短編集

灯埜

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涙もろい恋人

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「年かな、最近涙もろくなった」と恋人は言う。
同棲を始めて1年。
30歳を境に些細なことでも泣くようになった。

ワケあり恋人と暮らす俺の話をちょっとだけ聞いてほしい。
俺の恋人は、涙もろい。
怒られて泣く。
漫画を見て泣く。
ドラマを見て泣く。
夢を見て泣く。
朝起きて泣く。
天気が悪いと情緒不安定。

「年かな、最近涙もろくなった」と本人は言っているが、まだ33歳で涙もろいって何??

 同棲を始めて1年。
30歳を境に些細なことでも泣くようになった。
昔からよく親や周りから怒られては泣いていたらしいが、どうやら怒られて泣くが癖になっているようだった。
で、30歳を超えて感情移入が激しくなり、悲しくなることが多くなってしまったというのが本人の見解だ。
そう恋人の分析を聞かされたときは、そ…そうなんだ(?)しか言えなかったのを覚えている。

 俺の恋人は、
人付き合いが苦手で、
仕事はすぐに辞める、
毎日情緒不安定だけど、まともなときもあるし、
いつもボーッとしてて、
興味のないことは覚えないし、
料理へたくそで、
たまにイラッとくることもあるけど、

恋人と過ごす時間が俺にとってはかけがえのない時間だと思っている。
なんか癒されるんだよね、一緒にいるとさ。

重度のコミュ障のくせになんか文章力高いし、
思ったことすぐに口にするくせに肝心なこと話さないし、主語とかいろいろ抜けてて話わからないときもあるし、
察し悪いし。
かなり天然だし(←本人まったく気づいてない)。

こんなに悪く言ってるけど、それも含めて全部好きだから、まぁ許せ。
これら全部恋人には指摘したことないけど(一生言わないけど)、恋人の笑顔とかいろいろ…見たら言えなくなるので、多分惚れた弱みってやつだと思う。
なんでだろうか…… なんか許してしまう(;  ̄- ̄)


 人の感情を読み取るのが苦手なのか表情を見てもわからないことが多いらしい。
俺も気を付けてはいるが、自分の感情や気持ちなど(恋人のために)表情と一緒に言葉でも表すことを心がけている。
そうする理由が、恋人が社交辞令も真に受けるからだ。
言われた後から社交辞令とわかった瞬間に落ち込むといったループが1日に3回起こる負と不運の奇跡。
その度に涙を流して「心にもないことを言われた」と落ち込む。ちょっとおバカなところもあるからだ。
泣かせないために、俺だけでもそうしたいと思ったから続けている。

 朝、ぽろぽろと涙を流しながら起きてくる。なんで泣いてるの?と聞くと、「なんか起きたら悲しくて涙止まらないんだ」と言って、俺の背中の服で涙を拭いてくる。
抱き締めて慰めて…とかやってたら、朝はだいたい9時過ぎる。恋人は泣き止んだ頃にご飯を食べるのだが、俺はその頃にはシャツが一枚だめになって取り替える羽目に(涙でぐっしょり濡れてるから)。
洗濯という仕事は増えるが、嫌ではない。
これももはや日課と化しつつある。


 恋人と知り合ったのは、駅前のカフェで相席になったときだ。
先にいた俺はコーヒを飲みながらパソコンとにらめっこしていると、「相席いいですか?席が空いてないみたいなので…」とたどたどしい口調で声をかけられた。
「どうぞ」と言って、荷物を片付けて物を寄せて席を空かす。
「ありがとうございます」とテーブルにコーヒーとアップルパイの皿が乗ったお膳を置いて、座ろうとして、転んだ。
「!?」
「いたた…」
なんだ!?と思って見ると、原因は座ろうとしたところに後ろから人が通り、通った人が椅子に足をぶつけてずらしてしまい、そこに運悪くその子は腰を下ろしてしまい、そのまますてーんと落ちたという。
 ドジすぎる…(爆笑)
堪えるも笑いが止まらず、謝る通行人と転んで痛がるその子を直視できないでいた。
「………………」(←まだ爆笑中)
「…………………笑わないでくだ、さい」
やっと席に着いたその子は俺のことを見て膨れ面になり、失礼ですよと頬を赤くしながらコーヒーを口にする。
「……んんっ、コホッ、す、すみ、す、みません」
 可愛い子だな。
「もういいです」
そう言ってアップルパイを切ってフォークで食べる。
幸せそうに美味しそうに食べるその子と俺は視線が合ってしまい、その子はアップルパイを手で隠して「あげませんよ」と言ってくる。
「いらないですよ💧」
「じゃあなんですか」
「いや、幸せそうに美味しそうにたべるなぁと」
「実際美味しいですからね」
ほら、この実とパイ生地が絶妙のバランスで美味しいんですよと、さっきあげないと言ってきたアップルパイをフォークにさして差し出してきた。
「へへ、ご賞味あれ」
「むぐっ……んむ、む…… あ、うまい」
「でしょ?」
得意気に言ってるけど、お前生産者じゃないよな。
「……心づくしのお料理、ご賞味いたしました」
 お前のは使い方間違ってるけどな。
「どういたしまして」
後ろから声が聞こえ、振り向くと自慢げなその子と顔が似ているエプロン姿の女性がにこにこ笑顔で立っていた。
「かおる、いらっしゃい」
「今日もきたった、お姉ちゃん」
「ゆっくりしてって。あなたもね」
「うん」
「は、はい、どうも……」
 俺は何認定されたのだろうか……。
「お姉ちゃんは、ここの製造者なんだ。美味しいでしょ」
「はい、まぁ…」
「お姉ちゃんは魔法使いなんだよ」
嬉しそうにカウンターの奥の厨房を見つめるその子は、他にもおすすめあるんだよ。食べてみて!とまた薦めてきた。
「そ、そうなんだ…」
不思議な子だと思った。
その後も俺とその子は、度々あのカフェで会うようになった。
「この文章は、こういう風に言うと、好印象与える」
カタカタとパソコンのキーを叩いて文字を打ってもらったが、文章力の高さに驚くことも。
「これならどこへでも行ける気がするが」
「………まぁ、そうなんだけど……いろいろあるんだよ」
そう言って言葉を濁す。何かあったんだなと悟り、別な話題を振る。

とまぁ、そんな感じで話していくうちに、意気投合して、自然と一緒にいるようになった。居心地いいし何ら問題はない。

が、

泣かれるのは勘弁してほしいとは思う。

正直、プロポーズしにくい…。
俺としては結婚したい。ずっと一緒にいたいからね。
今日しようと思ってたけど、また日を改めた方がいいだろうか…。

年取ると涙もろいという言葉は、まだまだ先(もう少し年を取ってから)の話しになってくると思うのだが、俺の恋人は早すぎる気がする。
個人差はあるだろうが、それにしても泣きすぎだと思う。いつか枯れるんじゃないだろうか…(心配)

「……あのさ」
「グスッ……、ん…?」
「俺今からプロポーズしたいんだけど、泣き止んでくれないかな💦」
「え……… ふ、ぅっ、うわぁぁぁ……!(大号泣)」
「えー!💦さらに泣いちゃったよ💦💦 なんで?💦」

嬉し涙が止まり、再度きちんとしたプロポーズをするまで、数時間かかった。
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