49 / 53
第四十九話
しおりを挟む
私はアルビニア国王の従兄弟にあたる、イーベルト公爵の養子となり、ミリムの身元を引き受けてくれる方はまだ見つかっていませんが、アーゼル家からは正式に縁を切るという手続きはもう済んでいます。
つまり、アルビニアに取り残された父と母は完全に孤立無援。
エゼルスタ王国がどんな処分を下すのか待っている状態になっています。
ミリムについては、どうするのか意見が分かれていまして、記憶があろうが無かろうが処分すべきだという人もいれば、罪を認識していない者は裁けないという人もいます。
「もちろん、僕も不快な気持ちにさせられた。だが、今の彼女はチャンスを与えられている状態だと認識している。然るべき教育を受けた後に記憶が戻れば、彼女は自分の罪の重さを知ることができ、人として裁かれるだろう」
アルフレート殿下はミリムが教育を受ければ、罪について知ることが出来るとして処分を保留にしました。
そうですね。この子が知識を得て、マナーを知り、自分で物事をきちんと考えられるようになれば――。
「シャルロットお義姉様、また考え事? 分かってるわよ。妹さんのことでしょ?」
「え、ええ。すみません、アイリーン殿下。演奏が乱れていましたでしょうか?」
アルフレート殿下の妹君である、アイリーン殿下にピアノを教えていたのですが、どうやら上の空になっていたみたいです。
いけませんね。ちゃんと集中しなくては……。
「いや、演奏はむしろ完璧なんだけどさ。お義姉様の口がずっと開いていたから。ほら、今も……」
「はっ……、失礼しました。この部分なんですけど、変調が5回ほど連続して、最終的に――」
ポカンと口を開けたまま演奏していたことを指摘された私は恥ずかしさを誤魔化すように解説を始めます。
200年前の有名作曲家、ポルメニウスのピアノ協奏曲第7666番は名曲だと今もなおエゼルスタ王国で語り継がれており、私も5歳の頃から数え切れないほど演奏した曲です。
「教え方も上手いなんて、本当に尊敬するよ。まさか、一日で弾けるようになるとは思わなかったもの」
「アイリーン殿下が熱心に聞いてくださっただけですよ。今度の誕生日パーティーでの披露が楽しみです」
実は来月にアイリーン殿下の誕生パーティーがありまして、彼女は自らがエゼルスタ王国の曲を演奏することで、結婚式の一件でエゼルスタ王国自体との友好は崩れていないことをアピールしたいと言われたのです。
私は彼女のその気持ちを嬉しく感じました。
「うん、期待してて。お義姉様は弦楽器を一通りと、絵画の発表、それから昨日見せてくれた木彫りの熊もお披露目するんだっけ。色々やってるけど、寝ている暇あるの?」
アイリーン殿下は私が色々としていることを心配していますが、逆なのです。
常に何かをしていないと不安で、余計なことを考えてしまうので、何かしらやっているだけでした。
ミリムやアイリーン殿下に家庭教師まがいのことをしているのも、没頭したいという気持ちが大きいです。
「睡眠は取れていますよ。それは、もう。ぐっすりと」
「なら良いんだけど。心配しなくていいよ。私も兄さんも、ついでにアウレールのバカも、お義姉様を蔑ろにしないし。きっと上手いこと収まるから」
「お気遣い頂いて、ありがとうございます」
優しく声をかけてくれるアイリーン殿下に感謝しながら、私は彼女の部屋をあとにしました。
全部上手く収まる。それがどういう結末を意味しているのか分かりませんが、全て受け入れなくてはなりませんね。
「お姉様! 今日はアルビニア語の本を一人で読んでみました。辞書の使い方も覚えたから」
「ミリム、凄いじゃないですか。よく出来ましたね」
得意顔をして、本が読めたと喜ぶ妹。
欲しかった日常は手に入りました。でも、これはまだ偽物なのです――。
つまり、アルビニアに取り残された父と母は完全に孤立無援。
エゼルスタ王国がどんな処分を下すのか待っている状態になっています。
ミリムについては、どうするのか意見が分かれていまして、記憶があろうが無かろうが処分すべきだという人もいれば、罪を認識していない者は裁けないという人もいます。
「もちろん、僕も不快な気持ちにさせられた。だが、今の彼女はチャンスを与えられている状態だと認識している。然るべき教育を受けた後に記憶が戻れば、彼女は自分の罪の重さを知ることができ、人として裁かれるだろう」
アルフレート殿下はミリムが教育を受ければ、罪について知ることが出来るとして処分を保留にしました。
そうですね。この子が知識を得て、マナーを知り、自分で物事をきちんと考えられるようになれば――。
「シャルロットお義姉様、また考え事? 分かってるわよ。妹さんのことでしょ?」
「え、ええ。すみません、アイリーン殿下。演奏が乱れていましたでしょうか?」
アルフレート殿下の妹君である、アイリーン殿下にピアノを教えていたのですが、どうやら上の空になっていたみたいです。
いけませんね。ちゃんと集中しなくては……。
「いや、演奏はむしろ完璧なんだけどさ。お義姉様の口がずっと開いていたから。ほら、今も……」
「はっ……、失礼しました。この部分なんですけど、変調が5回ほど連続して、最終的に――」
ポカンと口を開けたまま演奏していたことを指摘された私は恥ずかしさを誤魔化すように解説を始めます。
200年前の有名作曲家、ポルメニウスのピアノ協奏曲第7666番は名曲だと今もなおエゼルスタ王国で語り継がれており、私も5歳の頃から数え切れないほど演奏した曲です。
「教え方も上手いなんて、本当に尊敬するよ。まさか、一日で弾けるようになるとは思わなかったもの」
「アイリーン殿下が熱心に聞いてくださっただけですよ。今度の誕生日パーティーでの披露が楽しみです」
実は来月にアイリーン殿下の誕生パーティーがありまして、彼女は自らがエゼルスタ王国の曲を演奏することで、結婚式の一件でエゼルスタ王国自体との友好は崩れていないことをアピールしたいと言われたのです。
私は彼女のその気持ちを嬉しく感じました。
「うん、期待してて。お義姉様は弦楽器を一通りと、絵画の発表、それから昨日見せてくれた木彫りの熊もお披露目するんだっけ。色々やってるけど、寝ている暇あるの?」
アイリーン殿下は私が色々としていることを心配していますが、逆なのです。
常に何かをしていないと不安で、余計なことを考えてしまうので、何かしらやっているだけでした。
ミリムやアイリーン殿下に家庭教師まがいのことをしているのも、没頭したいという気持ちが大きいです。
「睡眠は取れていますよ。それは、もう。ぐっすりと」
「なら良いんだけど。心配しなくていいよ。私も兄さんも、ついでにアウレールのバカも、お義姉様を蔑ろにしないし。きっと上手いこと収まるから」
「お気遣い頂いて、ありがとうございます」
優しく声をかけてくれるアイリーン殿下に感謝しながら、私は彼女の部屋をあとにしました。
全部上手く収まる。それがどういう結末を意味しているのか分かりませんが、全て受け入れなくてはなりませんね。
「お姉様! 今日はアルビニア語の本を一人で読んでみました。辞書の使い方も覚えたから」
「ミリム、凄いじゃないですか。よく出来ましたね」
得意顔をして、本が読めたと喜ぶ妹。
欲しかった日常は手に入りました。でも、これはまだ偽物なのです――。
111
あなたにおすすめの小説
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる