、あいつの名前だよ」

 何をどうやったのか、あの凄まじい衝撃の中でただ一人、荒馬俊三だけは無傷のまま転がり、あまりの恐怖に失禁している。

 そんな彼には一瞥もくれず、星──星羅は呟いた。

「うん、やっぱり師匠のバットは丈夫でいいね、全力で殴っても壊れなかった。──この調子で、師匠の方も助けに行こうかな。こっちより、向こうの方がヤバそうだし」

 すっかり周囲に物がなくなり、見やすくなった空。アリスの家がある方向。

 そこに、巨大な化け物の如き巨人が出現するのを目の当たりにして、茜は心の底から思った。

 次から次へと、もう、勘弁して──と。
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