名探偵に憧れた私はついうっかり異世界に探偵事務所を構えてしまった

冬月光輝

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第12話 奥義とホテルとドレス

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 宿場町で1泊したあたし達は、船着き場のあるシンポート王国に向かった。

「このペースなら夕方には着きそうだねぇ」
 相変わらず立花はノー天気そうな声だった。

「セイファー流剣術、奥義、終焉の蛇群(ラストスネイク)」
 一度だけ、10m以上はありそうな超巨大な4つ首の竜ヒドラと遭遇したとき、ニーナは初めて技らしいものを使った。
 ニーナの剣の刀身が無限に増殖しているように見えた。そして、それぞれが意思を持った蛇のように、ヒドラの4つの首に襲いかかる。

「あれはニーナの得意な奥義の1つだよ。彼女はセイファー流剣術の達人なんだ。奥義を使ったってことはあのモンスターは中々強い方だねぇ」
 無限の蛇に襲われたヒドラは無惨に悲鳴を上げて、1つの首も残らず切り落とされていった。

 あたしは、思わず目をそらした。

「無理もない。誰だって見たくないさ。無論ニーナもね」
 立花は肩に手を置いて、優しく呟いた。

 モンスターを倒したときのニーナの表情はどこか虚しそうだった。
 何はともあれ、あたし達はニーナの活躍もあり、夕方前にはシンポート王国の国境に着いた。

 国境で、入国手続きをしていると、初老の男が近づいてきた。

「もしかして、貴方は名探偵のミスタータチバナではありませんか?」
 初老の男は興奮気味に話しかけた。

「いかにも、私が名探偵の立花 仁です。紳士殿、私に何か御用ですかな」
 名探偵と呼ばれて気を良くしたのか、立花は上機嫌になった。

「いやぁ、ウチの娘がお主のファンでして‥。もしよろしければ、今夜開催する我が家のパーティーお越しいただけないでしょうか?」
 初老の男は頭を下げる。

「もし、来てくだされば、私の経営するホテルのスイートルームにお泊りいただきたいのですが‥」
 立花は、あたし達の顔をみてニヤリと笑った。

「すまないねぇ。有名人っていうのはこういうことが多いんだよ。あははは」
 完全に調子に乗っていたので、あたし達は黙っていた。

「いやぁ、特別ですよ。特別。スイートルームに惹かれたわけじゃないんだが、ファンサービスも偶にはねぇ」
 立花は終始笑顔だった。

「おおっそれでは‥」
 初老の男も笑顔になる。

「お邪魔させて頂きましょう。この名探偵の立花に二言はありません。ふふっ」
 立花は胸をドンと叩いて、約束をした。

「それでは、これは私のホテルまでの地図です。従業員には話しておきますので何なりと申し付けください。あと、パーティーは1階の会場で夜の8時から開催されます。名探偵にゲストに来て頂けるなんて、嬉しい限りです」
 初老の男は丁寧に頭を下げて立ち去った。

「ちょっと、立花さん。あんな約束して大丈夫なんですか?」
 あたしは、呆れてしまっていた。

「んっ。ああ、全く問題ないよ。どうせ、船は明日の昼になるまで出ないしねぇ。泊まる場所もまだ決めてなかったんだから。だってスイートルームだよ。スイートルーム」
 立花は子供みたいにはしゃいでいた。

「先生はちやほやされることが大好きですから‥。涼子様諦めて下さいまし」
 ニーナはため息をつきながら、あたしに説明した。

「ニーナさんも、苦労されてるんですね」
 あたしはニーナの心労を察した。

――30分後。

 あたし達は、初老の男ことローレン=スタンレーの経営するスタンレーホテルに到着した。

「こっちの世界にもこんなに大きなホテルってあるんですね」
 昔父と行ったアトラクション遊園地のハムスターランドにあったホテルの2倍以上の大きさがあった。

「そりゃあ、海外から沢山人が来るからねぇ。シンポート王国は観光業が盛んな国なんだ。バカンスに来る要人も多いんだよ」
 立花は説明した。

 中に入ると、大理石調の床に壁には不思議な光を放っている石が散りばめられていて、何とも幻想的な雰囲気を出していた。
 チェックインの手続きが一通り終わると、感じの良さそうな従業員たちが、あたし達の荷物を部屋まで運んでくれた。
 あたし達も続いて部屋に、入る……。

「うわぁ、あたし、こんなに広くて綺麗な部屋初めて見ました。あっ窓から海が見える。泳げるのかしら。ベッドもなんてフカフカなの」
 あたしは、ついテンションが高くなってしまった。
 しかし、さっきまではしゃいでいた立花に対して呆れていたことを思い出し慌てて騒ぐことをストップさせた。

「君は、本当に素直だねぇ」
 立花は肩をすくめて、あたしを見た。

「まあ、落ち込んでいるより、はしゃいでいるほうがいい。じゃあこの部屋は君の部屋だから、パーティーに出席する時はあそこのドレスに着替えたまえ」
 立花はあたしの後ろを指をさした。

「ドレスですか?」
 立花が指差した方を見ると、テレビでしか見たことのないような立派なドレスが掛かっていた。

「破らないでくれたまえよ。そんなに高級ではないけど、日本だったら200万円くらいかかる価値だからねぇ」
 立花は真剣な顔で言った。

「脅かさないで下さいよ。あたしは欠席でいいです」
 あたしは怯えた顔で言った。

「そういう理由にはいかないの。ニーナくん後で涼子くんの着替えを手伝って上げたまえ」
 立花はニーナに指示を出す。

「承知いたしましたわ」
 ニーナは笑顔で返事をした。

「それじゃあ涼子くん、私達も自分の部屋に行くから」
 立花は部屋を出ようとする。

「2人は同じ部屋なんですか?」
 あたしは、なんとなく聞いてみた。

「いやあ残念ながら別々なんだ。スタンレー氏も案外気が利かないよねぇ」
 立花が残念そうな顔でそう言った。

「先生、余計なことはおっしゃらないで下さいまし」
 ニーナは咎めたが、顔はまんざらでも無さそうだった。

――その日の夜。
 
 ニーナに手伝いのおかげで、あたしはドレス姿になっていた。

「うわぁ。憧れてはいたんですが、結構窮屈なんですね」
 ヒールにも慣れないので、動きも固くなる。

「涼子様、凄くお似合いですわ。まるで、お姫様みたい」
 ニーナは本心で褒めてくれたのかもしれないが少し嫌味に聞こえた。

「ニーナさん……凄い……」
 あたしは声を失った。
 
 それだけ、ドレスに着替えたニーナは綺麗というか、ゴージャスというか神々しくすらあった。
 ある意味あたしより窮屈そうなところはあったけど‥

「やあ、着替えは済んだみたいだねぇ」
 タキシードに着替えた立花と合流した。

「涼子くん。これは、見違えたなあ。馬子にも衣装って言葉初めて使ったよ」
 立花はニヤニヤしている。

「どうせあたしは、馬ですよ。ニーナさんみたいにナイスバディでもないですよ」
 あたしはムッとして答えた。

「先生、また余計なことを‥パーティーでは禁止してもらわないと困ってしまいますわ。それに涼子様はまだ子供、未発達なのは自然なことですわ」
 ニーナは立腹して、立花を責める。

(ニーナさん、フォローになってないよ)
 あたしは心の中でツッコんだ。

「すまなかったねぇ涼子くん。似合っているよ。本心から」
 珍しく頭を下げて立花は謝った。

 3人で一緒に1階のパーティー会場に向かう。

 あたしは、これから会場で起こる凄惨な事件に巻き込まれてしまうことを、まだ知らなかった。
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