夜間勤務のメイド

灯埜

文字の大きさ
36 / 38

みんなでお風呂

しおりを挟む
「おや、もう朝ですか」
「え!?あ、ほんとだ」
お師匠様の声で外を見ると空は明るくなり、日の光がカーテンの間から漏れている。
どうやら没頭しすぎたようだ。

「一旦本読むのやめて、お風呂入ろう」
「そうですね。あ、お師匠様も入りますよね」
「うん」
「そだ、ラナンも入るよね」
『いいの?』
「君は何を気にしてるのか知らないけど、お風呂はみんなで入るのが一番楽しいと古来から決まっているんだよ」
はっ!まさかしばらく入ってなくて汚いとか?とお師匠様がラナンに聞いていた。『汚くないわよ、失礼ね😡』と言い返していた。ラナンはお師匠様に慣れたのかな?
「それはお師匠様だけの持論だから、気にしなくていいよ」

会話をしながら浴室に向かい、早速俺はお風呂を洗剤で力一杯ごしごし洗い始める。
そういえば、使った後掃除してない。いつもは魔法で綺麗にするが、今の俺は魔法が使えない。
2人に頼むわけにもいかないので、急いで洗ってお湯を張ることにした。

「手伝う?」
彼はひょこっと浴室に顔を出して様子を見てきた。
「いえ、大丈夫です!すぐに終わらせますから!」
「そう?じゃあ、お湯張りは私がするよ」
お湯も俺が張りますから、と浴槽から顔を出して答える。
「えっと、では、服を魔法で綺麗にしてほしいのですが」
「いいよ、他は?」
あっさり承諾してくれた。ありがたい。
「特にないです」
「了ー解。お風呂に入ったらやろうか」 
「はい、お願いします。もうちょっと待っててください」
「わかった。さて、ラナンで遊ぼうかなー」
『嫌よ!こっち来ないで!』
バタバタと部屋の中を走り回る2人。寝てないのに元気だな。

コンコン

ドアをノックする音が聞こえて2人はピタリと止まる。
誰だ?

「おはようございます。副団長、起きていますか?」
ユース卿が朝の迎えにやってきたようだ。まずい。返事…
「起きていません」
代わりにお師匠様が返事をした。
「え!?大け、ヴィル殿!?何故副団長の部屋に?」
彼はドアの前まで歩いて近づき、後ろに手を回し組んで話をし始めた。
「いやー本読んでたら朝になっちゃって。これからお風呂なんだ」
「そ、そうなんですか💧」
「うん、そう。俺もクロードもお風呂だからもう少し後にきてくれるとありがたいんだけど」
「わかりました。また後程お伺い致します」
「はーい」

コツコツコツ と遠ざかる足音を聞いてから俺はため息をつく。危なかったー。

「さて、お風呂入ろうか」
「洗い終わったので、あとは洗い流すだけです」
浴室に入ってきたお師匠様は状況を見にきたようだ。
大丈夫かい?と聞いてきた。
「もう少し待っててください」
俺は蛇口をひねって水を流すと、彼は浴槽に向かってパチンと指を鳴らす。すると水がまわったり踊るようにして動き始めた。
「はい、完了♪」
一通り浴槽内を動きまわった水は排水口に吸い込まれるように流れていった。
また蛇口をひねってお湯を出す。

溜まるまで次着る服を用意する。

「溜まったから薬草入れるよ」
「はい」

ふわりと薬草の香りが浴室内に広がり、部屋にも香る。
「はぁーいいねぇ、懐かしい香りのするお風呂。回復するぅ」
ザバァーとお風呂の湯が浴槽から溢れ出す。
そりゃ2人と一匹(?)が入れば一人用の浴槽からお湯も溢れ出すわな。
後ろにお師匠様、前に俺、俺の前にはお風呂に小さな桶を浮かべ、その中にお湯を入れてラナンが入った。
『うあー染みるぅー』
「はぁ、少しだけ楽…」

チャプ…

お師匠様は俺の感想を聞いて、頭を撫でてきた。俺は彼にもたれ掛かる。
「まだ痛むかい?」
「いえ、このお湯に浸かっているときは普段の痛みも少しだけ楽になります。安らぐ一時と言っても過言ではないですね」

彼は俺の前に手を回してぎゅっと抱き締めてきた。
「?」
くすぐったい。というかくすぐってきた。笑って暴れるとお湯がどんどん溢れて流れていった。浴室内に俺とお師匠様の笑い声が響く。

「ははは、はぁ、そっか。それならよかったけど、あまり無理はしないようにね」
「はぁ、はっ、はい」
久々に大笑いした。楽しい。
こうしてお師匠様とお風呂でふざけるのは昔から変わらない。

『……愛、ね』
「「 …… は? 」」

のぼせたんじゃない?とお師匠様と俺とで人差し指をラナンのおでこに指の腹を当てて熱を測り出した。
『のぼせてないわ!むしろあなた達のせいでのぼせそうよ!』
「?何言ってんの?」
お師匠様が俺をぎゅっと抱き締めて、「ちょっとあの子のぼせたみたいだね」とラナンの入っている桶を指で軽く押して俺から遠ざける。
『無自覚!?無自覚なのね!恐ろしいわぁ♡』
流されながら悶えてバシャバシャと桶の中で暴れるとラナン。

その様子を見つつ、俺たちはスルー。
お師匠様は濡れた髪を掻き上げて「上がろうか?」と俺に聞いてきた。
「んー もう少しだけ入ってる…」
「そか、じゃあ、私もー」

チャプ…… とお師匠様が動く度にお湯が鳴る。

側にいる息づかいが聞こえる。

ラナンがキャーキャーと嬉しそうに騒いでいる。

薬草の香りと誰かが側にいる温かさ、薬草とお湯で安らぐ痛みと安心する時間。

お湯に揺られてゆらゆらとほんの少し揺れる無抵抗の身体を足を抱えた状態でお師匠様に少し身体を預けて瞳を閉じる。

「幸せだ」
小さく声が漏れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...