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5.君が新たな聖女だ(マリア視点)
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この国全体を覆っていた光の魔力の結界――。
わたくしの姉であるリルアが神具を用いて、祈りを捧げることで発動していた全ての魔物を弱体化させる最強の結界なのですが、突然それが消失しました。
「お父様! 大変です。け、結界が、結界が無くなってしまいました。まさか、リルアお姉様の身に何か……!?」
不穏な気配しかしない中、わたくしは父にこの事態を伝えます。
リルアお姉様の話では結界には多大な魔力と体力を使用するとのことでしたので、何かしらの事故に巻き込まれた可能性が高いのです。
「うむ。ワシもそれには気付いておる。マリア、至急……大聖堂に向かうぞ。準備しなさい」
「分かりました。……お姉様、無事でいてください」
父に促されて、わたくしは大聖堂に行くための準備をしました。
わたくしも元々はお姉様と同じく聖女を目指した身でして、魔法の心得はあります。
もっとも、お姉様には到底及ばないのですが、魔術師としてはハイクラスだと聖女候補時代に教会の方や公爵様に褒めていただきました。
お姉様にも自分に何かあったら頼むと言われているのですが、そんなことあって良いはずがありません。
「準備が終わりましたわ」
「よし、出発するぞ」
そして、わたくしとお姉様の師匠でもあった父は、この国で一番の魔法の使い手でもあります。
魔術師に人一倍憧れていた父は独学で魔法を学び、わたくしたち二人を一流の魔術師にすべく厳しく指導しました。
今のわたくしたちが魔法を自在に操れるのは父のおかげです。
とにかく、わたくしたちは急いでお姉様が神具を使って祈りを捧げているはずの大聖堂へと向かいました――。
「お姉様が神具を破壊したですって!?」
「そ、そんなバカな! そんなことあり得ません! ミゲル殿、それは何かの間違いではないでしょうか!?」
大聖堂で待っておられたのは、聖地を領地として収めている公爵家の嫡男でリルアお姉様の婚約者でもあるミゲル様でした。
ミゲル様はお姉様が祈ることが嫌になって神具を壊してしまわれたと仰せになり、リルアお姉様を追放処分の刑に処したと言うのです。
追放処分は彼の権限で下せる最も重い刑罰ですが、それにしてもいきなりではありませんか。
「僕は残念でならないよ。いくら、疲れていたとはいえ、聖女であることを嫌がったとはいえ、祈らなくて済むように神具を壊してしまうなんて……!」
「ミゲル殿、我が娘であるリルアはそのような無責任なことをする人間ではありませぬ。何かの間違いでは?」
「ほう、サウシール伯爵は僕が嘘をついていると思っているのか?」
「……恐れながら、嘘とは言わぬまでも、勘違いをされたのかと」
父はリルアお姉様が神具を壊すなど馬鹿げたことをするはずがないと、お姉様を弁護しました。
わたくしも同感ですわ。あの責任感が誰よりも強かったお姉様がそんなことをするはずがありません。
「はぁ、娘を信じたいのは分かるが、これは事実なのだよ。サウシール伯爵、伯爵家はこの件について、どう責任を取るつもりだ?」
ミゲル様は高圧的な態度でわたくしたちに凄みます。
せ、責任って。お姉様が罪を犯したことは、もう確定ですか。
誤解を何とか解きたいのですが……。
「責任? 我々も追放処分に処せられるのでしょうか?」
「あひゃひゃひゃ! それも良いけど、勘弁しといてあげるよ。悪いのはリルアだけなんだ。君らには罪はない。そうさな、マリア、麗しい君が新たな聖女として頑張るなら伯爵家の罪を全て許そう!」
いやらしく、わたくしの背中に手を回しながらミゲル様はわたくしに聖女になるように命じます。
罪を犯したというお姉様の代わりに妹のわたくしが聖女? どう考えても変です。
「ミゲル殿……、まさか」
「お父様……? ――ミゲル様、わたくしはお姉様の代わりなどには」
「マリア! 聖女になりなさい!」
「――っ!?」
わたくしは聖女になることを固辞しようとしました。
しかしながら、お父様はそれを止めます。何故でしょう。
「さすがは伯爵殿は話が早い。そうだ! 君らは僕に従っていればいい!」
「……リルアの無罪を証明するには時間が必要だ。辛いだろうが、今はミゲル殿の言うことを聞くのだ」
「……わかりました」
父は苦渋の選択をしました。
お姉様の無罪を証明するために……。
しかし、追放処分を受けたというお姉様は無事なのでしょうか?
仮にお姉様にもしものことがあれば、このマリアはミゲル様のことを決して許しませんわ――。
わたくしの姉であるリルアが神具を用いて、祈りを捧げることで発動していた全ての魔物を弱体化させる最強の結界なのですが、突然それが消失しました。
「お父様! 大変です。け、結界が、結界が無くなってしまいました。まさか、リルアお姉様の身に何か……!?」
不穏な気配しかしない中、わたくしは父にこの事態を伝えます。
リルアお姉様の話では結界には多大な魔力と体力を使用するとのことでしたので、何かしらの事故に巻き込まれた可能性が高いのです。
「うむ。ワシもそれには気付いておる。マリア、至急……大聖堂に向かうぞ。準備しなさい」
「分かりました。……お姉様、無事でいてください」
父に促されて、わたくしは大聖堂に行くための準備をしました。
わたくしも元々はお姉様と同じく聖女を目指した身でして、魔法の心得はあります。
もっとも、お姉様には到底及ばないのですが、魔術師としてはハイクラスだと聖女候補時代に教会の方や公爵様に褒めていただきました。
お姉様にも自分に何かあったら頼むと言われているのですが、そんなことあって良いはずがありません。
「準備が終わりましたわ」
「よし、出発するぞ」
そして、わたくしとお姉様の師匠でもあった父は、この国で一番の魔法の使い手でもあります。
魔術師に人一倍憧れていた父は独学で魔法を学び、わたくしたち二人を一流の魔術師にすべく厳しく指導しました。
今のわたくしたちが魔法を自在に操れるのは父のおかげです。
とにかく、わたくしたちは急いでお姉様が神具を使って祈りを捧げているはずの大聖堂へと向かいました――。
「お姉様が神具を破壊したですって!?」
「そ、そんなバカな! そんなことあり得ません! ミゲル殿、それは何かの間違いではないでしょうか!?」
大聖堂で待っておられたのは、聖地を領地として収めている公爵家の嫡男でリルアお姉様の婚約者でもあるミゲル様でした。
ミゲル様はお姉様が祈ることが嫌になって神具を壊してしまわれたと仰せになり、リルアお姉様を追放処分の刑に処したと言うのです。
追放処分は彼の権限で下せる最も重い刑罰ですが、それにしてもいきなりではありませんか。
「僕は残念でならないよ。いくら、疲れていたとはいえ、聖女であることを嫌がったとはいえ、祈らなくて済むように神具を壊してしまうなんて……!」
「ミゲル殿、我が娘であるリルアはそのような無責任なことをする人間ではありませぬ。何かの間違いでは?」
「ほう、サウシール伯爵は僕が嘘をついていると思っているのか?」
「……恐れながら、嘘とは言わぬまでも、勘違いをされたのかと」
父はリルアお姉様が神具を壊すなど馬鹿げたことをするはずがないと、お姉様を弁護しました。
わたくしも同感ですわ。あの責任感が誰よりも強かったお姉様がそんなことをするはずがありません。
「はぁ、娘を信じたいのは分かるが、これは事実なのだよ。サウシール伯爵、伯爵家はこの件について、どう責任を取るつもりだ?」
ミゲル様は高圧的な態度でわたくしたちに凄みます。
せ、責任って。お姉様が罪を犯したことは、もう確定ですか。
誤解を何とか解きたいのですが……。
「責任? 我々も追放処分に処せられるのでしょうか?」
「あひゃひゃひゃ! それも良いけど、勘弁しといてあげるよ。悪いのはリルアだけなんだ。君らには罪はない。そうさな、マリア、麗しい君が新たな聖女として頑張るなら伯爵家の罪を全て許そう!」
いやらしく、わたくしの背中に手を回しながらミゲル様はわたくしに聖女になるように命じます。
罪を犯したというお姉様の代わりに妹のわたくしが聖女? どう考えても変です。
「ミゲル殿……、まさか」
「お父様……? ――ミゲル様、わたくしはお姉様の代わりなどには」
「マリア! 聖女になりなさい!」
「――っ!?」
わたくしは聖女になることを固辞しようとしました。
しかしながら、お父様はそれを止めます。何故でしょう。
「さすがは伯爵殿は話が早い。そうだ! 君らは僕に従っていればいい!」
「……リルアの無罪を証明するには時間が必要だ。辛いだろうが、今はミゲル殿の言うことを聞くのだ」
「……わかりました」
父は苦渋の選択をしました。
お姉様の無罪を証明するために……。
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