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第1章 幼・少年期 新たな人生編
第十六話「一泊二日、アヴァン旅行」
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王宮に来る前に少しだけネタバレは食らったが、初見です、こんにちは。
やっぱグレイス王国の都市ってのもあって、ラニカ村とはわけが違うな。
なんというか、まず建物がでかい。
アヴァンを東京とするなら、ラニカ村は島根って感じだろうか。
ちなみに島根に行ったことはない。
島根県民のみんな、ごめんね。
ラニカ村もかなり活気のある場所だが、ガヤガヤ度が違う。
言っちゃ悪いが、ここは空気はまずい。
ラニカ村は広い平原が近いのもあって空気が澄んでいるが、ここは建物と人の密度が高い。
目は疲れるが、目が暇になることがないのはいいな。新鮮な気分だ。
「ご存知の通り、アヴァンはグレイス王国で一番大きな街だ。
人口は確か……150万人くらいだったかな」
「それ、世界的に見てもかなり大きいのでは?」
「グレイス王国自体、世界で見ても大きな国だからね。
王国全体の人口は1000万人に達する」
ってことは、本当に日本みたいなものなのか。
人口が少ないのと、内陸国であることを除けばもう日本だ。
グレイス王国には第八都市くらいまであるって話だが、何を基準に数字がついているんだ。
やっぱ人口か?
いや、面積かもしれないな。
「君は、図書館に行きたいんだったかな?」
「はい。人間語以外の言語を学びたくて」
「わあ、その年でかい? 本当に六歳なのか疑うよ」
アラサーですよ、中身は。
あんたよりもよっぽど年上だぜ。
「でも、図書館では本を借りることしかできない。
三週間の貸出期限内に返さないと、罰金が生じる。
この罰金がかなり厄介でね。割と痛い額を持っていかれる」
語り口的に、経験があるんだろうな。
王族でもそういうことがあるのか。
三週間後にまた九時間かけてここに返しにかなきゃならないのか。
本を返すためだけにここまで来るのは面倒だな。
「この街には図書館の他に、書店がある。
エリーゼを救ってくれたお礼に、一冊何か買ってあげよう」
「ですが、お金はちゃんともってきて……」
「ワシに逆らうのか?」
「それやめてください」
コーネルの真似をした。
これ悪意あるだろ。あんま似てねぇし。
でも、このご厚意には甘えるしかないな。
命救っといてよかった。
「ちょっと! あたしも連れて行きなさいよ!」
「どわっ! びっくりした!」
背後から走ってきたのは、エリーゼだった。
コーネルの膝の上から脱出したのか。
自分から捕まりに行ってたが。
テペウスは「仕方ないなぁ」と言って、歩き出した。
エリーゼは久々のアヴァンにウキウキしている。
テペウスは、ちょっと浮かない顔をしている。
あー、これ、「エリーゼにも何か買わないとな」って顔だ。
目の前で俺が何かを買ってもらっていたら、絶対エリーゼも何か欲しがるだろう。
いくら王族で金持ちだとはいえ、思わぬ出費×2は痛いのだろうか。
でも、流石に王族だし、痛くも痒くもないんじゃないか。
それか、エリーゼがとんでもなく高価なものを要求するとか。
……後者が有力だな。
普通に「こっからここまで全部買って!」とか言い出してもおかしくない。
いやおかしいけど、エリーゼなら言いかねないだろう。
こんなに容易く想像できることはない。
「エリーゼ、ベルは勤勉な子だよ。
君も勉強は頑張っているのかな?」
「うぐっ……し、してるわよ」
「僕が色々教えていますが、よく『トイレに行く』と言ってサボっ――」
「あー、お勉強してるときだけお腹が痛くなる病気なのよ!
でも、痛くないときはまじめに頑張ってるわ!」
「んー! んー!」
嘘ばっかこきやがって。
んな病気あってたまるか。
と言いたいが、エリーゼに片手で口を塞がれているため何も喋れない。
「ベロベロベロベロ」
「何してんのよ!」
「ごはぁ!」
塞がれている手を舐めまわして見たら、案の定腹パンされた。
鳩尾に……綺麗に入った……!
「仲がいいね」
「これのどこを見て……ゲホッ……!」
俺は水魔法でエリーゼの手を洗い、謝った。
こいつ、俺の服で手を拭いてきやがった。
俺の唾液を宿主に返そうとするな。
「ここだよ」
「わあ……」
ボロ……味のある店だ。
でも、本屋とかって古びれている店のほうがいい味出てていいかも。
この街の景観を見た後だと、ちょっと浮いて見えるが。
書店に入ると、たくさんの本が並べられていた。
当然だが、うちよりもたくさん本がある。
言語に関しての本は……こっちか。
「どの言語が学びたいんだい?」
「なるべくまんべんなく勉強したいですけど……
一冊までなので、魔人語にします」
「ふむ……二冊くらいならいいだろう」
「えっ、でも……」
「ワシの――」
「ありがとうございます!」
コーネルの真似キャンセルに成功。
そこまでしてもらうつもりはなかったんだけど、せっかくの機会だしな。
甘えに甘えさせてもらおう。
俺は魔人語と竜人語の本を選び、手に取った。
開いてみたが、何も読めない。
勉強を続ければ、これが全部理解できるようになるのだろうか。
人間語を完全に理解するのに二年くらいかかったが、どのくらい勉強すればマスターできるかな。
「グレイス金貨四枚です……って、テペウス様!?
それにエリーゼ様まで……」
「こんにちは。これで足りるかな?」
女性店員は突然の王子と王女の登場に狼狽えている。
そりゃ急に現れた客が王族だったら驚くわな。
グレイス王国には、「グレイス銅貨」、「グレイス銀貨」、「グレイス金貨」の三種類の通貨がある。
銀貨は銅貨の十枚分、更に金貨は銀貨の十枚分だ。
いやたけーな、おい。
この分厚さならそのくらいするか。
二冊ともハリー〇ッターくらい分厚い。
「あたしにも何か買いなさいよ」
「そう言うと思ったよ。何が欲しいんだい」
「剣が欲しいわ」
そうか。あの時剣を失って以来、剣がないのか。
そういえば、復興作業中にエリーゼの剣が出てきた。
鉄剣だったため火の熱に耐えられず、刃の部分はドロドロに溶けていた。
「うーむ……剣は高いんだよなぁ……」
「お願い、お兄ちゃん」
「もちろんだ」
シスコンだった。
しかし、今の頼み方は凄く可愛かった。
体を寄せて上目遣いでお願いするなんて、九歳にして自分の武器をよく理解しているな。
まるで自分が可愛いということに気づいているかのよう。
こうやって甘やかされて育ってきたから、わがままな女の子になってしまったんだろう、
おかげで俺は、毎日殴られ蹴られ。
元凶は目の前にいた。
少し歩き、商業エリアに着いた。
ここには食べ物から日用品まで様々なものが売られており、この街で一番繁盛しているエリアだ。
「わぁ! 剣がたくさんあるわ!
何本買ってくれるのかしら!」
「一本に決まっているだろう」
「お願い、お兄ちゃん」
「ダメだ」
「けっ」
追い、今本性が垣間見えたぞ。
本当に、傲慢な王女様だ。
流石のシスコン王子でも二度目のハニートラップには引っ掛からなかったか。
俺なら引っ掛かってた。
エリーゼは目を輝かせながら店内を回る。
他の客に驚かれているが、そんなことを気にせずに剣に夢中になっている。
剣術に対しては向上心が凄まじいな。
そのやる気を勉強にも向けてくれたらありがたいんだが。
俺は無償で授業をしているというのに、高確率でバックレられる。
やり返しが怖くて毎回見逃しているから、俺はきっと見下されているんだろう。
だが、わからせはよくないしな……。
ああいう系は嫌いだ。女の子が可哀想になる。
なんの話だよ。
「どんな剣がいいんですか?」
「強そうな剣よ!」
「強いかどうかはその人の技術によって決まるのでは……?」
「その通りだ」
「何よあんた達。いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「男の友情っていうのはすぐに出来て、長続きするものなんですよ」
「うむ」
女同士の友人関係って色々面倒くさいってよく聞くんだよな。
聞いてると、「ああ、男に生まれてよかった」って思う。
ブルゾン〇えみの逆バージョンだな。
エリーゼは十五分ほど迷った末に、一本の剣を選んだ。
派手な装飾はなく、極めてシンプルな剣だ。
「金貨五枚になります」
「これ、王族補正で安くなったりしないの?」
「なんてこと言うんですか」
補正とか、この世界の人間が使う言葉じゃなさすぎるだろ。
貴族割引とか実際あるのかは気になるところだ。
本も買ったし、エリーゼの欲望も満たせたし。
今日は大満足だ。
---
「馬鹿者! ワシに嘘をついてどこをほっつき歩いとったんだ!」
俺たちは揃って、コーネルの大目玉を食らった。ごめんちゃい。
でも、連れ出したのはテペウスだから、俺達はそれに仕方なくついていっただけなんだからね!
---
「乾杯!」
色々あったが、コーネル主催の食事会が開かれた。
これが、王族の食事。
エリーゼがパノヴァ家に来た時の歓迎会の食事もかなり豪華だったが、正直格が違う。
村でも指折りの裕福な家庭のご馳走と、王族のご馳走。
普段食べているロトアの食事は絶品だが、こんなご馳走が果たして俺の口に合うのかどうか。
「美味っ!」
合った。
というか、合わないわけがない。
ロトアの手料理には勝てないが、これまでに食べたことがない味だ。
少なくともガキンチョ向けの料理ではない。
この体が転生体でよかった。
この料理のおいしさが分かるのはきっと大人だけだ。
「これ、久しぶりに食べたわ。
相変わらずアンジェラの料理は美味しいわね」
「ありがとうございます」
あ、俺たちを案内してくれたメイドさんだ。
アンジェラさんっていうのか。
十五歳の自分に手紙とか書いてそうだな。
「君、小さいのにしっかりしているよなぁ。
どこでそんな礼儀作法とか覚えたんだ?」
「エリーゼにご教授いただきました」
「頭が良くて、顔もいい。エリーゼの旦那にピッタリだな」
「なっ……!」
「御冗談を」
エリーゼは顔を赤くしている。
なーに照れてんだ?
もしかして本気でそんなこと考えてたのか?
という感じでエリーゼの方をチラチラ見ると、鋭い眼光で睨みつけられた。
後で何されるかわからないな、こりゃ。
食事会に出席しているのは、
王宮の当主であるコーネル、
その妻であるリディア、
第一王子のテペウス、
第二王子のパーヴェル、
第三王子のジェラルド、
リベラ、そして俺とエリーゼだ。
他のメイド達は周りで俺たちの様子を見守っている。
こういう使用人の人たちって、どんな生活をしているんだろうか。
二十四時間密着ドキュメンタリーみたいなのやってみたい。
…………夜のお仕事とかがあった場合はまずいか。
「ベル、伝説とか興味あるか?」
「『銀髪の英雄』、大好きです」
「後で読み聞かせてやろう。
俺は昔からエリーゼに読み聞かせをしてたから、得意なんだぞ」
「楽しみにしておきます」
パーヴェルはかなり気前のいいあんちゃんだ。
俺と一番気が合いそうなのはこの人だろう。
伝説が好きなら趣味も合うし。
しかし、最近そういう本は読んでいないな。
魔術の練習とエリーゼの相手で忙しくて、あまり自分の時間が作れていない。
この王宮は大きいから、たくさん蔵書がありそう。
それなら、わざわざ買いに行かなくてもよかったかもしれない。
「……」
「……?」
どでかい肉を頬張る俺を、二つの目が見つめている。
目が合ったのは、リディアだ。
俺、何かしただろうか。
顔に何かついてるとか?
目を逸らすのは失礼だろうし、相手が目を離すまでは目を逸らさないようにしよう。
「……」
「……」
リディアは手に持っていたワイングラスを置き、俺のほうに歩いてきた。
え、何されるんだ俺。
眉間にしわが寄っているし、ビンタでもされるのか。
やめてくれ!親父には木剣でぶっ叩かれたことしかないのに!
「――ああっ!もうっ! 可愛いわねあなた!」
「ぶわっ!」
腕を広げたリディアにビビッて目を閉じた俺は、次に目を開けたときには柔らかい感覚に包まれていた。
うおっ!これは――!
ビッグ・オパーイだー!
「ちょ、ちょっと奥様……」
「抱きしめずにはいられないわ!
ロトアさんに頼み込んでうちの子にしてもらおうかしら!」
その場合俺の意思はどうなるんだ。
リディアはエリーゼとよく似た髪の色で、親子だということが一目で分かる。
……あの、そろそろ離して欲しいんですが。
胸の中で窒息死してしまう。
疲れた時に真っ先に飛び込むのが女の胸なのであって、人を窒息させるための武器ではない。
でもこの胸の中で死ねるなら本望かもしれない。
「っぷはぁ!」
「どう? 大きいでしょう、私の胸は」
「最高でした、奥さん」
「貴様、ワシの妻に手を出すのは流石に許さんぞ」
「冗談ですよ」
嘘ではないけど。
最高でしたよ、そりゃもう。
エリーゼからは白い目で見られ、他の兄弟達も苦笑い。
うーん、快楽の代わりに印象が悪くなってしまったようだ。
一瞬の快楽のために他の物を捨てるというのは、どの世界においてもよくないことだな。
こういうのを、トレードオフというのか。
絶対違うな。
「そうだ。ベルの十歳の誕生日の時に、アヴァンに家族を招いて誕生日会をしましょう」
「お、それはいいですね。ベル君の家族も喜ぶだろう」
「どうして10歳なんですか?」
「貴族や王族は、5歳、10歳、15歳になった時に周辺の貴族を集めてパーティーをするのよ」
「なるほど」
ほえー、そんな風習まであるのか。
俺なんかのためにそんな大々的にパーティーなんて恐れ多いな。
でも、このご厚意は受け取っておかなければならない。
理由は、もう言わずとも分かるだろう。
やっぱグレイス王国の都市ってのもあって、ラニカ村とはわけが違うな。
なんというか、まず建物がでかい。
アヴァンを東京とするなら、ラニカ村は島根って感じだろうか。
ちなみに島根に行ったことはない。
島根県民のみんな、ごめんね。
ラニカ村もかなり活気のある場所だが、ガヤガヤ度が違う。
言っちゃ悪いが、ここは空気はまずい。
ラニカ村は広い平原が近いのもあって空気が澄んでいるが、ここは建物と人の密度が高い。
目は疲れるが、目が暇になることがないのはいいな。新鮮な気分だ。
「ご存知の通り、アヴァンはグレイス王国で一番大きな街だ。
人口は確か……150万人くらいだったかな」
「それ、世界的に見てもかなり大きいのでは?」
「グレイス王国自体、世界で見ても大きな国だからね。
王国全体の人口は1000万人に達する」
ってことは、本当に日本みたいなものなのか。
人口が少ないのと、内陸国であることを除けばもう日本だ。
グレイス王国には第八都市くらいまであるって話だが、何を基準に数字がついているんだ。
やっぱ人口か?
いや、面積かもしれないな。
「君は、図書館に行きたいんだったかな?」
「はい。人間語以外の言語を学びたくて」
「わあ、その年でかい? 本当に六歳なのか疑うよ」
アラサーですよ、中身は。
あんたよりもよっぽど年上だぜ。
「でも、図書館では本を借りることしかできない。
三週間の貸出期限内に返さないと、罰金が生じる。
この罰金がかなり厄介でね。割と痛い額を持っていかれる」
語り口的に、経験があるんだろうな。
王族でもそういうことがあるのか。
三週間後にまた九時間かけてここに返しにかなきゃならないのか。
本を返すためだけにここまで来るのは面倒だな。
「この街には図書館の他に、書店がある。
エリーゼを救ってくれたお礼に、一冊何か買ってあげよう」
「ですが、お金はちゃんともってきて……」
「ワシに逆らうのか?」
「それやめてください」
コーネルの真似をした。
これ悪意あるだろ。あんま似てねぇし。
でも、このご厚意には甘えるしかないな。
命救っといてよかった。
「ちょっと! あたしも連れて行きなさいよ!」
「どわっ! びっくりした!」
背後から走ってきたのは、エリーゼだった。
コーネルの膝の上から脱出したのか。
自分から捕まりに行ってたが。
テペウスは「仕方ないなぁ」と言って、歩き出した。
エリーゼは久々のアヴァンにウキウキしている。
テペウスは、ちょっと浮かない顔をしている。
あー、これ、「エリーゼにも何か買わないとな」って顔だ。
目の前で俺が何かを買ってもらっていたら、絶対エリーゼも何か欲しがるだろう。
いくら王族で金持ちだとはいえ、思わぬ出費×2は痛いのだろうか。
でも、流石に王族だし、痛くも痒くもないんじゃないか。
それか、エリーゼがとんでもなく高価なものを要求するとか。
……後者が有力だな。
普通に「こっからここまで全部買って!」とか言い出してもおかしくない。
いやおかしいけど、エリーゼなら言いかねないだろう。
こんなに容易く想像できることはない。
「エリーゼ、ベルは勤勉な子だよ。
君も勉強は頑張っているのかな?」
「うぐっ……し、してるわよ」
「僕が色々教えていますが、よく『トイレに行く』と言ってサボっ――」
「あー、お勉強してるときだけお腹が痛くなる病気なのよ!
でも、痛くないときはまじめに頑張ってるわ!」
「んー! んー!」
嘘ばっかこきやがって。
んな病気あってたまるか。
と言いたいが、エリーゼに片手で口を塞がれているため何も喋れない。
「ベロベロベロベロ」
「何してんのよ!」
「ごはぁ!」
塞がれている手を舐めまわして見たら、案の定腹パンされた。
鳩尾に……綺麗に入った……!
「仲がいいね」
「これのどこを見て……ゲホッ……!」
俺は水魔法でエリーゼの手を洗い、謝った。
こいつ、俺の服で手を拭いてきやがった。
俺の唾液を宿主に返そうとするな。
「ここだよ」
「わあ……」
ボロ……味のある店だ。
でも、本屋とかって古びれている店のほうがいい味出てていいかも。
この街の景観を見た後だと、ちょっと浮いて見えるが。
書店に入ると、たくさんの本が並べられていた。
当然だが、うちよりもたくさん本がある。
言語に関しての本は……こっちか。
「どの言語が学びたいんだい?」
「なるべくまんべんなく勉強したいですけど……
一冊までなので、魔人語にします」
「ふむ……二冊くらいならいいだろう」
「えっ、でも……」
「ワシの――」
「ありがとうございます!」
コーネルの真似キャンセルに成功。
そこまでしてもらうつもりはなかったんだけど、せっかくの機会だしな。
甘えに甘えさせてもらおう。
俺は魔人語と竜人語の本を選び、手に取った。
開いてみたが、何も読めない。
勉強を続ければ、これが全部理解できるようになるのだろうか。
人間語を完全に理解するのに二年くらいかかったが、どのくらい勉強すればマスターできるかな。
「グレイス金貨四枚です……って、テペウス様!?
それにエリーゼ様まで……」
「こんにちは。これで足りるかな?」
女性店員は突然の王子と王女の登場に狼狽えている。
そりゃ急に現れた客が王族だったら驚くわな。
グレイス王国には、「グレイス銅貨」、「グレイス銀貨」、「グレイス金貨」の三種類の通貨がある。
銀貨は銅貨の十枚分、更に金貨は銀貨の十枚分だ。
いやたけーな、おい。
この分厚さならそのくらいするか。
二冊ともハリー〇ッターくらい分厚い。
「あたしにも何か買いなさいよ」
「そう言うと思ったよ。何が欲しいんだい」
「剣が欲しいわ」
そうか。あの時剣を失って以来、剣がないのか。
そういえば、復興作業中にエリーゼの剣が出てきた。
鉄剣だったため火の熱に耐えられず、刃の部分はドロドロに溶けていた。
「うーむ……剣は高いんだよなぁ……」
「お願い、お兄ちゃん」
「もちろんだ」
シスコンだった。
しかし、今の頼み方は凄く可愛かった。
体を寄せて上目遣いでお願いするなんて、九歳にして自分の武器をよく理解しているな。
まるで自分が可愛いということに気づいているかのよう。
こうやって甘やかされて育ってきたから、わがままな女の子になってしまったんだろう、
おかげで俺は、毎日殴られ蹴られ。
元凶は目の前にいた。
少し歩き、商業エリアに着いた。
ここには食べ物から日用品まで様々なものが売られており、この街で一番繁盛しているエリアだ。
「わぁ! 剣がたくさんあるわ!
何本買ってくれるのかしら!」
「一本に決まっているだろう」
「お願い、お兄ちゃん」
「ダメだ」
「けっ」
追い、今本性が垣間見えたぞ。
本当に、傲慢な王女様だ。
流石のシスコン王子でも二度目のハニートラップには引っ掛からなかったか。
俺なら引っ掛かってた。
エリーゼは目を輝かせながら店内を回る。
他の客に驚かれているが、そんなことを気にせずに剣に夢中になっている。
剣術に対しては向上心が凄まじいな。
そのやる気を勉強にも向けてくれたらありがたいんだが。
俺は無償で授業をしているというのに、高確率でバックレられる。
やり返しが怖くて毎回見逃しているから、俺はきっと見下されているんだろう。
だが、わからせはよくないしな……。
ああいう系は嫌いだ。女の子が可哀想になる。
なんの話だよ。
「どんな剣がいいんですか?」
「強そうな剣よ!」
「強いかどうかはその人の技術によって決まるのでは……?」
「その通りだ」
「何よあんた達。いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「男の友情っていうのはすぐに出来て、長続きするものなんですよ」
「うむ」
女同士の友人関係って色々面倒くさいってよく聞くんだよな。
聞いてると、「ああ、男に生まれてよかった」って思う。
ブルゾン〇えみの逆バージョンだな。
エリーゼは十五分ほど迷った末に、一本の剣を選んだ。
派手な装飾はなく、極めてシンプルな剣だ。
「金貨五枚になります」
「これ、王族補正で安くなったりしないの?」
「なんてこと言うんですか」
補正とか、この世界の人間が使う言葉じゃなさすぎるだろ。
貴族割引とか実際あるのかは気になるところだ。
本も買ったし、エリーゼの欲望も満たせたし。
今日は大満足だ。
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「馬鹿者! ワシに嘘をついてどこをほっつき歩いとったんだ!」
俺たちは揃って、コーネルの大目玉を食らった。ごめんちゃい。
でも、連れ出したのはテペウスだから、俺達はそれに仕方なくついていっただけなんだからね!
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「乾杯!」
色々あったが、コーネル主催の食事会が開かれた。
これが、王族の食事。
エリーゼがパノヴァ家に来た時の歓迎会の食事もかなり豪華だったが、正直格が違う。
村でも指折りの裕福な家庭のご馳走と、王族のご馳走。
普段食べているロトアの食事は絶品だが、こんなご馳走が果たして俺の口に合うのかどうか。
「美味っ!」
合った。
というか、合わないわけがない。
ロトアの手料理には勝てないが、これまでに食べたことがない味だ。
少なくともガキンチョ向けの料理ではない。
この体が転生体でよかった。
この料理のおいしさが分かるのはきっと大人だけだ。
「これ、久しぶりに食べたわ。
相変わらずアンジェラの料理は美味しいわね」
「ありがとうございます」
あ、俺たちを案内してくれたメイドさんだ。
アンジェラさんっていうのか。
十五歳の自分に手紙とか書いてそうだな。
「君、小さいのにしっかりしているよなぁ。
どこでそんな礼儀作法とか覚えたんだ?」
「エリーゼにご教授いただきました」
「頭が良くて、顔もいい。エリーゼの旦那にピッタリだな」
「なっ……!」
「御冗談を」
エリーゼは顔を赤くしている。
なーに照れてんだ?
もしかして本気でそんなこと考えてたのか?
という感じでエリーゼの方をチラチラ見ると、鋭い眼光で睨みつけられた。
後で何されるかわからないな、こりゃ。
食事会に出席しているのは、
王宮の当主であるコーネル、
その妻であるリディア、
第一王子のテペウス、
第二王子のパーヴェル、
第三王子のジェラルド、
リベラ、そして俺とエリーゼだ。
他のメイド達は周りで俺たちの様子を見守っている。
こういう使用人の人たちって、どんな生活をしているんだろうか。
二十四時間密着ドキュメンタリーみたいなのやってみたい。
…………夜のお仕事とかがあった場合はまずいか。
「ベル、伝説とか興味あるか?」
「『銀髪の英雄』、大好きです」
「後で読み聞かせてやろう。
俺は昔からエリーゼに読み聞かせをしてたから、得意なんだぞ」
「楽しみにしておきます」
パーヴェルはかなり気前のいいあんちゃんだ。
俺と一番気が合いそうなのはこの人だろう。
伝説が好きなら趣味も合うし。
しかし、最近そういう本は読んでいないな。
魔術の練習とエリーゼの相手で忙しくて、あまり自分の時間が作れていない。
この王宮は大きいから、たくさん蔵書がありそう。
それなら、わざわざ買いに行かなくてもよかったかもしれない。
「……」
「……?」
どでかい肉を頬張る俺を、二つの目が見つめている。
目が合ったのは、リディアだ。
俺、何かしただろうか。
顔に何かついてるとか?
目を逸らすのは失礼だろうし、相手が目を離すまでは目を逸らさないようにしよう。
「……」
「……」
リディアは手に持っていたワイングラスを置き、俺のほうに歩いてきた。
え、何されるんだ俺。
眉間にしわが寄っているし、ビンタでもされるのか。
やめてくれ!親父には木剣でぶっ叩かれたことしかないのに!
「――ああっ!もうっ! 可愛いわねあなた!」
「ぶわっ!」
腕を広げたリディアにビビッて目を閉じた俺は、次に目を開けたときには柔らかい感覚に包まれていた。
うおっ!これは――!
ビッグ・オパーイだー!
「ちょ、ちょっと奥様……」
「抱きしめずにはいられないわ!
ロトアさんに頼み込んでうちの子にしてもらおうかしら!」
その場合俺の意思はどうなるんだ。
リディアはエリーゼとよく似た髪の色で、親子だということが一目で分かる。
……あの、そろそろ離して欲しいんですが。
胸の中で窒息死してしまう。
疲れた時に真っ先に飛び込むのが女の胸なのであって、人を窒息させるための武器ではない。
でもこの胸の中で死ねるなら本望かもしれない。
「っぷはぁ!」
「どう? 大きいでしょう、私の胸は」
「最高でした、奥さん」
「貴様、ワシの妻に手を出すのは流石に許さんぞ」
「冗談ですよ」
嘘ではないけど。
最高でしたよ、そりゃもう。
エリーゼからは白い目で見られ、他の兄弟達も苦笑い。
うーん、快楽の代わりに印象が悪くなってしまったようだ。
一瞬の快楽のために他の物を捨てるというのは、どの世界においてもよくないことだな。
こういうのを、トレードオフというのか。
絶対違うな。
「そうだ。ベルの十歳の誕生日の時に、アヴァンに家族を招いて誕生日会をしましょう」
「お、それはいいですね。ベル君の家族も喜ぶだろう」
「どうして10歳なんですか?」
「貴族や王族は、5歳、10歳、15歳になった時に周辺の貴族を集めてパーティーをするのよ」
「なるほど」
ほえー、そんな風習まであるのか。
俺なんかのためにそんな大々的にパーティーなんて恐れ多いな。
でも、このご厚意は受け取っておかなければならない。
理由は、もう言わずとも分かるだろう。
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