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第一部
第6話 幼馴染2
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あの後、七海の家に一度だけ行った。突然のメッセージにも困惑したし、そのメッセージの内容もおかしかった。高校には合格したのに俺と付き合えなくなった。だから他の人と付き合う。どうして俺と付き合えなくなったのか、理由がわからない。そして自分をバカだと言った。
七海は家にいたけれど、会ってはくれなかった。
◇◇◇◇◇
二年に上がった。
クラスは2-Aで、顔ぶれはあまり変わらなかった。貴島はあいかわらず成績をキープしていた。こいつもしかして、徹夜でゲームしてなきゃ成績は良かったのか? 去年は何度も遊びには来たけれど、以前のように遅い時間まではうちに居なかった。
円花。彼女は2-Dだった。成績は上がったのだろう。けれど、以前の彼女は見る影もなかった。何度か学校で見かけたことはある。相変わらず美人だとは思ったが、以前のような凛とした美しさは無く、自信なさそうに見えた。
そして七海。彼女は確かにこの高校に受かっていた。入学式で見かけたクラス分けの一覧では1-Cだったので受験の結果は悪くはなかったのだろう。彼女の姿はすぐに見つけられた。いちばんと言うほどでもなかったが、相変わらず背が高い。けれど、その顔にはかつての快活さは無かった。
入学式で目が合った。だけど七海はすぐに目を逸らし、俯いた。
そして翌日、七海が同じ高校の二年の男と二人で帰るところを目撃してしまった。
◇◇◇◇◇
「七海が他の男に走った」
放課後、貴島に相談があると言って残ってもらっていた。
「彼女じゃないってアキが自分で言ってたよね?」
「そうだけどさ……七海が高校に受かったら付き合うって話してたんだ」
「理由は聞いて無いの?」
「それが――」
俺は彼女の受験の合否の頃からの顛末を貴島に話した。
「履歴は残ってないんだっけ? う~ん、聞いた限りだと確かにおかしいね」
「……」
「わかった。原因を調べてあげる。こういうのたぶん得意だから」
「探偵かよ……」
「加奈に任せれば全部解決よ! あ、報酬は払ってね」
「体以外でならなんでも払うよ……」
ちなみに貴島は加奈子ではなく加奈がよかったらしい。ときどき言っている。何で今どき子を付けたのかと。
「ハァ? 体ダメなの? どーゆーこと!?」
「何でそのリアクションかな……」
「まあいいや。ひとつ言うことを聞いてもらうから」
「わかった」
◇◇◇◇◇
数日後、貴島は本当に情報を仕入れてきた。
彼女は俺の家に上がり込むと、真剣な表情でテーブルを挟んで向かい合った。
「ちょっとアキには辛いかもしれないけどいい?」
「……」
俺はこめかみに震える手を当て、少し落ち着いた後、深呼吸をした。
「いい……」
「まずね、彼女、受験のすぐ後くらいにトラブルに遭ったみたいなの」
「……」
「スマホを壊してしまったとかなんとかって友達は聞いたらしい」
「スマホくらい大したことじゃないでしょ。親に相談すれば」
「それが彼女、どういうわけか相談もしないで相手の家に行っちゃったらしいのよ」
「そんなっ、あいつバカなのか!」
「で、やっぱり何かあったみたいで、すごく落ち込んでたと思ったら、何日か後に今度は彼氏ができたとか言い始めて」
「……」
「そしたら友達が、あの先輩はってアキの事を聞いたら、急に涙を流し始めて……それっからアキのことは何も話さなくなったんだって」
「そうなんだ……」
「まだ他にもあるんだけど、先に約束、覚えてるよね」
「ああ、うん。何でも言うこと聞くよ、体以外」
「円花に会ってあげて」
わかった――とはすぐに言えなかった。何しろ円花のことを考えるだけで息が詰まるくらいだったから。俺は少し猶予を貰って、今週の土曜に会うことにしてもらった。ただ、会う場所はうちの家を貴島に指定された。
◇◇◇◇◇
円花と七海のことで頭がいっぱいで、翌日は勉強に身が入らず、心ここに在らずだった。
「鷹野原くん? 鷹野原くん? 本当にいいの?」
「えっ!?」
二年になって再び図書委員になっていたが、三堀さんもまた同じだった。
そして三堀さんはいま、俺の……いや僕の服の袖を引っ張っていた。
「……大丈夫? あの、ちょっと一緒に来てって言ったの聞こえてた?」
「あっ、うん、ごめん、ぼーっとしてた。行くよ、どこ?」
「……あの、ちょっと書庫の方へ」
三堀さんは落ち着きがなく、周囲を気にしていた。ちょうど今は人が居らず、他の図書委員も出払っていた。
「あの、三堀さん、ちょっと……狭くない?」
俺……僕は三堀さんに連れられて書庫の奥の狭い通路で向かい合わせになっていた。
「あの、お願いです。最後まで聞いてください……」
「あ、うん」
彼女は悲痛なまでの表情で僕に訴えかけていた。
ただ事ではない、そんな感じがした。
「私、小さい頃からその……太っていて、鷹……あの、小さい頃みたいにアキくんって呼んでもいい?」
「え? あ、うん、いいよ咲枝ちゃん」
ああ、そうか。小さい頃、彼女とは名前で呼び合ってたっけ。その頃は自分のことを僕って言ってたからしっくりくるんだ。そして名前を呼ばれた咲枝ちゃんは唇を噛むように微笑んだ。
「その、太っていて、アキくんの好みじゃないことはわかってた」
「うーん、今から思うとぽっちゃりしてた咲枝ちゃんもかわいかったよ」
別に顔つきが変わるまで太ってたわけじゃない。背が低くてぽっちゃりに見えてただけだと思うと、それはそれでかわいいななんて思ってしまった。
「そ、そんなこと今更言わないでっ」
「ごめん……」
「それで中学に入って私、頑張ったの。運動して、食事をお母さんに見直してもらって、あと、クラスメイトにも頑張って話しかけて……」
「そっか、頑張ったんだ」
彼女の話はかつての自分の話を聞いてるようだった。彼女は涙ながらに話を続けた。
「でも、アキくんが転校してきて、後輩の橋倉さんと付き合い始めたときは悲しかった」
「彼女は……彼女とは付き合ってなかったんだ。それに振られたし……」
「えっ……」
「他の男に走ったんだ」
「……あの、ずるいとか思わないで。私、小さなころからずっとアキくんが好きだったの」
「そうか……ありがとう。僕なんかを好きでいてくれて、ありがとう」
彼女の話は途中からなんとなくわかった。
円花に信じて貰えず、七海には振られた僕には嬉しすぎて涙が出た。
ただ、何かわからない。彼女の切羽詰まったような焦りの理由がわからなかった。
「返事は言わなくていいの。私にはそんな資格ないからっ」
「そ、そんなことないよ」
「ううん。無いの。でもお願い。ひとつだけお願い。キスしてください」
「そんな……できないよ、咲枝ちゃん」
「もう最後なの。私のファーストキス、あげられなくなるの。お願いっ。お願い……」
彼女の言ってる意味が全く分からなかった。
咲枝ちゃんは僕にしがみつくように、かわいい顔をくしゃくしゃにしながら訴えかけてきていた。僕は考えあぐねた末、彼女の望みを叶えてあげようと、その両肩に手を添える。
「!? ちょっと、咲枝ちゃん、ごめん」
異質さを感じた僕は彼女の肩から両腕、そして手へと触れて行った。
恥ずかしがる彼女を他所に、腰の方まで手をやる。
そして今一度よく見ると、彼女の顔はひどくやつれていた。
「ごめん、気付かなかった。これ、どうしたの? ダイエットとかじゃないよね」
咲枝ちゃんの体はダイエットどころではない、異常に細くなっていた。
彼女は息をのんだ。そして次の瞬間、僕を両手で突き飛ばして書庫から駆けていった。突き飛ばされた僕は、彼女のそのあまりの力の弱さに立ち尽くしていた。
七海は家にいたけれど、会ってはくれなかった。
◇◇◇◇◇
二年に上がった。
クラスは2-Aで、顔ぶれはあまり変わらなかった。貴島はあいかわらず成績をキープしていた。こいつもしかして、徹夜でゲームしてなきゃ成績は良かったのか? 去年は何度も遊びには来たけれど、以前のように遅い時間まではうちに居なかった。
円花。彼女は2-Dだった。成績は上がったのだろう。けれど、以前の彼女は見る影もなかった。何度か学校で見かけたことはある。相変わらず美人だとは思ったが、以前のような凛とした美しさは無く、自信なさそうに見えた。
そして七海。彼女は確かにこの高校に受かっていた。入学式で見かけたクラス分けの一覧では1-Cだったので受験の結果は悪くはなかったのだろう。彼女の姿はすぐに見つけられた。いちばんと言うほどでもなかったが、相変わらず背が高い。けれど、その顔にはかつての快活さは無かった。
入学式で目が合った。だけど七海はすぐに目を逸らし、俯いた。
そして翌日、七海が同じ高校の二年の男と二人で帰るところを目撃してしまった。
◇◇◇◇◇
「七海が他の男に走った」
放課後、貴島に相談があると言って残ってもらっていた。
「彼女じゃないってアキが自分で言ってたよね?」
「そうだけどさ……七海が高校に受かったら付き合うって話してたんだ」
「理由は聞いて無いの?」
「それが――」
俺は彼女の受験の合否の頃からの顛末を貴島に話した。
「履歴は残ってないんだっけ? う~ん、聞いた限りだと確かにおかしいね」
「……」
「わかった。原因を調べてあげる。こういうのたぶん得意だから」
「探偵かよ……」
「加奈に任せれば全部解決よ! あ、報酬は払ってね」
「体以外でならなんでも払うよ……」
ちなみに貴島は加奈子ではなく加奈がよかったらしい。ときどき言っている。何で今どき子を付けたのかと。
「ハァ? 体ダメなの? どーゆーこと!?」
「何でそのリアクションかな……」
「まあいいや。ひとつ言うことを聞いてもらうから」
「わかった」
◇◇◇◇◇
数日後、貴島は本当に情報を仕入れてきた。
彼女は俺の家に上がり込むと、真剣な表情でテーブルを挟んで向かい合った。
「ちょっとアキには辛いかもしれないけどいい?」
「……」
俺はこめかみに震える手を当て、少し落ち着いた後、深呼吸をした。
「いい……」
「まずね、彼女、受験のすぐ後くらいにトラブルに遭ったみたいなの」
「……」
「スマホを壊してしまったとかなんとかって友達は聞いたらしい」
「スマホくらい大したことじゃないでしょ。親に相談すれば」
「それが彼女、どういうわけか相談もしないで相手の家に行っちゃったらしいのよ」
「そんなっ、あいつバカなのか!」
「で、やっぱり何かあったみたいで、すごく落ち込んでたと思ったら、何日か後に今度は彼氏ができたとか言い始めて」
「……」
「そしたら友達が、あの先輩はってアキの事を聞いたら、急に涙を流し始めて……それっからアキのことは何も話さなくなったんだって」
「そうなんだ……」
「まだ他にもあるんだけど、先に約束、覚えてるよね」
「ああ、うん。何でも言うこと聞くよ、体以外」
「円花に会ってあげて」
わかった――とはすぐに言えなかった。何しろ円花のことを考えるだけで息が詰まるくらいだったから。俺は少し猶予を貰って、今週の土曜に会うことにしてもらった。ただ、会う場所はうちの家を貴島に指定された。
◇◇◇◇◇
円花と七海のことで頭がいっぱいで、翌日は勉強に身が入らず、心ここに在らずだった。
「鷹野原くん? 鷹野原くん? 本当にいいの?」
「えっ!?」
二年になって再び図書委員になっていたが、三堀さんもまた同じだった。
そして三堀さんはいま、俺の……いや僕の服の袖を引っ張っていた。
「……大丈夫? あの、ちょっと一緒に来てって言ったの聞こえてた?」
「あっ、うん、ごめん、ぼーっとしてた。行くよ、どこ?」
「……あの、ちょっと書庫の方へ」
三堀さんは落ち着きがなく、周囲を気にしていた。ちょうど今は人が居らず、他の図書委員も出払っていた。
「あの、三堀さん、ちょっと……狭くない?」
俺……僕は三堀さんに連れられて書庫の奥の狭い通路で向かい合わせになっていた。
「あの、お願いです。最後まで聞いてください……」
「あ、うん」
彼女は悲痛なまでの表情で僕に訴えかけていた。
ただ事ではない、そんな感じがした。
「私、小さい頃からその……太っていて、鷹……あの、小さい頃みたいにアキくんって呼んでもいい?」
「え? あ、うん、いいよ咲枝ちゃん」
ああ、そうか。小さい頃、彼女とは名前で呼び合ってたっけ。その頃は自分のことを僕って言ってたからしっくりくるんだ。そして名前を呼ばれた咲枝ちゃんは唇を噛むように微笑んだ。
「その、太っていて、アキくんの好みじゃないことはわかってた」
「うーん、今から思うとぽっちゃりしてた咲枝ちゃんもかわいかったよ」
別に顔つきが変わるまで太ってたわけじゃない。背が低くてぽっちゃりに見えてただけだと思うと、それはそれでかわいいななんて思ってしまった。
「そ、そんなこと今更言わないでっ」
「ごめん……」
「それで中学に入って私、頑張ったの。運動して、食事をお母さんに見直してもらって、あと、クラスメイトにも頑張って話しかけて……」
「そっか、頑張ったんだ」
彼女の話はかつての自分の話を聞いてるようだった。彼女は涙ながらに話を続けた。
「でも、アキくんが転校してきて、後輩の橋倉さんと付き合い始めたときは悲しかった」
「彼女は……彼女とは付き合ってなかったんだ。それに振られたし……」
「えっ……」
「他の男に走ったんだ」
「……あの、ずるいとか思わないで。私、小さなころからずっとアキくんが好きだったの」
「そうか……ありがとう。僕なんかを好きでいてくれて、ありがとう」
彼女の話は途中からなんとなくわかった。
円花に信じて貰えず、七海には振られた僕には嬉しすぎて涙が出た。
ただ、何かわからない。彼女の切羽詰まったような焦りの理由がわからなかった。
「返事は言わなくていいの。私にはそんな資格ないからっ」
「そ、そんなことないよ」
「ううん。無いの。でもお願い。ひとつだけお願い。キスしてください」
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「!? ちょっと、咲枝ちゃん、ごめん」
異質さを感じた僕は彼女の肩から両腕、そして手へと触れて行った。
恥ずかしがる彼女を他所に、腰の方まで手をやる。
そして今一度よく見ると、彼女の顔はひどくやつれていた。
「ごめん、気付かなかった。これ、どうしたの? ダイエットとかじゃないよね」
咲枝ちゃんの体はダイエットどころではない、異常に細くなっていた。
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