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第四話(アレンデール視点)
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◇(アレンデール視点)
「メリルリア。君の功績は素晴らしいものがある。だが、それだけではダメなんだ。なんというか、君からは俺に対する愛情を感じない」
婚約をして半年。俺は婚約者であるメリルリアを呼び出した。
メリルリア・エーデルワイス。エーデルワイス伯爵家の一人娘にして、神託を受けた聖女。
その美しい銀髪、まるで雪のように白い肌、そして誰よりも可憐な笑顔。
俺は彼女に一目惚れしてしまった。
彼女のためならなんだってする。彼女が幸せになるのなら俺は命だって捧げられる。
はっきり言って俺は彼女に夢中だった。
俺はなんとかエーデルワイス伯爵に頼み込み、彼女を婚約者にすることに成功する。
嬉しかった。大好きな彼女が俺の妻になるのだ。人生においてこんなに嬉しいことはない。
だが、俺は彼女に一つだけ嘘をついた。
それは伯爵家のほうから縁談を持ちかけたという嘘だ。
公爵家の家訓として目下のものに求婚することが禁じられているからだ。
本来なら俺のメリルリアに結婚を申し込む行為は家の主義に反すること。
だから俺は厚かましいと思いつつ伯爵殿に頭を下げてあちらから縁談を持ちかけたという話にしてもらったのである。
(伯爵には申し訳ないことをした)
やっとのことで婚約者になってもらったメリルリア。
なのに俺は彼女に婚約破棄を突きつけている。
(まさか前世の記憶を思い出すなんてな。漫画か小説の世界だけだと思っていたよ)
この世界が未完のライトノベル「銀翼の聖女と金色の神剣」の世界だと知ったのはつい三日前のことだ。
激しい頭痛とともに目覚めた俺は前世、日本という国の大学生だったことを思い出す。
あまりにもベタベタにトラックに轢かれそうな猫を助けようとして俺は死んでしまった。
そのとき友人に借りていた「銀翼の聖女と金色の神剣」の入った鞄の中に入っていた。
それがこの世界に転生した理由なのかはわからないが、とにかくそのときの記憶が戻った俺はそのラノベの登場人物であることを思い出したのである。
小説の中でのベルダンデ公爵とその妻である聖女メリルリアは、この国に生まれた二人目の聖女である小説の主人公ロザリアを暖かく見守るポジション。
メリルリアは先輩の聖女として、癒やしの魔法の使い方などを教えており、主人公とは師匠のような間柄だった。
そしてここからが問題の場面だ。
この国の国王が病んでしまって、疑心暗鬼に囚われてしまう。
さらに聖女であるメリルリアを公爵である俺が妻としたのは王家に歯向かうために信仰の力を利用しようとしたという疑いをかけられてしまうのだ。
最終的に俺とメリルリアは反逆者の汚名を着せられて、処刑されるという悲劇的な結末を迎えることとなる。
小説の1巻は主人公のロザリアが恩人を失った悲しみから『銀翼』という神の力を覚醒させて、空へと飛び立つシーンで締められた。
モヤモヤして1巻が終わった上に2巻が出る前に俺は死んだ。
とにかくわかったのはメリルリアと結婚すると国王の不興を買い彼女が死ぬってことだ。
それはいけない。誰よりも美しく、そして慈愛に満ちた優しい彼女を死なせるわけにはいかない。
(婚約破棄するしかない。多少無理やりにでも別れなくては)
俺は彼女に恨まれてでも別れる決意をした。
彼女から嫌われるのは死ぬほど辛い。
でも俺のせいで大好きなメリルリアが死んでしまうのは死ぬよりも辛い。
(どっちを取るか。是非もない)
俺はメリルリアと別れる覚悟をした。
彼女はきっと食い下がるだろう。
だから俺は魔道具屋に頼んで鏡を作らせた。
公爵家に伝わる逸話、すべてを暴くという神具――『真実の鏡』。
それをヒントに俺は子供の頃の姿が見えるという偽物の『真実の鏡』を作らせることを思いついたのである。
「君の本音は子供時代の姿なのだよ。つまり君の精神状態はまだ幼く、人を愛することを知らないのだ」
もっともらしく魔道具を使ってめちゃめちゃ理由で別れようとする俺。
――死ぬほど心が痛い。
愛するメリルリアをこんなに悲しませるなんて、俺はそれだけで万死に値するだろう。
「ダメだね。俺は自分を心の底から愛してくれる人と結婚をする。君は俺に相応しくない。婚約破棄させてもらうとする。まったく聖女様としての実績は大したものだと思っていたが、こんな薄情だったとは……騙された気分だよ」
「そんな……私は本当にアレンデール様のことを――」
「もういい。これ以上聞きたくない。出て行ってくれないか? 君と話していると気分が悪くなる」
そして俺は理不尽に、そして強引にメリルリアとの婚約を破棄した。
彼女は涙を見せる。俺は涙を見せるわけにはいかない。
さよならメリルリア。どうか幸せになってくれ。
俺には祈ることしかできない……。
胸が締め付けられて、今にも呼び止めて彼女を抱きしめ弁解したいという衝動に駆られる。
(安易な気持ちに絆されるな!)
俺は拳を握りしめて、彼女の背中を見送る。
俺の手のひらは真っ赤な鮮血に染まっていた――。
「メリルリア。君の功績は素晴らしいものがある。だが、それだけではダメなんだ。なんというか、君からは俺に対する愛情を感じない」
婚約をして半年。俺は婚約者であるメリルリアを呼び出した。
メリルリア・エーデルワイス。エーデルワイス伯爵家の一人娘にして、神託を受けた聖女。
その美しい銀髪、まるで雪のように白い肌、そして誰よりも可憐な笑顔。
俺は彼女に一目惚れしてしまった。
彼女のためならなんだってする。彼女が幸せになるのなら俺は命だって捧げられる。
はっきり言って俺は彼女に夢中だった。
俺はなんとかエーデルワイス伯爵に頼み込み、彼女を婚約者にすることに成功する。
嬉しかった。大好きな彼女が俺の妻になるのだ。人生においてこんなに嬉しいことはない。
だが、俺は彼女に一つだけ嘘をついた。
それは伯爵家のほうから縁談を持ちかけたという嘘だ。
公爵家の家訓として目下のものに求婚することが禁じられているからだ。
本来なら俺のメリルリアに結婚を申し込む行為は家の主義に反すること。
だから俺は厚かましいと思いつつ伯爵殿に頭を下げてあちらから縁談を持ちかけたという話にしてもらったのである。
(伯爵には申し訳ないことをした)
やっとのことで婚約者になってもらったメリルリア。
なのに俺は彼女に婚約破棄を突きつけている。
(まさか前世の記憶を思い出すなんてな。漫画か小説の世界だけだと思っていたよ)
この世界が未完のライトノベル「銀翼の聖女と金色の神剣」の世界だと知ったのはつい三日前のことだ。
激しい頭痛とともに目覚めた俺は前世、日本という国の大学生だったことを思い出す。
あまりにもベタベタにトラックに轢かれそうな猫を助けようとして俺は死んでしまった。
そのとき友人に借りていた「銀翼の聖女と金色の神剣」の入った鞄の中に入っていた。
それがこの世界に転生した理由なのかはわからないが、とにかくそのときの記憶が戻った俺はそのラノベの登場人物であることを思い出したのである。
小説の中でのベルダンデ公爵とその妻である聖女メリルリアは、この国に生まれた二人目の聖女である小説の主人公ロザリアを暖かく見守るポジション。
メリルリアは先輩の聖女として、癒やしの魔法の使い方などを教えており、主人公とは師匠のような間柄だった。
そしてここからが問題の場面だ。
この国の国王が病んでしまって、疑心暗鬼に囚われてしまう。
さらに聖女であるメリルリアを公爵である俺が妻としたのは王家に歯向かうために信仰の力を利用しようとしたという疑いをかけられてしまうのだ。
最終的に俺とメリルリアは反逆者の汚名を着せられて、処刑されるという悲劇的な結末を迎えることとなる。
小説の1巻は主人公のロザリアが恩人を失った悲しみから『銀翼』という神の力を覚醒させて、空へと飛び立つシーンで締められた。
モヤモヤして1巻が終わった上に2巻が出る前に俺は死んだ。
とにかくわかったのはメリルリアと結婚すると国王の不興を買い彼女が死ぬってことだ。
それはいけない。誰よりも美しく、そして慈愛に満ちた優しい彼女を死なせるわけにはいかない。
(婚約破棄するしかない。多少無理やりにでも別れなくては)
俺は彼女に恨まれてでも別れる決意をした。
彼女から嫌われるのは死ぬほど辛い。
でも俺のせいで大好きなメリルリアが死んでしまうのは死ぬよりも辛い。
(どっちを取るか。是非もない)
俺はメリルリアと別れる覚悟をした。
彼女はきっと食い下がるだろう。
だから俺は魔道具屋に頼んで鏡を作らせた。
公爵家に伝わる逸話、すべてを暴くという神具――『真実の鏡』。
それをヒントに俺は子供の頃の姿が見えるという偽物の『真実の鏡』を作らせることを思いついたのである。
「君の本音は子供時代の姿なのだよ。つまり君の精神状態はまだ幼く、人を愛することを知らないのだ」
もっともらしく魔道具を使ってめちゃめちゃ理由で別れようとする俺。
――死ぬほど心が痛い。
愛するメリルリアをこんなに悲しませるなんて、俺はそれだけで万死に値するだろう。
「ダメだね。俺は自分を心の底から愛してくれる人と結婚をする。君は俺に相応しくない。婚約破棄させてもらうとする。まったく聖女様としての実績は大したものだと思っていたが、こんな薄情だったとは……騙された気分だよ」
「そんな……私は本当にアレンデール様のことを――」
「もういい。これ以上聞きたくない。出て行ってくれないか? 君と話していると気分が悪くなる」
そして俺は理不尽に、そして強引にメリルリアとの婚約を破棄した。
彼女は涙を見せる。俺は涙を見せるわけにはいかない。
さよならメリルリア。どうか幸せになってくれ。
俺には祈ることしかできない……。
胸が締め付けられて、今にも呼び止めて彼女を抱きしめ弁解したいという衝動に駆られる。
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俺は拳を握りしめて、彼女の背中を見送る。
俺の手のひらは真っ赤な鮮血に染まっていた――。
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