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スライム、ブータン商会

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「いやぁ、あなた達が参戦してくれて助かりましたよ!あの距離から投石当てて来るなんて結構な腕前ですね。ひょっとして冒険者の方ですか?」
「はい、まあ。一応Cランク冒険者です」
「Cランク!?その歳で凄いですね!あ、俺はラフ・ポケットっていいます。この馬車の護衛っすね」

テンションの高い金髪の兄さんがへらりと笑いながらそう話しかけて来る。さっきこちらに向かって手を振っていたのはこの人だったらしい。

なんというかノリの軽い人ですね。でも悪い人ではなさそうだ。顔に浮かぶ笑みに悪意は感じられない。

「俺はエアトっていいます。こっちはスラりんです」
「エアトさんにスラりんさんですね。スラりんって面白い響きの名前っすね。なんかスライムみたいって言われません?」

不思議そうな顔をしながらラフさんがそういう。確かに。全力でスライムを主張した名前ですよね。まあ、スライムみたいもなにもスラりんはスライムなのだが、それはいうべきなのだろうか?

でもこの天使系美少女がスライム?俺が言われたら信じないな。モンスターが人型になっているなんて聞いたことないしいうのやめておこう。

「まあそうかもしれませんね」
「ご主人様から付けていただいた名前に何か問題があるのでしょうか?」

スラりんはスッと目を細める。何故だろうね、背筋が寒くなりましたよ。

うちの殺る気Maxスライムがラフさんに殺気を飛ばしたのだろう、ラフさんもそれを感じたのかビクッと肩を震わせた。

こんなところで初対面の相手に喧嘩を売るつもりなど全くないので慌てて話題をずらす。

「ところでラフさん!俺が倒した分のゴブリンは回収したいのですが構いませんか!?」

それはそうと討伐したゴブリンの所有権についてだ。

クエストは受けてないけど道中倒したモンスターも本体か討伐部位を持って行ったら報酬を支払ってくれることが多い。

今は懐は潤っているけどもらえるものはもらっておこう。貧乏性なんです。

「うん、エアトさん達が倒したゴブリンはそっちの手柄だし勿論持って行ってくれて構わないっすよ!と、言いたいんですけど、一応俺の雇い主に確認取ってもいいっすか?大丈夫だと思うんすけど、」
「別にいいですよ」

ラフさんが馬車に顔を突っ込んで何やら話している。雇い主さんとやらは中にいるらしい。

もしこの雇い主さんがゴブリンを渡したくないと言えば俺は自分が倒した分ですら回収できない可能性がある。

これは優勢な戦闘に途中から乱入して大して役に立ってないのに報酬を請求してくるやからがいるからだ。助けてと言われてないのに手助けするのは善意の押し売りなのである。冒険者は自己責任、自己解決することが当然のことであるらしい。

まあ、だからもしゴブリン持って行っちゃダメと言われたら諦めよう。別に大した損失でもないし助けたのもただ見て見ぬ振りするのも気分が悪いなーと思った俺の自己満足だ。あと、単に道の真ん中で戦闘していたから通行の邪魔だった。というわけでゴブリンを回収できないならそれはそれで仕方ない。

「お待たせしました!大丈夫だそうなので遠慮なく持っていって下さい!」
「あ、よかったです。じゃあもらっていきますね」

俺の心配は杞憂だったらしい。ゴブリンは持って行っていいそうなので早速頂きましょう。

まず俺が倒したゴブリンかそうでないかを仕分けする。俺は全部投石で倒したから切り傷があるのは除外だ。

それが出来たところでラフさんが討伐部位の回収を始めた。討伐部位とはそれを冒険者ギルドに持って行ったらモンスター討伐の証となるもので引き換えに報奨金が貰える。どうやらゴブリンの討伐部位は耳らしく両耳を切り落としていた。

まあ俺には関係ない話かな?俺の分のゴブリンを引き寄せコメット袋に収納していく。当然丸ごと納品した方がもらえる報酬は多いに決まっているんだから全部もらっていきますよ。

「へっ?エアトさん、なんでコメット袋にゴブリン入れているんですか?」
「え、ギルドに報告する時に全部持って行ったら買い取りもしてもらえるんじゃないんですか?」
「そりゃそうっすけど、ゴブリンの買い取りくらいじゃコメット袋の容量使うのと釣り合わないっすよ。なんでも持ち運べるコメット袋は貴重なんですからもっと有効的に使わないと」
「大丈夫です。まだまだ空きはあるので」

そういいつつ俺が倒したゴブリン8体分をコメット袋に収めるとラフさんがギョッとした顔をした。どうやら俺のコメット袋の容量が大きくて驚いているらしい。

確かに一般的なコメット袋ってバケツ一杯くらいしか入らないもんね。大きい物でもモンスター一体収めることができたら上出来だ。

そう考えるとこのコメット袋は凄くいいアイテムだな。確かドラゴン一頭くらいまでなら普通に入れることができていたし。

「そのコメット袋めっちゃ容量大きくないっすか?俺ゴブリン8体も入るコメット袋なんて初めて見ましたよ。どこで手に入れたんですか?」
「えっと、昔仲間と一緒に入ったダンジョンですよ」
「そっか、ダンジョンかぁ。やっぱりそういう凄い魔法マジックアイテムがあるのはダンジョンなんですね。俺もいつか行ってみたいっす」

ラフさんと話しているとドタバタと馬車の方から音がした。なんだろうと思って顔を向けると荷馬車からドスドスと音を立てながらふくよかな男性がやってきた。

「ふおおおっ!話を聞かせてもらいました!貴方がゴブリンを8体も詰め込めるコメット袋を持っているとは本当ですかな?!」
「え、はい。本当ですけど?」
「ふおおおっ!素晴らしい!コメット袋を探している時にそれをお持ちの方にお会いできるとはなんと幸運なことでしょう!」

ふおっ、ふぉっ、笑いながら急に馬車から降りてきた男性がまくし立ててきた。勢いに負けて普通に答えてしまったけど、うん。誰だこの人。

「え、旦那、ゴブリンの後処理なんて泥臭いことしたくないから絶対馬車から降りないとか言ってませんでしたっけ?降りてるじゃないですか」
「ふぉっ、お前はバカなんです!大した稼ぎにならないゴブリンの討伐処理と莫大な利益に生み出すかもしれないコメット袋の件についてはかける労力が変わるのは当然のことなんです!コストに釣り合うかどうかが大切なんです!」

目の前でラフさんとふくよかなおっさんが言い合いをしている。ラフさんが旦那と呼んでいるしこの人が雇い主かな?なんか金持ちそうなオーラが漂っているしそうっぽい。

2人のかけ合いが終わるとニコニコと笑いながらふくよかなおっさんがこちらを向く。その瞬間たゆんとお腹が揺れた。

「どうも、どうも。先ほどはゴブリンを倒してくださりありがとうございました。おかげでひっじょーに助かりました。私はブータン・エーサダです」
「俺はエアトでこっちはスラりんです。いえいえ、自分のためでもあるのでお気になさらず。ゴブリンが道の真ん中にたむろっていたら俺も困りましたし」
「そんなご謙遜を。貴方がたのおかげでこちらは被害なくゴブリンを討伐することができたのですよ!これはもう、是非お礼をさせて下さい!」

手もみしながらブータンさんがそういう。いや、本当お礼とかいいですから。別に俺たちが参戦しなくてもラフさんは普通にゴブリン倒していただろうし、大したことはしてない。ここでお礼を、とか言われる方が困る。

それになんでそんなにお礼をしたいのだ?さっきまでそんな素振りは全然なかったよね?

なんとなく不穏な感じがするしここは早く去るべきじゃないだろうか。

「ふぉっふぉ。お礼は何がいいですかな?冒険者の方なら武器や防具でしょうか?いや、それとも食べ物の方がよろしいですか?実は先日、王都の菓子職人が作ったスライムゼリーを仕入れましてね。もうこれがうまいのなんのと、」
「やっぱり人様の好意を無下にするのは間違っていますね。お言葉には全力で甘えさせてもらいますね!」

ブータンさんの話の途中だが食い気味に了承する。いやあ、お礼をくれるっていうなら貰っとくのがやっぱり礼儀ですよね!人の好意には甘えとくべきなのですよね。

え、スライムゼリーの話題が出てから意見変わりすぎだって?当然じゃない?現在品薄なスライムゼリー、それも王都のお菓子職人が作った一級品ですよ!食べたくないわけがないじゃない!

ということで俺とスラりんはお礼をするというブータンさんの荷馬車に乗せてもらうのだった。
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