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おかしなものを売る骨董品店
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私は、一応エッセイストの肩書で、へたな紀行文などを出版し、それを生業としていた。
だから、その関係だと思う。ポストに見知らぬ骨董品店から、開店の案内が入っていて、今日はそこを訪ねることにした。
ハガキの写真ではよくわからなかったが、築年数の古い、趣のある木造の建物だった。
中に入ると、年代物の美術品、工芸品などに混じり、がらくたにしか見えないものまで展示されている。まさに玉石混淆だ。
俗人であることは自覚しているが、最初に目に留まったのは、昼に入ったカレー屋で使ったものによく似たスプーンだった。
3万円の値札が付けられている。
自由に見て回るための配慮か、店主は、店の奥で会釈をしただけで応対には出なかった。
「これは何ですか」
店内に、他に客はおらず、道楽でもなければ、商売として成り立っているようには思えない。
温厚そうな初老の男は、久しぶりの接客という感じで、身繕いなど気にしながら、奥から出てきた。
「それはねお客さん、ウルトラマンがスカイドンと戦ったとき、ハヤタがベータカプセルと間違って翳したスプーンですよ」
サービス精神なのかジョークなのか、それとも店が流行らないから投げやりになっているのか。いずれにせよ、ここで物を買おうという気はなくなった。だから、ハガキで案内をもらったことを言い出せなくなった。
気まずさに無口になるのを恐れ、適当に会話を続ける。
「ウルトラマンがハヤタの姿のとき翳したものか、ハヤタ役の黒部進が撮影で使用した小道具なのか」
そこまで言って口ごもった。我ながら愚問だと思ったが、反応を確かめたい気持ちが勝った。
店主は含みのある笑顔を返した。
「さあ、どっちだと思います」
そう来たか。意外にやっかいな爺さんだ。
話を逸らす意味もあり、その傍らに置かれたチーズに話題を振った。
骨董品店にチーズが置かれているのも変だし、そもそも食べられるのかどうかも怪しい。
そんなものにも値札が貼られ、1万円の値段が付いている。
「これはただのチーズじゃありません。イソップの寓話にある 『カラスとキツネ』 に出てくるチーズです」
百歩譲って、それが真実だとしても腐っている。もちろん嘘に決まっているだろうが。
だんだんまともに取り合うのがバカらしくなってくる。
「こんなもの売れるんですか」
「いい質問です。1つ売れました。これは2つあったチーズの残りです」
こっちもムキになって食い下がる。
「腐ってるんじゃないですか」
余裕の表情で初老の店主は応じる。
「自殺したかった人がお買い求めになりました。ピザにして食べたそうです」
「それで結果はどうなったんだ」
「もう亡くなった方の話題はよしましょう」
インチキにもほどがある。本には書くが、骨董品店として、まともな評価を付けた記事は載せられない。
そうなれば、あとはゲテモノを扱う店としてのネタを集めるだけだ。
そしてそれはすぐに見つかった。新聞の折込チラシを切った紙束が骨董の棚に鎮座している。
「これは何かのおまじないですか」
サイズ的には御札と同じくらいである。小学生が手作りしたのか、拙い筆跡で、鉛筆で文字が書いてある。
店主がどんな説明をするか興味深かったが、あっさり肩透かしを食った。
「ただの紙切れですよ」
「売り物として、ここに展示してあるんでしょう」
「売る気はありません。値段も付いてないはずです。従って値札も貼っていません」
確かに値札がない。しかし、その横に小さなタグが付けてあり、それには応相談と書かれている。
物の価値がわからない客に、値踏みされ、安く見積もられるのも、商人としては面白くないだろう。
冷やかしを躱す意味もあるかも知れない。
いろいろ推察しているうちに、店主がぼそりとつぶやいた。
「母親殺し犯の肩叩き券です」
肩叩き券。子どもが親に対し、普段の感謝の気持ちを表して、無償の奉仕を約束するチケット。
思わず聞き返した。
「母親殺し犯の肩叩き券?」
「はい。五年ほど前、無職の男が母親と口論になり、カッとなって包丁で刺し殺す事件がありました。ご存じないですか」
この手の事件はなくならない。嘆かわしい世の中だ。しかし、それを覚えていない自分を認めるのも正直嘆かわしい。
そんな心理を察したのか、店主は助け舟を出した。
「ご存じないのも無理はありません。事件は報道されなかったのですから」
「報道されてない?」
「ええ。どうしてかわかりませんが」
「どんな事件だったのか教えてくれませんか」
「六十を過ぎて無職の息子を詰った八十二歳の母親が殺されました」
引きこもりというやつか。高齢の母親も、将来を悲観しての、最後の忠告のつもりだったのだろう。何とも痛ましい話だ。
「犯人の息子は、殺害後、母親の貯めていたへそくりで骨董品屋を始めました」
だから、その関係だと思う。ポストに見知らぬ骨董品店から、開店の案内が入っていて、今日はそこを訪ねることにした。
ハガキの写真ではよくわからなかったが、築年数の古い、趣のある木造の建物だった。
中に入ると、年代物の美術品、工芸品などに混じり、がらくたにしか見えないものまで展示されている。まさに玉石混淆だ。
俗人であることは自覚しているが、最初に目に留まったのは、昼に入ったカレー屋で使ったものによく似たスプーンだった。
3万円の値札が付けられている。
自由に見て回るための配慮か、店主は、店の奥で会釈をしただけで応対には出なかった。
「これは何ですか」
店内に、他に客はおらず、道楽でもなければ、商売として成り立っているようには思えない。
温厚そうな初老の男は、久しぶりの接客という感じで、身繕いなど気にしながら、奥から出てきた。
「それはねお客さん、ウルトラマンがスカイドンと戦ったとき、ハヤタがベータカプセルと間違って翳したスプーンですよ」
サービス精神なのかジョークなのか、それとも店が流行らないから投げやりになっているのか。いずれにせよ、ここで物を買おうという気はなくなった。だから、ハガキで案内をもらったことを言い出せなくなった。
気まずさに無口になるのを恐れ、適当に会話を続ける。
「ウルトラマンがハヤタの姿のとき翳したものか、ハヤタ役の黒部進が撮影で使用した小道具なのか」
そこまで言って口ごもった。我ながら愚問だと思ったが、反応を確かめたい気持ちが勝った。
店主は含みのある笑顔を返した。
「さあ、どっちだと思います」
そう来たか。意外にやっかいな爺さんだ。
話を逸らす意味もあり、その傍らに置かれたチーズに話題を振った。
骨董品店にチーズが置かれているのも変だし、そもそも食べられるのかどうかも怪しい。
そんなものにも値札が貼られ、1万円の値段が付いている。
「これはただのチーズじゃありません。イソップの寓話にある 『カラスとキツネ』 に出てくるチーズです」
百歩譲って、それが真実だとしても腐っている。もちろん嘘に決まっているだろうが。
だんだんまともに取り合うのがバカらしくなってくる。
「こんなもの売れるんですか」
「いい質問です。1つ売れました。これは2つあったチーズの残りです」
こっちもムキになって食い下がる。
「腐ってるんじゃないですか」
余裕の表情で初老の店主は応じる。
「自殺したかった人がお買い求めになりました。ピザにして食べたそうです」
「それで結果はどうなったんだ」
「もう亡くなった方の話題はよしましょう」
インチキにもほどがある。本には書くが、骨董品店として、まともな評価を付けた記事は載せられない。
そうなれば、あとはゲテモノを扱う店としてのネタを集めるだけだ。
そしてそれはすぐに見つかった。新聞の折込チラシを切った紙束が骨董の棚に鎮座している。
「これは何かのおまじないですか」
サイズ的には御札と同じくらいである。小学生が手作りしたのか、拙い筆跡で、鉛筆で文字が書いてある。
店主がどんな説明をするか興味深かったが、あっさり肩透かしを食った。
「ただの紙切れですよ」
「売り物として、ここに展示してあるんでしょう」
「売る気はありません。値段も付いてないはずです。従って値札も貼っていません」
確かに値札がない。しかし、その横に小さなタグが付けてあり、それには応相談と書かれている。
物の価値がわからない客に、値踏みされ、安く見積もられるのも、商人としては面白くないだろう。
冷やかしを躱す意味もあるかも知れない。
いろいろ推察しているうちに、店主がぼそりとつぶやいた。
「母親殺し犯の肩叩き券です」
肩叩き券。子どもが親に対し、普段の感謝の気持ちを表して、無償の奉仕を約束するチケット。
思わず聞き返した。
「母親殺し犯の肩叩き券?」
「はい。五年ほど前、無職の男が母親と口論になり、カッとなって包丁で刺し殺す事件がありました。ご存じないですか」
この手の事件はなくならない。嘆かわしい世の中だ。しかし、それを覚えていない自分を認めるのも正直嘆かわしい。
そんな心理を察したのか、店主は助け舟を出した。
「ご存じないのも無理はありません。事件は報道されなかったのですから」
「報道されてない?」
「ええ。どうしてかわかりませんが」
「どんな事件だったのか教えてくれませんか」
「六十を過ぎて無職の息子を詰った八十二歳の母親が殺されました」
引きこもりというやつか。高齢の母親も、将来を悲観しての、最後の忠告のつもりだったのだろう。何とも痛ましい話だ。
「犯人の息子は、殺害後、母親の貯めていたへそくりで骨董品屋を始めました」
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