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4 そして天宮城 雫那は黄昏る。
しおりを挟む「セイギ部?」
確かにこの人そう言ったよな...。
セイギって...正義? この学校の平和は私たちが守る! 的な?
大学ってそんないかにもお遊びみたいな部の発足を認めるものなんですね...。
「セイギって、あの海賊達を取り締まる海軍が背中に掲げてる文字の正義ですよね...。」
実際にあの漫画の中では、海軍の悪政を無理矢理正当化させるための言葉でしかない訳だが...。
「言ってることはよく分からないのだけれど、おそらくあなた誤解してるわよ。」
「あ?」
また冷徹女が横から口を挟んでくる。
「それはあくまで略称よ、正式な部活名は『学生評議部』あなたほんとに何もしらなかったのね...。」
いや普通に教えてくれてんじゃん!
なら等価交換だとか言わないで最初から素直に教えろよ!
「学生評議って...中学や高校でいうところの生徒会みたいなことか? 」
「そう思ってくれていいわ。」
だとするなら少し引っかかる...。 普通は大学という機関にいわゆる生徒会のような対内的活動を目的とした自治組織は無いはずだ。
「でも大学なら学生自治会とかじゃないのか? しかも部活って...。」
「あら、残念な頭だとばかり思っていたけど、意外に鋭いわね。生意気だわ。」
お前は悪態をつかずに会話ができんのか。
しかしここは我慢、我慢だ...。
俺は悪態女を無視して吉川先生に視線を向け、目で返答を求めた。
「あなたが言わんとしていることは分かります。大学はあくまで高等教育機関。対外的活動を目的とした学生自治会等ならともかく、対内的活動を目的とした学生の自治活動は基本的に認められるものではありません。」
よく大学に入学した時言われるように、大学生とは学生であり生徒ではない。
学生、生徒と区別はされていても、実際には中等教育機関に属しているか、高等教育機関に属しているかの違いぐらいしかない訳だが、中等教育機関、つまり中学、高校は、対内的活動(端的に言うと学校内の活動)に基盤を置き生徒を育成するのに対し、高等教育機関である大学や専学は、学生の自主性を促す対外的活動(端的に言うと学校外の活動)に重きを置いているというのが日本の教育課程の構図だ。
だから大学という機関においてはサークルならまだしも、部活という名目ではそんな部は基本認められはしない。
ちなみに余談だが『生徒』とは既知の事実を学ぶ者を意味し、『学生』とは未知の予想、予測を検証し、実証する者のことを意味するそうだ。
「でもさっき俺がこの部を生徒会に例えたら天宮城は否定しませんでしたが...。」
そうだ、そこに引っかかってたんだ。
この大学に学生評議部という対内的な自治組織が実際にあるという事実。なんでだ?
「えぇ、そう...ですねぇ...。」
俺がそう聞くと、先生はなにやら戸惑った様子でチラチラと天宮城の方を見ていた。
「いいです先生、後は私が説明します...。」
「そう......。」
先生の視線を感じてか、涼しい顔で天宮城がそう言うと、先生も彼女に託したようだった。
なにやら暗黙のやり取りがあったように思えたが、俺は黙って天宮城へ耳を傾ける。
「あなたももう知っているとはおもうけど、私はこの大学創設者の血縁者であり、現学園理事会会長である天宮城 義昭の実の娘よ。」
予想はしていたが、そうまじまじと告白されると反応に困るな...。
「そして大学であるにもかかわらずこの学生評議部という対内的自治組織があるのは、その父の意向なのよ...。」
理事長がわざわざ学校の一部活の発足に携わっている?普通ならまずありえない。
「なるほど、理事長直々に発足させられたとあらば、大学とはいえそんな部活があっても不思議じゃないか。」
まだ説明半ばであったが俺は全てを理解したような素振りを見せた。
「あなた、今ので納得したというの?」
天宮城がいかにも不可解だという目でこちらを睨む。
「ん? あぁ。それともまだなんかあるのか?」
「......いえ、あなたがそれで理解したというなら別にいいわ...。」
彼女は気が抜けてほっとしたような、でもなにか諦めて弱々しくも見える表情を見せた。
こいつとこいつの父親の間には何かある。この時に俺はそう確信した。
「それより先生、俺はいつになったら解放されるのでしょうか...。」
もう疲れた、どうでもいいから早く帰りたい。
「そんな人聞きの悪い...。先生は別にあなたを監禁したつもりじゃないのよ?」
脅迫して人を個室に閉じ込めるという行為は監禁とは言わんのか...。
「でもそうね。二人とも思ってたより仲良くなれたようだし...。」
だからどこをどう見ればそう見えるのか教えてもらいたい...。
「そうそう、先生ね、今学生達を対象に著名活動しているんだけど......朝霧君の著名ももらっていいかしら。 書いてくれるならもう帰ってもいいわよ?」
そう言って先生はなにやら何重にも折られている著名記入欄のある用紙を差し出して来た。
「著名活動って何のですか......怪しいやつじゃないですよね?」
なんかちょっと胡散臭い。
「そんなことないわ。 天宮城さんだって著名してくれたし。」
天宮城が? それなら問題ないか...。
この短時間話しただけだが一つ言えるのは、この女は得体の知れない怪しい用紙に自分の名前を書き込むような愚かしい女じゃないということだ。
彼女も否定しないところをみると、どうやら事実のようだな。
「まぁ、それなら...。」
俺は懐疑心を抱きながらも渋々用紙に名前を記入した。
「そんじゃ帰ります。」
先生の気まぐれが再び発動しない内にさっさと出てってしまおう。
俺は鞄を抱えると颯爽と個室の出口へ向かう。
「それじゃまた明日。」
先生の挨拶に軽くお辞儀をしてそのまま学生評議部を後にした。
「意外と気を遣ってくれてたじゃない、彼。」
「いえ...深入りするのが面倒だとでも思ったのでしょう。 あれは多分そういう男です...。」
そう言って彼女はどこか虚空を見つめるように、部室の窓越しに夕空を見上げた...。
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