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第二十四話(リーンハルト視点)
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くっ、なんで僕がこんな目に遭わなくてはならんのだ。
あのアルフレートのクソ野郎、本当に僕の父上に言いつけやがった! ミリムのバカ女を叩いたり、殿下にバカ女を押し付けようとしたり、したことを全部話しやがった!
だから、僕は父上の書斎に呼び出される。
父上はシャルロットと婚約破棄した時も渋い顔をしていて、ミリムとの婚約もそれほど快く思っていなかった。
僕が彼女をどれだけ愛しているのか説明して、強引に許してもらったのである。
だから、今回の件は聞かれてしまうと痛い。
どうしようもなく、痛いのだ。おまけにアルビニア王室が絡んでいるとなると……。
「リーンハルト、お前……、随分と大暴れしたらしいな。まさか、アルビニア王太子殿下が来るとは思わなかったぞ……!」
今までにない迫力で僕を睨む父上。
父上は我が家が恥をかいたと立腹して、アルフレート殿下にしきりに頭を下げていたことを思い出したのか、プルプル震えている。
「ち、違うんですよ、父上。アルフレート殿下はちょっと大袈裟に……」
僕は父上の迫力にすでに負けていた。父上はこの家では絶対の存在だ。
公爵家の伝統と威厳を何よりも大事にして、家の名に傷が付くことを何よりも嫌っている。
そして、今回の件は父上の怒りの許容量を遥かに超えてしまった。
――たからこそ、何とか弁解するしかない。
「では、お前が愛していると騒ぎ立て、シャルロットと別れてまで結婚したかったという、ミリムを殴ったのは嘘なんだな?」
「い、いや、それは軽~く、ですよ。それは、もう春風のようにゆる~~い感じです」
父上はアルフレートの野郎が告げ口したことは嘘なのか問い質した。
そりゃあ事実だけど、実際は大して力を入れずに平手打ちしている。
ミリムが大袈裟にリアクションを取っただけで。
僕はそんなニュアンスを何とか伝えようとしたんだけど――。
「馬鹿者!!」
「ひぃぃぃっ!」
父上の拳がテーブルを打ち付けて、ドンッという音が部屋に響く。
だって本気で殴っていないし。そのニュアンスはちゃんと伝えなきゃならないじゃないか。
しかも、あれはバカなミリムが馬鹿な発言をしていたことが分かってイライラが頂点に達していたときだし。
「お前なぁ、自分がミリムと婚約したいと言ったとき、何を言うたか覚えとるか? “どんな困難が待ち受けていても、僕は彼女の盾になり全力で守ります”とか言っていたのだぞ」
「えっ? えへへ、そんなこと言いましたっけ?」
あの時はミリムが愛らしくて、もう堪らなく可愛かったので何でもしてあげられる気分だったのだ。
一時的にテンションが上がってハイになっていたって奴だ。
「何を笑っとる! こっちは全く笑えんぞ! 何年前とかそういう次元の話をしとるんじゃない! ひと月も経っておらんのだ! お前の人間としての器の小ささが透けて見える!」
「くっ……」
父上はミリムのバカさ加減を知らぬからそんなことが言えるのだ。
あんなのと一週間でも顔を突き合わせてみろ、ストレスしか感じられないのだから。
要するに僕は事故に遭ったのと同義だよ。あんなバカな女、そうそう居ないし。
運が悪かったんだ。普通くらいの頭の中身なら我慢していたからね。
「エルムハルト、入ってきなさい……!」
「は、はい。父上……」
父上はひとしきり僕を怒鳴った後、今年15歳になったばかりの弟、エルムハルトを部屋の中に入れる。
エルムハルトはいつもビクビクしていて、何かを怖がっているような、気弱で頼りない男だ。
「知ってのとおり、リーンハルトは我が家に恥をかかせた。特大の恥を……。――そこで、ワシは家督をリーンハルトではなく、お前に継がせたいと思うのだが」
「ちょっと! 父上、待ってください!」
恐れていたことが起こる。
僕に公爵家を継がせないと本当に言いやがった、このクソ親父!
だが、僕に怯えまくっているエルムハルトはきっと遠慮――。
「本当ですか! 嬉しいです! これで兄上に遠慮せずに生きていけます!」
「えっ……?」
エルムハルトはとびきりの笑顔を見せていた――。
あのアルフレートのクソ野郎、本当に僕の父上に言いつけやがった! ミリムのバカ女を叩いたり、殿下にバカ女を押し付けようとしたり、したことを全部話しやがった!
だから、僕は父上の書斎に呼び出される。
父上はシャルロットと婚約破棄した時も渋い顔をしていて、ミリムとの婚約もそれほど快く思っていなかった。
僕が彼女をどれだけ愛しているのか説明して、強引に許してもらったのである。
だから、今回の件は聞かれてしまうと痛い。
どうしようもなく、痛いのだ。おまけにアルビニア王室が絡んでいるとなると……。
「リーンハルト、お前……、随分と大暴れしたらしいな。まさか、アルビニア王太子殿下が来るとは思わなかったぞ……!」
今までにない迫力で僕を睨む父上。
父上は我が家が恥をかいたと立腹して、アルフレート殿下にしきりに頭を下げていたことを思い出したのか、プルプル震えている。
「ち、違うんですよ、父上。アルフレート殿下はちょっと大袈裟に……」
僕は父上の迫力にすでに負けていた。父上はこの家では絶対の存在だ。
公爵家の伝統と威厳を何よりも大事にして、家の名に傷が付くことを何よりも嫌っている。
そして、今回の件は父上の怒りの許容量を遥かに超えてしまった。
――たからこそ、何とか弁解するしかない。
「では、お前が愛していると騒ぎ立て、シャルロットと別れてまで結婚したかったという、ミリムを殴ったのは嘘なんだな?」
「い、いや、それは軽~く、ですよ。それは、もう春風のようにゆる~~い感じです」
父上はアルフレートの野郎が告げ口したことは嘘なのか問い質した。
そりゃあ事実だけど、実際は大して力を入れずに平手打ちしている。
ミリムが大袈裟にリアクションを取っただけで。
僕はそんなニュアンスを何とか伝えようとしたんだけど――。
「馬鹿者!!」
「ひぃぃぃっ!」
父上の拳がテーブルを打ち付けて、ドンッという音が部屋に響く。
だって本気で殴っていないし。そのニュアンスはちゃんと伝えなきゃならないじゃないか。
しかも、あれはバカなミリムが馬鹿な発言をしていたことが分かってイライラが頂点に達していたときだし。
「お前なぁ、自分がミリムと婚約したいと言ったとき、何を言うたか覚えとるか? “どんな困難が待ち受けていても、僕は彼女の盾になり全力で守ります”とか言っていたのだぞ」
「えっ? えへへ、そんなこと言いましたっけ?」
あの時はミリムが愛らしくて、もう堪らなく可愛かったので何でもしてあげられる気分だったのだ。
一時的にテンションが上がってハイになっていたって奴だ。
「何を笑っとる! こっちは全く笑えんぞ! 何年前とかそういう次元の話をしとるんじゃない! ひと月も経っておらんのだ! お前の人間としての器の小ささが透けて見える!」
「くっ……」
父上はミリムのバカさ加減を知らぬからそんなことが言えるのだ。
あんなのと一週間でも顔を突き合わせてみろ、ストレスしか感じられないのだから。
要するに僕は事故に遭ったのと同義だよ。あんなバカな女、そうそう居ないし。
運が悪かったんだ。普通くらいの頭の中身なら我慢していたからね。
「エルムハルト、入ってきなさい……!」
「は、はい。父上……」
父上はひとしきり僕を怒鳴った後、今年15歳になったばかりの弟、エルムハルトを部屋の中に入れる。
エルムハルトはいつもビクビクしていて、何かを怖がっているような、気弱で頼りない男だ。
「知ってのとおり、リーンハルトは我が家に恥をかかせた。特大の恥を……。――そこで、ワシは家督をリーンハルトではなく、お前に継がせたいと思うのだが」
「ちょっと! 父上、待ってください!」
恐れていたことが起こる。
僕に公爵家を継がせないと本当に言いやがった、このクソ親父!
だが、僕に怯えまくっているエルムハルトはきっと遠慮――。
「本当ですか! 嬉しいです! これで兄上に遠慮せずに生きていけます!」
「えっ……?」
エルムハルトはとびきりの笑顔を見せていた――。
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