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第四十八話
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「この最初の発音が大事です。唇を突き出して、舌を軽く噛むイメージで。でないと“美味しい芋”を意味する言葉になってしまいますから。エゼルスタ語にはない発音なので難しいかと、思いますけど」
「わたくしの名前はミリム・アーゼルです(アルビニア語)!」
ミリムが記憶を失って、すでに一ヶ月が経過しました。
あれから、アルビニア王国はエゼルスタのアーゼル家とウィルダン家への制裁準備を進めています。
本当はすぐにでも責任を追及したいところなのでしょうが、ジークフリート殿下が間に入ることで、国際問題が深刻化することを何とか防いでいるみたいです。
エルムハルト様は未だにこの国で拘束されており、全部アンナさんの責任だという主張を繰り返しています。
当のアンナさん本人は持ち前の優秀さを発揮してドンドン仕事を覚え、アルビニア外交のトップにも気に入られ、近いうちに実家をこちらの国に亡命させる準備を整えるみたいです。
その間、私はミリムに付きっきりでした。
失った時間を取り戻すために彼女と出来るだけ多くの会話をしようと思ったからです。
記憶を失った彼女はどんなことにも興味を示し、嘘みたいに勉強熱心になりました。
私がエゼルスタから持ってきた本を暇なときには読み漁り、こちらの本も読みたいからアルビニア語を覚えようとしたり、その上で算術を覚えたいと言ったり……。
人が変わりすぎて怖いくらいでしたが、私は彼女の要求に可能な限り応えました。
たったひと月の勉強でミリムは一般的な教養は大体覚えてしまい、アルビニア語の基礎も覚えつつあります。
もしかしたら、両親が普通に教育をしていたら、全然違った運命だったかもしれませんね……。
しかし、ミリムは禁忌を破ってしまっています。
その責任を取らなくてはならない日が必ず来るのです。
そのとき、彼女が自分の犯した罪について理解が出来るようになっているということは、より残酷な結果にならないか、と不安を感じるようになりました。
「お姉様、シャルロットお姉様……!」
「――っ!? は、はい。どうしました?」
「この、変わった形のマークは何ですの?」
「ああ、これはですね。一瞬息を止める記号です。アルビニア語は息を止めるタイミングで意味合いが変わる単語も多いですから。例えば、“◆◇★◇#”は最初の“◆”で息を止めると“綺麗な花”という意味になりますが、“★”で息を止めると“足の裏”という意味になってしまいます」
つい、ボーッとしてミリムが私に質問している事に気が付きませんでしたね。
アルビニア語は息を止めるタイミングで意味が違う単語が多いので、文章にする際にはきちんと記号を振って置かないと意味が通じないときが多々あります。
しかし、ミリムが自分からこういったところに目をつけて質問するようになりましたか……。
「シャルロットお姉様は何でもご存知ですのね。わたくし、自分のことは全然覚えていませんが、きっとお姉様の自慢ばかりしていたのでしょう」
「…………」
――可愛いですね。
リーンハルト様も、エルムハルト様も、この子に夢中になった理由がよく分かります。
誰もが振り返ってしまうような可憐な容姿も相まって、素直に私が教えたことを吸収していく彼女がいつの間にか愛おしく感じてしまっていました。
何も知らなかったから、何もかもが退屈に感じるようになり、本能のままに生きるようになってしまった。
そして、何もかも許されてきたから、我儘を我慢出来なくなったのでしょう。
「では、次に算術の授業に移りましょう。このエーゼストロンの定理はエゼルスタ歴722年に発見された定理で、円を小さな宇宙として考えたときに――」
何故、このような時をもっと早く過ごせなかったのか、後悔はしています。
ですが、今はこの時を大事にして、彼女に教えられるだけ、色々なことを教えましょう――。
「わたくしの名前はミリム・アーゼルです(アルビニア語)!」
ミリムが記憶を失って、すでに一ヶ月が経過しました。
あれから、アルビニア王国はエゼルスタのアーゼル家とウィルダン家への制裁準備を進めています。
本当はすぐにでも責任を追及したいところなのでしょうが、ジークフリート殿下が間に入ることで、国際問題が深刻化することを何とか防いでいるみたいです。
エルムハルト様は未だにこの国で拘束されており、全部アンナさんの責任だという主張を繰り返しています。
当のアンナさん本人は持ち前の優秀さを発揮してドンドン仕事を覚え、アルビニア外交のトップにも気に入られ、近いうちに実家をこちらの国に亡命させる準備を整えるみたいです。
その間、私はミリムに付きっきりでした。
失った時間を取り戻すために彼女と出来るだけ多くの会話をしようと思ったからです。
記憶を失った彼女はどんなことにも興味を示し、嘘みたいに勉強熱心になりました。
私がエゼルスタから持ってきた本を暇なときには読み漁り、こちらの本も読みたいからアルビニア語を覚えようとしたり、その上で算術を覚えたいと言ったり……。
人が変わりすぎて怖いくらいでしたが、私は彼女の要求に可能な限り応えました。
たったひと月の勉強でミリムは一般的な教養は大体覚えてしまい、アルビニア語の基礎も覚えつつあります。
もしかしたら、両親が普通に教育をしていたら、全然違った運命だったかもしれませんね……。
しかし、ミリムは禁忌を破ってしまっています。
その責任を取らなくてはならない日が必ず来るのです。
そのとき、彼女が自分の犯した罪について理解が出来るようになっているということは、より残酷な結果にならないか、と不安を感じるようになりました。
「お姉様、シャルロットお姉様……!」
「――っ!? は、はい。どうしました?」
「この、変わった形のマークは何ですの?」
「ああ、これはですね。一瞬息を止める記号です。アルビニア語は息を止めるタイミングで意味合いが変わる単語も多いですから。例えば、“◆◇★◇#”は最初の“◆”で息を止めると“綺麗な花”という意味になりますが、“★”で息を止めると“足の裏”という意味になってしまいます」
つい、ボーッとしてミリムが私に質問している事に気が付きませんでしたね。
アルビニア語は息を止めるタイミングで意味が違う単語が多いので、文章にする際にはきちんと記号を振って置かないと意味が通じないときが多々あります。
しかし、ミリムが自分からこういったところに目をつけて質問するようになりましたか……。
「シャルロットお姉様は何でもご存知ですのね。わたくし、自分のことは全然覚えていませんが、きっとお姉様の自慢ばかりしていたのでしょう」
「…………」
――可愛いですね。
リーンハルト様も、エルムハルト様も、この子に夢中になった理由がよく分かります。
誰もが振り返ってしまうような可憐な容姿も相まって、素直に私が教えたことを吸収していく彼女がいつの間にか愛おしく感じてしまっていました。
何も知らなかったから、何もかもが退屈に感じるようになり、本能のままに生きるようになってしまった。
そして、何もかも許されてきたから、我儘を我慢出来なくなったのでしょう。
「では、次に算術の授業に移りましょう。このエーゼストロンの定理はエゼルスタ歴722年に発見された定理で、円を小さな宇宙として考えたときに――」
何故、このような時をもっと早く過ごせなかったのか、後悔はしています。
ですが、今はこの時を大事にして、彼女に教えられるだけ、色々なことを教えましょう――。
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