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どうして?
しおりを挟むいつものように、家の前に置かれた食べ物を食べ、何も考えずに過ごしていた少年は、兄妹の近づく足音を何とも思わなかった。それは、いつもの日常の一コマでしかなかったからだ。しかし、その日の出来事は、普段とは明らかに異なっていた。
妹の手が、いつもよりもずっと強く、少年の腕を捉えた。その力は異常なほどで、少年は驚き、自然と身を引いた。その手の感触は冷たく、いつもの優しさとはかけ離れたものがあった。何かがおかしいと、少年は感じ取っていた。
「ゆーちゃん、なに?」 少年は反射的に問いかけたが、妹は何の説明もせずにただ力強く引っ張り続けた。その圧倒的な力に、少年は抗うことができずに徐々に引き寄せられた。
兄の「おいで」という声は、遠くから聞こえるかのようで、何も変わらないように聞こえたが、その声の響きには以前とは異なる何かを感じた。兄はただ無表情で、何が起こっているのかを黙って見守っているだけだった。
状況が理解できずに混乱する少年は、妹の力によって足元がおぼつかなくなった。この妹の手には、かつての温かさが消え、何か別の異質な意図が込められていることを感じた。以前は守ってくれた妹が、今はまるで別の何者かのようだった。
「ゆーちゃん、やめて。」 少年がそう言いたかったが、震える声は上手く形にならなかった。妹の手はさらに力を増し、少年はそれに抗えずに引きずられていった。
「ゆーくん……?」 少年が兄を振り返ると、兄はただそこに静かに立っていた。その顔には冷静さしかなく、何も行動を起こそうとはしていなかった。兄の目には、以前のような少年を守る気持ちは見えず、ただ遠くを見つめる無表情がそこにあった。
「お願い、ゆーくん……」 少年の助けを求める声は虚空を切り裂いたが、何の反応も返ってこなかった。
妹の手の力はどんどん強くなり、少年は自分の足で立つことさえままならなくなっていた。どこに連れて行かれるのかも分からず、ただ妹の強引な力に従うしかなかった。
ついに、少年は小屋の中で冷たい空気と熱い炎が混じり合う場所に連れて行かれた。目の前には窯の扉が立ちはだかり、その暗く大きな隙間が恐ろしく感じられた。少年が抵抗しようと足を踏ん張っても、妹の圧倒的な力には敵わなかった。
「い゙や゙だ!」 彼の叫びは空しく、妹は何も言わずに彼を窯に押し込んでいった。かつての優しさは消え、そこにはただ強い意志だけが充満していた。
恐怖で全身が震える中、少年は何かが彼の内部から押し寄せてくるのを感じた。妹の手によって引き寄せられ、窯の扉が閉じられると、彼は完全に熱と闇に包まれた。
「ゆーちゃん!お願い、出して!出してよ!」 必死の叫びも扉が閉まると同時に遮られ、彼は熱と闇の中で痛みに包まれながら、じわじわと広がる苦痛に耐え続けた。
───────
少年はただ、胸が締め付けられるような痛みと共に息をしていた。窯の中は熱気で満ち、息をするたびに胸が焼けるような感覚に襲われた。足の裏から頭の先まで、じわじわと焼ける痛みが広がり、恐怖が彼の全身を支配していった。
「ゆーちゃん、出して…」
声は喉の乾きでかすれ、上手く形成できず、それでも彼は必死で叫び続けた。扉を叩く手は熱さで焼け、焼ける音が響き渡る。どれだけ叩いても、扉は動かず、彼を追い詰める暗闇と熱さが増すばかりだった。
「お願い、出して!」
震える声は力を失い、ほとんど響かない。手を叩けば叩くほど、焼けるような痛みが増し、体がしびれを感じ始める。目を開けると、目の前の光が痛みを増すだけだった。全身が焦げるようで、意識が遠のく感覚に襲われる。
窯の隙間から漏れるわずかな光に手を伸ばすものの、届かない。その隙間はあまりにも小さく、何度試みても、救いの手を差し伸べることはできなかった。再び扉を叩くも、手は痛みに耐えられず力が抜けていった。
「痛い、痛い…」
声をあげるたびに、痛みと恐怖が増す一方だった。目を閉じることもできず、顔の熱さが増すばかり。体を縮めても、状況は変わらない。ただひたすらに扉を叩き続ける中で、体内でじわじわと広がる痛みが彼を苛み続けた。
「出して、出してよ!」
必死の叫びは窯の中でこだまするものの、返答はない。目の前にはただ、熱と闇が広がるばかり。声を上げることしかできず、胸に広がる恐怖と体中を伝う冷や汗が彼を苛んだ。
「お願い…」
ただ叫ぶことしかできない少年。痛みと恐怖だけが心を支配し、冷たい汗が額を伝い、手を叩いても変わらない現実に、どんどんと身体が焼けていく感覚に怯え続けた。
手が力を失い、体がふらつき始める。視界がぼやけ、どこか遠くから聞こえるような声が錯覚のように感じられた。目を閉じると、少しずつ意識が遠ざかるのが分かった。
「お願い…」
手を叩く力が消え、体が重くなり、少しずつ力を失っていく。熱さが体全体を包み込む中、何度叩いても変わらないことを悟り、必死に助けを呼ぶ声もかすれていった。
体がふらつき、とうとう視界が完全にぼやけた。少年はそのまま静かに、この世界で漂うような感覚に包まれた。熱と痛みと恐怖が一つに結びつき、少年はとうとう目を閉じた。そして、すべての意識が消えていった。
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