夜間勤務のメイド

灯埜

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彼女の魔法

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彼女のもとを訪れ、頼みごとをするクロード。
新たな暗殺者に襲われるが、彼女の魔法で撃退する。

彼女はクロードを子どもだと思い、接する。







 ──────────────────────




「~♪」

いつものように台所へ行くと、彼女が居た。
声をかけようと思ったが、ふと止まる。

自分の姿が子どもで、ブカブカの服にまたお腹をすかせて台所にやって来たとなると、さすがに怪しまれるのでは… 


咄嗟に入り口の横に隠れ、どうやって入ろうかと悩んでいると後ろから歌声が近くで聞こえているのに気付き、振り返る。

「~♪」
"そんなところでどうしたの?"

紙を見せながら彼女はしゃがんで俺の目線に合わせてくれた。

「………お腹が減った。何か食べるものが欲しい。あと、人を運びたい」

彼女は小首を傾げて、カリカリと紙にペンで何かを書き始めた。

"誰を運びたいの?"

「こっち」

誘導するように彼女の前を歩く。後ろを振り返りながら彼女がちゃんと付いてきているか確認する。

「ここ。この人」

柱に縛り付けておいた黒装束の男を指差して、この人を運んで欲しいと頼む。

"この人ね、わかった。これは、君がやったの?"

「そう」
こくりと頷くと彼女はまたカリカリとペンで書き、紙を見せながら笑顔で俺の頭を優しく撫でる。

「~♪」
" 君、強いんだね。逃げないようにしてるのもえらい!でも、危ないことはしないようにね"

「…………ん。」

頭を撫でられたのが照れくさくて、やめろというように両手で頭を押さえる。ブカブカの袖が頭と顔に全部被さり、顔も隠れる。

"かわいい"

彼女がペンで書いた字を見て、「かわいいって言うな」と訂正を入れる。

「~♪」
割れた窓ガラスを彼女は魔法で直していく。
時間が巻き戻るように、破片がもとの位置に戻っていく。
もと通りになった窓ガラスを確認した後、彼女は耳飾りをとんと1回だけ軽く叩き、次にかかとをとんとんと軽く叩いた。
魔方陣が展開され、俺でも見たことがある魔方陣が彼女の足元に出現した。

眠っている彼をひょいと軽々しく持って、地下牢に向かって歩きだした。
トテトテと俺は、急ぎ足で彼女の後を付いていく。

カタッ ギッ ギィッ

下に降りるとき、2人分の足音ではなく、3人分の足音が地下牢へ続く道中に響いて聞こえていた。

(付いてきている)
俺たちの後ろを付いてきている誰かがいる。

歩き方は、暗殺者そのもの。
奴らの仲間か、はたまた違う奴か。

彼女が地下牢の鍵を開けて、彼をゆっくり降ろす。
彼女が牢から出た後、事は起きた。

刃物が彼女めがけて飛んできたのだ。
彼女はくるりと踊るようにそれ避けて、周りを見る。
ほんのり明るい部屋だが、俺たちの影以外は誰もいなかった。

影に潜む奴なのか?だったら魔力が感知できるはず。
感じ取ろうと目を閉じる。微かにある。が、微量のため正確な位置がわからない。

「~♬」
彼女の歌が変わった。
前に見た暗殺者を苦しめたあの歌だ。

だが、相手は何も効いていないのか、再びナイフが別方向から飛んできた。

姿が見えない、魔法が効かない暗殺者に苦戦すると思いきや、彼女はまた歌を変えた。
「~♫♪♩♪♬」
歌というより、呪文に近い詩。
彼女は踊らず目を閉じ、指揮者のような身振り手振りをしている。

「ぅぐああああ!」
暗殺者は苦しみだし、姿を現した。牢の入り口前でバタバタともがき苦しむ。
響き渡る暗殺者の叫びに乗せて彼女の詩も終盤を迎えるかのように動きも激しくなる。

「~♪♬ ──」
彼女は両手を握り、終わりを告げる。

ヒュー……ヒュー……  と細い息を吐く暗殺者。

彼女は胸に手を当て、スカートを軽くつまみ、足を少し交差させて、暗殺者にお辞儀をした。
「~♪」
何事もなかったかのようにいつもの子守唄を歌いながら。


「に…、ぃ、ちゃ……」
暗殺者が牢の中で眠っている2人に手を伸ばす。

「こいつら三つ子か」
「~♪」
彼女はよしよしと暗殺者の頭を撫でて落ち着かせ、彼も一緒に牢の中に運んだ。

苦しんでいた奴とは思えないくらい安らかな寝息を立ててもう一人の暗殺者に抱きついて眠っている。

カチャリ

静かに鍵をかけて、彼女と俺は地下牢を出ていった。



俺と彼女は台所へきていた。


"君のお陰で彼の居場所がわかったんだよ。ありがとう"

ニコニコ笑顔で紙を見せる彼女にまた頭を撫でられる。

恥ずかしいので、優しく彼女の手を払いのけ、俺も紙に書く。

"なぜわかった?俺は微量の魔力しかを流していない"

「~♪」
"君が魔力を部屋全体により細く長く張り巡らせていたから、彼のいる場所が微妙に歪んで見えたんだよ。あと歌に探知の魔法も乗せていたから、それでわかったんだよ"


(ほぅ、なるほど。歌か)
魔方陣の展開はなかった。どうやって探知の魔法を流したのだろうか。俺でも出きるが、どうしても微量の痕跡が残ってしまう。だが、彼女は微量の痕跡すら残っていない。完璧な魔法だった。

しかも俺の微量の魔力も探知したくらいだ。もしかしたらお師匠様と並ぶ魔法師なのかもしれない。
そう考えたらワクワクして、ペンも紙の上で踊るように走る。


"なるほど、探知か。歌に乗せたのは気がつかなかった。どんな魔法なのかできれば知りたい。あと、先程の詩の意味とかも知りたい。教えていただけないだろうか"

彼女は少し考えて、カリカリと返事を書く。

"君はまるで大人のようなことを言うんだねぇ。魔法の仕組みは教えられないけど、ご飯ならあげられるよ"

"そうですか。残念ですが、仕方ないですね。"

これ以上は踏み込むな。ということか。


カリカリカリ

「~♪」
"ご飯はいかが?"

カリカリ

"いただきます"

カリカリカリカリ トッ

"ちょっと待っててね"


歌を歌いながら、また簡易的な料理を振る舞ってくれた。

今日はハンバーグを小さく一口サイズに切って加えた野菜炒めだった。

カリカリカリ

"夜遅いから、お肉少なめ野菜多めで悪いけど"

カリカリ  コト

"ありがとうございます"
「いただきます」

簡易的なのに、うまい。たしか塩コショウしかしてなかったよな?何でこんなにうまいんだ。


モグモグしながら、気になったことを書いていく。


"彼、魔法効かなかったけど何かしてあったのか?"


彼女はこくりと頷いて教えてくれた。

"特殊な魔法を使った耳栓をつけていたんだよ。危険な魔法で、相手の生命力を吸って使うのが魔法発動の条件。使い続ければ、死ぬ"

真剣な顔で耳を示す。
耳栓は消滅してたらしい。


俺は彼の様子を思い出す。苦しみ方が尋常じゃなかった。
"生命力があれば誰でも使用可能ということか"

彼女はこくりと頷く。

"危険な魔法。禁忌ではないけど、それに近い。彼は何て言われていつから使っていたのかわからないけど、まだ助かる余地あったから大丈夫だと思うよ"

俺の方を見てニコッと笑う。
俺が彼のことを心配して言っている、と思っているんだろうな。
さっぱり違うんだが。

カリカリ

"ならよかった"

俺はこれ以上聞かなかった。
彼女が、心配ないよという顔で俺の頬をナプキンで拭いてきたからだ。
は、恥ずかしくて黙っただけだからな!


これは研究しがいがある。
彼女のことも不思議だが、彼女の使う魔法や魔力も不思議だった。

部屋に戻ったら調べてみるか。


………


すぅすぅ……



カリカリ

"おやすみ。良い夢を"

俺の頭や頬を撫でる感触はしたが、睡魔が強くてそのまま意識を手放してしまった。






パタンという扉を閉める音に目を覚ます。


あれ…… どこからが夢だった? ……わからん
目を擦りながら眠い頭を働かす。

(今回は水を飲んでいないはずだが、どうなってる)
体はまだ小さいままだ。
朝になれば、もとに戻るはず。

キョロキョロ見渡すと、俺はまた昨日の部屋のベッドにいた。
サイドテーブルにあった紙を持ってベッドから降り、隣の部屋に行く。昨日諦めた扉を覚悟を決めて開けてみることにした。

キィ

地下牢のように石に覆われた空間に、どこに繋がっているのかわからない道が続いている。


部屋を出て、足を一歩前に出す。
道に続くランプが次々とついていく。周りが徐々に明るくなっていく。
(すごいな、気配でつくのか)

きょろきょろしながら、ペタペタと響く自分が歩く音を聞きながら道に沿って歩く。

しばらく歩いて、5段だけの階段に扉が見える場所までたどり着いた。
階段を登り、扉を開ける。

キッ

「ここは…」
台所の保存庫に出た。しかも壁と壁の間、ちょうど死角になっており、わかりづらくなっている。

隠し扉?

扉を閉めて台所に向かう。彼女はいない。

窓を見ると外はまだ薄暗い。
彼女の歌が廊下に響いて聞こえる。

昨日と今日、握って寝ていたスプーンを机の上に置いて返す。

紙の端をちぎり、
"ごちそうさまでした。ありがとうございました" 
とスプーンの下に置いて俺は台所を後にした。


自室に戻った俺は、魔法のことで頭がいっぱいだった。
夢中で調べているうちに朝になり、体も元に戻っていた。




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