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第二十三話
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何という醜態……、何という無礼……。
私の妹は『隣国の国王陛下の名前が答えられない』どころか、『陛下に名前などない』と思っていたみたいです。
どうしたら、そんな理屈になるのでしょう。
どう考えても彼女は隣国どころかこのエルシャイド王国の国王陛下の名前すら覚えていないことは確定しました。
これは不敬どころではありません。
間違いなく両親の教育が悪かったと追及されるレベルです。
「殿下、申し訳ありません! 妹の不勉強、いえ不敬行為は許されない事だと存じます。本当に――」
「いや、君が謝らなくていい。君の妹だということが信じられないだけで、君の価値が下がるということはないから」
私がアルフレート殿下にミリムの発言について謝罪を申し上げると、彼は片手を上げてそれを拒否しました。
殿下の寛大さには感謝しますが、これではあまりにも我が家が……。
リーンハルト様の件も消化出来ていないのに、ミリムのことまで考えると頭痛がします。
「だが、アーゼル伯爵、そして伯爵夫人。あなた方はミリムにどういう教育を施したのだ? 牧羊犬でもアレよりは躾けられていると思えるが」
……ついに犬以下という評価を下されたミリム。
普通なら否定すべきところですが、もう既にそのような気力は無くなっています。
ですが、アルフレート殿下はミリム対して怒りを向けているのではないのでしょう。
むしろ、彼女がああなってしまった原因である両親の方を許せないと言っているように思えます。
「そ、それは、そのう。教育学の権威、アストン侯爵が奔放に育てられた方が人格的にも、ゆとりが出来て、良い子に育つと講義されていましたので……」
「シャルロットには、かなり詰め込み型の教育を施し、学業は優秀になりましたが面白みに欠ける子に育ったという印象でしたから。子供の自主性を重んじようとしたのですが……」
オドオドしたような怯えきった口調で両親は妹がどうしてこうなったのか説明します。
アストン侯爵は確かにこの国の教育学の第一人者で自らの息子は三人とも王立学院を主席で卒業し、国の要職を担っておりますが、とてもミリムと同じような教育を施されたような感じではありません。
「アストン先生の教育論を聞いた結果だと? 笑わせるな。あの方は子供が自由に勉学に興味が持てるような環境を整え、好きなように学べるようにしていると聞いたぞ。野生動物を放し飼いしろなど、僕の読んだ書籍の翻訳が間違っていなければ一言も書いていない」
「「うっ……」」
「まさか、話半分に都合の良いことだけを聞いたのではあるまいな? シャルロットの教育に疲れたからと言って」
どうやら、アルフレート殿下はアストン侯爵の本をお読みになったことがあるみたいです。
私もどうも変だと思っていたのですが、殿下の話を聞いて納得できました。
何もせずに放置しておけなんて、教育学の権威であるアストン侯爵が仰るはずありませんものね……。
「どうやら、アーゼル伯爵。ミリムがああなったのは、あなたの責任が大きいみたいだな。あの娘を真人間に戻すには並大抵じゃないぞ。修道院にも迷惑がかかるのではないか?」
「は、はぁ。そ、それは否定できないというか……」
「このままだと、シャルロットは我が国の公爵家辺りに養子に入ってもらって、あなた方とも関わらせたくないと思わざるを得ない。あなた方の気まぐれでシャルロットもどうなっていたか分からなかったのだからな」
「えっ、そ、それは困ります……! ご、ご冗談ですよね。はは……」
父は笑っていますが、アルフレート殿下の表情から察すると冗談では無さそうです。
この家から出て、名義上だけでも他家の養子……、流石に両親としては旨味が無くなるので避けたいですよね。
アーゼル家のプラスになるかどうかでしか、娘の結婚なんて考えていませんでしょうし……。
どうやら、平穏無事に結婚という訳にはいかなそうです――。
私の妹は『隣国の国王陛下の名前が答えられない』どころか、『陛下に名前などない』と思っていたみたいです。
どうしたら、そんな理屈になるのでしょう。
どう考えても彼女は隣国どころかこのエルシャイド王国の国王陛下の名前すら覚えていないことは確定しました。
これは不敬どころではありません。
間違いなく両親の教育が悪かったと追及されるレベルです。
「殿下、申し訳ありません! 妹の不勉強、いえ不敬行為は許されない事だと存じます。本当に――」
「いや、君が謝らなくていい。君の妹だということが信じられないだけで、君の価値が下がるということはないから」
私がアルフレート殿下にミリムの発言について謝罪を申し上げると、彼は片手を上げてそれを拒否しました。
殿下の寛大さには感謝しますが、これではあまりにも我が家が……。
リーンハルト様の件も消化出来ていないのに、ミリムのことまで考えると頭痛がします。
「だが、アーゼル伯爵、そして伯爵夫人。あなた方はミリムにどういう教育を施したのだ? 牧羊犬でもアレよりは躾けられていると思えるが」
……ついに犬以下という評価を下されたミリム。
普通なら否定すべきところですが、もう既にそのような気力は無くなっています。
ですが、アルフレート殿下はミリム対して怒りを向けているのではないのでしょう。
むしろ、彼女がああなってしまった原因である両親の方を許せないと言っているように思えます。
「そ、それは、そのう。教育学の権威、アストン侯爵が奔放に育てられた方が人格的にも、ゆとりが出来て、良い子に育つと講義されていましたので……」
「シャルロットには、かなり詰め込み型の教育を施し、学業は優秀になりましたが面白みに欠ける子に育ったという印象でしたから。子供の自主性を重んじようとしたのですが……」
オドオドしたような怯えきった口調で両親は妹がどうしてこうなったのか説明します。
アストン侯爵は確かにこの国の教育学の第一人者で自らの息子は三人とも王立学院を主席で卒業し、国の要職を担っておりますが、とてもミリムと同じような教育を施されたような感じではありません。
「アストン先生の教育論を聞いた結果だと? 笑わせるな。あの方は子供が自由に勉学に興味が持てるような環境を整え、好きなように学べるようにしていると聞いたぞ。野生動物を放し飼いしろなど、僕の読んだ書籍の翻訳が間違っていなければ一言も書いていない」
「「うっ……」」
「まさか、話半分に都合の良いことだけを聞いたのではあるまいな? シャルロットの教育に疲れたからと言って」
どうやら、アルフレート殿下はアストン侯爵の本をお読みになったことがあるみたいです。
私もどうも変だと思っていたのですが、殿下の話を聞いて納得できました。
何もせずに放置しておけなんて、教育学の権威であるアストン侯爵が仰るはずありませんものね……。
「どうやら、アーゼル伯爵。ミリムがああなったのは、あなたの責任が大きいみたいだな。あの娘を真人間に戻すには並大抵じゃないぞ。修道院にも迷惑がかかるのではないか?」
「は、はぁ。そ、それは否定できないというか……」
「このままだと、シャルロットは我が国の公爵家辺りに養子に入ってもらって、あなた方とも関わらせたくないと思わざるを得ない。あなた方の気まぐれでシャルロットもどうなっていたか分からなかったのだからな」
「えっ、そ、それは困ります……! ご、ご冗談ですよね。はは……」
父は笑っていますが、アルフレート殿下の表情から察すると冗談では無さそうです。
この家から出て、名義上だけでも他家の養子……、流石に両親としては旨味が無くなるので避けたいですよね。
アーゼル家のプラスになるかどうかでしか、娘の結婚なんて考えていませんでしょうし……。
どうやら、平穏無事に結婚という訳にはいかなそうです――。
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