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下に降りて玄関を過ぎ、大食堂へと向かった。
大食堂に近づくにつれてメイドや執事達が忙しなく動き、入れ替わり立ち替わり出入りしている。
リックと男の子はきょろきょろしながら大食堂の中に入り、部屋の隅に移動した。
「ママいるか?」
「いないよ」
「そっかぁ」
またも二人してきょろきょろと見渡す。
俺はとにかくここからどうやって脱出し、自分の部屋に戻るか考えを巡らせていた。
▼ 1 : リックから無理やり暴れて逃げる。
▼ 2 : 母親見つけて降ろされた時に隙をついて逃げる。
▼ 3 :パーティー開始時に降ろしてもらい、こっそり逃げる。
▼ 4 : 転移魔法使って戻る。(←最終手段)
まだ他にも方法はあるかな…。
うーん…と考えていると「あ!ママだ!」と男の子が食器を出しているメイドを指差してリックに教える。
「ママいた?」
「うん!」
リックは執事やメイド達を避けながら教えられた女性の方に向かっていく。
「あの…」
「はい」
「ママ!」
「え!?リク!?何でここにいるの?迎えに行くまで待っててって言ったでしょ」
振り向くのと同時に男の子の声を聞いてびっくりした様子だった。どうやら知らなかったようだ。
「だって寂しかったんだもん」
「あなたねぇ」
ごめんなさいね、と男の子の方に手を伸ばす彼女は、メイドから母親の顔になっていた。
「すみません、リックさん。まだ仕事が残っていて…もう少しだけお願いできますか?」
「いいですよ」
「!!」(なんだって!?)
俺はドキッとしてしまい、多分体がピクッと動いたんだと思う。リックの視線を頭上に感じる。
「ありがとうございます。終わり次第、迎えに行きますから」
「わかりました。では、パーティーが始まる15分前に玄関の方で待ち合わせしましょう」
「ええ、とても助かります。ありがとうございます」
「では、また」
リックと男の子は彼女に手を振り、大食堂を後にした。
"よかったね"
歌を歌いながらにこにこしている彼女は、筆談の紙を俺に見せている。
よかったけどよくないんだよ、こっちは。
こっちの問題はまだ解決されていない。リックさえ降ろしてくれれば……待てリック。お前どこ行、まさか…
リックが向かっているのは騎士の訓練場だ。
俺は少し暴れて無理やり降りようとしたが、危ないよと言ってリックにしっかり抱き抱えられてしまった。ちくしょう。
訓練場は片付けは終えた後なのか誰もおらず、休憩所のところで声が聞こえている。
「パパはいるかな?」
「パパきょういるよ」
ということは父親は騎士か。
休憩所に入ると、一番先に気付いたのがユース卿だ。
「お、リックか。どうした、子供なんてつれて」
「迷子だったので両親を探してました。母親の方は見つけたので、しばらく預かることになりました。父親はこちらに今日来ているらしいので」
リックは男の子(リク)の方に視線を動かし、ユース卿に教える。
「そうか、えっと、僕、名前は?」
「リクだよ」
「リク君か、お父さん今ここにいるかい?」
「んー…いないよ」
「そっかいないか。なぁ、まだここに来ていない奴、誰かわかるか?」
彼は後ろを向いて残っている騎士に声をかける。
「たしかアイザックとアキュール、ユキ、トールなら竹刀仕舞いに行ったので、もう少ししたら戻ってくると思います」
防具を磨いている少し離れた場所にいる騎士が答えた。
「わかった、ありがとう。となると、アイザックかトールのどちらかかな」
ローブ越しに見ると休憩所の中には騎士がユース卿含めて6人いる。さっき答えた騎士の他に、同じ場所に3人いる。防具を磨いたり掃除をしたりで忙しそうだった。もう一人は不備や足りない防具はないかチェックリストに記入している。
「そちらの子は?」
「この子、声は出せますが話せないみたいで筆談で話してました。耳も聞こえているのかどうかわからないですけど、状況を判断して理解するのは早いみたいです」
さっきリクに小声で話していた声はリックには聞こえてなかったみたいだ。よかった。
「そうか、じゃあ俺も書いた方がいいかな?」
「読唇術はできるようですよ」
リックは俺のことをよく観察しているなと思った。勘違いではあるが、この短時間でその解釈はありがたいかもしれない。喋らなくてよくなる。
「すごいな!」
彼は俺の手をきゅっと軽く握り、フリフリと上下に小さく振る。
ユース卿の手と今の俺の手では大きさがだいぶ違い、俺は情けなくなってくる。早く元に戻りたいのに…。
「じゃあ、普通に話すか。あ、紙とペン用意するからちょっと待ってな」
彼は鞄からごそごそと手帳とペンを取り出し、俺に渡す。
「僕、名前は?」
「…………」
(何て書こうか…💧)
「おにいちゃん、おなまえなぁに?」
上からも同じ質問をする声が聞こえる。
「…………」
(咄嗟に思い付く名前なんてないぞ!💧)
「書きづらいなら抱え直そうか?」
「…………」
(そういうことじゃないんだよ💧)
答えに詰まっていると、休憩所のドアが開く音が鳴った。
大食堂に近づくにつれてメイドや執事達が忙しなく動き、入れ替わり立ち替わり出入りしている。
リックと男の子はきょろきょろしながら大食堂の中に入り、部屋の隅に移動した。
「ママいるか?」
「いないよ」
「そっかぁ」
またも二人してきょろきょろと見渡す。
俺はとにかくここからどうやって脱出し、自分の部屋に戻るか考えを巡らせていた。
▼ 1 : リックから無理やり暴れて逃げる。
▼ 2 : 母親見つけて降ろされた時に隙をついて逃げる。
▼ 3 :パーティー開始時に降ろしてもらい、こっそり逃げる。
▼ 4 : 転移魔法使って戻る。(←最終手段)
まだ他にも方法はあるかな…。
うーん…と考えていると「あ!ママだ!」と男の子が食器を出しているメイドを指差してリックに教える。
「ママいた?」
「うん!」
リックは執事やメイド達を避けながら教えられた女性の方に向かっていく。
「あの…」
「はい」
「ママ!」
「え!?リク!?何でここにいるの?迎えに行くまで待っててって言ったでしょ」
振り向くのと同時に男の子の声を聞いてびっくりした様子だった。どうやら知らなかったようだ。
「だって寂しかったんだもん」
「あなたねぇ」
ごめんなさいね、と男の子の方に手を伸ばす彼女は、メイドから母親の顔になっていた。
「すみません、リックさん。まだ仕事が残っていて…もう少しだけお願いできますか?」
「いいですよ」
「!!」(なんだって!?)
俺はドキッとしてしまい、多分体がピクッと動いたんだと思う。リックの視線を頭上に感じる。
「ありがとうございます。終わり次第、迎えに行きますから」
「わかりました。では、パーティーが始まる15分前に玄関の方で待ち合わせしましょう」
「ええ、とても助かります。ありがとうございます」
「では、また」
リックと男の子は彼女に手を振り、大食堂を後にした。
"よかったね"
歌を歌いながらにこにこしている彼女は、筆談の紙を俺に見せている。
よかったけどよくないんだよ、こっちは。
こっちの問題はまだ解決されていない。リックさえ降ろしてくれれば……待てリック。お前どこ行、まさか…
リックが向かっているのは騎士の訓練場だ。
俺は少し暴れて無理やり降りようとしたが、危ないよと言ってリックにしっかり抱き抱えられてしまった。ちくしょう。
訓練場は片付けは終えた後なのか誰もおらず、休憩所のところで声が聞こえている。
「パパはいるかな?」
「パパきょういるよ」
ということは父親は騎士か。
休憩所に入ると、一番先に気付いたのがユース卿だ。
「お、リックか。どうした、子供なんてつれて」
「迷子だったので両親を探してました。母親の方は見つけたので、しばらく預かることになりました。父親はこちらに今日来ているらしいので」
リックは男の子(リク)の方に視線を動かし、ユース卿に教える。
「そうか、えっと、僕、名前は?」
「リクだよ」
「リク君か、お父さん今ここにいるかい?」
「んー…いないよ」
「そっかいないか。なぁ、まだここに来ていない奴、誰かわかるか?」
彼は後ろを向いて残っている騎士に声をかける。
「たしかアイザックとアキュール、ユキ、トールなら竹刀仕舞いに行ったので、もう少ししたら戻ってくると思います」
防具を磨いている少し離れた場所にいる騎士が答えた。
「わかった、ありがとう。となると、アイザックかトールのどちらかかな」
ローブ越しに見ると休憩所の中には騎士がユース卿含めて6人いる。さっき答えた騎士の他に、同じ場所に3人いる。防具を磨いたり掃除をしたりで忙しそうだった。もう一人は不備や足りない防具はないかチェックリストに記入している。
「そちらの子は?」
「この子、声は出せますが話せないみたいで筆談で話してました。耳も聞こえているのかどうかわからないですけど、状況を判断して理解するのは早いみたいです」
さっきリクに小声で話していた声はリックには聞こえてなかったみたいだ。よかった。
「そうか、じゃあ俺も書いた方がいいかな?」
「読唇術はできるようですよ」
リックは俺のことをよく観察しているなと思った。勘違いではあるが、この短時間でその解釈はありがたいかもしれない。喋らなくてよくなる。
「すごいな!」
彼は俺の手をきゅっと軽く握り、フリフリと上下に小さく振る。
ユース卿の手と今の俺の手では大きさがだいぶ違い、俺は情けなくなってくる。早く元に戻りたいのに…。
「じゃあ、普通に話すか。あ、紙とペン用意するからちょっと待ってな」
彼は鞄からごそごそと手帳とペンを取り出し、俺に渡す。
「僕、名前は?」
「…………」
(何て書こうか…💧)
「おにいちゃん、おなまえなぁに?」
上からも同じ質問をする声が聞こえる。
「…………」
(咄嗟に思い付く名前なんてないぞ!💧)
「書きづらいなら抱え直そうか?」
「…………」
(そういうことじゃないんだよ💧)
答えに詰まっていると、休憩所のドアが開く音が鳴った。
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