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歪んだ愛情
しおりを挟む妹は少年を窯の前に放置したまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。彼女の目に後悔の色は見えなかった。ただ、目の前の窯の中で苦しむ少年を見つめ、心の中で何度も繰り返していた。「これが、試練だ」と彼女は心の中でつぶやいた。
少年を試すこと、そして彼が神様の子としての力を持っているかどうかを知ることが、彼女にとってずっと重要だった。母親の言葉が頭に浮かぶ。「少年は『神様の子』だから、神聖であり、守らなければならない存在だ」と母は言っていた。しかし、その信念が徐々に変わり、少年を試すことで彼を自分たちのものにしたいという欲望が芽生えたのを、妹は感じていた。
それでも彼女の中には少年を守りたいという気持ちも残っていた。母の言葉を守り、少年が本当に神様の子であるかを確かめたかったのだ。そして、その力を手に入れたかった。しかし、今、窯の中で無力に苦しむ少年を見て、妹はただの無力感を感じていた。
「でも、助けなきゃ」と妹は自分に言い聞かせた。少年は「神様の子」だ。彼はその力を持っているに違いない。試練を与えたのは、彼をもっと深く知るためだった。そして、もし本当にその力を持っていなければ、彼はもう私たちのものにはならないだろう。
「お兄ちゃん、早く」と妹は振り返り、兄に声をかけた。
兄は無言で立ち尽くしていた。妹が少年を窯に閉じ込めたとき、兄もその行動に対して何の反対もしなかった。むしろ、妹の考えに同意していた。そして、少年を完全に支配するために試練を与えるべきだと考えていた。だが、今その状況がどうしようもなく苦しいものに感じられるのも事実だった。
「彼を助けるのか?」兄が静かに尋ねた。
妹は一瞬躊躇した。少年を助けるということは、彼を完全に自分たちのものにする準備が整っていないことを意味していた。それでも、少年はまだ「神様の子」であり、彼に愛情を抱いていたから助けたかった。
「うん、助ける」と妹は決意を固めて言った。「でも、試練の結果がどうであれ、私たちのものにしないと」
兄は無言で頷き、二人で窯を開け、少年を取り出した。彼はもう動かない。ただ静かに息をしているだけだった。顔に広がった火傷の痛々しさに、妹の心が痛んだ。
妹は少年の手を触れながら、思わずつぶやいた。
兄はその様子をじっと見ていたが、何も言わなかった。彼もまた、少年を自分たちのものにしたいという欲望を強く感じていた。だが、今その少年を見て、彼を助けることが何か大きな意味を持つと感じていた。それは単なる試練ではなく、何か新しい関係を築くための一歩だと思ったからだ。
妹と兄は、少年を家の中に運び、丁寧に手当てを始めた。少年の傷を洗い流し、火傷を冷やし、できるだけ早く治療するために力を尽くす。その間、二人は何も言わなかった。口に出すことはできなかったが、心の中では同じことを考えていた。
少年を「神様の子」として手に入れるために、助ける。そして、もう一度、試練を与える。これが彼にとって最良の道だと信じて。
───────
少年の体はまだ熱で包まれ、目の前の暗闇の中で彼は何かを感じ取っていた。何かが迫ってくる感覚、そしてそれを振り払おうとする自分の力が尽きていく。夢の中でも、少年はその熱さと痛みを感じていた。
「熱い…熱い…」少年はうわ言のように呟いた。夢の中で、彼は自分の体が焼けるような感覚に包まれて、ただ叫びたくても声が出なかった。
夢の中で、彼の体は重く、動かすことすらできない。目を開けたくても、目の前にはただ炎が見えるだけで、どんどん近づいてくるその熱が、少年を押しつぶしていく。
「どうして…」
少年は必死でその言葉を呟くが、体は動かず、ただ熱が広がるばかりだった。全身が焦げるような感覚に包まれて、息が苦しくなる。もう何も分からない。目を閉じると、またその熱に包まれるだけだ。
少年はゆっくりと目を開けた。頭がぼんやりとしていて、体の中で痛みが残っている。まぶたを開けると、見慣れた天井が見える。それはあの小屋の天井、しかし、どこか違和感があった。体を動かすと、痛みが走り、少年は身をよじるように体を縮めた。
「ゆーちゃん…?」
突然、少年は周囲を見渡し、目の前にいる二人を見つけた。ゆーちゃんとゆーくん。少年はその姿を見て、心臓が一気に高鳴った。彼は何もかもがわからなくなった。どうして、ここにいるのか?何が起こったのか?
「いや、いや…!」少年は恐怖で声をあげた。体が震え、動くことすらできない。窯に閉じ込められていたときの恐怖がまだ消えていない。彼の中に深く刻まれたその恐怖が、今も彼を支配していた。
「お願い、来ないで…」少年は声を震わせながら、必死で後退りしようとした。しかし、体が思うように動かず、ただその場に縮こまることしかできなかった。
兄妹が近づいてきて、少年の心はますます恐怖に飲み込まれていった。どうして助けてくれたのか、どうしてここにいるのか、全く理解できない。少年の目の前にいる二人が、今、どれだけ恐ろしい存在に見えるかを、彼は全身で感じていた。
「来ないで!」
少年は震えながら叫んだ。その声がどこまで届いたのか分からないが、彼はただ、二人の手が近づくたびに恐怖を感じていた。自分の中で溢れる恐怖と不安が、彼を支配していた。
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