西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

167 煤の正体

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 はじめなかなかに具合が良いと思われた吸血鬼のマントだったが、段々と冷静さを取り戻すにつれて、ミハルは一体どうやってこの紳士の口を縫い合わせてやろうかしらと考えるようになっていた。

「度々恐縮であるが、あまり揺らさないように歩いてくれたまえ、お嬢さん。何せ顔が裏地に付いているのだ。君の背に当たって鼻血でも出たら、君だって困るだろう? いやいや、裏返しに着用するなんて馬鹿な真似はよしてくれよ。せっかくこのように立派なマントであるものを、教養に乏しい者が身につけていると思われたくないのでね。さあ、背筋を伸ばして、マントが背につかないよう颯爽と、誰もが振り返り見るほど美しく歩いてくれたまえ」

 杖にしろ、マントにしろ、良く喋るものだ。特にこのマントはうるさい。たまに思い出したかのように話し出す杖と違ってずっと喋り続けるし、内容自体も煩い。

「背につかないようにって……そんなの走らないと無理じゃない」

「風の魔法も使えないのか? 困った弱小種族だな。しかし私なら風魔法など使わずとも──今となっては使用者に使用されない限り勝手はできないので──であれば、やはり私が──それで──さて、お嬢さん──」

(そろそろ引きちぎっても良いかしら……)

 延々喋るマントに、ミハルは青筋を立てつつ内心でぼやいた。



 リュークが吸血鬼を倒した(?)後、何故かリュークは十分ほど吸血鬼の部屋の中をくまなく見回った。だが、元魔王城へ入ってから他の部屋とも変わり映えしない黒い床と壁だけで何も無い部屋は、少年がどれだけまじまじと調べつくしたところで収穫は無いように見えた。

 それから迷宮の奥へと続く扉を開くと、その先には入り組んだ廊下が続いていた。如何にも古城らしい石造りで、床には黒ずんだ深紅のビロードの絨毯じゅうたん、壁には豪奢ごうしゃな燭台、所々に蝶番ちょうつがいの錆びた扉がある。ヴンダー曰く、こういった城型の迷宮は通路エリアとボス部屋の二種類で構成されており、通路沿いに並ぶ部屋には宝箱や罠があったり、何もなかったり、魔物が待ち構えていたりするという。宝箱は魅力的だが、今回の目的は探索ではない。リューク、リン、フルル、ヴンダーには然程さほど疲労は見られないが、貧血の大人たちの方は足を引き摺るようにして、既に三十分ほど扉を無視して進み続けている。

「こんなに長い通路があるなんて、どれだけ大きな城なんだ?」

 先頭のギムナックが遥かずっと後方から聞こえてくるマントの声をかき消すように呟くと、すぐ後ろに居たヴンダーが「大きいかといえば、そりゃあ外観からしてかなり大きかったですけど、でもこれは流石に空間魔法で空間拡張されてますよ」と、改めて壁から天井から見回して答えた。

「凄いな。通ってきた部屋のボスの強さといい、この通路の長さといい、ちょっと他と格が違うように思うんだが。もしかして、ここの主は魔王レベルじゃないのか?」

「そうかも知れませんね。僕らも、こんなに難易度の高いダンジョンは初めてでした」

「城の迷宮って、何部屋くらいボス部屋があるものなんだ? 確か、南部地方の〈ゴーズール城〉なんかは十六部屋もあったらしいが」

「ああ、あそこは入り組んでいますよね。階数も多いし、僕は危うく迷子になりかけましたよ。ゴーズールは多い方ですが、だいたい少なくて五部屋、一番多かったところでは二十二部屋ありました」

「多いな! 二十二体もボスを倒すのか?」

「まあ、ボスって言ってもB級程度の奴も居たりするし、城のダンジョンだと全部のボス部屋に入らなくて良い場合もあって、殆ど無視して最奥を目指すことも少なくないんです。
 というか、本当にここが特殊なんですよ。普通はボス部屋が連続することなんか無いし、逆にこういう通路には魔物が居るはずだし、もちろんボスの等級も異常だし……ああ、早く帰りたい……」

 いつものように気弱になったヴンダーは、目尻に浮かんだ涙を拭った。
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