88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝

文字の大きさ
31 / 46

31 ショック

しおりを挟む
「なっなんで……」

 私は驚いてそれ以上の声が出なかった。
 
 かつて、私は“アーシャ”という名前でこの国で生まれ育ったという前世があるが、見た目も全然違うし、何よりフィーナとは一度しか会ったことはない。

「さっきから言っているでしょう、妾は知っているのよぉ」

 ――何でも知っている。

 それが言葉通りの意味だということを、有無を言わせずに信じさせるような説得力があった。

「あはは、噂通り凄いのですね。フィーナ様は――。まさか、私の前世までご存知だと思いませんでした……。でも一体どうして?」

 もはや、笑うしかなかった。常識など通じない魔法使いが目の前にいる。
 私は一切誤魔化さないことに決めた。

「別にぃ、大したことじゃないわぁ。あの日、あなたをルシアが助けたでしょぉ。その時、妾はあなたから大きな因果の気配を感じたのよぉ。独特で歪な魂の形をしてたから印象的だったわぁ」

 フィーナはあの時、既に私が何度も転生を繰り返していることに気が付いていたらしい。

「それでも、覚えて下さっているなんてビックリしました。私には忘れられない日でしたが、それこそ何度人生をやり直しても……」

 あの日の出来事は、ルシアに会った日のことは忘れられない。
 彼という男性を知ったから、私の婚約にかける想いが一時的に強まった。
 諦めることが遅れてしまったのだ……。

「だから真似ているのぉ? あの人の名前まで騙って……。やっぱり、罪な人よねぇ、あの人は……」

 フィーナは呆れた顔をしていた。
 確かに憧れているからって、見た目を真似たり、名前まで使うのは異常かもしれない。

「私、前世で88回婚約破棄されているのです。今回もアウレイナス殿下と婚約破棄しているから89回も……。それで、男性っていうものがちょっと苦手になってしまって……。ルシアさんは、私の理想というか、憧れの男性というか……。だから、それを忘れたくないからでしょうか? 気付いたら、真似るようになってました」

 私はぽつりぽつりと理由を話した。そうだ、私は『ルシア=ノーティス』を理想の男性として無意識に忘れないようにしていたんだ。
 男性不信になっていながら、それに抗おうとする自分も居たのだ。

「――はぁ、89回の婚約破棄って何の冗談かしらぁ? 久しぶりに驚いちゃったわよ。というか、坊やと婚約破棄したのに付き合いはあるのねぇ。最近の若い子は理解出来ないわぁ」

 フィーナはため息をついていた。やった、婚約破棄の回数で何でも知っていると自負する伝説の魔法使いを驚かせたぞ。
 まぁ、誰にも誇れないけど……。

「いやぁ、殿下とは婚約したと言っても1時間くらいでしたし、これはノーカンというか、何というか……。話せば長くなるのですが――」

 私は簡単にクリスティーナとしての人生を歩みアウレイナスとの婚約破棄に至る過程を話した。

 アウレイナスとの婚約破棄は私の中では特殊なパターンだ。
 クリスティーナとしての人生は終わったけど、新しい生活を死なずに始めることが出来たのだから。

「――『クリスティーナ=ハウルメルク』の名前を捨てて、『ルシア=ノーティス』として生きるねぇ。まぁ、あなたの人生だから好きにすれば良いんだけどぉ。うーん……」

 フィーナは釈然としない感じだった。やはり、ルシアと親密そうだったし、それを穢すような真似をする私が気に食わないのだろうか?

「あのう、フィーナ様は、ルシアさんと恋人同士だったのでしょうか? だから、私のことをよく思われていらっしゃらないのでは?」

 恐る恐る、質問をしてみる。場合によっては改名なり、見た目を別物にする覚悟だ。

「えっ? 恋人同士? 妾とルシアが? クスッ、やめなさいよぉ。なんで、妾があの子とそんな関係になっちゃうのぉ? あり得ないわぁ」

 あり得ない……。フィーナの返答に少なからず私は驚いた。
 あんなに親密そうに見えたのに……。お似合いだとすら思ったのに……。

「あり得ないですか? でも、あんなに魅力的な男性っていないと思いますし、今の話だと恋愛対象にもならないって意味に聞こえるのですが……」

「ならないわねぇ。少なくとも妾はを恋人にしたいなんて1秒も思ったことはないわぁ」

 即答だった。それほどまで……。

 ん? 待てよ、今、聞き捨てならないような単語があったような。

「あの、フィーナ様、今、を恋人に……って仰いましたか?」

 あれっ? 私の聞き間違いかなー?

「えぇ、言ったわよぉ。だってぇ、ルシアはれっきとした女だもん」

 フィーナは当然といった表情で衝撃的な事実を私に告げた。

「ええーっ、そっそんなぁ! うっ嘘でしょ!」

 えっ、『ルシア=ノーティス』って女性だったの? 
 じゃあ、私が理想の男性だと何百年も想っていたヒトは実は女性で……。

 あはは、そりゃあ、長い年月探してもあんな人見つからないはずだよ……。

 私って、なんて馬鹿なんだろう……。
 
 私は放心してしまった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン
恋愛
「ライラ=コンスティ。貴様は許されざる大罪を犯した。聖女候補及び私の婚約者候補から除名され、重刑が下されるだろう」 ……カッコイイ。  画面の中で冷ややかに断罪している第一王子、ルーク=ヴァレンタインに見惚れる石上佳奈。  彼女は乙女ゲーム『ガイディングガーディアン』のメインヒーローにリア恋している、ちょっと残念なアラサー会社員だ。  仕事の帰り道で不慮の事故に巻き込まれ、気が付けば乙女ゲームの悪役令嬢ライラとして生きていた。  十二歳のある朝、佳奈の記憶を取り戻したライラは自分の運命を思い出す。ヒロインが全てのどのエンディングを迎えても、必ずライラは悲惨な末路を辿るということを。  当然破滅の道の回避をしたいけれど、それにはルークの抱える秘密も関わってきてライラは頭を悩ませる。  十五歳を迎え、ゲームの舞台であるミリシア学園に通うことになったライラは、まずは自分の体制を整えることを目標にする。  そして二年目に転入してくるヒロインの登場におびえつつ、やがて起きるであろう全ての問題を解決するために、一つの決断を下すことになる。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...