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第一話
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「メリルリア。君の功績は素晴らしいものがある。だが、それだけではダメなんだ。なんというか、君からは俺に対する愛情を感じない」
婚約をして半年。私は婚約者であるベルダンデ公爵の邸宅に呼ばれる。
アレンデール・ベルダンデ――先代の公爵が亡くなりその爵位を引き継いだ若き公爵。
その中性的な美しさも相まって、社交界での人気は一際高かった。
父の尽力もあってそんな彼との縁談がまとまったとき、正直に言って現実だとは思えなかったのだが……。
(嫌な予感ばかり当たるのよね)
私は十五歳のときに神託を受けて聖女になった。
それからというもの、神通力のような能力が身について勘が異様に鋭くなったのだ。
アレンデール様と婚約をしたとき、私は漠然と胸がざわつく思いがした……。
「私はアレンデール様をお慕いしております。至らぬ点があるのなら謝罪いたしますが、まずはその印象は誤解だとお伝えいたします」
私はアレンデール様の主張を誤解だと断じた。
その外見もさながら、公爵の地位を継いでから領地改革によって見せた敏腕。
私は彼を敬愛していたし、婚約者として彼に尽くそうと心から誓っていた。
「そうかな? 君は父親であるフランツ伯爵の顔を立てるために俺を愛そうと無理をしているんじゃないか? 聖女だと聞いて俺は愛情深い人間だと思っていたが……どうやらそれは幻想だったらしい」
――愛情深い人間?
それってどんな人間のことをいうのかしら?
真剣な眼差しを送られながら、私の頭には具体的な人間像が思い浮かばずに困惑してしまう。
もちろん父の顔を潰さないようにとは注意していたが、アレンデール様のことが好きなのは確かだし、それで愛を疑われるのは心外だ。
「仰ることはわかりました。しかしどうしても納得できません。私はアレンデール様を愛しておりますから」
なんとなく無駄な気がしたが、私は素直な気持ちを口にした。
私としては愛を疑われてこの縁談が終わるのは心外だったし、何よりアレンデール様には信じてほしい。
「ならば試してみようじゃないか。君が俺のことを本当に愛しているのかどうか」
アレンデール様はそういうと、使用人に命じてあるものを持ってこさせた。
「これは?」
「『真実の鏡』だよ。これを覗くことで、本当の気持ちを見ることができるんだ」
そう言うと彼は手に持った小ぶりの丸い鏡を差し出した。
そこには曇り一つない銀色に輝く鏡面があり、その中に映る自分を見つめていると……。
「えっ!?」
思わず声を上げてしまった。
なぜならそこに映った自分は幼い子供の頃の姿だったからだ。
「ふむ……やはりな」
「これがどうかしたのですか?」
「君の本音は子供時代の姿なのだよ。つまり君の精神状態はまだ幼く、人を愛することを知らないのだ」
アレンデール様の言葉を聞いて、私は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
婚約をして半年。私は婚約者であるベルダンデ公爵の邸宅に呼ばれる。
アレンデール・ベルダンデ――先代の公爵が亡くなりその爵位を引き継いだ若き公爵。
その中性的な美しさも相まって、社交界での人気は一際高かった。
父の尽力もあってそんな彼との縁談がまとまったとき、正直に言って現実だとは思えなかったのだが……。
(嫌な予感ばかり当たるのよね)
私は十五歳のときに神託を受けて聖女になった。
それからというもの、神通力のような能力が身について勘が異様に鋭くなったのだ。
アレンデール様と婚約をしたとき、私は漠然と胸がざわつく思いがした……。
「私はアレンデール様をお慕いしております。至らぬ点があるのなら謝罪いたしますが、まずはその印象は誤解だとお伝えいたします」
私はアレンデール様の主張を誤解だと断じた。
その外見もさながら、公爵の地位を継いでから領地改革によって見せた敏腕。
私は彼を敬愛していたし、婚約者として彼に尽くそうと心から誓っていた。
「そうかな? 君は父親であるフランツ伯爵の顔を立てるために俺を愛そうと無理をしているんじゃないか? 聖女だと聞いて俺は愛情深い人間だと思っていたが……どうやらそれは幻想だったらしい」
――愛情深い人間?
それってどんな人間のことをいうのかしら?
真剣な眼差しを送られながら、私の頭には具体的な人間像が思い浮かばずに困惑してしまう。
もちろん父の顔を潰さないようにとは注意していたが、アレンデール様のことが好きなのは確かだし、それで愛を疑われるのは心外だ。
「仰ることはわかりました。しかしどうしても納得できません。私はアレンデール様を愛しておりますから」
なんとなく無駄な気がしたが、私は素直な気持ちを口にした。
私としては愛を疑われてこの縁談が終わるのは心外だったし、何よりアレンデール様には信じてほしい。
「ならば試してみようじゃないか。君が俺のことを本当に愛しているのかどうか」
アレンデール様はそういうと、使用人に命じてあるものを持ってこさせた。
「これは?」
「『真実の鏡』だよ。これを覗くことで、本当の気持ちを見ることができるんだ」
そう言うと彼は手に持った小ぶりの丸い鏡を差し出した。
そこには曇り一つない銀色に輝く鏡面があり、その中に映る自分を見つめていると……。
「えっ!?」
思わず声を上げてしまった。
なぜならそこに映った自分は幼い子供の頃の姿だったからだ。
「ふむ……やはりな」
「これがどうかしたのですか?」
「君の本音は子供時代の姿なのだよ。つまり君の精神状態はまだ幼く、人を愛することを知らないのだ」
アレンデール様の言葉を聞いて、私は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
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