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5.サプライズ
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タ、タタタタン、タン、タタタン。軽快なステップ音が若様の部屋から聞こえます。
一体なにをしているのでしょうか。どうせろくなことではないんでしょうね。
「入りますよ、若様」
「おおっ! アネットか。いいところに来た。かなり上手くなったと思うんだが」
シルクハットにタキシード、そしてステッキ姿のマルサス様が部屋の中でタップダンスを踊っていらっしゃる。
ええ、ええ、ムカつくくらい見事でしたよ。昔から器用さと運動神経だけは抜群でしたので、特に驚きませんでしたが……。
「クルックー」
「鳩、ですか?」
おまけに踊り終わったあとに帽子から白い鳩を出す始末。
手品まで仕込んでいたとは、若様はどこに向かっておられるのか。
「なっ? どうだ? 見事だろ?」
「ええ、見事です」
「これでルティアは復縁を許してくれるだろうか?」
「はぁ? ごめんなさい、マルサス様。もう一度仰っていただけませんか?」
「これでルティアは復縁を許してくれるだろうか?」
「安心しました。腐っているのは私の耳ではなくて若様の頭だと判明しましたので」
今回は本気で意味がわからないです。
いいえ、今までも意味がわからない行動だらけだったんですが、これは本当に発想が異次元すぎて、もう人間の理解できる領域を飛び越えてしまっています。
「エリナのせいで、僕はルティアに酷いことをしてしまった」
「エリナ様は1ミリも悪くありません」
「やっぱりその、簡単には許してくれないだろ? 常識的に考えて」
「若様の辞書に常識という言葉が載っていたこと自体が驚きです」
「で、考えたんだが。どうも世の中の女はサプライズというものが好きらしい」
「サプライズ、ですか?」
ここにきて、私はようやくマルサス様が何を考えているのか察することができました。
つまり彼はルティア様にサプライズ的な何かを披露したいんだと、そう読めたのです。
これだけのヒントでこの結論にたどり着くのはマルサス様に5年仕えて培った経験の賜物でしょう。本当に無駄な能力ですが……。
「フラッシュモブって知っているか?」
「えっ? あの一時期流行った、通行人や店員がいきなりダンスして意中の人を驚かせる、あれですよね?」
「そうそう。今度、僕はあれをやってルティアに正式にプロポーズしようと思ってな」
マルサス様は大きな勘違いをされています。
まず、女性はいうほどサプライズが好きではない。
むしろお金をかけるなら一緒に考えたいと思っている人も割といるのです。
というか、サプライズが好きでもフラッシュモブはさらし者になるから恥ずかしいと嫌っている人も多い。
それでも成立するのは愛があるからです。好きだから我慢できるというのは大きいでしょう。
つまり、愛がないどころか完全に異常者として嫌われているマルサス様がフラッシュモブをすれば単なる迷惑行為に他ならない。
多分、ルティア様は耐え難い苦痛を受けてしまうでしょう。
「若様、悪いことは言いません。ルティア様のことは諦めましょう。フラッシュモブなど論外です」
「ああ、わかっているさ!」
「えっ?」
わかっているなら、なぜこのようなことを。
まさかエリナ様に振られたことがショックでそれを忘れるためにバカなことだと分かりながら身体を動かして――。
「普通のフラッシュモブじゃルティアの心は取り戻せない。だから僕は彼女に努力の成果を見せるんだ! 反省の証として!」
今度は一輪車に乗りながらジャグリングをしつつ、そんなことを仰るマルサス様。
完っ全に努力の方向性を間違えていますね。
確かにこれを見たルティア様は「凄い」と思うはずです。
でも怖さがマシマシになりますよ。元婚約者がこんなの見せてきたら。
はっきり言ってドン引きされておしまいです。
「これ、食べてみろ」
「ラザニアですか? はむっ……。バカみたいに美味しいです」
「だろ? 僕が作った特製のラザニアだ。あの演目をみて、これだけ美味い料理も食べたら、僕のことを好きになるに決まっている」
どうでしょうかね。そもそもルティア様はラザニア食べないのでは?
不気味な演目を見せられて、異常な元婚約者の手料理など手を付けたくないでしょう。
「残念ながら、他のケータリングはレストランのシェフにやらせることにした。三ツ星だ、三ツ星」
「三ツ星のシェフのご馳走が無駄になるところを想像すると泣けますね」
「エキストラもオーディションして集めたし、その場で僕の再婚約を祝う宴を開くから、君も準備を手伝いたまえ」
「死ぬほど嫌ですけど。承知いたしました。もうそこまで話が進んでいるなら止める労力が無駄だと悟りましたから」
全部間違っています。
1から10まで全部、何もかも、倫理観もすべて間違っていました。
ですがマルサス様の努力は本物です。ダンスも大道芸も手品も全部、何日も徹夜で練習して一流と言えるくらいに仕上げました。
ええ、だから何って話です。マルサス様は100%振られる勝負にも関わらず、報われない努力をひたすらしていただけなのですから。
一体なにをしているのでしょうか。どうせろくなことではないんでしょうね。
「入りますよ、若様」
「おおっ! アネットか。いいところに来た。かなり上手くなったと思うんだが」
シルクハットにタキシード、そしてステッキ姿のマルサス様が部屋の中でタップダンスを踊っていらっしゃる。
ええ、ええ、ムカつくくらい見事でしたよ。昔から器用さと運動神経だけは抜群でしたので、特に驚きませんでしたが……。
「クルックー」
「鳩、ですか?」
おまけに踊り終わったあとに帽子から白い鳩を出す始末。
手品まで仕込んでいたとは、若様はどこに向かっておられるのか。
「なっ? どうだ? 見事だろ?」
「ええ、見事です」
「これでルティアは復縁を許してくれるだろうか?」
「はぁ? ごめんなさい、マルサス様。もう一度仰っていただけませんか?」
「これでルティアは復縁を許してくれるだろうか?」
「安心しました。腐っているのは私の耳ではなくて若様の頭だと判明しましたので」
今回は本気で意味がわからないです。
いいえ、今までも意味がわからない行動だらけだったんですが、これは本当に発想が異次元すぎて、もう人間の理解できる領域を飛び越えてしまっています。
「エリナのせいで、僕はルティアに酷いことをしてしまった」
「エリナ様は1ミリも悪くありません」
「やっぱりその、簡単には許してくれないだろ? 常識的に考えて」
「若様の辞書に常識という言葉が載っていたこと自体が驚きです」
「で、考えたんだが。どうも世の中の女はサプライズというものが好きらしい」
「サプライズ、ですか?」
ここにきて、私はようやくマルサス様が何を考えているのか察することができました。
つまり彼はルティア様にサプライズ的な何かを披露したいんだと、そう読めたのです。
これだけのヒントでこの結論にたどり着くのはマルサス様に5年仕えて培った経験の賜物でしょう。本当に無駄な能力ですが……。
「フラッシュモブって知っているか?」
「えっ? あの一時期流行った、通行人や店員がいきなりダンスして意中の人を驚かせる、あれですよね?」
「そうそう。今度、僕はあれをやってルティアに正式にプロポーズしようと思ってな」
マルサス様は大きな勘違いをされています。
まず、女性はいうほどサプライズが好きではない。
むしろお金をかけるなら一緒に考えたいと思っている人も割といるのです。
というか、サプライズが好きでもフラッシュモブはさらし者になるから恥ずかしいと嫌っている人も多い。
それでも成立するのは愛があるからです。好きだから我慢できるというのは大きいでしょう。
つまり、愛がないどころか完全に異常者として嫌われているマルサス様がフラッシュモブをすれば単なる迷惑行為に他ならない。
多分、ルティア様は耐え難い苦痛を受けてしまうでしょう。
「若様、悪いことは言いません。ルティア様のことは諦めましょう。フラッシュモブなど論外です」
「ああ、わかっているさ!」
「えっ?」
わかっているなら、なぜこのようなことを。
まさかエリナ様に振られたことがショックでそれを忘れるためにバカなことだと分かりながら身体を動かして――。
「普通のフラッシュモブじゃルティアの心は取り戻せない。だから僕は彼女に努力の成果を見せるんだ! 反省の証として!」
今度は一輪車に乗りながらジャグリングをしつつ、そんなことを仰るマルサス様。
完っ全に努力の方向性を間違えていますね。
確かにこれを見たルティア様は「凄い」と思うはずです。
でも怖さがマシマシになりますよ。元婚約者がこんなの見せてきたら。
はっきり言ってドン引きされておしまいです。
「これ、食べてみろ」
「ラザニアですか? はむっ……。バカみたいに美味しいです」
「だろ? 僕が作った特製のラザニアだ。あの演目をみて、これだけ美味い料理も食べたら、僕のことを好きになるに決まっている」
どうでしょうかね。そもそもルティア様はラザニア食べないのでは?
不気味な演目を見せられて、異常な元婚約者の手料理など手を付けたくないでしょう。
「残念ながら、他のケータリングはレストランのシェフにやらせることにした。三ツ星だ、三ツ星」
「三ツ星のシェフのご馳走が無駄になるところを想像すると泣けますね」
「エキストラもオーディションして集めたし、その場で僕の再婚約を祝う宴を開くから、君も準備を手伝いたまえ」
「死ぬほど嫌ですけど。承知いたしました。もうそこまで話が進んでいるなら止める労力が無駄だと悟りましたから」
全部間違っています。
1から10まで全部、何もかも、倫理観もすべて間違っていました。
ですがマルサス様の努力は本物です。ダンスも大道芸も手品も全部、何日も徹夜で練習して一流と言えるくらいに仕上げました。
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※他サイトにも掲載しています。
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