【完結】元婚約者は可愛いだけの妹に、もう飽きたらしい

冬月光輝

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第四十四話

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 既に会場には両親やミリム、そして彼女の婚約者であるエルムハルト様など、結婚式の出席者たちは皆、私たちの入場を待っているみたいです。
 
 この式が終わったら私は完全にアルビニアの人間になる――それでも、もう一度、家族で話し合って、特に私とミリムの関係を――。

 そう思っていた矢先に事件は起きました。
  

「あ、アルフレート殿下、そしてシャルロット様……! 誠に申し上げにくいのですが、今日の式典は中止です!」

「「――っ!?」」

 慌てた顔をした憲兵隊長が私たちに結婚式の中止を伝えます。
 な、何が起きたのでしょう? 咄嗟に浮かんだのは、妹の顔でしたが私は声を発することが出来ませんでした。
 
「憲兵隊長、何があったんだ? まだ始まってもいない式が中止とは余程のことがあったと思われるが……」

 アルフレート殿下は冷静に淡々とした口調で事実確認をしました。
 確かに出席者が暴れた程度でしたら、式まで中止になるとは考えられません。
 その方が追い出されて、式は開始されて然るべきだと思います。
 
 ということは、何かトラブルが……。


「土足で会場に入った侍女がおりまして。至急取り押さえたのですが、既に会場は不浄の状態となりましたので、聖域として清めるには少なくとも数ヶ月はかかるかと」

「なんと、土足で大聖堂に足を踏み入れた者が居たのか」

「は、はい。恐らく、エゼルスタの公爵家の関係者かと。取り押さえるときにエルムハルト殿の名前を呼んでいたので」

 信じられないという表情をして、アルフレート殿下は会場に土足で足を踏み入れた人間がいたという報告を聞いていました。
 そう、アルビニア王族の者が婚姻の儀式を行う大聖堂は聖域と呼ばれており、何人たりとも土足で入ることを禁じられております。
 神への冒涜――大聖堂に土足で入ったとなると、聖域は不浄の気で冒され、神官たちが清め直さなくては式典に利用することが出来なくなるでしょう……。

 それにしても、公爵家の関係者という侍女はそんなことも知らなかったのでしょうか?
 公爵家の使用人は皆さん、教養豊かで優秀な方ばかりだと聞いていましたが。

 以前、リーンハルト様に付いていたアンナさんなどは王立学園を次席で卒業されていると聞いていましたし……。アルビニアの常識を知らぬはずがありません。

「その捕まえた侍女とやら……、それにエルムハルトくんは、どうしてる? あとミリム・アーゼルは」

「はっ! 侍女は取り押さえるときに、転倒して頭を柱に強く打ちつけた様子でして、気絶しております。エルムハルト殿とミリム殿は事情聴取をしているのですが、何も話さず……、という状況でして」

「なるほど。とにかく、起きたことをとやかく言っても仕方ない。シャルロットと僕はミリム・アーゼルに話をしてみるよ」

 静かに私の肩を抱きながら、安心させるようにゆっくりとした口調で、ミリムの様子を見に行こうと口にされるアルフレート殿下。
 私が先ほど彼女のことを気にしていたことを汲んで頂いているみたいです。

 こんなときにも、私のことを考えて下さっている――殿下の優しさに感謝しながら私は頷きました。

「殿下、お気遣いありがとうございます」

「延期は残念だけど、せっかくなら君が妹との関係を見直してからスッキリした状態で仕切り直したい、しね。大丈夫だよ、何があっても君だけは悲しませたりしないから。憲兵隊長、案内してくれ」

 私の手を取って、ミリムの元へと案内をさせるアルフレート殿下。
 ミリムと何を話しましょう。少しでも歩み寄ることが出来れば良いのですが――。




「シャルロット様、申し訳ありません。全ては公爵家が見栄を張ろうとしたことが原因です。……責任を取る覚悟は出来ております」

「あ、あなたは、アンナさん……?」

 私とアルフレート殿下がミリムとの面会をしようと彼女の元に行くと……、ゆっくりと仮面を取る黒髪の女性――なんと式典に出席していたのはミリムではなく、公爵家の侍女、アンナさんでした――。
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