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第二十九話(リーンハルト視点)
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ぬぐぐぐぐぐぐ、おのれエルムハルトのヤツ!
この僕を出し抜いて、公爵家の跡取りなろうとは許せん!
父上も父上だ。たった一度のミスではないか。
あのバカ女に引っかかったことは悪手だったと認めよう。だからこそ、間違っていたと思ったからこそ、将来の公爵家のことを考えてミリムと別れようとしたのだ。
殿下を怒らせたのだって本意ではない。
ミリムが勘違いしていたことを知っていれば、シャルロットがきちんと話を通していたことを知っていれば、あんなミスは犯さなかった。
情報がきちんと僕に届いていなかったことが問題だったのである。
つまり、簡単に言えば不運が重なっただけ。百分の一とか、千分の一とかの低い確率を引いてしまっただけだ。
エルムハルトは公爵って器じゃない。あいつはこんな小さな失敗とは比べ物にならない失敗をするタイプだ。
その証拠にあいつには僕よりも優れたところなど一つもないのだから。
――父上を説得するしかない。
そうだ。僕を公爵家の跡取りの座に戻してくださいと本気で頼めば、きっと許してくれるはずだ。
「リーンハルト様、旦那様がお呼びです」
と、思っていたら、父上から呼び出しがあった。
これは、まさかチャンスか!?
もしかしたら、父上も僕に跡を継がせないと宣言したのはやりすぎだと思ったのかもしれない。
そうだ。そうに違いない! だって、どう考えてもやりすぎなんだから。
ヤッターーーー! 見たか!? エルムハルト!
僕が跡取りに返り咲いたら覚えとけよ!
この僕が受けた屈辱を千倍返ししてやるからな!
……僕は意気揚々と父上の書斎に向かった。
「父上! 僕を許してくれるのですね!? ありがとうございます!」
僕はきれいな一礼をしてみせた。
うむ、我ながら謙虚さを全面的に出した良いお辞儀だな。
これで、父上もにっこり――。
「はぁ? 違うわい! 厚かましいヤツだ。勘当にされないだけありがたく思え!」
「うっ……!」
父上は大声で僕に向かって怒鳴りつける。
なんだよ。違うのかよ。じゃあ、呼び出すなや……。
まったく、なんの用事だ? 訳がわからんぞ。
「エルムハルトが自らの妻に、お前の一応まだ婚約者であるミリム・アーゼルを迎えたいと言っているのだ。殴ったことは感心出来んが、あの娘……アルビニアの国王に名があることすら知らぬと聞いたが真か?」
父はエルムハルトがあのバカ女……ミリムを嫁にしたいとか酔狂なことを言っていると僕に伝えてきた。
おいおい、我が弟よ。正気か? あいつ、やっぱりバカな男だ。
よりによって、自分の妻にミリムを選ぶなんて……。
「エルムハルトがミリムを? ははは、あいつ、本当に何言っているんだ? 父上の仰るとおり、あの女は――」
いや、待てよ。
エルムハルトがミリムを婚約者だと家に連れてきて、例えばシャルロットとアルフレートの結婚式に出席して粗相を行ったとしたら――?
あいつは間違いなく公爵家を追われるぞ……。
チャ~~~ンス! 大チャンス到来!
これは僕があのクソッタレな弟から居場所を取り返すチャンスだぞ!
「まぁ、モノ知らずな所もありますが、僕とは合わなくとも勤勉なエルムハルトには合うのかもしれませんね。あいつは、人に教えたりするのが好きみたいですし」
「ふーむ」
僕は敢えてミリムを妻にするというような愚かな選択をするエルムハルトの背中を押してやろうと思った。
だから、父上にはそれもアリなんじゃないか、というニュアンスで話してやる。
感謝しろよ~~、エルムハルト。お前の望み通りにしてやってるんだから。
「ただ、ミリムは今……修道院に送られています。僕としては公爵家の将来を考えるのでしたら、ミリムの姉のシャルロットがアルビニアの王太子殿下と結婚するので、エルムハルトも彼女と共に挨拶に行かせるべきだと思うのですが……」
「うーむ。確かに、あちらには我が家と懇意にしている家も多いしな。出席しないとなると、変な噂も立つ、か」
よっしゃ!
この調子で、ミリムを修道院から呼び戻し、エルムハルトと共にシャルロットの結婚式へ向かわせてやる――。
この僕を出し抜いて、公爵家の跡取りなろうとは許せん!
父上も父上だ。たった一度のミスではないか。
あのバカ女に引っかかったことは悪手だったと認めよう。だからこそ、間違っていたと思ったからこそ、将来の公爵家のことを考えてミリムと別れようとしたのだ。
殿下を怒らせたのだって本意ではない。
ミリムが勘違いしていたことを知っていれば、シャルロットがきちんと話を通していたことを知っていれば、あんなミスは犯さなかった。
情報がきちんと僕に届いていなかったことが問題だったのである。
つまり、簡単に言えば不運が重なっただけ。百分の一とか、千分の一とかの低い確率を引いてしまっただけだ。
エルムハルトは公爵って器じゃない。あいつはこんな小さな失敗とは比べ物にならない失敗をするタイプだ。
その証拠にあいつには僕よりも優れたところなど一つもないのだから。
――父上を説得するしかない。
そうだ。僕を公爵家の跡取りの座に戻してくださいと本気で頼めば、きっと許してくれるはずだ。
「リーンハルト様、旦那様がお呼びです」
と、思っていたら、父上から呼び出しがあった。
これは、まさかチャンスか!?
もしかしたら、父上も僕に跡を継がせないと宣言したのはやりすぎだと思ったのかもしれない。
そうだ。そうに違いない! だって、どう考えてもやりすぎなんだから。
ヤッターーーー! 見たか!? エルムハルト!
僕が跡取りに返り咲いたら覚えとけよ!
この僕が受けた屈辱を千倍返ししてやるからな!
……僕は意気揚々と父上の書斎に向かった。
「父上! 僕を許してくれるのですね!? ありがとうございます!」
僕はきれいな一礼をしてみせた。
うむ、我ながら謙虚さを全面的に出した良いお辞儀だな。
これで、父上もにっこり――。
「はぁ? 違うわい! 厚かましいヤツだ。勘当にされないだけありがたく思え!」
「うっ……!」
父上は大声で僕に向かって怒鳴りつける。
なんだよ。違うのかよ。じゃあ、呼び出すなや……。
まったく、なんの用事だ? 訳がわからんぞ。
「エルムハルトが自らの妻に、お前の一応まだ婚約者であるミリム・アーゼルを迎えたいと言っているのだ。殴ったことは感心出来んが、あの娘……アルビニアの国王に名があることすら知らぬと聞いたが真か?」
父はエルムハルトがあのバカ女……ミリムを嫁にしたいとか酔狂なことを言っていると僕に伝えてきた。
おいおい、我が弟よ。正気か? あいつ、やっぱりバカな男だ。
よりによって、自分の妻にミリムを選ぶなんて……。
「エルムハルトがミリムを? ははは、あいつ、本当に何言っているんだ? 父上の仰るとおり、あの女は――」
いや、待てよ。
エルムハルトがミリムを婚約者だと家に連れてきて、例えばシャルロットとアルフレートの結婚式に出席して粗相を行ったとしたら――?
あいつは間違いなく公爵家を追われるぞ……。
チャ~~~ンス! 大チャンス到来!
これは僕があのクソッタレな弟から居場所を取り返すチャンスだぞ!
「まぁ、モノ知らずな所もありますが、僕とは合わなくとも勤勉なエルムハルトには合うのかもしれませんね。あいつは、人に教えたりするのが好きみたいですし」
「ふーむ」
僕は敢えてミリムを妻にするというような愚かな選択をするエルムハルトの背中を押してやろうと思った。
だから、父上にはそれもアリなんじゃないか、というニュアンスで話してやる。
感謝しろよ~~、エルムハルト。お前の望み通りにしてやってるんだから。
「ただ、ミリムは今……修道院に送られています。僕としては公爵家の将来を考えるのでしたら、ミリムの姉のシャルロットがアルビニアの王太子殿下と結婚するので、エルムハルトも彼女と共に挨拶に行かせるべきだと思うのですが……」
「うーむ。確かに、あちらには我が家と懇意にしている家も多いしな。出席しないとなると、変な噂も立つ、か」
よっしゃ!
この調子で、ミリムを修道院から呼び戻し、エルムハルトと共にシャルロットの結婚式へ向かわせてやる――。
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