夜間勤務のメイド

灯埜

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ママを探せ!

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部屋の外に出て、廊下を数歩歩く。

俺はピタリと止まる。

俺の部屋から台所の廊下の左右の壁には部屋の扉が6つある。
扉はどれも同じデザインで施されており、違うところといえば
ドアノブにかけられた人の有無がわかる目印のリボンがかけられていることくらいだ。

中のドアノブを捻るとリボンが現れ、居ることを教える。
外側のドアノブを捻るとリボンが消える仕組みとなっている。
ドアノブのリボンは、本人が触れると現れるが、他の人が触れてもリボンは現れない。
初めて入居する際、本人の部屋だという魔法の印を部屋の隅に施す。快適に過ごすため、もろもろのシステムの中にドアノブのシステムも組み込まれているのだ。便利。

一応個人の部屋のため、人はあまり通らない。とても静かな空間。6つのドアを過ぎて少し歩くと小さなホール(共有スペース)に出る。小さなホールと6つのドアの廊下には1本の境目の境界線が引かれており、静かな居住からホールに出ると賑やかな声が聞こえる。
共有スペースを通り過ぎてしばらく歩くと台所が見えてくる。

俺はここまでローブを被って慎重に廊下を歩いてきた。
ローブは優れもので、着た者の体に合わせて大きさを変えられる。お師匠様のローブをもらい受けたものだ。

フードを目深に被り、男の子と手を繋いでホールを抜け、台所に向かった。

カーテンと柱の間の影、男の子と最初に会った場所に戻ってきた。

彼女は俺の部屋から台所まで歌を歌って姿を消している。

「おにいちゃん、ママさがそぉ?」
「………ソウダネ」
(むしろ君の母親を探しに来たんだけどね。)

皆で台所を覗くとあのバタバタとした忙しそうな光景はなくなり、メイドとコックが数人で片付けをしていた。

"ここにはいないみたいね"

カリカリと頭の上で音がしたので振り返ると、彼女は書いた文字をこちらに見せていた。
「そうだな」
「あっち」
男の子は台所に母親がいないとわかり、台所からさらに進み、直進か右にわかれる道で、まっすぐ行くと王族の居住がある。親に教えられたのか、「あっちはいっちゃダメだよ」と俺に教えていた。男の子は「こっち」と右にある階段を指し、俺と男の子はゆっくりと降り、踊り場までやっと降りてきた。

「ちょっと休憩…」
俺は踊り場の床に座り込む。
「つかれたぁ」
男の子はへにゃりと俺にもたれ掛かっている。
「えー……」
うごけないとか言ってるし。

"抱っこしようか?"

と彼女が筆談で聞いてきたが、母親が見つかった時、彼女が男の子を離すと急に現れたようになって大変なことになる。まして声など出されては、見えないところから声が聞こえるという恐怖さえ起こり得る。抱っこは避けたい。

男の子には自力で歩いてもらわなければ。

少しして声をかけようと口を開きかけたとき、「あれ?君たちどこの子かな?」と俺たちが降りてきた反対の方向から声が聞こえて、ローブからチラリと覗く。

(リック!)
リックは聴覚と嗅覚が優れているから、匂いは今まだ薬草の匂いがしているからまだ大丈夫だろうが、声はどうにもならない。勘のいい彼にすぐに気付かれる可能性は高い。
「ママ……さ、さがしてる、の」
男の子は彼の顔を見て、ひっ、と泣きそうな顔をしながら俺の後ろに隠れて答える。
彼はピクッと体が動いたが、俺らの目線に合わせるため踊り場より2段降りて膝を階段の床に着いて怖くないアピールをしてくる。
(ちょっとショック受けたんだろうな)
顔には出さないけど、相手が態度で怖がっているとわかると彼は落ち込む。顔には出さないけど。

「ママを一緒に探そうか」
「やだ!怖いもん!」
「……………」
(リック落ち込んじゃったよ)
彼の肩が少し下がった気がした。

俺は男の子の手を握り、「このおじちゃん怖くないよ、優しい人だから大丈夫。きっと肩車してくれるよ」と男の子の耳に小声で囁く。
「ほんと?怖くない?」
涙目の男の子の問いに俺はこくりと頷いて、ポケットから紙とペンを出し、"肩車"と書き、彼に見せた。既婚者の彼はまだ子供はいないが、子供好きだからこれでわかるはず。

「肩車……わかった。おいで、俺が肩車をしてあげよう。高いところからママを一緒に探そう」
「ぅん…」
不安そうに俺の手を握ったまま男の子はおずおずと彼に手を伸ばす。

「そぉら!どうかな?!」
「わぁー!高い!僕大きくなったぁ!」
彼の身長は高いので、男の子は高い高いからの肩車をしてもらい、はしゃいでいる。すっかり恐怖はなくなったようだ。
「よし!ママを探そう!」
「うん!」
俺はやれやれと思いながら自分の部屋に戻ろうと踊り場から上に上がろうと一段上がったところで、「君も」と彼に抱っこされてしまった。何故だ!!Σ( ̄□ ̄;)

「君はどこから来たのかな?」
「あっち!」
彼が男の子に聞くと、男の子は踊り場から下を指差した。
「よし行こう!」
「………」
何で俺まで…。

彼に抱っこされたまま階段をあっという間に降りられてしまった。微笑ましく見ていた彼女も彼の後に続く。
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