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第1章 幼・少年期 新たな人生編
第二話「幼児、魔術に触れる」
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時はあっという間に流れ、俺は二歳になった。
足腰もしっかりしてきて、普通に歩けるようになった。
思いの外歩くのが楽しくて、広い家中を歩き回った。
体も大きくなり、二階へ続く階段も勝手に上がれるようになった。
……降りることは怖くてまだ出来ないから、ロトアかルドルフを呼んで迎えに来てもらっているが。
そして、この世界の言語もある程度理解できるようになった。
二階の物置部屋を漁ってみると、何冊か本が出てきた。
「ひょっとして魔術教本なのでは!?」と淡い期待を抱いたが、中身は当然、何を書いているのかさっぱりだった。
が、一ページごとに挿絵があるため、絵本であることはわかった。
俺はその日から毎晩寝る前に、二人に読み聞かせをお願いした。
その甲斐もあって、簡単な読み書きくらいなら出来るようになった。
おまけにリスニング力も鍛えられたため、二人の言っていることは大体わかるようになってきた。
改めて、分かっている情報を紙に書き起こしてみることにした。
・今は明龍暦百五十二年である
・ここは中央大陸の東南部にあるグレイス王国・ヒグニス領・ラニカ村である
・この世界には人族・魔族・竜人族の三種族が存在し、それぞれ言語が独立している
・魔族は人族から忌み嫌われている
・世界人口の大半が人族であり、次点で魔族、一番少ないのが竜人族である
とまあ、ざっとこんな感じだ。
もちろん、俺が書けるのは簡単な文字だけだから、全部日本語でいう平仮名レベルの文字で書いた。
流石にまだ忘れることはないが、いずれこの世界に慣れてしまうと、日本語が分からなくなったりしちゃうのかもしれないな。
ほら、どこぞのK-POPアイドルが、韓国語の勉強を頑張りすぎて日本語が不自由になったみたいな感じで。
ちなみに魔族が嫌われているというのも、絵本で取り入れた情報だ。
何故嫌われているのかルドルフに聞いてみたが、「もう少し大きくなったら教えてやる」と言われてしまった。
下ネタ満載の伝説でも残されているのだろうか。
それを言われたのも半年ほど前のことだから、また聞いたら教えてくれるかもしれない。
そして、当然ながら俺の体も随分と大きくなった。
ロトアと同じ金色の髪の毛、ルドルフと同じエメラルドグリーンの瞳。
まるで本当に二人の子供であるかのようだ。
もちろん血は繋がっていないが、一緒に過ごす時間が長くなると似てくるという話は、本当なのかもしれない。
「ベル、ちょっとおいで」
「なに?」
手招きするロトアは、声を潜めている。
なんだなんだ。秘密のお話か。
「ベル、魔法に興味はある?」
「まほう? ってなに?」
一応、知らないふりをしておこう。
特に理由はない。
「魔法っていうのは……そうね……
なんて説明したらいいのかしら」
確かに、「魔法とは」と突然問われると、俺も答えられる自信がない。
二年間一緒に過ごしてきた感じだと、ロトアはかなりの天然である。
そんな彼女に、この難問が解けるだろうか。
「魔法は、こう……
ボッ! ビュン! ドカーン!って感じのものよ」
これで二歳児に伝わると思っているのだろうか。
オノマトペだけじゃ理解出来るわけないだろう。
俺は魔法そのものを知っているからいいものの、何も知らない本物の二歳児にそう説明して伝わるはずがない。
「うーん……難しいわね……
簡単に言えば、手から火が出たり、水が出たりするの」
「へー!」
最初からそれでよかったじゃねえか。
とはいえ、魔法に興味がないわけがない。
生粋のアニメオタクだった俺は、その中でも特に異世界ものが大好きだった。
魔法が使えるようになれば、いよいよ異世界っぽくなってくる。
「やってみたい!」
「でしょ! そうと決まれば、早速やってみましょう」
「おわっ」
ロトアはおれを抱き抱え、広い庭へ出た。
そんなラガーマンみたいな抱え方しなくても。
滑り込んでトライとかされたりしなけりゃいいんだが。
この家は、夫婦と幼児一人で住むには広すぎるくらい大きい。
庭も、ちっちゃなゲートボールくらいなら出来そうなくらいの広さがある。
二人は元々有名な冒険者で、かなり稼いだのだという。
今でもルドルフは村の周りの魔物を退治したりして、村の治安を守ることで稼ぎを得ている。
どうやらうちは、村の中ではかなり裕福な家庭らしい。
「あ、まずは魔法についての説明をしなきゃね。
まだ二歳のベルに理解できるかしら……」
心配はいらない。
どうも、二十三歳児です。
「まあ、うちの子はもう読み書きができるくらいだし、大丈夫よね」
「難しい表現とかしなければ、理解できるよ」
「『表現』とか『理解』とか、難しい言葉を知ってるわね」
どうも、二十三歳児です。
こんな言葉を使うだけで褒められる歳なのか、俺。
なんだか複雑だな。
「まず、魔法には五つの属性があるの。
火、水、風、土、雷。
得意な属性は人によって違うし、そもそも魔術自体があまり得意じゃない人だっている。」
俺がそうでないことを祈ろう。
せっかく異世界に来たのに魔法が使えないとか、来た意味がないも同然である。
「そして、これは剣術にも言えることなんだけど、『階級』というものが存在するわ」
「階級?」
「ええ。
下から初級、中級、上級、聖級、特級、そして神級。
この階級は、属性ごとに独立してるの。
例えば、『炎砲』という魔術は、『中級火魔術』って感じで分類されるわ」
うおー!
だんだん魔法らしくなってきた!
そんな強そうな名前の技なのに、階級的には下から二番目なのか。
何種類の魔法があるのだろうか。
いずれすべてを網羅したりしたら、歴史に名が残ったりするかもしれない。
「母さんは魔法が得意なの?」
「もちろん。でなきゃ、息子にこんな話もちかけないわよ」
それもそうか。
ロトアのいう「得意」とは、いったいどの程度なのだろうか。
「母さんの階級、当ててみてちょうだい」
「うーん……上級くらい?」
「ぶっぶっぶっぶっぶー!」
なんか「ぶ」が多くないか。
相場は二個までって決まっているんだぞ。
「正解は、特級でした」
「特……級?」
おいおい、まじかよ。
上から二番目じゃねえか。
もしかしてこの人、俺の思っている以上にすごい人だったりするのか?
ただの天然ママとしか思っていなかった。
「ちなみに、どれかの属性で特級魔法を習得していれば、特級魔術師を名乗れるわ。
私、土魔法は初級だもの」
「じゃあ、母さんはどの属性で特級魔法を使えるの?」
「私の得意な属性は水よ。
母さんくらいになれば、天候操作だってできちゃうんだから」
なんだそのチート技は。
どう〇つの森なら某モグラのツルハシで殴り殺されるレベルだぞ。
つまり、この村が水不足に陥ったら雨を降らせたり、
洪水が起きそうくらいの豪雨でも、それを止ませたりできるということか。
何かの禁忌に触れそうな魔法だな。
「でも本当は、それを使うことは固く禁止されてるのよ。
魔法協会が取り決めている法を破ったら、破った人は呪いが発動して死んじゃうから」
やっぱりかよ。
しかも思ってたよりとんでもない禁忌だった。
まあ、自由に使うことを許可したら、悪用する人間が現れるかもしれないしな。
天候操作ってことは、雷雨だって降らせたりできそうだし。
その気になれば、ここラニカ村のような小さな村くらいなら軽く滅ぼしたりできそう。
「さて、それじゃあ試しにやってみせましょうか。
どの属性に興味がある?」
「火の魔法が見てみたいな」
「センスがいいわね。さすがうちの子」
きっとどれを選んでもこう言ってくれただろう。
ロトアはそういう人間だ。
でもやっぱり、男のロマンといったら炎魔法だよな。
数々のラノベを読んできたが、一番興味をそそられるのはやはり炎魔法だった。
ロトアは深呼吸をして、精神を落ち着かせる。
更に、右手を前に出し、左手を右手に添えた。
そして、ロトアの口が開き、詠唱が始まった。
「――『炎』」
唱えた瞬間、ロトアの手のひらに炎が灯った。
「す、すごい……」
これが、魔法。
初めて間近で見たが、こんなにすごいのか。
当たり前だが、すごく暖かい。
……あれ?
そういえば、詠唱は?
俺の知ってる魔法だと、技名を唱える前に長い詠唱を行うはずだが。
もしかしてこれって、俗にいう「無詠唱魔術」というやつか?
これができる人間は世界に数人しかいない的なやつか?
「どう? すごいでしょ?」
「母さん、詠唱は?」
「まあ、どうしてそんなこと知ってるの?」
「あー、えっと……本で読んだから」
「魔術教本なんてどこから見つけてきたのかしら。
どこにやったか全く覚えてないわ」
あ、本当にあるのか。
ちなみに今のは当然、真っ赤な嘘である。
「詠唱が必要なのは、聖級魔法からよ。
上級魔法までは魔法の名前を唱えるだけでいいの。
でもそれが逆に、上級魔法と聖級魔法の壁になってるんだけどね」
「なるほど」
そういうことなら、納得がいった。
つまり、使えるようになったらすごいとされているのは、聖級魔法からというわけだ。
名前からしてすごそうだしな。
俺にも、できるだろうか。
少し不安だ。
「ベルもやってみましょう。
簡単な初級魔法なら、体内の魔力にも影響ないわ」
「わかった」
また新しい単語が出てきたが、ひとまずトライだ。
ロトアのやったように、右手を前に出し、左手を添える。
目を閉じて、深呼吸。
なんとなく、手に力を入れてみる。
「『フレイム』」
……唱えてみたが、何も起きない。
もしかして、俺には使えない……?
「力を入れるんじゃなくて、イメージするの。
自分の体の中の魔力の流れ、それが指先まで流れてくるのを想像する。
そして、手の先に灯った炎をイメージする」
言われた通り、俺なりの「魔力の流れ」をイメージする。
体中を巡り巡って、添えられた左手から右腕に魔力が乗り移る。
前に向かって流れるしかなくなった魔力が、右手の指先へと流れていく。
そして手のひらに、炎が、灯る。
そう脳内で唱えた瞬間、俺の手の先が熱くなっていくのを感じた。
恐る恐る目を開けてみると、そこには確かに、「炎」が灯っていた。
「で、できた……」
「すっごーい!
やっぱりこの子は、魔術の天才だったんだわー!」
ロトアがぴょんぴょん飛び跳ねているのを見て、俺は初めて実感した。
俺は今、魔法を使ったのだと。
「どうしたんだ?」
「聞いて、ルドルフ!
この子、まだ二歳なのに魔法を使えたのよ!」
「まさか、そんなことが出来るはず……」
「『フレイム』」
「えぇぇぇぇぇぇえ!?」
目ん玉が飛び出そうな勢いで目をかっぴらいたルドルフ。
そうだろう、そうだろう。
二十一歳児の力はすごいんだぞ。
とはいっても、まだ初級魔法を一つ使っただけだが。
それでも、二歳にして魔法を使えるということは、この世界においてはかなり凄いのだろう。
これはロトアの教えのおかげだ。
彼女の助言で、何かを掴んだような気がする。
『魔術教本』なるものがあるらしいし、それを探して色々練習してみるのもありかもしれないな。
「しかし、ロトア。俺たちにもし子供ができて、女の子だったら魔術、男の子だったら剣術を学ばせるって約束だっただろ?」
「こんな小さな子に剣術ができるはずないでしょ。
それに、もしかしたらこの子、剣術よりも魔術の方に長けているのかもしれないわよ」
「約束は約束だろう」
「私の話聞いてた?」
「ま、まあまあ……」
喧嘩はおやめなさい。
……正直いうと、魔法の方が好きだけど。
でも、興味はある。
「い、今はまだ体も小さいし、もう少し大きくなったら教えてよ。
剣術にも興味あるし」
「本当か! ベルはいい子だな」
「もうっ……」
ぷくっと膨れ顔を作るロトア。
もしかして、この人がこの世界のヒロインなのか?
母親のはずなのに「可愛い」という感情が湧いてくる。
まあ血は繋がっていないしな。
とりあえず、剣術が学べるようになるその日まで、魔法の練習を頑張ってみよう。
まずは、魔術教本を探し出さなければ。
足腰もしっかりしてきて、普通に歩けるようになった。
思いの外歩くのが楽しくて、広い家中を歩き回った。
体も大きくなり、二階へ続く階段も勝手に上がれるようになった。
……降りることは怖くてまだ出来ないから、ロトアかルドルフを呼んで迎えに来てもらっているが。
そして、この世界の言語もある程度理解できるようになった。
二階の物置部屋を漁ってみると、何冊か本が出てきた。
「ひょっとして魔術教本なのでは!?」と淡い期待を抱いたが、中身は当然、何を書いているのかさっぱりだった。
が、一ページごとに挿絵があるため、絵本であることはわかった。
俺はその日から毎晩寝る前に、二人に読み聞かせをお願いした。
その甲斐もあって、簡単な読み書きくらいなら出来るようになった。
おまけにリスニング力も鍛えられたため、二人の言っていることは大体わかるようになってきた。
改めて、分かっている情報を紙に書き起こしてみることにした。
・今は明龍暦百五十二年である
・ここは中央大陸の東南部にあるグレイス王国・ヒグニス領・ラニカ村である
・この世界には人族・魔族・竜人族の三種族が存在し、それぞれ言語が独立している
・魔族は人族から忌み嫌われている
・世界人口の大半が人族であり、次点で魔族、一番少ないのが竜人族である
とまあ、ざっとこんな感じだ。
もちろん、俺が書けるのは簡単な文字だけだから、全部日本語でいう平仮名レベルの文字で書いた。
流石にまだ忘れることはないが、いずれこの世界に慣れてしまうと、日本語が分からなくなったりしちゃうのかもしれないな。
ほら、どこぞのK-POPアイドルが、韓国語の勉強を頑張りすぎて日本語が不自由になったみたいな感じで。
ちなみに魔族が嫌われているというのも、絵本で取り入れた情報だ。
何故嫌われているのかルドルフに聞いてみたが、「もう少し大きくなったら教えてやる」と言われてしまった。
下ネタ満載の伝説でも残されているのだろうか。
それを言われたのも半年ほど前のことだから、また聞いたら教えてくれるかもしれない。
そして、当然ながら俺の体も随分と大きくなった。
ロトアと同じ金色の髪の毛、ルドルフと同じエメラルドグリーンの瞳。
まるで本当に二人の子供であるかのようだ。
もちろん血は繋がっていないが、一緒に過ごす時間が長くなると似てくるという話は、本当なのかもしれない。
「ベル、ちょっとおいで」
「なに?」
手招きするロトアは、声を潜めている。
なんだなんだ。秘密のお話か。
「ベル、魔法に興味はある?」
「まほう? ってなに?」
一応、知らないふりをしておこう。
特に理由はない。
「魔法っていうのは……そうね……
なんて説明したらいいのかしら」
確かに、「魔法とは」と突然問われると、俺も答えられる自信がない。
二年間一緒に過ごしてきた感じだと、ロトアはかなりの天然である。
そんな彼女に、この難問が解けるだろうか。
「魔法は、こう……
ボッ! ビュン! ドカーン!って感じのものよ」
これで二歳児に伝わると思っているのだろうか。
オノマトペだけじゃ理解出来るわけないだろう。
俺は魔法そのものを知っているからいいものの、何も知らない本物の二歳児にそう説明して伝わるはずがない。
「うーん……難しいわね……
簡単に言えば、手から火が出たり、水が出たりするの」
「へー!」
最初からそれでよかったじゃねえか。
とはいえ、魔法に興味がないわけがない。
生粋のアニメオタクだった俺は、その中でも特に異世界ものが大好きだった。
魔法が使えるようになれば、いよいよ異世界っぽくなってくる。
「やってみたい!」
「でしょ! そうと決まれば、早速やってみましょう」
「おわっ」
ロトアはおれを抱き抱え、広い庭へ出た。
そんなラガーマンみたいな抱え方しなくても。
滑り込んでトライとかされたりしなけりゃいいんだが。
この家は、夫婦と幼児一人で住むには広すぎるくらい大きい。
庭も、ちっちゃなゲートボールくらいなら出来そうなくらいの広さがある。
二人は元々有名な冒険者で、かなり稼いだのだという。
今でもルドルフは村の周りの魔物を退治したりして、村の治安を守ることで稼ぎを得ている。
どうやらうちは、村の中ではかなり裕福な家庭らしい。
「あ、まずは魔法についての説明をしなきゃね。
まだ二歳のベルに理解できるかしら……」
心配はいらない。
どうも、二十三歳児です。
「まあ、うちの子はもう読み書きができるくらいだし、大丈夫よね」
「難しい表現とかしなければ、理解できるよ」
「『表現』とか『理解』とか、難しい言葉を知ってるわね」
どうも、二十三歳児です。
こんな言葉を使うだけで褒められる歳なのか、俺。
なんだか複雑だな。
「まず、魔法には五つの属性があるの。
火、水、風、土、雷。
得意な属性は人によって違うし、そもそも魔術自体があまり得意じゃない人だっている。」
俺がそうでないことを祈ろう。
せっかく異世界に来たのに魔法が使えないとか、来た意味がないも同然である。
「そして、これは剣術にも言えることなんだけど、『階級』というものが存在するわ」
「階級?」
「ええ。
下から初級、中級、上級、聖級、特級、そして神級。
この階級は、属性ごとに独立してるの。
例えば、『炎砲』という魔術は、『中級火魔術』って感じで分類されるわ」
うおー!
だんだん魔法らしくなってきた!
そんな強そうな名前の技なのに、階級的には下から二番目なのか。
何種類の魔法があるのだろうか。
いずれすべてを網羅したりしたら、歴史に名が残ったりするかもしれない。
「母さんは魔法が得意なの?」
「もちろん。でなきゃ、息子にこんな話もちかけないわよ」
それもそうか。
ロトアのいう「得意」とは、いったいどの程度なのだろうか。
「母さんの階級、当ててみてちょうだい」
「うーん……上級くらい?」
「ぶっぶっぶっぶっぶー!」
なんか「ぶ」が多くないか。
相場は二個までって決まっているんだぞ。
「正解は、特級でした」
「特……級?」
おいおい、まじかよ。
上から二番目じゃねえか。
もしかしてこの人、俺の思っている以上にすごい人だったりするのか?
ただの天然ママとしか思っていなかった。
「ちなみに、どれかの属性で特級魔法を習得していれば、特級魔術師を名乗れるわ。
私、土魔法は初級だもの」
「じゃあ、母さんはどの属性で特級魔法を使えるの?」
「私の得意な属性は水よ。
母さんくらいになれば、天候操作だってできちゃうんだから」
なんだそのチート技は。
どう〇つの森なら某モグラのツルハシで殴り殺されるレベルだぞ。
つまり、この村が水不足に陥ったら雨を降らせたり、
洪水が起きそうくらいの豪雨でも、それを止ませたりできるということか。
何かの禁忌に触れそうな魔法だな。
「でも本当は、それを使うことは固く禁止されてるのよ。
魔法協会が取り決めている法を破ったら、破った人は呪いが発動して死んじゃうから」
やっぱりかよ。
しかも思ってたよりとんでもない禁忌だった。
まあ、自由に使うことを許可したら、悪用する人間が現れるかもしれないしな。
天候操作ってことは、雷雨だって降らせたりできそうだし。
その気になれば、ここラニカ村のような小さな村くらいなら軽く滅ぼしたりできそう。
「さて、それじゃあ試しにやってみせましょうか。
どの属性に興味がある?」
「火の魔法が見てみたいな」
「センスがいいわね。さすがうちの子」
きっとどれを選んでもこう言ってくれただろう。
ロトアはそういう人間だ。
でもやっぱり、男のロマンといったら炎魔法だよな。
数々のラノベを読んできたが、一番興味をそそられるのはやはり炎魔法だった。
ロトアは深呼吸をして、精神を落ち着かせる。
更に、右手を前に出し、左手を右手に添えた。
そして、ロトアの口が開き、詠唱が始まった。
「――『炎』」
唱えた瞬間、ロトアの手のひらに炎が灯った。
「す、すごい……」
これが、魔法。
初めて間近で見たが、こんなにすごいのか。
当たり前だが、すごく暖かい。
……あれ?
そういえば、詠唱は?
俺の知ってる魔法だと、技名を唱える前に長い詠唱を行うはずだが。
もしかしてこれって、俗にいう「無詠唱魔術」というやつか?
これができる人間は世界に数人しかいない的なやつか?
「どう? すごいでしょ?」
「母さん、詠唱は?」
「まあ、どうしてそんなこと知ってるの?」
「あー、えっと……本で読んだから」
「魔術教本なんてどこから見つけてきたのかしら。
どこにやったか全く覚えてないわ」
あ、本当にあるのか。
ちなみに今のは当然、真っ赤な嘘である。
「詠唱が必要なのは、聖級魔法からよ。
上級魔法までは魔法の名前を唱えるだけでいいの。
でもそれが逆に、上級魔法と聖級魔法の壁になってるんだけどね」
「なるほど」
そういうことなら、納得がいった。
つまり、使えるようになったらすごいとされているのは、聖級魔法からというわけだ。
名前からしてすごそうだしな。
俺にも、できるだろうか。
少し不安だ。
「ベルもやってみましょう。
簡単な初級魔法なら、体内の魔力にも影響ないわ」
「わかった」
また新しい単語が出てきたが、ひとまずトライだ。
ロトアのやったように、右手を前に出し、左手を添える。
目を閉じて、深呼吸。
なんとなく、手に力を入れてみる。
「『フレイム』」
……唱えてみたが、何も起きない。
もしかして、俺には使えない……?
「力を入れるんじゃなくて、イメージするの。
自分の体の中の魔力の流れ、それが指先まで流れてくるのを想像する。
そして、手の先に灯った炎をイメージする」
言われた通り、俺なりの「魔力の流れ」をイメージする。
体中を巡り巡って、添えられた左手から右腕に魔力が乗り移る。
前に向かって流れるしかなくなった魔力が、右手の指先へと流れていく。
そして手のひらに、炎が、灯る。
そう脳内で唱えた瞬間、俺の手の先が熱くなっていくのを感じた。
恐る恐る目を開けてみると、そこには確かに、「炎」が灯っていた。
「で、できた……」
「すっごーい!
やっぱりこの子は、魔術の天才だったんだわー!」
ロトアがぴょんぴょん飛び跳ねているのを見て、俺は初めて実感した。
俺は今、魔法を使ったのだと。
「どうしたんだ?」
「聞いて、ルドルフ!
この子、まだ二歳なのに魔法を使えたのよ!」
「まさか、そんなことが出来るはず……」
「『フレイム』」
「えぇぇぇぇぇぇえ!?」
目ん玉が飛び出そうな勢いで目をかっぴらいたルドルフ。
そうだろう、そうだろう。
二十一歳児の力はすごいんだぞ。
とはいっても、まだ初級魔法を一つ使っただけだが。
それでも、二歳にして魔法を使えるということは、この世界においてはかなり凄いのだろう。
これはロトアの教えのおかげだ。
彼女の助言で、何かを掴んだような気がする。
『魔術教本』なるものがあるらしいし、それを探して色々練習してみるのもありかもしれないな。
「しかし、ロトア。俺たちにもし子供ができて、女の子だったら魔術、男の子だったら剣術を学ばせるって約束だっただろ?」
「こんな小さな子に剣術ができるはずないでしょ。
それに、もしかしたらこの子、剣術よりも魔術の方に長けているのかもしれないわよ」
「約束は約束だろう」
「私の話聞いてた?」
「ま、まあまあ……」
喧嘩はおやめなさい。
……正直いうと、魔法の方が好きだけど。
でも、興味はある。
「い、今はまだ体も小さいし、もう少し大きくなったら教えてよ。
剣術にも興味あるし」
「本当か! ベルはいい子だな」
「もうっ……」
ぷくっと膨れ顔を作るロトア。
もしかして、この人がこの世界のヒロインなのか?
母親のはずなのに「可愛い」という感情が湧いてくる。
まあ血は繋がっていないしな。
とりあえず、剣術が学べるようになるその日まで、魔法の練習を頑張ってみよう。
まずは、魔術教本を探し出さなければ。
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