西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
7 / 199
プロローグ〜

6

しおりを挟む
 森がすっかり暗くなった午後五時半。

 目を覚ましたミハルが魔法でぼんやりとした灯りを点した杖を囲んで食事を済ませたあと、今度はソロウが仮眠をとる番だ。すぐに聞こえてきた鼾にミハルは「これで魔物が襲って来ないのが不思議だわ」と溜め息を吐きつつ、薄明かりの中、木に凭れて座るリュークの隣で大人しくしているスライムを怪訝そうな目で眺める。

 灯りを点したすぐそばにスライムが居たときには驚いたものの、仲間は少しも警戒しておらず、リュークに至っては細長い葉っぱを手にしてスライムと戯れている始末だった。

 あれは何だと聞いても、全員が「スライム」としか言わない。そんなことは見れば分かるというのに。

 たかがスライム、されどスライム。

 ギルドでは最低ランクのF級モンスターに認定されていても、例えば毒を持っていたり、酸で物を溶かしたり、群れになれば融合して巨大化し、一気にC級モンスターにも成りうる魔物だ。しかも、鳴き声をあげないので近くに来ても気付きにくい。中級冒険者ですら油断すれば痛い目に遭うこともある。

 にも関わらず、リーダーであるソロウも、本来索敵を担うハンターであるはずのギムナックも、リュークが素手でスライムに触っても何も言わない。

 ──あまりにも不自然極まりない。

 問い詰めたいと思った矢先、ギムナックは睡魔を追い払うために早めに進行路の索敵をすると言い残すと、ポケットから取り出した細い糸を垂らしながら暗がりへと消えてしまった。

 堪えかねたミハルは、リュークを呼んだ。

「君、教会の加護は授かっているの?」

 リュークは少しだけミハルの近くに座り直す。

「かご?」

「加護を授かると、能力の情報を可視化出来るようになるの。一般的には〈ステータス〉と呼ばれるものよ。身分証明としても有効だから、とりあえず授かって損はないわね。教会へ行ったことはある?」

「きょうかい……」

 リュークは記憶を辿ってみたが、そもそも教会が何か分からなかった。ユフラ婆さんも教会について話したことはない。ドラゴンからすれば、建造物などどれも人間が雨風を凌ぐ為のものという認識でしかないので、ユフラ婆さんですら知らなくとも当然なのだった。

「教会は神の恩恵を授けてくれる施設で、病院とは別に怪我や病気の治療もしてくれるところよ。街に着いたら連れていってあげる。因みに、冒険者ギルドと関わるときにもステータスは必要になるわ」

「ミハルたちは冒険者なんだよね」

「ええ、私達は三人ともB級冒険者。まあ、冒険者のランクでは中の上ってとこね。アルベルムで私達より上のA級冒険者は十五人、S級に至っては二人しか居ないのよ」

 ミハルはどこか誇らしげに言った。

 ただ、ずっと荒野で生きてきたリュークにとって、その内容は想像し難い。リュークは適当に相槌をうつと、太ももに乗ってきたスライムの端っこを掴んで伸ばしたり離したりして遊び始めた。







 ──ソロウの鼾が聞こえ始めてから一時間が経った。
 戻ってきたギムナックがその後ミハルの勧めで二時間の仮眠をとれたのは、リュークがある程度冒険者たちからの信用を得られていたのと、そうでなくともこの森に盗賊がいるとは考えられなかったからだ。

 二人が起きてから再び軽い食事を終えると、最後尾をソロウ、その前がリューク、そして光る杖を持ったミハルとギムナックを先頭にして移動を開始した。

 ミハルの杖がなければ一寸先も見えない闇に包まれた森は不気味に静まり返っている。
 ギムナックが索敵を行ったところ、近くに強い魔物は居なかった。ただし、この森での索敵など半分は気休めでしかないのだとも付け加えて言った。
 足の速い魔物なら、こちらが察知できない場所から一瞬で距離を詰めてくる。ピクシーの存在も忘れてはいけない。いくら対策していても、こればかりは防ぐ手段がないのだ。

 仮眠をとったとはいえ、疲労のたまったギムナックの顔は目に見えて窶れている。少しの物音にも過敏に反応し、何度も足を止めながら進む。
 森に慣れてきたリュークは器用に足元の木の根を避けて歩いている。夜は此処と同じくらい暗かった荒野で鍛えられた夜目がそれを可能にしていた。
 三十分ほど歩いたころだろうか、何処からか遠吠えが上がり始めた。
 狼の魔物、ウォーウルフだ。
 幸い距離は遠く、近付いてくる様子もなかったのでそのまま進む。
 しかし、それから十分もしないうちにギムナックが足を止めた。他の三人も立ち止まって辺りを警戒する。

「……ピクシーだ」

 ギムナックが辟易したような声で告げた。

  


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...