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プロローグ〜
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森がすっかり暗くなった午後五時半。
目を覚ましたミハルが魔法でぼんやりとした灯りを点した杖を囲んで食事を済ませたあと、今度はソロウが仮眠をとる番だ。すぐに聞こえてきた鼾にミハルは「これで魔物が襲って来ないのが不思議だわ」と溜め息を吐きつつ、薄明かりの中、木に凭れて座るリュークの隣で大人しくしているスライムを怪訝そうな目で眺める。
灯りを点したすぐそばにスライムが居たときには驚いたものの、仲間は少しも警戒しておらず、リュークに至っては細長い葉っぱを手にしてスライムと戯れている始末だった。
あれは何だと聞いても、全員が「スライム」としか言わない。そんなことは見れば分かるというのに。
たかがスライム、されどスライム。
ギルドでは最低ランクのF級モンスターに認定されていても、例えば毒を持っていたり、酸で物を溶かしたり、群れになれば融合して巨大化し、一気にC級モンスターにも成りうる魔物だ。しかも、鳴き声をあげないので近くに来ても気付きにくい。中級冒険者ですら油断すれば痛い目に遭うこともある。
にも関わらず、リーダーであるソロウも、本来索敵を担うハンターであるはずのギムナックも、リュークが素手でスライムに触っても何も言わない。
──あまりにも不自然極まりない。
問い詰めたいと思った矢先、ギムナックは睡魔を追い払うために早めに進行路の索敵をすると言い残すと、ポケットから取り出した細い糸を垂らしながら暗がりへと消えてしまった。
堪えかねたミハルは、リュークを呼んだ。
「君、教会の加護は授かっているの?」
リュークは少しだけミハルの近くに座り直す。
「かご?」
「加護を授かると、能力の情報を可視化出来るようになるの。一般的には〈ステータス〉と呼ばれるものよ。身分証明としても有効だから、とりあえず授かって損はないわね。教会へ行ったことはある?」
「きょうかい……」
リュークは記憶を辿ってみたが、そもそも教会が何か分からなかった。ユフラ婆さんも教会について話したことはない。ドラゴンからすれば、建造物などどれも人間が雨風を凌ぐ為のものという認識でしかないので、ユフラ婆さんですら知らなくとも当然なのだった。
「教会は神の恩恵を授けてくれる施設で、病院とは別に怪我や病気の治療もしてくれるところよ。街に着いたら連れていってあげる。因みに、冒険者ギルドと関わるときにもステータスは必要になるわ」
「ミハルたちは冒険者なんだよね」
「ええ、私達は三人ともB級冒険者。まあ、冒険者のランクでは中の上ってとこね。アルベルムで私達より上のA級冒険者は十五人、S級に至っては二人しか居ないのよ」
ミハルはどこか誇らしげに言った。
ただ、ずっと荒野で生きてきたリュークにとって、その内容は想像し難い。リュークは適当に相槌をうつと、太ももに乗ってきたスライムの端っこを掴んで伸ばしたり離したりして遊び始めた。
──ソロウの鼾が聞こえ始めてから一時間が経った。
戻ってきたギムナックがその後ミハルの勧めで二時間の仮眠をとれたのは、リュークがある程度冒険者たちからの信用を得られていたのと、そうでなくともこの森に盗賊がいるとは考えられなかったからだ。
二人が起きてから再び軽い食事を終えると、最後尾をソロウ、その前がリューク、そして光る杖を持ったミハルとギムナックを先頭にして移動を開始した。
ミハルの杖がなければ一寸先も見えない闇に包まれた森は不気味に静まり返っている。
ギムナックが索敵を行ったところ、近くに強い魔物は居なかった。ただし、この森での索敵など半分は気休めでしかないのだとも付け加えて言った。
足の速い魔物なら、こちらが察知できない場所から一瞬で距離を詰めてくる。ピクシーの存在も忘れてはいけない。いくら対策していても、こればかりは防ぐ手段がないのだ。
仮眠をとったとはいえ、疲労のたまったギムナックの顔は目に見えて窶れている。少しの物音にも過敏に反応し、何度も足を止めながら進む。
森に慣れてきたリュークは器用に足元の木の根を避けて歩いている。夜は此処と同じくらい暗かった荒野で鍛えられた夜目がそれを可能にしていた。
三十分ほど歩いたころだろうか、何処からか遠吠えが上がり始めた。
狼の魔物、ウォーウルフだ。
幸い距離は遠く、近付いてくる様子もなかったのでそのまま進む。
しかし、それから十分もしないうちにギムナックが足を止めた。他の三人も立ち止まって辺りを警戒する。
「……ピクシーだ」
ギムナックが辟易したような声で告げた。
目を覚ましたミハルが魔法でぼんやりとした灯りを点した杖を囲んで食事を済ませたあと、今度はソロウが仮眠をとる番だ。すぐに聞こえてきた鼾にミハルは「これで魔物が襲って来ないのが不思議だわ」と溜め息を吐きつつ、薄明かりの中、木に凭れて座るリュークの隣で大人しくしているスライムを怪訝そうな目で眺める。
灯りを点したすぐそばにスライムが居たときには驚いたものの、仲間は少しも警戒しておらず、リュークに至っては細長い葉っぱを手にしてスライムと戯れている始末だった。
あれは何だと聞いても、全員が「スライム」としか言わない。そんなことは見れば分かるというのに。
たかがスライム、されどスライム。
ギルドでは最低ランクのF級モンスターに認定されていても、例えば毒を持っていたり、酸で物を溶かしたり、群れになれば融合して巨大化し、一気にC級モンスターにも成りうる魔物だ。しかも、鳴き声をあげないので近くに来ても気付きにくい。中級冒険者ですら油断すれば痛い目に遭うこともある。
にも関わらず、リーダーであるソロウも、本来索敵を担うハンターであるはずのギムナックも、リュークが素手でスライムに触っても何も言わない。
──あまりにも不自然極まりない。
問い詰めたいと思った矢先、ギムナックは睡魔を追い払うために早めに進行路の索敵をすると言い残すと、ポケットから取り出した細い糸を垂らしながら暗がりへと消えてしまった。
堪えかねたミハルは、リュークを呼んだ。
「君、教会の加護は授かっているの?」
リュークは少しだけミハルの近くに座り直す。
「かご?」
「加護を授かると、能力の情報を可視化出来るようになるの。一般的には〈ステータス〉と呼ばれるものよ。身分証明としても有効だから、とりあえず授かって損はないわね。教会へ行ったことはある?」
「きょうかい……」
リュークは記憶を辿ってみたが、そもそも教会が何か分からなかった。ユフラ婆さんも教会について話したことはない。ドラゴンからすれば、建造物などどれも人間が雨風を凌ぐ為のものという認識でしかないので、ユフラ婆さんですら知らなくとも当然なのだった。
「教会は神の恩恵を授けてくれる施設で、病院とは別に怪我や病気の治療もしてくれるところよ。街に着いたら連れていってあげる。因みに、冒険者ギルドと関わるときにもステータスは必要になるわ」
「ミハルたちは冒険者なんだよね」
「ええ、私達は三人ともB級冒険者。まあ、冒険者のランクでは中の上ってとこね。アルベルムで私達より上のA級冒険者は十五人、S級に至っては二人しか居ないのよ」
ミハルはどこか誇らしげに言った。
ただ、ずっと荒野で生きてきたリュークにとって、その内容は想像し難い。リュークは適当に相槌をうつと、太ももに乗ってきたスライムの端っこを掴んで伸ばしたり離したりして遊び始めた。
──ソロウの鼾が聞こえ始めてから一時間が経った。
戻ってきたギムナックがその後ミハルの勧めで二時間の仮眠をとれたのは、リュークがある程度冒険者たちからの信用を得られていたのと、そうでなくともこの森に盗賊がいるとは考えられなかったからだ。
二人が起きてから再び軽い食事を終えると、最後尾をソロウ、その前がリューク、そして光る杖を持ったミハルとギムナックを先頭にして移動を開始した。
ミハルの杖がなければ一寸先も見えない闇に包まれた森は不気味に静まり返っている。
ギムナックが索敵を行ったところ、近くに強い魔物は居なかった。ただし、この森での索敵など半分は気休めでしかないのだとも付け加えて言った。
足の速い魔物なら、こちらが察知できない場所から一瞬で距離を詰めてくる。ピクシーの存在も忘れてはいけない。いくら対策していても、こればかりは防ぐ手段がないのだ。
仮眠をとったとはいえ、疲労のたまったギムナックの顔は目に見えて窶れている。少しの物音にも過敏に反応し、何度も足を止めながら進む。
森に慣れてきたリュークは器用に足元の木の根を避けて歩いている。夜は此処と同じくらい暗かった荒野で鍛えられた夜目がそれを可能にしていた。
三十分ほど歩いたころだろうか、何処からか遠吠えが上がり始めた。
狼の魔物、ウォーウルフだ。
幸い距離は遠く、近付いてくる様子もなかったのでそのまま進む。
しかし、それから十分もしないうちにギムナックが足を止めた。他の三人も立ち止まって辺りを警戒する。
「……ピクシーだ」
ギムナックが辟易したような声で告げた。
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