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荷馬車
しおりを挟む黒の森から出られたのはいいけど手ぶらで歩いて行くのはちょっと不安である。すぐに街に着けばいいけどひょっとすれば2、3日歩いても街にたどり着かないってこともあるかもしれない。そうなると行き倒れの未来が見えてきますね。せっかく始まった異世界生活が1日目でゲームオーバーは嫌です。ここは水や食料を持って行くべきだろう。
2、3個黒い実をもぎ取ってみる。でも残念なことに俺は着の身着のまま異世界に来たわけだからカバンみたいなものは持ってません。勿論どろ子もそんなものは持っていないだろう。どうしたもんか。
と考えていると『ん。どろ子持つ』と言ってどろ子がリンゴをするする身体の中に溶け込ませていった。え、なにそれすごい。
手に持っていたリンゴがどろっと身体の中に入って行くのを見て驚く。どうやらどろ子は身体の中に色々な物をしまえるらしい。そういえばどろ子って元々は泥だもんね。ふへぇ、便利だ。
ということで20個ほどのリンゴをどろ子の中にしまうことができた。取り出しはいつでもできるらしい。ありがたい。
そんなわけで持てる物持ったら黒の森を出て草原の中にあった街道を歩く。結構整備された道だし歩き続ければ何処かの街に着くと思うんだけど見渡す限り草原が広がっている。うん。
これ、今日中に街に着くの?
「どろ子、街がどこにあるとかわかる?」
「街……?ううん、わからない」
どろ子がふるふると首を振る。黒の森の案内人としては有能などろ子さんでも街の場所はわからないらしい。仕方ありませんね、もうこれは街が近くにあることを全力で祈るしかありませんわ。
ただ歩いているだけなのもあれなのでどろ子に話を振る。といってもコミュ力5のゴミである俺に気の利いた話など出来るわけがないので単純に知りたいことを聞いていこう。
「どろ子、この世界って魔法はあるの?」
「魔法……?よくわからない。スキルのこと?」
どろ子がこてんと首を傾げる。ファンタジーっぽい世界だから魔法はあるかな?と思ったけどどろ子の反応を見るとないのかな?まあスキルがあるしこれが魔法みたいなものだろう。
「多分そのことだと思う。どろ子は何かスキルを持っているの?」
「ん。黒に言うこときいてもらえるのと黒を吸収できるのと形をかえることができる」
一つずつ指を折りながらどろ子がそういう。え、3個もスキル持っているの?それはすごいんじゃない?
俺も2個スキルを持っているけど俺のは童貞捨てると死ぬという残念すぎる代償がついてますからね。世界が俺に厳しくてつらい。
取り敢えずどろ子の能力についてもう少し聞いてみようか。黒っていうのよくわからんし、言うこと聞いてくれるって犬か何かなの?
「どろ子、黒ってなに?」
「黒いもの」
真顔でそういうどろ子、うん、わかりません。まあそのうちわかるかもしれないし取り敢えず置いておこう。黒を吸収ってのもわからんしあとは形を変えることかな?ああ、そういえばどろ子って元々泥だったね。
「どろ子が女の子になったのはスキルの力なの?」
「ん、そう。どろ子は形をかえられる」
その瞬間、にゅっとどろ子の両手が真っ黒な鎌の形に変わる。黒くて一切の光沢がなくまるで死神が持っていそうな刃だった。
え、なにこれすごい。泥から女の子になったから変身能力はあると思ったけど身体を武器にすることもできるのか。普通にどろ子がかっこよくて禿げ萌える。てことはどろ子戦闘もできるの?
「どろ子戦えるの?」
「どろ子、戦える」
両手の鎌をシャキシャキ合わせながらどろ子が堂々という。おお?これはなんか自信ありげに言っているしどろ子は結構強いのかな?それは良いことです。パーティメンバーが強いのは素直に有難い。
そんなことを話しながら歩いているとふとガタガタと地面に振動が伝わってくるのを感じる。
なんだろう?と思って振り返ると馬に似た四つ足の緑色の動物が荷馬車を引いてくるのが見えた。おおっ!あれきっと人が乗っているんだよね?ついにこの世界の住民とのファーストコンタクトです!
荷馬車はだんだんと速度を落とし俺達の前までくるとゆっくりと止まる。
「んん?おみゃいら旅人か?それにしちゃ随分と軽装だにゃ」
にゅっと身体を乗り出し御者席にいた猫が話しかけて来る。うわぉ、獣人だ。めっちゃガチの獣人だ。ほんと二足歩行の猫って感じの容姿で長靴をはいた猫に登場しそうな感じの猫さんです。めっちゃファンタジー、やっぱり俺はちゃんと異世界に来ていたんだなぁ。
「あ、えっと旅人です。でも諸事情で荷物はあまりなくてですね、ははっ」
「ふ~ん?おみゃいさんらはトリュフの街に行くつもりなんか?それにゃらこの荷馬車はトリュフへの定期便だから金を払えば乗せてやるにゃ」
御者の猫がそう言って来る。トリュフという街に行くつもりで歩いていたわけではないが正直どこでもいいから街へは行きたい。乗せてくれるのなら是非とも乗せて欲しいけどお金はないなぁ。
「いやぁ、すいません。お金は持ってないんです」
「なんにゃら物々交換でも構わないのにゃ。珍しい物や金目の物は持ってにゃいか?」
お金がなくとも荷馬車に乗せてもらえるかもしれない。でも俺着の身着のままで異世界トリップしたから持ち物は全くないんだよな。今持っているのはこれくらいしかない
「えっと、これはどうです?」
「にゃんだそれ?」
猫の御者さんに見えないように後ろからどろ子に黒の森でゲットしためっちゃ美味しいリンゴを取り出してもらう。身体の中からリンゴが出てくるとかびっくり仰天だからね。見せない方がいいだろう。
真っ赤で美味しそうなリンゴを猫の御者さんに差し出す。リンゴは俺たちにとって貴重な食料ではあるがこれで荷馬車に乗せてくれるのなら是非ともお願いしたい。
御者の猫は不思議そうにリンゴを見つめている。リンゴを見たことがない?この世界では意外とリンゴが貴重なのか?
「見たことない木の実だにゃ。中銅貨1枚払うからひとつくれにゃいか?」
「あ、いいですよ」
10円玉に似た硬貨とリンゴを交換する。値段が適正かは全くわからんが相場を知らないので仕方ないだろう。あとはこの猫さんがリンゴを気に入ってくれるといいのだが。
御者の猫はすんすんと匂いを嗅ぐとリンゴにかぶりつく。その瞬間大きく破顔した。
「にゃ、にゃ、にゃ!?にゃんだこれ、めっちゃおいしいにゃ!こんなおいしい果物食べたことないにゃ!」
シャクシャクとリンゴにかぶりつきながら御者の猫が叫ぶ。おお?これは良い反応じゃないですか?ただのリンゴだけれどもめっちゃ喜んでいるっぽいぞ?これは荷馬車に乗せてもらえるかもしれん。
「気に入ってもらえましたか?」
「これはいいにゃ!すごくおいしいにゃ!この木の5つでおみゃいら乗せてやるけどどうだにゃ?」
「是非ともお願いします!」
無事交渉は成立したようだ。いやぁ、まさか森で取ってきたリンゴで荷馬車に乗れるようになるとは思っていなかったからラッキーでした。リンゴって結構貴重な物なのね、落ち着いたらまたあの森に取りに行きましょう。
ついでに御者の猫は残ったリンゴも大銅貨5枚で引き取ってくれた。金銭価値はよくわからんがさっきより高くなってるよね?ちょっとでもこの世界のお金を得られてよかったよ。
御者の猫に案内されて荷馬車の中に入る。中には二足歩行の犬が3人(?)とフードを被ったよくわからん人とそして、イケメンがいた。
流れるような金色の髪に青みがかったの緑の目、尖った耳に全世界の男達が歯ぎしりしそうなほど整った顔立ちを持ったこの男は間違いない、
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