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第三十六話(アンナ視点)
公爵家の使用人として雇われて、もう三年ですか。
両親は公爵家なら将来は安泰。食いっぱぐれないと喜んでいただきましたが、それもどうなることやら。
長男のリーンハルト様はそれほど賢い方ではありませんでした。
言葉の端々に軽率さや、相手を見下すような心根が見え隠れしており、失言することもしばしば。
まぁ、公爵家の嫡男という立場でしたから面と向かって抗議する者もいなかったのですが、それが彼を増長させていました。
ですから、あのシャルロット・アーゼルを婚約者にしたときは少しだけホッとしたのです。
教養豊かで、貴族たちの間でも評価が最も高い令嬢だと噂されている彼女が将来の公爵夫人となるならば、リーンハルト様をサポートして公爵家を守ってくれると思っていましたから。
――あんなに早く婚約破棄するとは思っていませんでしたけどね。
耳を疑いましたよ。リーンハルト様がシャルロット様と婚約破棄したと聞いたときには。
この人、大丈夫?って公爵家の使用人全員がそう思ったでしょう。
その後の彼の転落は酷いものでした。
シャルロット様の妹であるミリム・アーゼル。
この方は平民である私から見ても教養というものが欠落しており、公爵家の未来を一気に不安にさせてくれましたから。
さすがのリーンハルト様も彼女の容姿に気を取られて我を失っていたことを後悔したのか彼女と別れようとしたのですが、やり方がまずかったのかアルフレート殿下の不興を買います。
軽率で失言が多かったそもそもの性格が災いしたのでしょう。
こうして、リーンハルト様は廃嫡して――弟であるエルムハルト様が公爵家の跡取りとなりました。
私は安心していたのですよ。ミリム様のような方が将来の公爵夫人にならないと聞いて。
シャルロット様ほどの方ではないにしても、もう少しまともな方が嫁いで来るものだろうと思っていたのです。
なのに――。
「ミリム・アーゼルは美味しいお芋です(アルビニア語)」
「違います(エゼルスタ語)! 私の名前はミリム・アーゼルです(アルビニア語)」
なんで、彼女は今、ここにいるのでしょう?
そして、あれだけ心を鬼にして、冷酷に躾けてみせると自信満々だったエルムハルト様はミリム様に自己紹介すらまともに教えることが出来ていません。
嫌な予感がしたのですよ。なんせエルムハルト様はミリム様を初めて見たとき、だらしない顔をされていましたから。
よく考えてみれば、この人は女性への耐性は皆無でしたね。兄であるリーンハルト様に遠慮してパーティーなどにもあまり顔を出していませんでしたから。
昔は私にも緊張していましたし……。
さらに物腰の柔らかくて、余裕のある態度から賢そうに見えますが、頭の出来は普通が良いところ。
ですが、長年虐げられてきた結果、策士というものに憧れているのか等身大以上に自分のことを優秀だと思っている節があります。
思春期の少年にはありがちな拗らせを引きずっている感じです。
明日はもうアルフレート殿下とシャルロット様の挙式だというのに、一日かけてミリム様は「美味しいお芋」だと自称することを止められない。
にも関わらず、エルムハルト様は決して怒らずに、半ばやけっぱちなのか未だに方法を変えたりしません。
もう、逃げ出したほうがマシではありませんか? というより、私、逃げ出しても良いですか?
「ええい! 仕方がありません! アンナ! 君がミリムさんとして結婚式に出席するのです!」
「……はぁ?」
なんとエルムハルト様は私をミリム様の替え玉として出席させようとかあり得ないことを仰せになります。
いや、誰もミリム様のことを知らない場所ならいざ知らず、シャルロット様もアーゼル夫妻もアルフレート様も、みんな彼女の顔はご存知ですよね?
エルムハルト様の正気を疑いました――。
両親は公爵家なら将来は安泰。食いっぱぐれないと喜んでいただきましたが、それもどうなることやら。
長男のリーンハルト様はそれほど賢い方ではありませんでした。
言葉の端々に軽率さや、相手を見下すような心根が見え隠れしており、失言することもしばしば。
まぁ、公爵家の嫡男という立場でしたから面と向かって抗議する者もいなかったのですが、それが彼を増長させていました。
ですから、あのシャルロット・アーゼルを婚約者にしたときは少しだけホッとしたのです。
教養豊かで、貴族たちの間でも評価が最も高い令嬢だと噂されている彼女が将来の公爵夫人となるならば、リーンハルト様をサポートして公爵家を守ってくれると思っていましたから。
――あんなに早く婚約破棄するとは思っていませんでしたけどね。
耳を疑いましたよ。リーンハルト様がシャルロット様と婚約破棄したと聞いたときには。
この人、大丈夫?って公爵家の使用人全員がそう思ったでしょう。
その後の彼の転落は酷いものでした。
シャルロット様の妹であるミリム・アーゼル。
この方は平民である私から見ても教養というものが欠落しており、公爵家の未来を一気に不安にさせてくれましたから。
さすがのリーンハルト様も彼女の容姿に気を取られて我を失っていたことを後悔したのか彼女と別れようとしたのですが、やり方がまずかったのかアルフレート殿下の不興を買います。
軽率で失言が多かったそもそもの性格が災いしたのでしょう。
こうして、リーンハルト様は廃嫡して――弟であるエルムハルト様が公爵家の跡取りとなりました。
私は安心していたのですよ。ミリム様のような方が将来の公爵夫人にならないと聞いて。
シャルロット様ほどの方ではないにしても、もう少しまともな方が嫁いで来るものだろうと思っていたのです。
なのに――。
「ミリム・アーゼルは美味しいお芋です(アルビニア語)」
「違います(エゼルスタ語)! 私の名前はミリム・アーゼルです(アルビニア語)」
なんで、彼女は今、ここにいるのでしょう?
そして、あれだけ心を鬼にして、冷酷に躾けてみせると自信満々だったエルムハルト様はミリム様に自己紹介すらまともに教えることが出来ていません。
嫌な予感がしたのですよ。なんせエルムハルト様はミリム様を初めて見たとき、だらしない顔をされていましたから。
よく考えてみれば、この人は女性への耐性は皆無でしたね。兄であるリーンハルト様に遠慮してパーティーなどにもあまり顔を出していませんでしたから。
昔は私にも緊張していましたし……。
さらに物腰の柔らかくて、余裕のある態度から賢そうに見えますが、頭の出来は普通が良いところ。
ですが、長年虐げられてきた結果、策士というものに憧れているのか等身大以上に自分のことを優秀だと思っている節があります。
思春期の少年にはありがちな拗らせを引きずっている感じです。
明日はもうアルフレート殿下とシャルロット様の挙式だというのに、一日かけてミリム様は「美味しいお芋」だと自称することを止められない。
にも関わらず、エルムハルト様は決して怒らずに、半ばやけっぱちなのか未だに方法を変えたりしません。
もう、逃げ出したほうがマシではありませんか? というより、私、逃げ出しても良いですか?
「ええい! 仕方がありません! アンナ! 君がミリムさんとして結婚式に出席するのです!」
「……はぁ?」
なんとエルムハルト様は私をミリム様の替え玉として出席させようとかあり得ないことを仰せになります。
いや、誰もミリム様のことを知らない場所ならいざ知らず、シャルロット様もアーゼル夫妻もアルフレート様も、みんな彼女の顔はご存知ですよね?
エルムハルト様の正気を疑いました――。
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