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拝啓 深緑の魔女様
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魔女様とフィンと人魚とお茶会をすることに…。
交わされる会話の内容が怖い。ついていけず、黙っているつもりが何かとこちらに話を振るお三方。
ハラハラとするお茶会となった。
お茶会後、フィンに疑われ…。
ロンの友人からも連絡がきて、さらに大変なことに──。
「魔女様、こちらにどうぞ」
フィンは椅子を引いて、魔女にすすめた。
「うむ、ありがとう」
「もう一人くるはずなのですが、遅刻ですか?」
「あ、あぁ、先ほど連絡が来てな。遅れると伝言をもらった」
「では、先に始めてましょう」
「む、そうだな」
「ロンもほら、どうぞ」
ティーカップのセットを受けとる。
「あ、ありがとうフィン」
「なんだ、仲良さげだなお前達…」
むぅ…と不機嫌そうにフィンの方を見る魔女。顔は見えないのに雰囲気と言葉で感情がわかる。
不思議な人だ。
「途中、会ったのですよ。ね?」
俺の方を見て同意を得てきた。
「はい。迷っているところを助けていただいたんです」
「ふぅん」
じろじろと俺を眺めながらお菓子を手に取る。
お面をしてるのにどうやって食べるんだろう、と興味津々で俺も魔女を見つめた。
「な、なんだ、そんなに見つめて」
「魔女様が見つめるからじゃないですか?」
フィンがお茶をすすりながら答えた。
「む…そうか。それは悪いことをしたな。怪我の具合を見ていただけなのだが、不快だったか」
「あ、いえ、そういうわけではないんです。ただ、不思議に思って…」
「不思議とは??」
口にした後、しまったと思った。
言えない。魔女がどうやって食べ物を食べるのかとか、素顔がみたいとかなんて。
「えっと…」
答えに困っていると、後ろから声がした。
「待たせて済まなかったな」
「!!?」
急に後ろから声がしたこととその人の姿に驚いてしまった。魚のような鱗が顔に所々あり、首にはエラ。髪は青い海のように美しい色、体は人だが、足は左は魚のしっぽに似たヒレが付いており、右は人間の足だが、青紫色に変色しぶらりとして動かない様子だった。
背中には薄い水色の羽が生えており、宙に浮いている。羽音がしない。
「おー!待っておったぞ。丁度始めるところだったんだ」
「間に合って良かったです。ほぅ、今日のお茶はなんだい?」
「アップルティーだよ」
「フィン、これは?」
「アップルパイです。リンゴのコンポート、他にもアップルコンポートティー、ケーキなども用意してますよ」
「リンゴずくめだな。いい匂いだ。ん?」
その人はスンスンと周りの匂いを嗅ぎ始めた。
「どうかされました?」
「この匂い…ほー、人間が一人混じっておるな。はて…これは、非常食か?」
「いいえ、怪我人であり、お客様ですよ」
「ふぅん…お客様ねぇ」
その人は、俺の方に顔を向けてじっと見つめる。
目を布で隠しているため、どんな表情をしているのか分からないが、多分不思議がっている。客?こいつが??みたいな感じだ。
あと多分この人、あまり目が見えていない。匂いで正確な位置とかを判断している様子だった。
「さて、食べようか」
「はい、では」
皆で手を合わせた。
「「「「いただきます」」」」
「ん、うまいな!リンゴのコンポート、持って帰りたい」
「お帰りの際、包みますね」
「あぁ、頼む。おい人間、食べているか?」
「は、はい!食べてます!美味しいです!!」
急に話を振られ、心臓と肩が跳ねる。
異様な光景にドキドキしながら食べている。
「そうだろうそうだろう、うまいだろう!魔女様の作るものは何でも美味しいんだ!水中では食べられないものばかりだからな、陸の食べ物はこんなにも豊かだと教えたいものだな」
「…そう、ですね」
確かに。砂糖は値段が高すぎて、少量でも手に入るかどうかわからない。リンゴでこんなにもレパートリーがあるなんて知らなかった。
「褒めすぎ…」
「照れますね、魔女様」
「なんでお前が照れてんだ」
「変わりに照れてあげようかと」
「頼んどらんわ。フィン、紅茶おかわり」
「はい、どうぞ。ロン、紅茶いるか?」
「ありがとう、もらうよ」
「…フィンよ、ずいぶん人間と親しいな。知り合いか?」
「途中、会ったのですよ。ね?」
「はい。迷っているところを助けていただいたんです」
「ふぅん。まぁ、気まぐれだろう。フィンが飽きたらこの人間もらっていくぞ」
「何故?」
「連れ帰って、我の世話を手伝ってもらう」
「陸の人間ですよ。水中では息ができないでしょう。この間それで連れ帰った人間死んだとか言ってませんでしたっけ?」
「そりゃいつの話だ」
「この間だから…93年前の話ですねぇ」
「なんだ、最近じゃないか。ふむ…そう言った気がするが、忘れたな」
首をかしげて、そんなこと言ったっけ??と顎に手を当てて考える仕草をした。
「その際に足と目に難解な呪いをかけられたと言っていたじゃないか。魔女様でも難しくて今だ解けてはいないというのに、懲りてないのですか?」
「だが、人間の方が世話が丁寧でね。それに、話がわかる奴ほど傍に置いておきたいのだよ」
俺の方に顔を向ける。何となく圧を感じて、俺は身動きが取れなかった。
「とりあえず、まだ飽きてないのでだめですね」
「そうか。ま、気長に待つさ」
楽しげに口角をあげ、笑う。鋭い歯が口から覗き、ゾッとした。少なくとも今は大丈夫そうだが、いずれは…と考えると内蔵が震え出し、何も言葉にできない。
「ロン、もっと食べて怪我を治せ」
横から魔女様がフォークに刺したリンゴを俺の口許に運んできた。
「んぐっ!?まひょひゃま!?」
「いっぱい食べて、早よ治せ。家族が心配してるやもしれんのだぞ」
「あ…ありがとうございます」胸にチクリと刺さる罪悪感。調査に来たことは、絶対に悟られないようにしなければ…。
魔女様のお陰で恐怖が薄れたのか、その後のお茶会もわちゃわちゃとしたが、楽しく過ごすことができた。ただ、会話は相変わらずカオスだったことを除いて。
「さて、我は帰る。今度は何か土産を持ってこよう。人間、何が良い?」
「え…」何で俺?
「何でも良いぞ?海底に沈む綺麗な石でも深海に眠っている人間が落とした宝石でも、人間の内蔵でも何でも」
「内蔵はちょっと…。あ!では、海中に咲く花が欲しいです」
「海中に咲く花?」
「はい」
「花か…。ソフトコーラルや珊瑚、ホソエガサやケヤリとかも綺麗だが…本当に欲しいのか?」
「はい。貴方が綺麗だと思うものを見てみたいです」
「我が綺麗だと思うもの…なぞなぞか?」
顎に手を当てて、布越しに俺を見つめてくる。
そこにフィンが声をかけてくれた。
「シンプルに考えたらいいんじゃないですか?綺麗だと感じたものを用意するんですよ」
「ほぅ。なるほど、面白いことをする人間もいるものだ。良かろう、次までに用意してきてやる」
「ありがとうございます」
そういうつもりじゃなかったんだが、なんとか平穏に終わりそう…。この人怖いんだよなぁ。
「では、失礼する。魔女様、馳走になった。ありがとうございます」
「次もするからな。またおいで」
「はい」
魔女様にお辞儀をした後、くるりとこちらを向き、「じゃあな、人間」と言って、頭をポンポン軽く叩いて静かに飛んでいった。
三人で去るその姿を見送ると、魔女様が片付けを始めた。
カチャカチャカチャ カタンカタッ コト
「今日はとても賑やかでしたね、魔女様」
「そうだな。4人でお茶会など久方ぶりではないか。楽しかったなぁ」
思い出話をしながら片付けをし、皿やカップが乗ったお盆が空を飛び、勝手に家に帰っていく。
「フィンよ、ロンと遊んでおやり」
「魔女様は?」
「花の手入れを少しする。気になる子がいてな」
「左様ですか。承知致しました。ロン、遊ぼうか」
「は、はい…」
これは、まずいことになった…。フィンがいては、この家の周りを調べられない。俺の言動一つで変に怪しまれかねない。どうする…。
魔女様から離れてしばらく歩いていると、ピタリとフィンが止まった。
「さて、ロンよ。お前、本当は何を企んでおる」
「へ……?」
急に低い声で訊ねてきた。空気が一気にヒヤリと冷たく感じる。
「え、何のこと?」
彼の方を振り向けずにいる。体が小刻みに小さく震える。振り向いてはいけない気がしたのだ。命の危機を感じる。
「あの時お前、泉覗いたよなぁ。あの泉は本来の姿を映すものなんだ。どんなに魔法で姿や形を変えても、あの泉に映った者は本来の姿が見える。お前は大人の男性だ。姿を変えてまでこの森に足を踏み入れ、王の命令を遂行する本来の目的は何だ?王のことだ、魔法使いに頼んで魔法で偽の記憶を入れて、心を読ませないようにするのも容易いことだろう」
そろりと振り向いて、「本当に様子を見に来ただけなんだ。そんな、勘繰りすぎだよ」
そう言うと、彼の顔色が変わった。
「お前の言動全てが好奇心ではなく、ただ調査するための動きと何か情報を得ようとする行動が変に目につく」
嘘をつくと殺すぞ。と殺気を放つフィンの圧が全身にずしりと重くのし掛かる。
「それもあるけど、半分は好奇心でいっぱいだよ!」
「嘘をつくな!前にもいたんだ、この森に住む大魔女様がいると聞いた王様が調査させるために送り込んだある男がな」
「王が?」
「あぁ、その時はこの国は戦争真っ只中だったが、森だけ大魔女様の結界で無傷だったんだ。その事に疑問を持った王様が森に何者かがいると言い出して、調査を開始し出したんだ。迷惑な話だ」
「その男はどうなったんだ?」
「………………いなくなった」
「いなくなった…」
ということは死んだか、殺されたか。
「その男も魔法で少年になってこの森にやって来ていた。だから、お前も」
「おいおい。その男と一緒にされては困るよ💧」
「お前も王様の遣いだろうが。小さくなる際も大方足の裏か太ももの裏にでも魔方陣が描かれているのだろうな」
すげっ、全部当たってら。
内容が的を射てて、変な汗がでる。鋭いどころの話じゃないヤバイなこいつ。
両手の指をそれぞれバキバキ鳴らし、今にも襲いかかってくるような雰囲気がフィンから感じられた。
「今こそ争い事はないが、今の魔女様まで居なくなられては困るのだ。森を守る番人として、返答次第でお前の生死が決まる。で?どうなんだ?お前、いったい」
「フィン?どうした?」
後ろから魔女様の声が聞こえ、恐ろしい顔をしていたフィンは振り向くのと同時にいつもの顔に戻っていた。
「どうかされましたか?」
「いや、なんかすごい禍々しい魔力を感じたから、来てみたんだ。そしたらフィンとロンが見えたから、声かけたんだが…何をしておる」
魔女様が俺と彼の方を交互に見た。
「いいえ。何もしてませんよ。何をして遊ぼうか話していたら、意見が分かれましてね。少し喧嘩になってしまいました」
「何?喧嘩??遊びで??」
「はい。かくれんぼかお絵描きで悩みました」
「しょ、しょうもないな💧そんなことで喧嘩すんなよ」
「ええ…、少し大人げなかったと思います。すみませんね、ロン」
「いえ…だ、大丈夫で、す…💧」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
フィンがこちらを振り向いた。脅すように「話し合わせろ、いいな?」といわんばかりの顔を向けて睨んでくる。勿論、魔女様には見えていない。
「仲良くしろよ。ロンは子供なんだから、大人げないことするな、な?」
「こども、ねぇ」
魔女様の言葉に、フィンは目をすぅ…と細めてこちらを見据えた。騙せているのは今のうちだ、と。
「………………」怖い。
「そうだ、フィン。すまぬが一つ頼まれてくれないか?」
急に思い出したように魔女様がフィンに頼みごとを伝える。
「なんでしょうか」
「今日の夜、私は出かける。帰ってくるのは朝方になるだろうから、ロンと一緒に家で留守番を頼まれてはくれないか?」
「「え!?」」
なんで!!?
魔女様の言葉を聞いた俺たちは、同時に声を出した。
ちょっ、ちょっと待って勘弁してくれ。俺今こいつに怪しまれてんだぞ!?一晩も一緒に居てたまるか!こっちの精神が死ぬ!
「あの、魔女様?」
「ん?何だいロン」
「俺は大丈夫ですので、フィンにご迷惑では…」
「大丈夫な訳があるか。いつ何が入ってくるか分からん。用心に越したことはないから大人しく守られておけ」
「はぁ…」
チラッとフィンの方を見る。怖い顔で俺を見ていた。
ひぃ!背後に般若らしきものが見えるんですけどぉ!!
今にも実現しそうな般若の影が、フィンの背後に控えている。頼むからこっち見んでくれ!!
遊ぶというよりおいかけっこをせざるを得なかった(隙あらば、笑顔で攻撃を仕掛けてくる)。
やってきた恐怖の夜。
魔女様は、一緒にご飯を食べた後、風呂敷を抱えて出掛けていってしまった。正確には、魔法で消えてしまったとい表現が正しいかもしれない。
「…………」
「…………」
部屋の中はとても静かになった。
今フィンの近くにいるのは正直、怖い。
「………あの…」
「なんだ」
「なんかすみません…」
「………魔女様の言いつけだからな。仕方ない。家の中では暴れられんしな、今は何もせん。お前、何飲む?」
「あ、オレンジジュースで」
「普段は何を飲んでいる?」
「……珈琲です」
「んじゃ、珈琲な」
「スミマセン…」
台所で珈琲の豆をごりごりと挽く音が部屋に響く。
「お前、本当にただの調査のためにここにきたのか?」
「え?」
「お前は、本当にただの調査のためにここにきたのか?」
怒ってる…
応えないと殺されるような雰囲気が彼から漏れ出ている。
仕方ない…応えるしかない。ここで死んでは元も子もない。
「…本当だ」
「……………」
彼は無言で挽いた豆をこし布に入れて、沸いたお湯をこし布に注いでいく。
コポコポという音と共に珈琲の独特な匂いが部屋に広がる。懐かしい匂いが小さくなる前の生活を思い出させる。
休みの日は家で本を読みながらよく飲んでいたな。
「砂糖は?」
「二つ程」
「ミルクは?」
「いらないです」
「ほら」
「ありがとうございます」
カップを手渡され、テーブルにはシュガーポットが置かれた。
スプーンでくるくると回し、砂糖を溶かし混ぜる。
ぽちゃぽちゃっぽちゃぽちゃぽちゃ
音がする方をチラリと見る。砂糖五つ、珈琲のカップにどんどん消えていく。
フィンは甘党か。
「こちらに危害は?」
「加えるつもりはない」
「確証は?」
「俺はあるけど、でも……まだない」
「信じ難い解答だな」
「ですよね」
「お前にはなくても、王様が危害を加えるつもりかもしれないしな」
「…………」
「もし危害を加えた場合は、こちらも容赦はしない。お前らの国が滅ぶと思え」
「………肝に銘じておきます」
「肝に銘じておくか…。現実にならなきゃいいな」
ニタリと笑った顔と言葉が頭から離れられず、床に就いても眠れなかった。
自分の言動一つで国の未来が左右されているという重みを感じたからだ。
気を付けねば…。
かけ布団を頭まで被り、どう報告したものかと考えながら、夜が更けるのを待った。
最初の報告と連絡をするために式神を飛ばす。
フィンが起きてこないようにこっそり起き上がり、外に出た。周りを確認してから一枚の式神を取り出す。
「Listen to Ron Harroin's voice and deliver it. Dear Ray Jennon,( 我 ロン・ハロインの声に耳を傾け、届けたまえ。親愛なるレイ・ジェーノンのもとへ)」
手の平に少量の魔力を集め、式神に込める。魔力を受けた式神がかさかさと音を立てて反応し、俺の手の平から勢いよく飛び上がり、宙に止まる。
「go ( 行け )」
俺の声と共に式神は飛び立っていった。王宮で働くレイのもとに。
「どうかお気を付けて」
飛んでいった方を見ながら、無事に届くことを祈ってまじないの言葉を口にした。
その一部始終を、気配を消したフィンに見られていたことにも知らずに。
「大人しくしてたか?」
「はい」
「勿論です」
俺とフィンは即答。にこにこ笑みで魔女様の問いに答えた。
「そうか、良かった。ロン、後で傷を見せておくれ。フィンは?」
「私は泉に戻ります」
「わかった。気をつけて行くんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
そう言ったフィンの足元から水が昇り包まれたかと思ったら、水と一緒に一瞬にして消えていた。
フィンは水の精…じゃないんだよな?
不思議な光景にドキドキしつつも、俺は魔女様に連れられて寝室に向かった。
巻いていた包帯やキズテープ、ガーゼなどを取っていく。
「ふむ、傷もだいぶ塞がっておる。どうやらお主は治りが早いようだな」
「あはは…みたいですね」
本当は友人の付与(治療)魔法効果で治りは少しだけ早くなってるだけなんだけど…こんな早いとは。友人は言ってくれなかったけど、最近になって気がついたことだ。粋なことをしてくれる。
「これなら2日後には家に届けてやれるな」
「え」
「ん?なんだ?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「そうか。何かあれば遠慮なく言いなさい。お前はまだ子供なんだから。さぁ、今日もいっぱい食べて早く傷を治せ」
「はい、ありがとうございます」
まずい…。傷の治りが早すぎて、家に帰される日が早まってしまった。調査はまだ途中。非常にまずい!!
「ロンはこれから何をするんだい?」
「僕は庭に出てます」
「そっか、わかった。私は少しやることがあるのでね、地下に籠る。午後にはティータイムをやるから、庭のバラの影が傾いたら、家に入ってくるんだよ」
「わかりました。行ってきます」
「いってらっしゃい」
キィ バタン
庭に出て、花を見て心洗われていると式神がツィーっと俺のもとにやってきた。
手を差し伸べると手の平に、ツ… と浮かんだまま式神からフワリと言葉が宙に浮かび上がった。
『Ray Jennon responds to the voice of dear Ron Harroin. If you received it, the password.(親愛なるロン・ハロインの声に、レイ・ジェーノンが応える。受け取ったなら、合言葉を)』
「Have a nice day.(どうか素敵な一日を)」
『you too.(あなたも)』
「何でこれが合言葉なんだよ。恥ずいわ」
『あー あー 繋がってる?ロン?おーい、ローン?』
ふわふわと宙に浮いている式神は、クリスマスの飾りの天使のような形をしている。紙だが、動きは通信者の動きに合わせて動くため、呼び掛けと共に袖部分が上下にフリフリとまるで人のような動きをする。
彼が作った式神は特別で、どんな魔法でも遠く離れていても威力が半減することなくそのまま届く。それ故に危険な代物のはずなのだが…、それを通信機代わりにひょいひょい使ってくるため、困った奴だ。だが、誰もそれを止めないのは、それだけ彼の魔力が高いからだ。確か一番偉い役職にいるんだったかな?
「うっせ、聞こえてるわ」
『やった、成功だね!ほぉ、なるほど。ここが深緑の森かぁ…いいね!』
「深緑の森?」
『そ。僕は、そう呼んでいる。だって緑は青々として綺麗だろ』
「そうだな。それよりさ」
『ん?』
「なんだあの合言葉は」
『不満なのか?』
「不満だ」
『何でよ(笑) 良いだろ、この合言葉』
「恥ずかしいわ」
『えー(笑) 言われたら、嬉しくない?』
「まぁ、言われたら嬉しいけどさ…。だからって合言葉にしなくても」
『僕はね、毎日毎日忙しく働いてて、ここ2年くらい家にも帰ってないのよ。独り身の僕には誰かからの温かい労いの言葉がほしいわけよ。わかる?』
「そ…」
その役を俺でいいのかお前… と言いかけて呑み込んだ。彼が忙しく働いているのは知っているし、家に帰れていないのも知っている。合言葉にするくらい労いの言葉がほしいなら、合言葉だが、かけてやらんことも
『まぁ、本当なら可愛い人に言われてみたいがな』
前言撤回。彼のボソリと放った言葉で、一瞬でも心配した俺の優しさを返せと言いたい。
「ったく、用件があって連絡寄越してきたんだろ?なに?」
『……んふふ それにしても、ほんっとに可愛いなぁお前』
「切るか」
通信を切ろうと式神に手を伸ばす。
『わー!悪かったって!ごめんごめん。で?ここはどこかな?』
「魔女様の家だ」
『見つけたのか』
「そうなんだけど、怪我しちゃって。今、世話になっている」
『怪我?誰が?』
「俺が」
『何で?』
「無数の薔薇の棘に引っ掛かって」
『ふぅん 治そうか?』
式神(彼)が俺の怪我の具合を見ているのか、俺の周りをくるくると回った後、前にかざした両袖から黄色い光を出し始めた。
「いや、いい。治ったら町に送り届けるとか言ってたから、治るまではここで厄介になるつもりでいる」
『そっか。なら、そうしなきゃね』
袖から光が消えた。
『家の中見たい!家の中!』
「流石にプライベートだから、だめ」
『お前のプライベートも好きだけど、今は魔女さんのプライベートを見てみたい』
「発言が変態だ!」
『はー失礼な!お前のは好きすぎるあまりの行動だが、魔女さんのは興味での行動だ!一緒にすんな!』
「変態は否定しないんだ」
『変態じゃねぇやい!んっふっふー、隙ありっ!いざ!おっ邪魔しまーす🎶』
「あ!しまった!こら!!待て!!」
式神が勝手に魔女様の家にスルリと入っていったのを慌てて追いかけて勢いよくドアを開けた。
ガチャ!
『素敵な家だ!素晴らしい!!魔女様はどこ??』
くるくると式神が楽しそうに舞い踊る。
「だめだ!こっちに来い!もし魔女様に見つかったら大変…」
「去れ」
急に頭の後ろで冷たい声がした後、俺は式神ごと魔女様の家から、庭から結界の外へと飛ばされ、最初に彷徨っていた森へと弾き出された。飛ばされる際に薔薇の棘が全身に刺さって血だらけとなった。
『大丈夫か!?しっかりしろ!ロン!』
レイが俺に治療魔法をかけている間もフィンとレイが張りつめた空気の中、話をし始めた。
「貴様、誰だ」
『…おや、君こそ誰だい?』
「これから死ぬ奴に名乗る意味なし」
『私はレイ・ジェーノンと言います。以後、お見知りおきを』
「………………」
『その渋い顔は、話聞かねぇめんどくさい奴来たって顔ですね』
「何が目的でここに来た」
『ロンの様子と森の中を見るためにここに来ました』
「偽りは」
『ないですね』
「貴様は王国側の人間。なら。殺すのみ選択肢は生まれない」
『王国側の人間?まさか!あんなおっちゃん知るか!僕は生涯ずっと!ロン大好き人間です!!』
ふすん!と鼻息が聞こえてくるほど、どうだ!言ってやったぞ!感が、顔が見えないのに伝わってくる。
「…………………」
「…………レイ」
『あ、おはようロン😃 なんだい?』
「ちがっ…、そ、そういう、こと、じゃな、くて」
治療魔法で治った俺は、今のこの状況に笑ってはいけないのに、友人の間の抜けたおかしな解答に笑いをこらえながら、彼に言う。
『あれ?なんかお前笑ってるね??』
「わ…笑ってない ( *´ Η ` *)゛」
笑いを堪えながらなんとか答える。
「…………レイと言ったか」
『はい、なんですか? えっと、名無しさん?』
「………フィンだ」
『フィンさん!』
「ロンは、レイになんて報告をしたか聞いても?」
『いいですよ。えーっと、"森に入ることに成功。魔女様への接触に成功した。引き続き調査する。"』
「………」
『これが、表向きの連絡』
「表向き?」
『うん、表向き。で、別に届いた僕宛のは、"レイ!聞いてくれ!今日すんごい冒険したんだ!森に入ったら、話す植物に食べられそうになったけど、仲良くなれたし、狂った人に追いかけられて殺されかけたり、待ち人を待つ一途な人たちが綺麗なラベンダーを咲かせたり、そして、泉に住む人にも会ったんだ!花に詳しくて、もっと話したくなる人でさ!魔女様にも会ったんだ。お面被ってて沢山不思議なんだけど、可愛らしいところもあって優しいんだ。人魚にも会ったよ!レイ、人魚好きだろ?前に会ってみたいとか言ってただろ。怖い人だけど、話せばわかる人(?)だと思うから、お前にも会わせたいな。あと、その人呪いにかかってて、可哀想なんだ。レイ、治せるか?それから……"』
「こちら側の情報駄々漏れなのに、なんか手紙が幼稚だな(笑)子供の作文か(笑)」
『可愛いだろ。興奮しすぎて、文章があっちこっちいってるところとか特に』
「やめろぉぉ!(恥恥)恥ずかしいから、その生暖かい眼を向けるなぁぁぁぁ!!」
両手で顔を覆って、二人から顔を隠す。読み返されると気づく自分の幼稚な文章力。興奮するままに書き綴り、そのまま送って満足してしまったのだ。
「子供に退化する作用でもあるのか?その魔法」
『あっはっは、あるわけないでしょう』
「やめてくださいお願いします」
追い討ちかけるなよ頼むから。
「なんかお前ら見てたら怒る気失せたわ。……レイよ、内容の漏洩は?」
『するわけないでしょう』
「確証は?」
『ロンの手紙は全て僕が大切に金庫に厳重に鍵をかけて保管してますが、今回は、残念ではありますが燃やします』
「信用できないな」
『なら、これならどうです?』
式神が仄かに光る。すると、式神の頭の部分からパッと映像が現れて、レイがにこにこと手を振っている。
『初めまして、レイ・ジェーノンと申します。フィンさん、見えますか?』
「あぁ」
『これ、さっき読んだロンの手紙。こうします』
手紙を持った手から炎がボワッと出ると、紙は一気に灰となって散った。
「確認した」
『よかった。さて、フィンさんや』
「……なんだ?」
『君を家に招待しようと思うのですが、いかがでしょうか』
「はぁ!?ふざけるな!誰が行くか!」
『家族にロンの話をしたら、君に会いたいって人がいるんだけど、森から出てこれないかい?』
「俺に??」
『そう、君に』
「俺の知っている人か?」
『さぁ?昔森に住んでたって言ってたよ』
「あり得ない!森に住んでいる者ほとんどが自我を失って狂ったように彷徨い、抜け出せないでいる。抜け出したものはいないと認識しているが、もしあり得るとしたなら、何か特別な者にしか…」
『僕のお婆様なんだけど…』
「お婆…様?」
『うん。あいにく写真はないんだけど、お婆様が「会えば私だとわかる大丈夫!」って、自信満々に答えてたよ』
『……………』
『あ、あと、こう言えば気づいてくれるって』
「?」
『"五つは入れすぎよ、三つまでね"』
「五つ?三つ?何を言って…フィン?」
レイが言った言葉の意味を考えていると、目の前のフィンが驚いた顔で固まってしまった。開いた口も閉まりきらずパクパクと動かし、か細い声で言葉を口にした。
「…魔女さま……」
『選択はそちらに任せるよ』
「あの方が生きておられる。あの方に会えるのなら……」
『どうやら決まったみたいだね。ロン、怪我が治り次第町に送り出すと言っていたんだろう?なら、その日に僕の家に来るといいよ。その日に僕も王を脅して休暇をもぎt…申請するからさ』
今さらりととんでもないこと言わなかったか?
「わかった、連絡する」
『そうだ!この式神を使っておいでよ。転移魔法施しておくからさ。はい、完了っと』
「早っ」
式神が胸の辺りに手を当てると、ポワーっと小さく発光、胸の辺りに陣が描かれている。
『町を観光したいなら、歩いてくるのもいいね。場所は王都、ロン家、レイ家の三つに設定したから、どれか念じてくれればそこにひとっ飛びだから』
「わかった、ありがとう」
『お婆様がアップルパイとかいろいろ作って待ってると言ってたよ』
「あぁ、楽しみだな」
フィンはどこか懐かしむようにふわりと笑う。
『……誰か来たか。じゃあ、ロンにフィンさん、連絡待ってますねー』
プツッ
通信が切れると、今までふわふわと浮いて人のような動きで動き回っていた式神がただの紙になった。
「あの…このこと、魔女様に伝えるんですか?」
「いや、保留だな」
そう言ったフィンは、顎に手を当てて何かを考えている。
「じゃあ、当日まで黙っているということですね」
「どうだかな。もしかしてペロリと喋っちゃう可能性もあるな」
「まいったな…」
ポリポリと頭をかきながら再び魔女様のいる家にフィンと向かった。
傷の具合から、町への帰還が明後日の朝に決まった。
明日はお茶会をしようと魔女様から言われ、俺も何か手伝いたいと申し出る。
「そうだなぁ、じゃあ君の故郷のお菓子を何か振る舞ってくれるかい」と言われて、何を作ろうか考えている最中だ。
明日は、お茶会に何を作ろうか。
交わされる会話の内容が怖い。ついていけず、黙っているつもりが何かとこちらに話を振るお三方。
ハラハラとするお茶会となった。
お茶会後、フィンに疑われ…。
ロンの友人からも連絡がきて、さらに大変なことに──。
「魔女様、こちらにどうぞ」
フィンは椅子を引いて、魔女にすすめた。
「うむ、ありがとう」
「もう一人くるはずなのですが、遅刻ですか?」
「あ、あぁ、先ほど連絡が来てな。遅れると伝言をもらった」
「では、先に始めてましょう」
「む、そうだな」
「ロンもほら、どうぞ」
ティーカップのセットを受けとる。
「あ、ありがとうフィン」
「なんだ、仲良さげだなお前達…」
むぅ…と不機嫌そうにフィンの方を見る魔女。顔は見えないのに雰囲気と言葉で感情がわかる。
不思議な人だ。
「途中、会ったのですよ。ね?」
俺の方を見て同意を得てきた。
「はい。迷っているところを助けていただいたんです」
「ふぅん」
じろじろと俺を眺めながらお菓子を手に取る。
お面をしてるのにどうやって食べるんだろう、と興味津々で俺も魔女を見つめた。
「な、なんだ、そんなに見つめて」
「魔女様が見つめるからじゃないですか?」
フィンがお茶をすすりながら答えた。
「む…そうか。それは悪いことをしたな。怪我の具合を見ていただけなのだが、不快だったか」
「あ、いえ、そういうわけではないんです。ただ、不思議に思って…」
「不思議とは??」
口にした後、しまったと思った。
言えない。魔女がどうやって食べ物を食べるのかとか、素顔がみたいとかなんて。
「えっと…」
答えに困っていると、後ろから声がした。
「待たせて済まなかったな」
「!!?」
急に後ろから声がしたこととその人の姿に驚いてしまった。魚のような鱗が顔に所々あり、首にはエラ。髪は青い海のように美しい色、体は人だが、足は左は魚のしっぽに似たヒレが付いており、右は人間の足だが、青紫色に変色しぶらりとして動かない様子だった。
背中には薄い水色の羽が生えており、宙に浮いている。羽音がしない。
「おー!待っておったぞ。丁度始めるところだったんだ」
「間に合って良かったです。ほぅ、今日のお茶はなんだい?」
「アップルティーだよ」
「フィン、これは?」
「アップルパイです。リンゴのコンポート、他にもアップルコンポートティー、ケーキなども用意してますよ」
「リンゴずくめだな。いい匂いだ。ん?」
その人はスンスンと周りの匂いを嗅ぎ始めた。
「どうかされました?」
「この匂い…ほー、人間が一人混じっておるな。はて…これは、非常食か?」
「いいえ、怪我人であり、お客様ですよ」
「ふぅん…お客様ねぇ」
その人は、俺の方に顔を向けてじっと見つめる。
目を布で隠しているため、どんな表情をしているのか分からないが、多分不思議がっている。客?こいつが??みたいな感じだ。
あと多分この人、あまり目が見えていない。匂いで正確な位置とかを判断している様子だった。
「さて、食べようか」
「はい、では」
皆で手を合わせた。
「「「「いただきます」」」」
「ん、うまいな!リンゴのコンポート、持って帰りたい」
「お帰りの際、包みますね」
「あぁ、頼む。おい人間、食べているか?」
「は、はい!食べてます!美味しいです!!」
急に話を振られ、心臓と肩が跳ねる。
異様な光景にドキドキしながら食べている。
「そうだろうそうだろう、うまいだろう!魔女様の作るものは何でも美味しいんだ!水中では食べられないものばかりだからな、陸の食べ物はこんなにも豊かだと教えたいものだな」
「…そう、ですね」
確かに。砂糖は値段が高すぎて、少量でも手に入るかどうかわからない。リンゴでこんなにもレパートリーがあるなんて知らなかった。
「褒めすぎ…」
「照れますね、魔女様」
「なんでお前が照れてんだ」
「変わりに照れてあげようかと」
「頼んどらんわ。フィン、紅茶おかわり」
「はい、どうぞ。ロン、紅茶いるか?」
「ありがとう、もらうよ」
「…フィンよ、ずいぶん人間と親しいな。知り合いか?」
「途中、会ったのですよ。ね?」
「はい。迷っているところを助けていただいたんです」
「ふぅん。まぁ、気まぐれだろう。フィンが飽きたらこの人間もらっていくぞ」
「何故?」
「連れ帰って、我の世話を手伝ってもらう」
「陸の人間ですよ。水中では息ができないでしょう。この間それで連れ帰った人間死んだとか言ってませんでしたっけ?」
「そりゃいつの話だ」
「この間だから…93年前の話ですねぇ」
「なんだ、最近じゃないか。ふむ…そう言った気がするが、忘れたな」
首をかしげて、そんなこと言ったっけ??と顎に手を当てて考える仕草をした。
「その際に足と目に難解な呪いをかけられたと言っていたじゃないか。魔女様でも難しくて今だ解けてはいないというのに、懲りてないのですか?」
「だが、人間の方が世話が丁寧でね。それに、話がわかる奴ほど傍に置いておきたいのだよ」
俺の方に顔を向ける。何となく圧を感じて、俺は身動きが取れなかった。
「とりあえず、まだ飽きてないのでだめですね」
「そうか。ま、気長に待つさ」
楽しげに口角をあげ、笑う。鋭い歯が口から覗き、ゾッとした。少なくとも今は大丈夫そうだが、いずれは…と考えると内蔵が震え出し、何も言葉にできない。
「ロン、もっと食べて怪我を治せ」
横から魔女様がフォークに刺したリンゴを俺の口許に運んできた。
「んぐっ!?まひょひゃま!?」
「いっぱい食べて、早よ治せ。家族が心配してるやもしれんのだぞ」
「あ…ありがとうございます」胸にチクリと刺さる罪悪感。調査に来たことは、絶対に悟られないようにしなければ…。
魔女様のお陰で恐怖が薄れたのか、その後のお茶会もわちゃわちゃとしたが、楽しく過ごすことができた。ただ、会話は相変わらずカオスだったことを除いて。
「さて、我は帰る。今度は何か土産を持ってこよう。人間、何が良い?」
「え…」何で俺?
「何でも良いぞ?海底に沈む綺麗な石でも深海に眠っている人間が落とした宝石でも、人間の内蔵でも何でも」
「内蔵はちょっと…。あ!では、海中に咲く花が欲しいです」
「海中に咲く花?」
「はい」
「花か…。ソフトコーラルや珊瑚、ホソエガサやケヤリとかも綺麗だが…本当に欲しいのか?」
「はい。貴方が綺麗だと思うものを見てみたいです」
「我が綺麗だと思うもの…なぞなぞか?」
顎に手を当てて、布越しに俺を見つめてくる。
そこにフィンが声をかけてくれた。
「シンプルに考えたらいいんじゃないですか?綺麗だと感じたものを用意するんですよ」
「ほぅ。なるほど、面白いことをする人間もいるものだ。良かろう、次までに用意してきてやる」
「ありがとうございます」
そういうつもりじゃなかったんだが、なんとか平穏に終わりそう…。この人怖いんだよなぁ。
「では、失礼する。魔女様、馳走になった。ありがとうございます」
「次もするからな。またおいで」
「はい」
魔女様にお辞儀をした後、くるりとこちらを向き、「じゃあな、人間」と言って、頭をポンポン軽く叩いて静かに飛んでいった。
三人で去るその姿を見送ると、魔女様が片付けを始めた。
カチャカチャカチャ カタンカタッ コト
「今日はとても賑やかでしたね、魔女様」
「そうだな。4人でお茶会など久方ぶりではないか。楽しかったなぁ」
思い出話をしながら片付けをし、皿やカップが乗ったお盆が空を飛び、勝手に家に帰っていく。
「フィンよ、ロンと遊んでおやり」
「魔女様は?」
「花の手入れを少しする。気になる子がいてな」
「左様ですか。承知致しました。ロン、遊ぼうか」
「は、はい…」
これは、まずいことになった…。フィンがいては、この家の周りを調べられない。俺の言動一つで変に怪しまれかねない。どうする…。
魔女様から離れてしばらく歩いていると、ピタリとフィンが止まった。
「さて、ロンよ。お前、本当は何を企んでおる」
「へ……?」
急に低い声で訊ねてきた。空気が一気にヒヤリと冷たく感じる。
「え、何のこと?」
彼の方を振り向けずにいる。体が小刻みに小さく震える。振り向いてはいけない気がしたのだ。命の危機を感じる。
「あの時お前、泉覗いたよなぁ。あの泉は本来の姿を映すものなんだ。どんなに魔法で姿や形を変えても、あの泉に映った者は本来の姿が見える。お前は大人の男性だ。姿を変えてまでこの森に足を踏み入れ、王の命令を遂行する本来の目的は何だ?王のことだ、魔法使いに頼んで魔法で偽の記憶を入れて、心を読ませないようにするのも容易いことだろう」
そろりと振り向いて、「本当に様子を見に来ただけなんだ。そんな、勘繰りすぎだよ」
そう言うと、彼の顔色が変わった。
「お前の言動全てが好奇心ではなく、ただ調査するための動きと何か情報を得ようとする行動が変に目につく」
嘘をつくと殺すぞ。と殺気を放つフィンの圧が全身にずしりと重くのし掛かる。
「それもあるけど、半分は好奇心でいっぱいだよ!」
「嘘をつくな!前にもいたんだ、この森に住む大魔女様がいると聞いた王様が調査させるために送り込んだある男がな」
「王が?」
「あぁ、その時はこの国は戦争真っ只中だったが、森だけ大魔女様の結界で無傷だったんだ。その事に疑問を持った王様が森に何者かがいると言い出して、調査を開始し出したんだ。迷惑な話だ」
「その男はどうなったんだ?」
「………………いなくなった」
「いなくなった…」
ということは死んだか、殺されたか。
「その男も魔法で少年になってこの森にやって来ていた。だから、お前も」
「おいおい。その男と一緒にされては困るよ💧」
「お前も王様の遣いだろうが。小さくなる際も大方足の裏か太ももの裏にでも魔方陣が描かれているのだろうな」
すげっ、全部当たってら。
内容が的を射てて、変な汗がでる。鋭いどころの話じゃないヤバイなこいつ。
両手の指をそれぞれバキバキ鳴らし、今にも襲いかかってくるような雰囲気がフィンから感じられた。
「今こそ争い事はないが、今の魔女様まで居なくなられては困るのだ。森を守る番人として、返答次第でお前の生死が決まる。で?どうなんだ?お前、いったい」
「フィン?どうした?」
後ろから魔女様の声が聞こえ、恐ろしい顔をしていたフィンは振り向くのと同時にいつもの顔に戻っていた。
「どうかされましたか?」
「いや、なんかすごい禍々しい魔力を感じたから、来てみたんだ。そしたらフィンとロンが見えたから、声かけたんだが…何をしておる」
魔女様が俺と彼の方を交互に見た。
「いいえ。何もしてませんよ。何をして遊ぼうか話していたら、意見が分かれましてね。少し喧嘩になってしまいました」
「何?喧嘩??遊びで??」
「はい。かくれんぼかお絵描きで悩みました」
「しょ、しょうもないな💧そんなことで喧嘩すんなよ」
「ええ…、少し大人げなかったと思います。すみませんね、ロン」
「いえ…だ、大丈夫で、す…💧」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
フィンがこちらを振り向いた。脅すように「話し合わせろ、いいな?」といわんばかりの顔を向けて睨んでくる。勿論、魔女様には見えていない。
「仲良くしろよ。ロンは子供なんだから、大人げないことするな、な?」
「こども、ねぇ」
魔女様の言葉に、フィンは目をすぅ…と細めてこちらを見据えた。騙せているのは今のうちだ、と。
「………………」怖い。
「そうだ、フィン。すまぬが一つ頼まれてくれないか?」
急に思い出したように魔女様がフィンに頼みごとを伝える。
「なんでしょうか」
「今日の夜、私は出かける。帰ってくるのは朝方になるだろうから、ロンと一緒に家で留守番を頼まれてはくれないか?」
「「え!?」」
なんで!!?
魔女様の言葉を聞いた俺たちは、同時に声を出した。
ちょっ、ちょっと待って勘弁してくれ。俺今こいつに怪しまれてんだぞ!?一晩も一緒に居てたまるか!こっちの精神が死ぬ!
「あの、魔女様?」
「ん?何だいロン」
「俺は大丈夫ですので、フィンにご迷惑では…」
「大丈夫な訳があるか。いつ何が入ってくるか分からん。用心に越したことはないから大人しく守られておけ」
「はぁ…」
チラッとフィンの方を見る。怖い顔で俺を見ていた。
ひぃ!背後に般若らしきものが見えるんですけどぉ!!
今にも実現しそうな般若の影が、フィンの背後に控えている。頼むからこっち見んでくれ!!
遊ぶというよりおいかけっこをせざるを得なかった(隙あらば、笑顔で攻撃を仕掛けてくる)。
やってきた恐怖の夜。
魔女様は、一緒にご飯を食べた後、風呂敷を抱えて出掛けていってしまった。正確には、魔法で消えてしまったとい表現が正しいかもしれない。
「…………」
「…………」
部屋の中はとても静かになった。
今フィンの近くにいるのは正直、怖い。
「………あの…」
「なんだ」
「なんかすみません…」
「………魔女様の言いつけだからな。仕方ない。家の中では暴れられんしな、今は何もせん。お前、何飲む?」
「あ、オレンジジュースで」
「普段は何を飲んでいる?」
「……珈琲です」
「んじゃ、珈琲な」
「スミマセン…」
台所で珈琲の豆をごりごりと挽く音が部屋に響く。
「お前、本当にただの調査のためにここにきたのか?」
「え?」
「お前は、本当にただの調査のためにここにきたのか?」
怒ってる…
応えないと殺されるような雰囲気が彼から漏れ出ている。
仕方ない…応えるしかない。ここで死んでは元も子もない。
「…本当だ」
「……………」
彼は無言で挽いた豆をこし布に入れて、沸いたお湯をこし布に注いでいく。
コポコポという音と共に珈琲の独特な匂いが部屋に広がる。懐かしい匂いが小さくなる前の生活を思い出させる。
休みの日は家で本を読みながらよく飲んでいたな。
「砂糖は?」
「二つ程」
「ミルクは?」
「いらないです」
「ほら」
「ありがとうございます」
カップを手渡され、テーブルにはシュガーポットが置かれた。
スプーンでくるくると回し、砂糖を溶かし混ぜる。
ぽちゃぽちゃっぽちゃぽちゃぽちゃ
音がする方をチラリと見る。砂糖五つ、珈琲のカップにどんどん消えていく。
フィンは甘党か。
「こちらに危害は?」
「加えるつもりはない」
「確証は?」
「俺はあるけど、でも……まだない」
「信じ難い解答だな」
「ですよね」
「お前にはなくても、王様が危害を加えるつもりかもしれないしな」
「…………」
「もし危害を加えた場合は、こちらも容赦はしない。お前らの国が滅ぶと思え」
「………肝に銘じておきます」
「肝に銘じておくか…。現実にならなきゃいいな」
ニタリと笑った顔と言葉が頭から離れられず、床に就いても眠れなかった。
自分の言動一つで国の未来が左右されているという重みを感じたからだ。
気を付けねば…。
かけ布団を頭まで被り、どう報告したものかと考えながら、夜が更けるのを待った。
最初の報告と連絡をするために式神を飛ばす。
フィンが起きてこないようにこっそり起き上がり、外に出た。周りを確認してから一枚の式神を取り出す。
「Listen to Ron Harroin's voice and deliver it. Dear Ray Jennon,( 我 ロン・ハロインの声に耳を傾け、届けたまえ。親愛なるレイ・ジェーノンのもとへ)」
手の平に少量の魔力を集め、式神に込める。魔力を受けた式神がかさかさと音を立てて反応し、俺の手の平から勢いよく飛び上がり、宙に止まる。
「go ( 行け )」
俺の声と共に式神は飛び立っていった。王宮で働くレイのもとに。
「どうかお気を付けて」
飛んでいった方を見ながら、無事に届くことを祈ってまじないの言葉を口にした。
その一部始終を、気配を消したフィンに見られていたことにも知らずに。
「大人しくしてたか?」
「はい」
「勿論です」
俺とフィンは即答。にこにこ笑みで魔女様の問いに答えた。
「そうか、良かった。ロン、後で傷を見せておくれ。フィンは?」
「私は泉に戻ります」
「わかった。気をつけて行くんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
そう言ったフィンの足元から水が昇り包まれたかと思ったら、水と一緒に一瞬にして消えていた。
フィンは水の精…じゃないんだよな?
不思議な光景にドキドキしつつも、俺は魔女様に連れられて寝室に向かった。
巻いていた包帯やキズテープ、ガーゼなどを取っていく。
「ふむ、傷もだいぶ塞がっておる。どうやらお主は治りが早いようだな」
「あはは…みたいですね」
本当は友人の付与(治療)魔法効果で治りは少しだけ早くなってるだけなんだけど…こんな早いとは。友人は言ってくれなかったけど、最近になって気がついたことだ。粋なことをしてくれる。
「これなら2日後には家に届けてやれるな」
「え」
「ん?なんだ?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「そうか。何かあれば遠慮なく言いなさい。お前はまだ子供なんだから。さぁ、今日もいっぱい食べて早く傷を治せ」
「はい、ありがとうございます」
まずい…。傷の治りが早すぎて、家に帰される日が早まってしまった。調査はまだ途中。非常にまずい!!
「ロンはこれから何をするんだい?」
「僕は庭に出てます」
「そっか、わかった。私は少しやることがあるのでね、地下に籠る。午後にはティータイムをやるから、庭のバラの影が傾いたら、家に入ってくるんだよ」
「わかりました。行ってきます」
「いってらっしゃい」
キィ バタン
庭に出て、花を見て心洗われていると式神がツィーっと俺のもとにやってきた。
手を差し伸べると手の平に、ツ… と浮かんだまま式神からフワリと言葉が宙に浮かび上がった。
『Ray Jennon responds to the voice of dear Ron Harroin. If you received it, the password.(親愛なるロン・ハロインの声に、レイ・ジェーノンが応える。受け取ったなら、合言葉を)』
「Have a nice day.(どうか素敵な一日を)」
『you too.(あなたも)』
「何でこれが合言葉なんだよ。恥ずいわ」
『あー あー 繋がってる?ロン?おーい、ローン?』
ふわふわと宙に浮いている式神は、クリスマスの飾りの天使のような形をしている。紙だが、動きは通信者の動きに合わせて動くため、呼び掛けと共に袖部分が上下にフリフリとまるで人のような動きをする。
彼が作った式神は特別で、どんな魔法でも遠く離れていても威力が半減することなくそのまま届く。それ故に危険な代物のはずなのだが…、それを通信機代わりにひょいひょい使ってくるため、困った奴だ。だが、誰もそれを止めないのは、それだけ彼の魔力が高いからだ。確か一番偉い役職にいるんだったかな?
「うっせ、聞こえてるわ」
『やった、成功だね!ほぉ、なるほど。ここが深緑の森かぁ…いいね!』
「深緑の森?」
『そ。僕は、そう呼んでいる。だって緑は青々として綺麗だろ』
「そうだな。それよりさ」
『ん?』
「なんだあの合言葉は」
『不満なのか?』
「不満だ」
『何でよ(笑) 良いだろ、この合言葉』
「恥ずかしいわ」
『えー(笑) 言われたら、嬉しくない?』
「まぁ、言われたら嬉しいけどさ…。だからって合言葉にしなくても」
『僕はね、毎日毎日忙しく働いてて、ここ2年くらい家にも帰ってないのよ。独り身の僕には誰かからの温かい労いの言葉がほしいわけよ。わかる?』
「そ…」
その役を俺でいいのかお前… と言いかけて呑み込んだ。彼が忙しく働いているのは知っているし、家に帰れていないのも知っている。合言葉にするくらい労いの言葉がほしいなら、合言葉だが、かけてやらんことも
『まぁ、本当なら可愛い人に言われてみたいがな』
前言撤回。彼のボソリと放った言葉で、一瞬でも心配した俺の優しさを返せと言いたい。
「ったく、用件があって連絡寄越してきたんだろ?なに?」
『……んふふ それにしても、ほんっとに可愛いなぁお前』
「切るか」
通信を切ろうと式神に手を伸ばす。
『わー!悪かったって!ごめんごめん。で?ここはどこかな?』
「魔女様の家だ」
『見つけたのか』
「そうなんだけど、怪我しちゃって。今、世話になっている」
『怪我?誰が?』
「俺が」
『何で?』
「無数の薔薇の棘に引っ掛かって」
『ふぅん 治そうか?』
式神(彼)が俺の怪我の具合を見ているのか、俺の周りをくるくると回った後、前にかざした両袖から黄色い光を出し始めた。
「いや、いい。治ったら町に送り届けるとか言ってたから、治るまではここで厄介になるつもりでいる」
『そっか。なら、そうしなきゃね』
袖から光が消えた。
『家の中見たい!家の中!』
「流石にプライベートだから、だめ」
『お前のプライベートも好きだけど、今は魔女さんのプライベートを見てみたい』
「発言が変態だ!」
『はー失礼な!お前のは好きすぎるあまりの行動だが、魔女さんのは興味での行動だ!一緒にすんな!』
「変態は否定しないんだ」
『変態じゃねぇやい!んっふっふー、隙ありっ!いざ!おっ邪魔しまーす🎶』
「あ!しまった!こら!!待て!!」
式神が勝手に魔女様の家にスルリと入っていったのを慌てて追いかけて勢いよくドアを開けた。
ガチャ!
『素敵な家だ!素晴らしい!!魔女様はどこ??』
くるくると式神が楽しそうに舞い踊る。
「だめだ!こっちに来い!もし魔女様に見つかったら大変…」
「去れ」
急に頭の後ろで冷たい声がした後、俺は式神ごと魔女様の家から、庭から結界の外へと飛ばされ、最初に彷徨っていた森へと弾き出された。飛ばされる際に薔薇の棘が全身に刺さって血だらけとなった。
『大丈夫か!?しっかりしろ!ロン!』
レイが俺に治療魔法をかけている間もフィンとレイが張りつめた空気の中、話をし始めた。
「貴様、誰だ」
『…おや、君こそ誰だい?』
「これから死ぬ奴に名乗る意味なし」
『私はレイ・ジェーノンと言います。以後、お見知りおきを』
「………………」
『その渋い顔は、話聞かねぇめんどくさい奴来たって顔ですね』
「何が目的でここに来た」
『ロンの様子と森の中を見るためにここに来ました』
「偽りは」
『ないですね』
「貴様は王国側の人間。なら。殺すのみ選択肢は生まれない」
『王国側の人間?まさか!あんなおっちゃん知るか!僕は生涯ずっと!ロン大好き人間です!!』
ふすん!と鼻息が聞こえてくるほど、どうだ!言ってやったぞ!感が、顔が見えないのに伝わってくる。
「…………………」
「…………レイ」
『あ、おはようロン😃 なんだい?』
「ちがっ…、そ、そういう、こと、じゃな、くて」
治療魔法で治った俺は、今のこの状況に笑ってはいけないのに、友人の間の抜けたおかしな解答に笑いをこらえながら、彼に言う。
『あれ?なんかお前笑ってるね??』
「わ…笑ってない ( *´ Η ` *)゛」
笑いを堪えながらなんとか答える。
「…………レイと言ったか」
『はい、なんですか? えっと、名無しさん?』
「………フィンだ」
『フィンさん!』
「ロンは、レイになんて報告をしたか聞いても?」
『いいですよ。えーっと、"森に入ることに成功。魔女様への接触に成功した。引き続き調査する。"』
「………」
『これが、表向きの連絡』
「表向き?」
『うん、表向き。で、別に届いた僕宛のは、"レイ!聞いてくれ!今日すんごい冒険したんだ!森に入ったら、話す植物に食べられそうになったけど、仲良くなれたし、狂った人に追いかけられて殺されかけたり、待ち人を待つ一途な人たちが綺麗なラベンダーを咲かせたり、そして、泉に住む人にも会ったんだ!花に詳しくて、もっと話したくなる人でさ!魔女様にも会ったんだ。お面被ってて沢山不思議なんだけど、可愛らしいところもあって優しいんだ。人魚にも会ったよ!レイ、人魚好きだろ?前に会ってみたいとか言ってただろ。怖い人だけど、話せばわかる人(?)だと思うから、お前にも会わせたいな。あと、その人呪いにかかってて、可哀想なんだ。レイ、治せるか?それから……"』
「こちら側の情報駄々漏れなのに、なんか手紙が幼稚だな(笑)子供の作文か(笑)」
『可愛いだろ。興奮しすぎて、文章があっちこっちいってるところとか特に』
「やめろぉぉ!(恥恥)恥ずかしいから、その生暖かい眼を向けるなぁぁぁぁ!!」
両手で顔を覆って、二人から顔を隠す。読み返されると気づく自分の幼稚な文章力。興奮するままに書き綴り、そのまま送って満足してしまったのだ。
「子供に退化する作用でもあるのか?その魔法」
『あっはっは、あるわけないでしょう』
「やめてくださいお願いします」
追い討ちかけるなよ頼むから。
「なんかお前ら見てたら怒る気失せたわ。……レイよ、内容の漏洩は?」
『するわけないでしょう』
「確証は?」
『ロンの手紙は全て僕が大切に金庫に厳重に鍵をかけて保管してますが、今回は、残念ではありますが燃やします』
「信用できないな」
『なら、これならどうです?』
式神が仄かに光る。すると、式神の頭の部分からパッと映像が現れて、レイがにこにこと手を振っている。
『初めまして、レイ・ジェーノンと申します。フィンさん、見えますか?』
「あぁ」
『これ、さっき読んだロンの手紙。こうします』
手紙を持った手から炎がボワッと出ると、紙は一気に灰となって散った。
「確認した」
『よかった。さて、フィンさんや』
「……なんだ?」
『君を家に招待しようと思うのですが、いかがでしょうか』
「はぁ!?ふざけるな!誰が行くか!」
『家族にロンの話をしたら、君に会いたいって人がいるんだけど、森から出てこれないかい?』
「俺に??」
『そう、君に』
「俺の知っている人か?」
『さぁ?昔森に住んでたって言ってたよ』
「あり得ない!森に住んでいる者ほとんどが自我を失って狂ったように彷徨い、抜け出せないでいる。抜け出したものはいないと認識しているが、もしあり得るとしたなら、何か特別な者にしか…」
『僕のお婆様なんだけど…』
「お婆…様?」
『うん。あいにく写真はないんだけど、お婆様が「会えば私だとわかる大丈夫!」って、自信満々に答えてたよ』
『……………』
『あ、あと、こう言えば気づいてくれるって』
「?」
『"五つは入れすぎよ、三つまでね"』
「五つ?三つ?何を言って…フィン?」
レイが言った言葉の意味を考えていると、目の前のフィンが驚いた顔で固まってしまった。開いた口も閉まりきらずパクパクと動かし、か細い声で言葉を口にした。
「…魔女さま……」
『選択はそちらに任せるよ』
「あの方が生きておられる。あの方に会えるのなら……」
『どうやら決まったみたいだね。ロン、怪我が治り次第町に送り出すと言っていたんだろう?なら、その日に僕の家に来るといいよ。その日に僕も王を脅して休暇をもぎt…申請するからさ』
今さらりととんでもないこと言わなかったか?
「わかった、連絡する」
『そうだ!この式神を使っておいでよ。転移魔法施しておくからさ。はい、完了っと』
「早っ」
式神が胸の辺りに手を当てると、ポワーっと小さく発光、胸の辺りに陣が描かれている。
『町を観光したいなら、歩いてくるのもいいね。場所は王都、ロン家、レイ家の三つに設定したから、どれか念じてくれればそこにひとっ飛びだから』
「わかった、ありがとう」
『お婆様がアップルパイとかいろいろ作って待ってると言ってたよ』
「あぁ、楽しみだな」
フィンはどこか懐かしむようにふわりと笑う。
『……誰か来たか。じゃあ、ロンにフィンさん、連絡待ってますねー』
プツッ
通信が切れると、今までふわふわと浮いて人のような動きで動き回っていた式神がただの紙になった。
「あの…このこと、魔女様に伝えるんですか?」
「いや、保留だな」
そう言ったフィンは、顎に手を当てて何かを考えている。
「じゃあ、当日まで黙っているということですね」
「どうだかな。もしかしてペロリと喋っちゃう可能性もあるな」
「まいったな…」
ポリポリと頭をかきながら再び魔女様のいる家にフィンと向かった。
傷の具合から、町への帰還が明後日の朝に決まった。
明日はお茶会をしようと魔女様から言われ、俺も何か手伝いたいと申し出る。
「そうだなぁ、じゃあ君の故郷のお菓子を何か振る舞ってくれるかい」と言われて、何を作ろうか考えている最中だ。
明日は、お茶会に何を作ろうか。
0
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