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第一部
第5話 幼馴染1
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その年の春、俺は高校生になった。通う高校はこの辺りのほとんどの中学から進学してくるので、自然と規模は大きくなる。貴島とまた同じ学校に通えるのは普通に嬉しかった。そしてあいつの憧れの先輩、葵サマも同じ高校なのは当然と言えば当然。
七海の東中とは駅の方向が逆になるので会う機会は減るだろうけれど、喫茶店のバイトは続けていくつもりなので時間があれば彼女から会いに来るだろう。まあ、それよりも勉強だよな。
クラスについては成績順なのも有難かった。偏差値で言うと俺の居た東中の方が高いらしい。案の定、1-Aは東中の人間が多めだったし、西第二も合わせると元居た西第一の生徒は少なめだった。そしてその中に貴島が居た。
「えっ、貴島が居る……」
「居ちゃいけないのかよ? あん?」
貴島はゲームやってるときのノリで返す。
「えっ、貴島さんこわ。ガンつけてくる」
「ええっ、違うのっ、私、普段こんなじゃないから」
周囲のクラスメイトが笑うと、貴島は慌てて弁明した。
「タカノン、こんなかわいい子と知り合いとか! 紹介してくれよ!」
「え……っと、貴島。ゲーマー。こっちは大樹。女好き。おわり」
「ひどい紹介だなおい」
「よろしくね! 皆もよろしく。あと、ゲーマーじゃないから私」
貴島はさすがにコミュ力が高く、すぐに何人もと仲良くなって連絡先交換していた。
俺はまあ、東中の知り合いと話をしていただけ。
そういえば居ないな……。
きょろきょろと見渡し、クラスメイトの顔を確認していく。
だけどあの子は見当たらない。
「円花なら1-Fだよ」
いつの間にか戻ってきた貴島のささやくような声に驚く。
「別に探してない」
そうは言ったものの、円花が1-Fってことには驚いた。ありえない。以前にも言ったが、彼女の学力がそこまで落ちるなんて信じられなかった。
◇◇◇◇◇
高校生活が始まると、円花のことは忘れた。忘れようとしていた。彼女から接触してくることはなかったし、授業が一緒になることもなかった。貴島とは付き合いがあるようだけれど、こちらに何か言ってくることは無かった。
七海とはよく連絡を取ってたし、ときどき部活帰りにバイト先に顔を出していた。ただ、それも部活を引退すると、勉強をがんばるため塾に入ったこともあって、徐々に減っていった。
中学の頃の噂は静まっていた――とは思う。部活に入らなかったこともあって、1-Aの教室内での情報しか回ってこなかったというのもある。バレー部には誘われたけれど、あの雰囲気の中に入ると、どうしても頭に円花がちらついてしまうので入部はしなかった。貴島にも聞かれたけれど『ちょっと……無理なんだ』と返したら、あいつも察してくれたようでそれ以上は聞いてこなかった。
何か始めたかというと図書委員くらいか。そこで古い知り合いに出会った。
「えっと、1-Bの三堀さん? 三堀さんって近所の三堀さんだよね? 鷹野原だけど覚えてる?」
「……うん、覚えてる」
三堀 咲枝。彼女の母親とうちの母親が友達で、就学前の小さい頃によく遊んだ記憶がある。ただ、うちの母の仕事が忙しくなってからはほとんど会っていない。小学校も一緒だったけれど、彼女は内気であまり目立たない、ぽっちゃりした感じの女の子で、ほとんど話すことは無かった。
ただ、思った。自分はもしかしてただの面食いなのではないだろうか――と。
久しぶりに会った三堀さんには以前の印象は全く無く、どちらかというとほっそりした体つきの――ただし胸だけはある――笑顔の可愛い女の子になっていた。
三堀さんは他の男子女子にはハキハキとしていて笑顔を向けるのだけれど、かつての自分を知る相手が現れたためか、俺を前にすると警戒しているようで少し口篭もった。
「大丈夫だよ。三堀さんはもしかすると昔のことを気にしてるのかもしれないけど、僕が言いふらしたりとかしないから。何なら僕の方は変な噂とかあるし」
懐かしくてつい素が出てしまった。やっぱりまだ俺は慣れない。
「え?」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
「あっ、いやっ、情けないことなんだけど、知らない子にラブホに連れ込まれたとか嘘つかれて……」
「ええっ?」
「やや、本当に冤罪だから。元西第一のやつらは誰も信じてくれなくてさ。あ、貴島ってやつは別。信じてくれた。まま、そんなだからイメチェンしたのはすごく頑張ったんだって思うし、かわいいって思う」
三堀さんは俯いてしまった。
まあ、そんな形で懐かしい幼馴染と再会したのだ。
◇◇◇◇◇
一年の一学期、二学期を通して俺はまず何より友人関係を重視した。
中学一年の時は円花一筋でそれどころではなかったし、二年でようやく頑張りの成果が出てきて仲のいいクラスメイトが増えた感じだった。そして恋が実った数カ月の間だけが絶頂期。そしてどん底。
高校では同じ轍は踏むまいと、東中の仲の良い友達を足掛かりに友達を増やしていった。ただ、そうしていると元西第一の連中とも関わることになるのだけれど、彼らはあの話を持ち出してくることは無かった。
◇◇◇◇◇
そして三学期。気がかりだった七海の受験勉強は上手く行っている様子。試験当日も彼女から出陣報告があったためエールを送っておいてやった。まあ、聞いてる限りでは余裕だと思う。
そしてもうひとつ。いや、別に気にしているわけではない。何となく円花のことを貴島から聞く。彼女は未だに成績上位者としては張り出されていなかった。そして部活動も。未だにレギュラーの話も聞かない。
「本当にあいつ、どうしたんだよ」
「聞きたい?」
「い、いや、聞きたくない。ってか、何か知ってるのか?」
「知ってる」
「じゃ、じゃああいつの助けになってやれよ」
「私じゃ無理。アキだけだから、今の円花を助けられるの」
「円花がそう言ったのか?」
「ううん。でもわかる」
俺は貴島の言葉にモヤモヤしていた。今の円花が気になって仕方が無かった。だから――と言い訳をしたいわけではない。七海の合格発表の知らせが遅かったことを気付かなかったことに。
◇◇◇◇◇
それに気づいたのは二日も後だった。言い訳できるような時間じゃない。万が一、合格できなくて落ち込んでいたら……。
とにかく、メッセージや通話を試すが連絡がつかない。彼女の家まで行く途中、既読が付いたので電話してみるが出なかった。そして彼女の家に行くが、七海は出かけていると言う。ただ、志望校であるうちの高校へは合格したと聞かされた。一度、連絡を貰えるよう彼女の母親に頼んで、俺は家に帰った。
そして翌日、七海からのメッセージを受け取った。
『ごめんなさい。
先輩とは付き合うことができなくなりました。
他の人と付き合うことになります』
意味が分からなかった。
俺は七海にメッセージを送り、電話を掛けた。
けれど最後に――。
『本当にごめんなさい。バカでごめんなさい』
そういうメッセージだけ帰ってきた。
翌日にはメッセージ自体がブロックされていた。
七海の東中とは駅の方向が逆になるので会う機会は減るだろうけれど、喫茶店のバイトは続けていくつもりなので時間があれば彼女から会いに来るだろう。まあ、それよりも勉強だよな。
クラスについては成績順なのも有難かった。偏差値で言うと俺の居た東中の方が高いらしい。案の定、1-Aは東中の人間が多めだったし、西第二も合わせると元居た西第一の生徒は少なめだった。そしてその中に貴島が居た。
「えっ、貴島が居る……」
「居ちゃいけないのかよ? あん?」
貴島はゲームやってるときのノリで返す。
「えっ、貴島さんこわ。ガンつけてくる」
「ええっ、違うのっ、私、普段こんなじゃないから」
周囲のクラスメイトが笑うと、貴島は慌てて弁明した。
「タカノン、こんなかわいい子と知り合いとか! 紹介してくれよ!」
「え……っと、貴島。ゲーマー。こっちは大樹。女好き。おわり」
「ひどい紹介だなおい」
「よろしくね! 皆もよろしく。あと、ゲーマーじゃないから私」
貴島はさすがにコミュ力が高く、すぐに何人もと仲良くなって連絡先交換していた。
俺はまあ、東中の知り合いと話をしていただけ。
そういえば居ないな……。
きょろきょろと見渡し、クラスメイトの顔を確認していく。
だけどあの子は見当たらない。
「円花なら1-Fだよ」
いつの間にか戻ってきた貴島のささやくような声に驚く。
「別に探してない」
そうは言ったものの、円花が1-Fってことには驚いた。ありえない。以前にも言ったが、彼女の学力がそこまで落ちるなんて信じられなかった。
◇◇◇◇◇
高校生活が始まると、円花のことは忘れた。忘れようとしていた。彼女から接触してくることはなかったし、授業が一緒になることもなかった。貴島とは付き合いがあるようだけれど、こちらに何か言ってくることは無かった。
七海とはよく連絡を取ってたし、ときどき部活帰りにバイト先に顔を出していた。ただ、それも部活を引退すると、勉強をがんばるため塾に入ったこともあって、徐々に減っていった。
中学の頃の噂は静まっていた――とは思う。部活に入らなかったこともあって、1-Aの教室内での情報しか回ってこなかったというのもある。バレー部には誘われたけれど、あの雰囲気の中に入ると、どうしても頭に円花がちらついてしまうので入部はしなかった。貴島にも聞かれたけれど『ちょっと……無理なんだ』と返したら、あいつも察してくれたようでそれ以上は聞いてこなかった。
何か始めたかというと図書委員くらいか。そこで古い知り合いに出会った。
「えっと、1-Bの三堀さん? 三堀さんって近所の三堀さんだよね? 鷹野原だけど覚えてる?」
「……うん、覚えてる」
三堀 咲枝。彼女の母親とうちの母親が友達で、就学前の小さい頃によく遊んだ記憶がある。ただ、うちの母の仕事が忙しくなってからはほとんど会っていない。小学校も一緒だったけれど、彼女は内気であまり目立たない、ぽっちゃりした感じの女の子で、ほとんど話すことは無かった。
ただ、思った。自分はもしかしてただの面食いなのではないだろうか――と。
久しぶりに会った三堀さんには以前の印象は全く無く、どちらかというとほっそりした体つきの――ただし胸だけはある――笑顔の可愛い女の子になっていた。
三堀さんは他の男子女子にはハキハキとしていて笑顔を向けるのだけれど、かつての自分を知る相手が現れたためか、俺を前にすると警戒しているようで少し口篭もった。
「大丈夫だよ。三堀さんはもしかすると昔のことを気にしてるのかもしれないけど、僕が言いふらしたりとかしないから。何なら僕の方は変な噂とかあるし」
懐かしくてつい素が出てしまった。やっぱりまだ俺は慣れない。
「え?」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
「あっ、いやっ、情けないことなんだけど、知らない子にラブホに連れ込まれたとか嘘つかれて……」
「ええっ?」
「やや、本当に冤罪だから。元西第一のやつらは誰も信じてくれなくてさ。あ、貴島ってやつは別。信じてくれた。まま、そんなだからイメチェンしたのはすごく頑張ったんだって思うし、かわいいって思う」
三堀さんは俯いてしまった。
まあ、そんな形で懐かしい幼馴染と再会したのだ。
◇◇◇◇◇
一年の一学期、二学期を通して俺はまず何より友人関係を重視した。
中学一年の時は円花一筋でそれどころではなかったし、二年でようやく頑張りの成果が出てきて仲のいいクラスメイトが増えた感じだった。そして恋が実った数カ月の間だけが絶頂期。そしてどん底。
高校では同じ轍は踏むまいと、東中の仲の良い友達を足掛かりに友達を増やしていった。ただ、そうしていると元西第一の連中とも関わることになるのだけれど、彼らはあの話を持ち出してくることは無かった。
◇◇◇◇◇
そして三学期。気がかりだった七海の受験勉強は上手く行っている様子。試験当日も彼女から出陣報告があったためエールを送っておいてやった。まあ、聞いてる限りでは余裕だと思う。
そしてもうひとつ。いや、別に気にしているわけではない。何となく円花のことを貴島から聞く。彼女は未だに成績上位者としては張り出されていなかった。そして部活動も。未だにレギュラーの話も聞かない。
「本当にあいつ、どうしたんだよ」
「聞きたい?」
「い、いや、聞きたくない。ってか、何か知ってるのか?」
「知ってる」
「じゃ、じゃああいつの助けになってやれよ」
「私じゃ無理。アキだけだから、今の円花を助けられるの」
「円花がそう言ったのか?」
「ううん。でもわかる」
俺は貴島の言葉にモヤモヤしていた。今の円花が気になって仕方が無かった。だから――と言い訳をしたいわけではない。七海の合格発表の知らせが遅かったことを気付かなかったことに。
◇◇◇◇◇
それに気づいたのは二日も後だった。言い訳できるような時間じゃない。万が一、合格できなくて落ち込んでいたら……。
とにかく、メッセージや通話を試すが連絡がつかない。彼女の家まで行く途中、既読が付いたので電話してみるが出なかった。そして彼女の家に行くが、七海は出かけていると言う。ただ、志望校であるうちの高校へは合格したと聞かされた。一度、連絡を貰えるよう彼女の母親に頼んで、俺は家に帰った。
そして翌日、七海からのメッセージを受け取った。
『ごめんなさい。
先輩とは付き合うことができなくなりました。
他の人と付き合うことになります』
意味が分からなかった。
俺は七海にメッセージを送り、電話を掛けた。
けれど最後に――。
『本当にごめんなさい。バカでごめんなさい』
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翌日にはメッセージ自体がブロックされていた。
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