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6.勘当寸前
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「ごめんなさい!」
「ぽえっ!?」
「やっぱり……」
30分にも及ぶマルサス様のフラッシュモブは見事でした。それだけでお金が取れるレベルです。
この騒ぎを聞きつけて町中の方々が駆けつけてきて、フィナーレには拍手が鳴り響きました。
路上で行った演芸史に残るほどの芸術性の高さ。偶然その場に居合わせた宮廷演出家のモレロ氏はそう語っていました。
でも、プロポーズとしては赤点どころか0点です。
最後までご覧になってくださったルティア様を称賛したいくらいでした。
普通なら帰りますからね。ルティア様がおおらかな方だからこそ、残ってくださったのだと思われます。
……マルサス様はこのパターンを想定していなかったらしく、ポカンと口をあけて間抜けな顔を晒しながらフリーズしていました。
30分がたったの2秒で台無しになったという事実をまだ飲み込めないのでしょう。
「…………」
「あの、マルサス様?」
「…………」
「ええーっと、そのう」
「…………」
「帰らせてもらいますよ?」
「あー! 待って! 待って! 待って!」
マルサス様がフリーズしているうちに帰ろうとされたルティア様ですが逃げられずに失敗して残念そうな顔をされます。
もう無理なんですから、諦めればいいのに……。
「あのさ、僕は君のために何日も徹夜して頑張ったんだよ? それは通じているかな? 元々、できていた訳じゃないんだ。ムーンウォークもバク宙もコサックダンスも」
「わかっています。わかった上でお断りしました。マルサス様への情は一切ありませんのでご理解を……」
「はぁ~~~!? じゃあ僕の練習って全部無駄になったってこと?」
「言いにくいですが、そのとおりです」
無視すればいいのに、律儀にマルサス様の求婚を受け付けない理由まで丁寧に話すルティア様。
もうここから逆転なんて神様の力を借りても無理ですよ。本当に諦めましょう。
「……そ、そんな! 僕の婚約者だったのに薄情すぎるよ! これ、1000万エルドも準備にお金がかかったんだぞ! せめてお金を返してくれ!」
「知りませんよ。エリナさんにプロポーズするって言っていたではありませんか」
「うるさい! この冷血女! お前なんて! 痛い! 痛い! 誰だ!?」
「……やれやれ、見ていられないな。マルサスくん」
「あ、あ、あなたはリュオン殿下……!」
これは驚きです。まさか第三王子のリュオン殿下が現れるとは。マルサス様は殿下に腕を捻りあげられて痛そうな顔をしています。
一体、どうしてし殿下がここにいるのでしょう。
「悪いが君の出る幕はないんだよ。彼女は私の婚約者だ」
「……ぽえっ?」
「ぽえっ、の勢いがなくなりましたね。若様」
なんということでしょう。リュオン殿下がルティア様の婚約者だと自称しました。
変ですね。確か彼は隣国の王女と婚約していたはず。なにかあったのでしょうか。
「事情は深く話せないが、とにかくルティアは私の婚約者。これ以上、彼女を困らせるのなら私が容赦しないよ?」
「むむむむむむむむ、ぅぐぐぐ」
そんなセリフを残してリュオン殿下はルティア様を連れて行かれました。
ああ、益々大魚を逃した感がすごいですね。
それにしても1000万ですか。そして第三王子をも巻き込んだ今回の騒動。
この話を旦那様が聞けばどんな反応をするのか見ものです。
◆
「マ~ル~サ~ス~! 貴様ァ! 貴様というやつは! どれだけワシの顔に泥を塗れば気が済むのだァ!!」
「ぎえーーーーーーっ!」
ボコボコに殴られすぎて大理石の壁にめり込み、前衛アートというか、面白いオブジェみたいになっているマルサス様。
旦那様、マルサス様じゃなかったら死んでいますよ。
壁の中にいる彼をさらに殴りつける旦那様を見て、さすがに私も止めようと思ったのですが、迫力に負けて体が動きません。
「貴様! 婚約指輪代、慰謝料、そして訳のわからん演劇代、全部ワシが払うことになったんだぞ。しめて5000万エルド。テスラー家を食いつぶすつもりか! ええっ!?」
「そんな!? 世の中には金よりも大事なものってありますよね!? そう愛情です! 僕はそれに正直に生きました! 後悔はありません!」
「そのセリフは貴様の金を使ってから言え! この大うつけ者が!!」
「ぎえーーーーーーっ!!」
なんであれだけボコボコにされて、煽ることができるのか理解ができません。
旦那様の容赦のない折檻を受けてもこの方はついに謝罪の言葉を述べませんでした。
「もういい。お前にはなんも期待せん。勘当だ……」
「そ、そんな! お金くらいのことで勘当だなんて、あんまりです!」
「お金どころか十分に恥をかいとるわ! 王家と侯爵家の双方から目をつけられとるからな! だが、まぁいい。貴様がお金くらいというのなら、5000万エルド耳を揃えてワシに返済してみろ! もしも、できたらその男気に免じて勘当だけは許してやってもいい!」
あーあ、これはマルサス様は実質勘当されたも同然ですね。
旦那様もよほど腹に据えかねたのか、無理難題を言い渡して、絶望させたのちに切る算段をしたみたいです。
「わかりました。5000万エルドですね。利子をつけてお返ししてみせますよ。僕は愛に生きることを諦めませんからね!」
ボロ雑巾のようになりながらもマルサス様はそう啖呵をきりました。
いやいや、どう考えても無理ですって。頭が悪くて計算ができない、なんてことはありませんよね……。
「ぽえっ!?」
「やっぱり……」
30分にも及ぶマルサス様のフラッシュモブは見事でした。それだけでお金が取れるレベルです。
この騒ぎを聞きつけて町中の方々が駆けつけてきて、フィナーレには拍手が鳴り響きました。
路上で行った演芸史に残るほどの芸術性の高さ。偶然その場に居合わせた宮廷演出家のモレロ氏はそう語っていました。
でも、プロポーズとしては赤点どころか0点です。
最後までご覧になってくださったルティア様を称賛したいくらいでした。
普通なら帰りますからね。ルティア様がおおらかな方だからこそ、残ってくださったのだと思われます。
……マルサス様はこのパターンを想定していなかったらしく、ポカンと口をあけて間抜けな顔を晒しながらフリーズしていました。
30分がたったの2秒で台無しになったという事実をまだ飲み込めないのでしょう。
「…………」
「あの、マルサス様?」
「…………」
「ええーっと、そのう」
「…………」
「帰らせてもらいますよ?」
「あー! 待って! 待って! 待って!」
マルサス様がフリーズしているうちに帰ろうとされたルティア様ですが逃げられずに失敗して残念そうな顔をされます。
もう無理なんですから、諦めればいいのに……。
「あのさ、僕は君のために何日も徹夜して頑張ったんだよ? それは通じているかな? 元々、できていた訳じゃないんだ。ムーンウォークもバク宙もコサックダンスも」
「わかっています。わかった上でお断りしました。マルサス様への情は一切ありませんのでご理解を……」
「はぁ~~~!? じゃあ僕の練習って全部無駄になったってこと?」
「言いにくいですが、そのとおりです」
無視すればいいのに、律儀にマルサス様の求婚を受け付けない理由まで丁寧に話すルティア様。
もうここから逆転なんて神様の力を借りても無理ですよ。本当に諦めましょう。
「……そ、そんな! 僕の婚約者だったのに薄情すぎるよ! これ、1000万エルドも準備にお金がかかったんだぞ! せめてお金を返してくれ!」
「知りませんよ。エリナさんにプロポーズするって言っていたではありませんか」
「うるさい! この冷血女! お前なんて! 痛い! 痛い! 誰だ!?」
「……やれやれ、見ていられないな。マルサスくん」
「あ、あ、あなたはリュオン殿下……!」
これは驚きです。まさか第三王子のリュオン殿下が現れるとは。マルサス様は殿下に腕を捻りあげられて痛そうな顔をしています。
一体、どうしてし殿下がここにいるのでしょう。
「悪いが君の出る幕はないんだよ。彼女は私の婚約者だ」
「……ぽえっ?」
「ぽえっ、の勢いがなくなりましたね。若様」
なんということでしょう。リュオン殿下がルティア様の婚約者だと自称しました。
変ですね。確か彼は隣国の王女と婚約していたはず。なにかあったのでしょうか。
「事情は深く話せないが、とにかくルティアは私の婚約者。これ以上、彼女を困らせるのなら私が容赦しないよ?」
「むむむむむむむむ、ぅぐぐぐ」
そんなセリフを残してリュオン殿下はルティア様を連れて行かれました。
ああ、益々大魚を逃した感がすごいですね。
それにしても1000万ですか。そして第三王子をも巻き込んだ今回の騒動。
この話を旦那様が聞けばどんな反応をするのか見ものです。
◆
「マ~ル~サ~ス~! 貴様ァ! 貴様というやつは! どれだけワシの顔に泥を塗れば気が済むのだァ!!」
「ぎえーーーーーーっ!」
ボコボコに殴られすぎて大理石の壁にめり込み、前衛アートというか、面白いオブジェみたいになっているマルサス様。
旦那様、マルサス様じゃなかったら死んでいますよ。
壁の中にいる彼をさらに殴りつける旦那様を見て、さすがに私も止めようと思ったのですが、迫力に負けて体が動きません。
「貴様! 婚約指輪代、慰謝料、そして訳のわからん演劇代、全部ワシが払うことになったんだぞ。しめて5000万エルド。テスラー家を食いつぶすつもりか! ええっ!?」
「そんな!? 世の中には金よりも大事なものってありますよね!? そう愛情です! 僕はそれに正直に生きました! 後悔はありません!」
「そのセリフは貴様の金を使ってから言え! この大うつけ者が!!」
「ぎえーーーーーーっ!!」
なんであれだけボコボコにされて、煽ることができるのか理解ができません。
旦那様の容赦のない折檻を受けてもこの方はついに謝罪の言葉を述べませんでした。
「もういい。お前にはなんも期待せん。勘当だ……」
「そ、そんな! お金くらいのことで勘当だなんて、あんまりです!」
「お金どころか十分に恥をかいとるわ! 王家と侯爵家の双方から目をつけられとるからな! だが、まぁいい。貴様がお金くらいというのなら、5000万エルド耳を揃えてワシに返済してみろ! もしも、できたらその男気に免じて勘当だけは許してやってもいい!」
あーあ、これはマルサス様は実質勘当されたも同然ですね。
旦那様もよほど腹に据えかねたのか、無理難題を言い渡して、絶望させたのちに切る算段をしたみたいです。
「わかりました。5000万エルドですね。利子をつけてお返ししてみせますよ。僕は愛に生きることを諦めませんからね!」
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