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元魔王城(142〜)
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しおりを挟む「神か!? 神がそう仰ったのか!」
ギムナックは顔を真っ赤にして興奮している。しかし、少年の方は神というものが何かをいまいち理解しておらず、「何? 分からないよ」と正直に答えた。
「ど、どどどど、どのような御仁だった!? そ、そっ、その、その──」
「ギムナック……」
少年と鼻がくっつきそうな距離で詰め寄る大男に呆れるミハルとソロウ。ソロウは、驚いて遠巻きに見ているレオハルトたちに「悪い、こういう発作持ちなんだ」と一言入れてからギムナックの丸太のような腕を担いで引っぱる。
「おいおい、ギムナック。リュークも皆も驚いてるぞ。ちょっと落ち着けよ」
「驚くべきだ! 驚くべきことが起こったんだ! これで落ち着いていられる方がどうかしている!」
「落ち着いても構わないのよ、ギムナック。もう神は行ってしまったのだから、今はゆっくり考える時間なの」
ミハルが実に相応しい台詞でもって宥めると、大男は暫し葛藤を挟み、リュークから離れてうろうろと歩き回った。
心優しき兵士らが心配そうに彼を見守っている。
「リューク、『勉強しろ』というのは誰に言われたのですか?」
レオハルトがリュークに尋ねた。聞きつけたギムナックがまた発作気味に駆け寄ってきた。
リュークは真っ直ぐにレオハルトを見詰めた。
「知らない」
沈黙が流れる。多くの者は、何故か魔王の存在を想起した。人語を話したからだろうか? だがその可能性は無いに等しいだろう。あの魔王とやらは、魔王を追い掛け回したとんでもないのから逃げ切るためにわざわざ迷宮の通路まで作り変えて出口へ向かったのだから。
では、一体何が勉強をしろなどと言いつけたのか。
「どんな奴だった? 人か? 魔物か?」
近くに胡座をかきながら尋ねるソロウに対し、リュークは真似して座りながら「分からないよ」と一言で返した。
(分からない、知らない、分からない……か。これは判明しそうにないぞ、ギムナック)
ソロウは予想し、結果はその通り、質問を重ねても正体は分からずじまいだった。ただ、それが人に近い姿をしていて、青っぽくて黒い色をしていたということは分かった。また、それのことは便宜上「勉強の人」と呼ぶことになった。
すなわち、哀れ二つの神は「青くて黒っぽい色をした勉強の人」として一纏めにして誤解されたことになる。魔法の神と時の神がこの瞬間も天から覗き見ていたとしたら、今はさぞ悲しんでいることだろう。が、残念ながら神の創りしこの世界において、これを訂正せしめる者は当分現れそうにない。
さて、ギムナックの発作があらかた治まった──彼の中で「勉強の人」は暫定「神」とされた──ところで全員が輪になって座り、吸血鬼攻略に向けて作戦会議が開かれた。
「ヴァンパイアって、どれくらい強いの?」
まずはミハルが最も重要な点について質問した。「ヴァンパイアって、本当にいるんだな。冒険者が任務失敗の理由をでっち上げるために作られたネタだと思ってたよ」というフルルと、それに同調するいくつかの声を耳に、ヴンダーは遥か頭上の天井を見上げて唸る。
「う~ん……どのくらい……さっきの二体を合わせたより強くて、アイスドラゴンよりは魔力や攻撃力は下……ってところですかねぇ? いやぁ、正直ヴァンパイアって魔力とか攻撃力よりスキルが強過ぎて、どのくらいって例えにくいんですが」
「そのスキルというのは、〈吸血〉や〈精神操作〉のことでしょうか?」
今度はレオハルトから質問が飛んだ。ヴンダーはそれをしっかりと拾って頷く。
「さすが、よくご存知で。精神操作に関しては、掛かる人は掛かると思って諦めましょう。操作されたら、毎度思い切り殴って正気に戻す方が早いので……あ、ミハルさんは誰も殴らない方が良さそうゴニョゴニョ……」
尻すぼみにそのようなことを言った軽率な青年は、すぐさま頭に立派なたんこぶを拵えることになった。
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