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23 料理
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「ふーむ、この酸味と芳醇な香り、そして独特の渋みは――グロリール・シャトーの64年産ではないでしょうか?」
あたしは一口赤ワインを口にしてみて、グラスを置いて銘柄の名前を口に出してみた。
「ほぅ、驚いた。これで5問連続正解だ。ルシアくんはワインに詳しい上に確かな舌を持っているのだな」
バーミリオン伯爵は感心したように頷いた。
「いえ、少しだけズルいことをしました。種明かしをしますと、今日のディナーはジプティア料理ですよね。食通としても名高いバーミリオン伯爵は必ずやグロリールを合わせてくると読んだのですよ」
前世でワインを集めることが趣味の王子と婚約したことがあった。その頃から、あたしもハマるようになり知識だけはそれなりにある。
「年代は難しかったです。71年産と迷いましたが、渋さの差で64年産かなぁーっと思いまして。当たったのは運が良かったです」
「それでも、すごいですわ。ルシア様はピアノやバイオリンが弾けるだけでなく、多彩な才能をお持ちなのですね」
メリルリアは手を叩いて称賛する。まぁ、前世での経験値というインチキがあるからなぁ。
あと、あたしって結構のめり込むタイプだからやるなら徹底的にやるんだよねー。
「ただの腕っぷしが強い粗野な人間かと思ったが、中々の教養人らしい。なるほど、さすが私のメリルが選んだ男だ」
「お父様もようやく理解して頂けましたか。わたくしはルシア様のものですが……」
微笑みながらメリルリアは父親の言葉に反応する。『ルシア』の正体を知っているにも拘らず、彼女のあたしに対する態度は1ミリも変わらないのには未だに驚いている。
「ぐぬぬ。まぁ、ただの愚図とは違うということくらいは認めてやろう。ところでルシアくん、ジプティア料理の味はいかがかな? 今度、ジプティア王国で観光客向けのレストランを営業するつもりでね、これはウチのシェフに作らせたメニューの試作品なのだ」
バーミリオン伯爵はあたしに料理の感想を求めてきた。
ふーん、ジプティア王国でも商売をするつもりなのか。バイタリティが凄いなぁ。
ジプティア王国とは、砂漠地帯のオアシスを中心に発展した国である。
魔法の研究が盛んで、世界的に有名な魔法使いや賢者が何人もいる。
特に魔導教授と呼ばれている魔法使いの“フィーナ”は何百年間も生きていて国の発達に貢献しているという噂だ。
あとは、世界でも数少ない女王が君臨する国としても知られている。
「そうですね。さすがはバーミリオン家のシェフでしょうか。文句のつけようのない出来だと思います。彩りも豊かで目も楽しませてもらえますし……。しかし……」
あたしは言おうかどうか迷ってしまった……。
「どうした? 何か意見があるなら遠慮なく言ってみたまえ」
バーミリオン伯爵はあたしの発言を促した。
「いえ、大したことではないのですが、塩気はもう少し強めの方が良いですね。ジプティアは暑い国です。汗をよくかきますから、人は自然に塩分を求めます。あと、ジプティア人も利用することを前提とするならば、塩はジプティア岩塩を利用したほうがよろしいかと。馴染みの調味料のほうが好まれるでしょうから――」
うわぁ、料理に対しての意見なんて今まで言ったことないよー。
しかも、バーミリオン伯爵に向かってこんな生意気なこと言ってしまった。どうしよー。
沈黙……。
バーミリオン伯爵は食事を中断して腕を組んだまま、あたしを見据えていました。
おっ重い。空気がめっちゃ重いんだけど……。
あたしが重圧に耐えきれなくなったとき、ようやく沈黙が打ち破られた。
「はーはっはっは! いや、見事だよ、ルシアくん。まさか、数口食べただけでこんなアドバイスをするとは、まったく生意気だが素晴らしい。メリルと呼んでいることを除けば君のことを気に入ってしまったかもしれん」
バーミリオン伯爵は上機嫌そうに笑っていた。“メリル”呼びの件、まだ根に持っていたんだ……。
「よし、それなら任せてみるか!」
そして、突然バーミリオン伯爵は思いついたように『ポン』と手を叩いた。
「ジプティアのレストランを君にやろう! 君なら良い店に出来ると思うし、私の後継者に相応しいかどうかのテストにもなるだろう!」
「えっ?」
あたしは突然の話に困惑してしまった。
いや、レストランを貰ったところで、どーしたら良いのかわからないんだけど……。
メリルリアも予想外の発言だったのか、目を丸くしていた。
そうだよね。自分の父親が、レストランを突然渡すって言ったらびっくりするよね。
「お父様……、その際にはわたくしもジプティア王国について行かせてくださいまし! 駄目って仰ってもついていきます! というより、反対したらお父様と口をききませんわ!」
キラキラと目を輝かせて彼女はあたしとジプティアに行きたいと主張した。
あれ? ちょっと待ってくれ、あたしのジプティア行きは決まっているのか?
「うーむ、ひと月に1回帰ってくるのなら……。いや、それより、私がジプティアに住んだ方が……」
いやいや、あたしに合わせてなんで引っ越そうとしてるのさ。
メリルリアには借りが多すぎるから、彼女の希望は無碍に断れないんだよなー。困ったぞ。
まさか、外堀から埋める作戦に出るとは……。
そんなびっくりするような提案をされたのは、ケビンとの約束の日の前日であった。
あたしは一口赤ワインを口にしてみて、グラスを置いて銘柄の名前を口に出してみた。
「ほぅ、驚いた。これで5問連続正解だ。ルシアくんはワインに詳しい上に確かな舌を持っているのだな」
バーミリオン伯爵は感心したように頷いた。
「いえ、少しだけズルいことをしました。種明かしをしますと、今日のディナーはジプティア料理ですよね。食通としても名高いバーミリオン伯爵は必ずやグロリールを合わせてくると読んだのですよ」
前世でワインを集めることが趣味の王子と婚約したことがあった。その頃から、あたしもハマるようになり知識だけはそれなりにある。
「年代は難しかったです。71年産と迷いましたが、渋さの差で64年産かなぁーっと思いまして。当たったのは運が良かったです」
「それでも、すごいですわ。ルシア様はピアノやバイオリンが弾けるだけでなく、多彩な才能をお持ちなのですね」
メリルリアは手を叩いて称賛する。まぁ、前世での経験値というインチキがあるからなぁ。
あと、あたしって結構のめり込むタイプだからやるなら徹底的にやるんだよねー。
「ただの腕っぷしが強い粗野な人間かと思ったが、中々の教養人らしい。なるほど、さすが私のメリルが選んだ男だ」
「お父様もようやく理解して頂けましたか。わたくしはルシア様のものですが……」
微笑みながらメリルリアは父親の言葉に反応する。『ルシア』の正体を知っているにも拘らず、彼女のあたしに対する態度は1ミリも変わらないのには未だに驚いている。
「ぐぬぬ。まぁ、ただの愚図とは違うということくらいは認めてやろう。ところでルシアくん、ジプティア料理の味はいかがかな? 今度、ジプティア王国で観光客向けのレストランを営業するつもりでね、これはウチのシェフに作らせたメニューの試作品なのだ」
バーミリオン伯爵はあたしに料理の感想を求めてきた。
ふーん、ジプティア王国でも商売をするつもりなのか。バイタリティが凄いなぁ。
ジプティア王国とは、砂漠地帯のオアシスを中心に発展した国である。
魔法の研究が盛んで、世界的に有名な魔法使いや賢者が何人もいる。
特に魔導教授と呼ばれている魔法使いの“フィーナ”は何百年間も生きていて国の発達に貢献しているという噂だ。
あとは、世界でも数少ない女王が君臨する国としても知られている。
「そうですね。さすがはバーミリオン家のシェフでしょうか。文句のつけようのない出来だと思います。彩りも豊かで目も楽しませてもらえますし……。しかし……」
あたしは言おうかどうか迷ってしまった……。
「どうした? 何か意見があるなら遠慮なく言ってみたまえ」
バーミリオン伯爵はあたしの発言を促した。
「いえ、大したことではないのですが、塩気はもう少し強めの方が良いですね。ジプティアは暑い国です。汗をよくかきますから、人は自然に塩分を求めます。あと、ジプティア人も利用することを前提とするならば、塩はジプティア岩塩を利用したほうがよろしいかと。馴染みの調味料のほうが好まれるでしょうから――」
うわぁ、料理に対しての意見なんて今まで言ったことないよー。
しかも、バーミリオン伯爵に向かってこんな生意気なこと言ってしまった。どうしよー。
沈黙……。
バーミリオン伯爵は食事を中断して腕を組んだまま、あたしを見据えていました。
おっ重い。空気がめっちゃ重いんだけど……。
あたしが重圧に耐えきれなくなったとき、ようやく沈黙が打ち破られた。
「はーはっはっは! いや、見事だよ、ルシアくん。まさか、数口食べただけでこんなアドバイスをするとは、まったく生意気だが素晴らしい。メリルと呼んでいることを除けば君のことを気に入ってしまったかもしれん」
バーミリオン伯爵は上機嫌そうに笑っていた。“メリル”呼びの件、まだ根に持っていたんだ……。
「よし、それなら任せてみるか!」
そして、突然バーミリオン伯爵は思いついたように『ポン』と手を叩いた。
「ジプティアのレストランを君にやろう! 君なら良い店に出来ると思うし、私の後継者に相応しいかどうかのテストにもなるだろう!」
「えっ?」
あたしは突然の話に困惑してしまった。
いや、レストランを貰ったところで、どーしたら良いのかわからないんだけど……。
メリルリアも予想外の発言だったのか、目を丸くしていた。
そうだよね。自分の父親が、レストランを突然渡すって言ったらびっくりするよね。
「お父様……、その際にはわたくしもジプティア王国について行かせてくださいまし! 駄目って仰ってもついていきます! というより、反対したらお父様と口をききませんわ!」
キラキラと目を輝かせて彼女はあたしとジプティアに行きたいと主張した。
あれ? ちょっと待ってくれ、あたしのジプティア行きは決まっているのか?
「うーむ、ひと月に1回帰ってくるのなら……。いや、それより、私がジプティアに住んだ方が……」
いやいや、あたしに合わせてなんで引っ越そうとしてるのさ。
メリルリアには借りが多すぎるから、彼女の希望は無碍に断れないんだよなー。困ったぞ。
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