21 / 46
21 毒殺
しおりを挟む
「クリスティーナ様は亡くなったか……。早めに動いた甲斐があるな」
「自殺だ、自殺。軽率な言動は控えろ」
「おっと、すまないな。君もご苦労だった。食事のことは誰にも気付かれてないだろうな」
「ええ……、もちろんです」
「なら良い。さあて、殿下に報告せねばならん。君は普段通りに動くのだ」
「わかりました。それでは、失礼します」
あたしは胡散臭い連中に頭を下げて、部屋を出た。
どうやら、変装はバレなかったみたいだな。
あたしは、毒入りの食事を運んだ使用人に変装している。
そして、毒を飲んで部屋で死んでいるのは、あたしを殺そうとした使用人である。まぁ、彼女はあたしに変装しているんだけど……。
ケビンは気絶させておいた使用人に容赦なく毒入りのスープを飲ませた。
そして、あたしの髪や眼の色を変化させるだけの魔法とはレベルの違う、完全な変身魔法を死体にかけたのだ。
自分と同じ容姿の死体を見るのは複雑な気分だったし、目の前で人が死んだことにも戦慄した。
しかし、そうしなきゃ自分が死ぬ状況にあることも先程の連中のやり取りで理解して何とか受け入れた。
ちなみにこの変身魔法は未完成で生き物にはかけられないらしい。
だから、あたしの変装はルシアになる要領でやっている。さっきは結構怖かったなー。
「よう、見事な変装じゃねぇか。さすが俺の見込んだパートナーだぜ」
あたしが城の倉庫裏に辿り着いたとき、先に部屋を出たケビンが話しかけてきた。
「誰がパートナーだ。貴方と馴れ合うつもりはない」
「冷てぇなぁ……、仲良くやろうぜ」
「本当に頭がお花畑なんじゃないか? 婚約破棄させられて、その上、死んだことにまでされてるんだ。あたしが貴方と仲良くできると思ってるの?」
「えっ? 思ってるけど……」
ケビンはキョトンとした顔であたしを見つめていた。この人、馬鹿なのかな?
「……はぁ」
「まっ、今すぐ仲良くするのは無理みてぇだな。とりあえず、オメーはどっかに身を隠せ」
ケビンはそう言って一人で納得していた。
「だけど、あたしと入れ替わった奴はグランルーク派なんだろ? 居なくなったら、あたしの死も疑われないかな?」
「あーっ、心配すんな。むしろ、連中は気を利かせて姿を眩ましたって思うだろうぜ。あの女は毒入りスープを運んだ実行犯なんだからよぉ……」
確かにそれもそうか。ボロが出るより居なくなった方がいいと思われそうだな。
「ふーん、そういうもんかな? しかし、どこに身を隠せば……」
「まっ、オメーが信頼出来る人間のところか、もしくは旅の冒険者にでも成り済まして城下町に住むかだな。言っとくが実家は連中が見張ってる可能性があるから論外だぞ」
両親や妹にあたしが死んでるって思われたままなのが、とても気がかりだ。
しかし、あたしが自殺したことになっているので、罪が両親に及ぶ心配が激減したのは良かった。
一応、責任を取ったってみなされるからね。だから、家に迷惑をかけないために今までも自害していた。
「一週間後の正午に、オメーと初めて会った店の前でまた会おう。全て終わらせてやるからさ」
「なんだ、一週間もかかるのか?」
「そりゃあ、国家転覆企んでいる奴らを取っ捕まえるんだ。グランルークのジジイも含めてな。それなりに時間はかかるさ。あと、待ち合わせに俺が来なかった場合だけど――」
ケビンの声のトーンが下がる。そして、真面目な顔をした。
「この国を出ろ。クリスティーナの人生は捨てて、新しい人生を組み立てるんだ。オメーにはそれが出来る力がある……。貴族だけが人生じゃねぇんだ。それは覚えておいてくれ――」
「はぁ? それはどういう意味?」
貴族だけが人生じゃない――あたしの中で何かが壊れた気がした。
しかしそれが何なのかあたしにはわからなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――それで、我がバーミリオン家を頼って下さいましたの? ルシア様……」
その日の夕方……、あたしはメリルリアと紅茶を飲んでいた。
彼女にだけ事情を打ち明けて……。
「すまない。君しか頼れる人が居なかった……」
マリーナは第一王子派らしいから、あたしが厄介になると更に危険に晒されそうなので避けた。
バーミリオン家は中立の立場を貫いている稀有な貴族ということをケビンから聞いていたので最も安全だと判断した。メリルリアには迷惑をかけるが……。
「えへへ、ルシア様に頼りにされてしまいましたわ。なんだかとっても嬉しいですの」
メリルリアが人払いをしてくれたお陰で、今はこの部屋に彼女と二人きりだ。
事情を全て聞いた彼女は二つ返事であたしを受け入れてくれた。
彼女には大きな借りが増えてしまった。
「本当にありがとう。この借りはきっと返す」
あたしはメリルリアに頭を深く下げた。
「頭を上げてください。わたくしは見返りが欲しいわけではございませんの。想い人が困っているときに、手を差し伸べられないなんて、バーミリオン家の淑女失格ですから――」
メリルリアはニコリと微笑む。
本当に彼女はどこまで器の広い子なのだろう。あたしとは大違いだ。
「そう言ってもらって助かるよ。メリルは優しいな」
あたしも自然と笑みがこぼれた。
「うふふ、ルシア様と暮らせるなんて夢のようですわぁ。一週間と言わずに一生暮らしてくれればよろしいのに……」
メリルリアは上機嫌で紅茶に口をつけていた。
あたしはこの日からしばらくルシアとしてバーミリオン家に居候することとなった。
「自殺だ、自殺。軽率な言動は控えろ」
「おっと、すまないな。君もご苦労だった。食事のことは誰にも気付かれてないだろうな」
「ええ……、もちろんです」
「なら良い。さあて、殿下に報告せねばならん。君は普段通りに動くのだ」
「わかりました。それでは、失礼します」
あたしは胡散臭い連中に頭を下げて、部屋を出た。
どうやら、変装はバレなかったみたいだな。
あたしは、毒入りの食事を運んだ使用人に変装している。
そして、毒を飲んで部屋で死んでいるのは、あたしを殺そうとした使用人である。まぁ、彼女はあたしに変装しているんだけど……。
ケビンは気絶させておいた使用人に容赦なく毒入りのスープを飲ませた。
そして、あたしの髪や眼の色を変化させるだけの魔法とはレベルの違う、完全な変身魔法を死体にかけたのだ。
自分と同じ容姿の死体を見るのは複雑な気分だったし、目の前で人が死んだことにも戦慄した。
しかし、そうしなきゃ自分が死ぬ状況にあることも先程の連中のやり取りで理解して何とか受け入れた。
ちなみにこの変身魔法は未完成で生き物にはかけられないらしい。
だから、あたしの変装はルシアになる要領でやっている。さっきは結構怖かったなー。
「よう、見事な変装じゃねぇか。さすが俺の見込んだパートナーだぜ」
あたしが城の倉庫裏に辿り着いたとき、先に部屋を出たケビンが話しかけてきた。
「誰がパートナーだ。貴方と馴れ合うつもりはない」
「冷てぇなぁ……、仲良くやろうぜ」
「本当に頭がお花畑なんじゃないか? 婚約破棄させられて、その上、死んだことにまでされてるんだ。あたしが貴方と仲良くできると思ってるの?」
「えっ? 思ってるけど……」
ケビンはキョトンとした顔であたしを見つめていた。この人、馬鹿なのかな?
「……はぁ」
「まっ、今すぐ仲良くするのは無理みてぇだな。とりあえず、オメーはどっかに身を隠せ」
ケビンはそう言って一人で納得していた。
「だけど、あたしと入れ替わった奴はグランルーク派なんだろ? 居なくなったら、あたしの死も疑われないかな?」
「あーっ、心配すんな。むしろ、連中は気を利かせて姿を眩ましたって思うだろうぜ。あの女は毒入りスープを運んだ実行犯なんだからよぉ……」
確かにそれもそうか。ボロが出るより居なくなった方がいいと思われそうだな。
「ふーん、そういうもんかな? しかし、どこに身を隠せば……」
「まっ、オメーが信頼出来る人間のところか、もしくは旅の冒険者にでも成り済まして城下町に住むかだな。言っとくが実家は連中が見張ってる可能性があるから論外だぞ」
両親や妹にあたしが死んでるって思われたままなのが、とても気がかりだ。
しかし、あたしが自殺したことになっているので、罪が両親に及ぶ心配が激減したのは良かった。
一応、責任を取ったってみなされるからね。だから、家に迷惑をかけないために今までも自害していた。
「一週間後の正午に、オメーと初めて会った店の前でまた会おう。全て終わらせてやるからさ」
「なんだ、一週間もかかるのか?」
「そりゃあ、国家転覆企んでいる奴らを取っ捕まえるんだ。グランルークのジジイも含めてな。それなりに時間はかかるさ。あと、待ち合わせに俺が来なかった場合だけど――」
ケビンの声のトーンが下がる。そして、真面目な顔をした。
「この国を出ろ。クリスティーナの人生は捨てて、新しい人生を組み立てるんだ。オメーにはそれが出来る力がある……。貴族だけが人生じゃねぇんだ。それは覚えておいてくれ――」
「はぁ? それはどういう意味?」
貴族だけが人生じゃない――あたしの中で何かが壊れた気がした。
しかしそれが何なのかあたしにはわからなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――それで、我がバーミリオン家を頼って下さいましたの? ルシア様……」
その日の夕方……、あたしはメリルリアと紅茶を飲んでいた。
彼女にだけ事情を打ち明けて……。
「すまない。君しか頼れる人が居なかった……」
マリーナは第一王子派らしいから、あたしが厄介になると更に危険に晒されそうなので避けた。
バーミリオン家は中立の立場を貫いている稀有な貴族ということをケビンから聞いていたので最も安全だと判断した。メリルリアには迷惑をかけるが……。
「えへへ、ルシア様に頼りにされてしまいましたわ。なんだかとっても嬉しいですの」
メリルリアが人払いをしてくれたお陰で、今はこの部屋に彼女と二人きりだ。
事情を全て聞いた彼女は二つ返事であたしを受け入れてくれた。
彼女には大きな借りが増えてしまった。
「本当にありがとう。この借りはきっと返す」
あたしはメリルリアに頭を深く下げた。
「頭を上げてください。わたくしは見返りが欲しいわけではございませんの。想い人が困っているときに、手を差し伸べられないなんて、バーミリオン家の淑女失格ですから――」
メリルリアはニコリと微笑む。
本当に彼女はどこまで器の広い子なのだろう。あたしとは大違いだ。
「そう言ってもらって助かるよ。メリルは優しいな」
あたしも自然と笑みがこぼれた。
「うふふ、ルシア様と暮らせるなんて夢のようですわぁ。一週間と言わずに一生暮らしてくれればよろしいのに……」
メリルリアは上機嫌で紅茶に口をつけていた。
あたしはこの日からしばらくルシアとしてバーミリオン家に居候することとなった。
6
あなたにおすすめの小説
全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?
紅茶ガイデン
恋愛
「ライラ=コンスティ。貴様は許されざる大罪を犯した。聖女候補及び私の婚約者候補から除名され、重刑が下されるだろう」
……カッコイイ。
画面の中で冷ややかに断罪している第一王子、ルーク=ヴァレンタインに見惚れる石上佳奈。
彼女は乙女ゲーム『ガイディングガーディアン』のメインヒーローにリア恋している、ちょっと残念なアラサー会社員だ。
仕事の帰り道で不慮の事故に巻き込まれ、気が付けば乙女ゲームの悪役令嬢ライラとして生きていた。
十二歳のある朝、佳奈の記憶を取り戻したライラは自分の運命を思い出す。ヒロインが全てのどのエンディングを迎えても、必ずライラは悲惨な末路を辿るということを。
当然破滅の道の回避をしたいけれど、それにはルークの抱える秘密も関わってきてライラは頭を悩ませる。
十五歳を迎え、ゲームの舞台であるミリシア学園に通うことになったライラは、まずは自分の体制を整えることを目標にする。
そして二年目に転入してくるヒロインの登場におびえつつ、やがて起きるであろう全ての問題を解決するために、一つの決断を下すことになる。
※小説家になろう様にも掲載しています。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる