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第一部
第2話 高嶺の花2
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三年に上がって僕はようやく新宮さん――いや、円花と同じクラスに!
あ、貴島も一緒だが、まあこいつは腐れ縁みたいなもんだね。貴島は僕のことを――ときどきアキと呼んでしまうが――鷹野原くんと呼ぶようになった。そして僕の家に入り浸ることを禁止された。仕方が無いので彼女とはネット接続で遊ぶことになったが、こちらも時々の円花との通話やメッセージで中断されていた。
春、バレー部を後輩に引き継がせると、僕は勉強や運動のために休んでいたバイトを再開した。バイト先は伯母の喫茶店なので結構自由が利く。勉強については受験予定の高校からすると学力は十分だったし、何よりも円花と勉強をするととても効率よくこなせた。
円花とは一緒にクラスの委員長と副委員長になった。もちろん円花が委員長。僕らは仲良く仕事をこなした。
春の日に彼女とあちこち出かけるのは楽しかった。中学生なので行動範囲や出費は限られるけれど、彼女に贈る物はできるだけバイト代で賄っていた。
円花とはキス以上の関係は無かった。部屋に遊びにはくるけれど貴島のように一晩中居たりするわけではないし、居られると僕が困ってしまう。それに彼女とは、それ以上の関係は高校を卒業してからという約束を交わした。
だから僕は、こんな終わりが来るとは思ってもいなかった。
◇◇◇◇◇
ある日のバイトの翌日、登校するとクラスの雰囲気がおかしいことに気が付いた。皆、僕を避けているように感じた。貴島が居たので何かあったのかと聞くと、クラスのSNSを見ていないのかと聞かれる。僕は、円花とのやり取りの邪魔になるから、普段はクラスのコミュニティはミュートしていた。
そこには、ちょうどバイト中だったはずの僕とお客の高校生の女の子が腕を組んでいる写真があった。そしてもう一枚、その女の子とうちの中学の制服を着た男子がラブホに入るところを写した写真があった。
「実はこれだけじゃないのよ。すぐ消されたみたいだけど、裸でやってるところの写真も回ってたの」
「ないないない。そんなの絶対ない」
「それから3-Dの誰かがあなたたちが繁華街で腕組んでるのを見かけたって」
「僕、昨日はバイトだよ? 知ってるでしょ?」
「アキ! どういうことか説明して!」
突然、円花の大きな声が教室に響き渡る。
振り返ると、涙目で眉をしかめている彼女。
「これは僕じゃない。断じて」
「この腕を組んでる写真は間違いなくあなたよね」
「これはそう。いや、だからこの写真とこっちの写真、全然関係ないって」
「この女、同じ女じゃない!」
「いや、だからってそれが僕な理由にはならないよ」
「それに……それに……私を裏切って!」
ああ、おそらく円花は貴島の言っていた消された写真のことを知ってるのだろう。
「円花、信じて欲し――」
パシッ――彼女に触れようとした僕の手が叩かれる。
彼女は涙を浮かべながら僕を睨みつけていた。
「鷹野原、居るかー?」
担任の先生がやってくる。僕はこんな状況で円花から引き離され、職員室へと連れていかれてしまった。
僕は担任や教頭に説明をし、バイト先の伯母にも弁護してもらった。確かにバイト中、席に忘れ物をしていた女の子が居たので慌てて追いかけ、感謝されたが、何故か不意に腕を組まれてしまった。だけどまさかそのときのことを写真に撮ったやつが居るなんて思ってもいなかった。それにラブホに入る中学生の写真だって、僕と分かるほどの証拠は無かった。もちろん、裸の写真なんてそもそも現物が無い。
学校側には特に不問とされたが、教室ではそうは行かなかった。何より円花が疑ってくる。
◇◇◇◇◇
二日後、何とそのれいの高校生の女の子の証言が取れたとの話が出回ってきた。情報の発信元は――円花だった。彼女は他のクラスに知ってる人が居るとの情報を元にその子を探し当てたらしい。そして直接彼女に確認した。ラブホに入った相手が僕だと……。
僕は目の前がチカチカと眩しくなり、倒れかけたところを貴島に支えられた。
悲しかった。クラス全員から疑われたことも悲しかったが、何よりも円花が僕の有罪を確信していることに。
円花は言った。
「今からでも遅くないわ。正直に全て話せば許してあげる」
彼女の少し上からの目線。
ちょっと前まではかわいいとしか思えなかった。
なのに今は、ギロチンに掛けられた状態で断罪されている気分だった。
◇◇◇◇◇
正直も何もなく、僕の言葉は誰にも受け入れてもらえなかった。何よりも円花が受け入れない。その後は何もかもがボロボロだった。勉強にも身が入らず、ふとすると夢うつつで歩いていることもあった。結局、耐えられなくなった僕は、母に頼み込んで他の中学へ転校させてもらった。
あ、貴島も一緒だが、まあこいつは腐れ縁みたいなもんだね。貴島は僕のことを――ときどきアキと呼んでしまうが――鷹野原くんと呼ぶようになった。そして僕の家に入り浸ることを禁止された。仕方が無いので彼女とはネット接続で遊ぶことになったが、こちらも時々の円花との通話やメッセージで中断されていた。
春、バレー部を後輩に引き継がせると、僕は勉強や運動のために休んでいたバイトを再開した。バイト先は伯母の喫茶店なので結構自由が利く。勉強については受験予定の高校からすると学力は十分だったし、何よりも円花と勉強をするととても効率よくこなせた。
円花とは一緒にクラスの委員長と副委員長になった。もちろん円花が委員長。僕らは仲良く仕事をこなした。
春の日に彼女とあちこち出かけるのは楽しかった。中学生なので行動範囲や出費は限られるけれど、彼女に贈る物はできるだけバイト代で賄っていた。
円花とはキス以上の関係は無かった。部屋に遊びにはくるけれど貴島のように一晩中居たりするわけではないし、居られると僕が困ってしまう。それに彼女とは、それ以上の関係は高校を卒業してからという約束を交わした。
だから僕は、こんな終わりが来るとは思ってもいなかった。
◇◇◇◇◇
ある日のバイトの翌日、登校するとクラスの雰囲気がおかしいことに気が付いた。皆、僕を避けているように感じた。貴島が居たので何かあったのかと聞くと、クラスのSNSを見ていないのかと聞かれる。僕は、円花とのやり取りの邪魔になるから、普段はクラスのコミュニティはミュートしていた。
そこには、ちょうどバイト中だったはずの僕とお客の高校生の女の子が腕を組んでいる写真があった。そしてもう一枚、その女の子とうちの中学の制服を着た男子がラブホに入るところを写した写真があった。
「実はこれだけじゃないのよ。すぐ消されたみたいだけど、裸でやってるところの写真も回ってたの」
「ないないない。そんなの絶対ない」
「それから3-Dの誰かがあなたたちが繁華街で腕組んでるのを見かけたって」
「僕、昨日はバイトだよ? 知ってるでしょ?」
「アキ! どういうことか説明して!」
突然、円花の大きな声が教室に響き渡る。
振り返ると、涙目で眉をしかめている彼女。
「これは僕じゃない。断じて」
「この腕を組んでる写真は間違いなくあなたよね」
「これはそう。いや、だからこの写真とこっちの写真、全然関係ないって」
「この女、同じ女じゃない!」
「いや、だからってそれが僕な理由にはならないよ」
「それに……それに……私を裏切って!」
ああ、おそらく円花は貴島の言っていた消された写真のことを知ってるのだろう。
「円花、信じて欲し――」
パシッ――彼女に触れようとした僕の手が叩かれる。
彼女は涙を浮かべながら僕を睨みつけていた。
「鷹野原、居るかー?」
担任の先生がやってくる。僕はこんな状況で円花から引き離され、職員室へと連れていかれてしまった。
僕は担任や教頭に説明をし、バイト先の伯母にも弁護してもらった。確かにバイト中、席に忘れ物をしていた女の子が居たので慌てて追いかけ、感謝されたが、何故か不意に腕を組まれてしまった。だけどまさかそのときのことを写真に撮ったやつが居るなんて思ってもいなかった。それにラブホに入る中学生の写真だって、僕と分かるほどの証拠は無かった。もちろん、裸の写真なんてそもそも現物が無い。
学校側には特に不問とされたが、教室ではそうは行かなかった。何より円花が疑ってくる。
◇◇◇◇◇
二日後、何とそのれいの高校生の女の子の証言が取れたとの話が出回ってきた。情報の発信元は――円花だった。彼女は他のクラスに知ってる人が居るとの情報を元にその子を探し当てたらしい。そして直接彼女に確認した。ラブホに入った相手が僕だと……。
僕は目の前がチカチカと眩しくなり、倒れかけたところを貴島に支えられた。
悲しかった。クラス全員から疑われたことも悲しかったが、何よりも円花が僕の有罪を確信していることに。
円花は言った。
「今からでも遅くないわ。正直に全て話せば許してあげる」
彼女の少し上からの目線。
ちょっと前まではかわいいとしか思えなかった。
なのに今は、ギロチンに掛けられた状態で断罪されている気分だった。
◇◇◇◇◇
正直も何もなく、僕の言葉は誰にも受け入れてもらえなかった。何よりも円花が受け入れない。その後は何もかもがボロボロだった。勉強にも身が入らず、ふとすると夢うつつで歩いていることもあった。結局、耐えられなくなった僕は、母に頼み込んで他の中学へ転校させてもらった。
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