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第1章 幼・少年期 新たな人生編
第十八話「魔族の少女」
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談笑しながら歩くこと、四十分。
俺達は森へ入った。
「ここまで来たら、大きな音を立てて戦っても大丈夫ね」
「エリーゼはまだいいですけど、僕は使える魔法が限られますよ。
規模の大きな魔法は森を燃やしてしまいかねないですし」
上級にもなると、効果範囲が広い魔法が出てくる。
一応、上級火魔法は全て履修済みだが、使える魔法はせいぜいフレイムドラゴンくらいか。
俺はあまり満足に戦えないかもしれないが、エリーゼは楽しく魔物を討伐できるだろう。
彼女を満足させるのが最低ノルマだ。
「お父さんがいると色々指示されるから、自由に戦えるわね」
「父さんは僕たちに戦い方を覚えさせるために指導してくれてるんですよ。
悪く言ってはいけません」
「……分かったわ」
ルドルフが戦闘中に俺達に色々指示してくるのは、俺たちのためだ。
流石というべきか、ルドルフは教え方がうまい。
戦っていく中で自分が成長していくのを実感できるし、危ない場面でもルドルフの指示のおかげで命拾いをしたことだって何度もあった。
エリーゼは少々ウザったく思っているっぽいが。
普段からルドルフの稽古を受けているから、色んなものが蓄積しているのかもしれない。
思えば、ロトアが魔物などの敵と戦っているところは見たことがない。
二年前の魔物襲撃事件の際に『大猿』を一撃で葬ったって話は聞いたが。
エリーゼから聞いた話によると、俺を避難所に運んだ後にとんでもない突風と土埃が飛んできて、飛んできた方角にあった窓ガラスは全て割れたんだとか。
ああみえて、やっぱり普通にやばい魔術師なんだよな。
魔術師には称号はないのだろうか。
剣士みたいに、『魔王』、『魔聖』、『魔帝』、『魔神』みたいな感じで。
あ、魔王は『魔人竜大戦』の時の魔族軍の大将と被るか。
「ベル! ヴァンガードウルフよ!」
そんなくだらないことを考えている俺の耳に、エリーゼの声が耳に飛び込んできた。
エリーゼの視線の先には、ヴァンガードウルフの群れ。
数にして五体くらいだろうか。
「エリーゼ。まずは相手の動きをよく見て――」
「行くわよ!」
「ちょ……」
エリーゼは俺の言葉に耳を傾けることなく、飛び出した。
ヴァンガードウルフもそれを見て、エリーゼに突進する。
この狼は、頭に一本角が生えている。
そのため、迂闊に近づけばその角に貫かれてしまう。
エリーゼは、五体の狼の角を叩き斬る。
角を折ってしまえば、あの狼は弱体化する。
これも、ルドルフから教わったことだ。
二年前は攻略法を知らなかったから苦戦したが、
「――はぁっ!」
知ってしまえば、どうってことはない。
俺の出る幕はなく、エリーゼが全て倒し切ってしまった。
「エリーゼ。一緒に戦うって約束でしょう?」
「はいはい。次からは気を付けるわ」
これは嘘だな。
俺も戦いたかった。
次はエリーゼよりも早く動けばいいだけだし――
「――けて」
「……?」
人の声が聞こえた気がした。
これは、気のせいじゃない気がする。
「ねえ、今人の声が――」
「ですよね! 行きましょう!」
俺はエリーゼの手を掴んで、声の聞こえたほうへ走り出した。
エリーゼは俺の手を振りほどき、俺よりも前を走る。
剣士は足が速いな……
「大丈夫ですか!?」
「あぅ……ぇ……!」
恐怖で呂律が回っていない銀髪の少女は、腰が抜けている。
「エリーゼは魔物をお願いします!」
「わかったわ!」
ブラックボアとマスモンキーは、合わせて十体ほど。
エリーゼ一人で相手ができるだろうか。
いや、信じるしかない。
「怪我はない?」
「ぁ……ぁ……」
膝に擦り傷がある。
こんな時のための治癒魔法だ。
「大地の神よ。この者に癒しを。
『ヒール』」
唱えると、膝の傷はすぐに完治した。
「大丈夫そうですか? エリーゼ」
「ええ。終わったわ」
「早」
心配は不要だったようだ。
まあ上級剣士だしな。
少女はまだ腰が抜けたまま動けていない。
俺は手を差し伸べ、少女を立たせた。
「あ……ありがとう」
「……!」
少女の顔、というか耳を見て、思わず目を見開いた。
このピンと伸びた特徴的な耳。
この子は、エルフだ。
つまり、魔族の女の子だ。
初めて見た。
伝説上の生き物だと思っていたが、実在したのか。
エリーゼはその少女を見て、「ひっ」と声を漏らした。
ああ、そうか。
この世界では魔族は嫌われているんだったか。
泥にまみれた銀色の短髪、髪の毛から飛び出すようについている耳。
これのどこが怖いんだろうか。
顔だちも整っていて、正直めちゃくちゃ可愛い。
「エリーゼ。そんなに怖がらなくても、何もしませんよ」
「べ、別に怖がってなんかないわよ」
エリーゼは腕を組んで「ふんっ!」とそっぽを向いた。
怖いんだな。可愛い。
「どうしてこんなところにいるの?」
「や、薬草を取りに来たの」
「……あんた、何歳よ」
「七歳」
「僕と同い年だ」
七歳にしては、幼く見える。
エリーゼは何故か不満そうな顔をして、再びそっぽを向いた。
薬草を取りにこんなところまで……
何か特別な事情があるのかもしれない。
「一人で家まで帰れるの?」
「……うん」
「そ。じゃあね」
「エリーゼ。どうしてそんなに冷たくするんですか。
この子を送り届けましょう。この森の中を一人で帰らせるわけにはいかないですよ」
「……」
やけに機嫌が悪いな。不運だ。
この少女は俺達が声を聞きつけてここまで来なかったら死んでいただろう。
魔物が潜む危険な森の中を、こんなに小さい少女を一人で帰らせるのはダメだ。
「家はどっち?」
「こっち」
少女は、俺達が来た方とは真逆を指した。
この子は、ヘコネ村からここまで来たのだ。
気の乗らなそうなエリーゼを手で招いて、ヘコネ村へと歩き出した。
「そういえば、名前は?
僕はベルで、こっちはエリーゼ」
「エリーゼって……第一王女の、あのエリーゼ様?」
「……そうよ。今はもうあの家の子じゃないから、様を付けるのはやめなさい」
「何で?」
「複雑な事情があるんだよ」
まだこんな子供には理解できない話かもしれないし、今ははぐらかしておこう。
子供の俺が言うことじゃないが。
中身はおっさんだから例外か。
「私はライラだよ」
「可愛い名前だね」
「えへへ、ありがとう」
なんともファンタジーな感じの響き。
あまりにもこの見た目に似合いすぎている。
「ライラは、どうして薬草なんか取りに来たの?」
「お母さんが病気で寝たきりだから、よく効くって聞いた薬草を取りに来たんだよ」
「そうか……それはどのあたりにあるかわかるか?」
「全然。だから、もう何日も行ったり来たりしてるんだ」
お母さんのためにそこまで……。
何とかしてあげたいが、ノーヒントで薬草を見つけるなんて到底無理だろう。
「その薬草、何て名前?」
「慈母の蔓。
万病に効くって噂の薬なんだって」
「あれ、そうじゃないかしら?」
「えっ……あっ! 本当だ!」
エリーゼが指を指した方向を見ると、たくさんの花が咲いている場所があった。
群生地だろうか。めちゃくちゃたくさんある。
それか、あの中のどれかがそうなのかも。
「それにしても、何でそんなことを知ってたんですか?」
「お父様からあの草のことはよく聞いていたからかしらね」
「ありがとう! エリーゼちゃん!」
「むぐっ……! とっとと取ってきなさいよ!」
照れ隠しが相変わらず下手くそだなぁ。
お礼を言われて嬉しくないなんてことはないしな。
だが、どうしてエリーゼはライラだけのこんなに冷たくするのだろうか。
やっぱりこの世で最も嫌悪されている種族だからか。
魔族にもいい人はいると思うんだけどな。この子みたいに。
ライラは背中に背負っていた籠に薬草を摘み、嬉しそうに走って戻ってきた。
健気で可愛いな。
村でも好かれていそうだ。
「じゃ、行こうか」
俺達は再びヘコネ村へと歩き始めた。
俺達は森へ入った。
「ここまで来たら、大きな音を立てて戦っても大丈夫ね」
「エリーゼはまだいいですけど、僕は使える魔法が限られますよ。
規模の大きな魔法は森を燃やしてしまいかねないですし」
上級にもなると、効果範囲が広い魔法が出てくる。
一応、上級火魔法は全て履修済みだが、使える魔法はせいぜいフレイムドラゴンくらいか。
俺はあまり満足に戦えないかもしれないが、エリーゼは楽しく魔物を討伐できるだろう。
彼女を満足させるのが最低ノルマだ。
「お父さんがいると色々指示されるから、自由に戦えるわね」
「父さんは僕たちに戦い方を覚えさせるために指導してくれてるんですよ。
悪く言ってはいけません」
「……分かったわ」
ルドルフが戦闘中に俺達に色々指示してくるのは、俺たちのためだ。
流石というべきか、ルドルフは教え方がうまい。
戦っていく中で自分が成長していくのを実感できるし、危ない場面でもルドルフの指示のおかげで命拾いをしたことだって何度もあった。
エリーゼは少々ウザったく思っているっぽいが。
普段からルドルフの稽古を受けているから、色んなものが蓄積しているのかもしれない。
思えば、ロトアが魔物などの敵と戦っているところは見たことがない。
二年前の魔物襲撃事件の際に『大猿』を一撃で葬ったって話は聞いたが。
エリーゼから聞いた話によると、俺を避難所に運んだ後にとんでもない突風と土埃が飛んできて、飛んできた方角にあった窓ガラスは全て割れたんだとか。
ああみえて、やっぱり普通にやばい魔術師なんだよな。
魔術師には称号はないのだろうか。
剣士みたいに、『魔王』、『魔聖』、『魔帝』、『魔神』みたいな感じで。
あ、魔王は『魔人竜大戦』の時の魔族軍の大将と被るか。
「ベル! ヴァンガードウルフよ!」
そんなくだらないことを考えている俺の耳に、エリーゼの声が耳に飛び込んできた。
エリーゼの視線の先には、ヴァンガードウルフの群れ。
数にして五体くらいだろうか。
「エリーゼ。まずは相手の動きをよく見て――」
「行くわよ!」
「ちょ……」
エリーゼは俺の言葉に耳を傾けることなく、飛び出した。
ヴァンガードウルフもそれを見て、エリーゼに突進する。
この狼は、頭に一本角が生えている。
そのため、迂闊に近づけばその角に貫かれてしまう。
エリーゼは、五体の狼の角を叩き斬る。
角を折ってしまえば、あの狼は弱体化する。
これも、ルドルフから教わったことだ。
二年前は攻略法を知らなかったから苦戦したが、
「――はぁっ!」
知ってしまえば、どうってことはない。
俺の出る幕はなく、エリーゼが全て倒し切ってしまった。
「エリーゼ。一緒に戦うって約束でしょう?」
「はいはい。次からは気を付けるわ」
これは嘘だな。
俺も戦いたかった。
次はエリーゼよりも早く動けばいいだけだし――
「――けて」
「……?」
人の声が聞こえた気がした。
これは、気のせいじゃない気がする。
「ねえ、今人の声が――」
「ですよね! 行きましょう!」
俺はエリーゼの手を掴んで、声の聞こえたほうへ走り出した。
エリーゼは俺の手を振りほどき、俺よりも前を走る。
剣士は足が速いな……
「大丈夫ですか!?」
「あぅ……ぇ……!」
恐怖で呂律が回っていない銀髪の少女は、腰が抜けている。
「エリーゼは魔物をお願いします!」
「わかったわ!」
ブラックボアとマスモンキーは、合わせて十体ほど。
エリーゼ一人で相手ができるだろうか。
いや、信じるしかない。
「怪我はない?」
「ぁ……ぁ……」
膝に擦り傷がある。
こんな時のための治癒魔法だ。
「大地の神よ。この者に癒しを。
『ヒール』」
唱えると、膝の傷はすぐに完治した。
「大丈夫そうですか? エリーゼ」
「ええ。終わったわ」
「早」
心配は不要だったようだ。
まあ上級剣士だしな。
少女はまだ腰が抜けたまま動けていない。
俺は手を差し伸べ、少女を立たせた。
「あ……ありがとう」
「……!」
少女の顔、というか耳を見て、思わず目を見開いた。
このピンと伸びた特徴的な耳。
この子は、エルフだ。
つまり、魔族の女の子だ。
初めて見た。
伝説上の生き物だと思っていたが、実在したのか。
エリーゼはその少女を見て、「ひっ」と声を漏らした。
ああ、そうか。
この世界では魔族は嫌われているんだったか。
泥にまみれた銀色の短髪、髪の毛から飛び出すようについている耳。
これのどこが怖いんだろうか。
顔だちも整っていて、正直めちゃくちゃ可愛い。
「エリーゼ。そんなに怖がらなくても、何もしませんよ」
「べ、別に怖がってなんかないわよ」
エリーゼは腕を組んで「ふんっ!」とそっぽを向いた。
怖いんだな。可愛い。
「どうしてこんなところにいるの?」
「や、薬草を取りに来たの」
「……あんた、何歳よ」
「七歳」
「僕と同い年だ」
七歳にしては、幼く見える。
エリーゼは何故か不満そうな顔をして、再びそっぽを向いた。
薬草を取りにこんなところまで……
何か特別な事情があるのかもしれない。
「一人で家まで帰れるの?」
「……うん」
「そ。じゃあね」
「エリーゼ。どうしてそんなに冷たくするんですか。
この子を送り届けましょう。この森の中を一人で帰らせるわけにはいかないですよ」
「……」
やけに機嫌が悪いな。不運だ。
この少女は俺達が声を聞きつけてここまで来なかったら死んでいただろう。
魔物が潜む危険な森の中を、こんなに小さい少女を一人で帰らせるのはダメだ。
「家はどっち?」
「こっち」
少女は、俺達が来た方とは真逆を指した。
この子は、ヘコネ村からここまで来たのだ。
気の乗らなそうなエリーゼを手で招いて、ヘコネ村へと歩き出した。
「そういえば、名前は?
僕はベルで、こっちはエリーゼ」
「エリーゼって……第一王女の、あのエリーゼ様?」
「……そうよ。今はもうあの家の子じゃないから、様を付けるのはやめなさい」
「何で?」
「複雑な事情があるんだよ」
まだこんな子供には理解できない話かもしれないし、今ははぐらかしておこう。
子供の俺が言うことじゃないが。
中身はおっさんだから例外か。
「私はライラだよ」
「可愛い名前だね」
「えへへ、ありがとう」
なんともファンタジーな感じの響き。
あまりにもこの見た目に似合いすぎている。
「ライラは、どうして薬草なんか取りに来たの?」
「お母さんが病気で寝たきりだから、よく効くって聞いた薬草を取りに来たんだよ」
「そうか……それはどのあたりにあるかわかるか?」
「全然。だから、もう何日も行ったり来たりしてるんだ」
お母さんのためにそこまで……。
何とかしてあげたいが、ノーヒントで薬草を見つけるなんて到底無理だろう。
「その薬草、何て名前?」
「慈母の蔓。
万病に効くって噂の薬なんだって」
「あれ、そうじゃないかしら?」
「えっ……あっ! 本当だ!」
エリーゼが指を指した方向を見ると、たくさんの花が咲いている場所があった。
群生地だろうか。めちゃくちゃたくさんある。
それか、あの中のどれかがそうなのかも。
「それにしても、何でそんなことを知ってたんですか?」
「お父様からあの草のことはよく聞いていたからかしらね」
「ありがとう! エリーゼちゃん!」
「むぐっ……! とっとと取ってきなさいよ!」
照れ隠しが相変わらず下手くそだなぁ。
お礼を言われて嬉しくないなんてことはないしな。
だが、どうしてエリーゼはライラだけのこんなに冷たくするのだろうか。
やっぱりこの世で最も嫌悪されている種族だからか。
魔族にもいい人はいると思うんだけどな。この子みたいに。
ライラは背中に背負っていた籠に薬草を摘み、嬉しそうに走って戻ってきた。
健気で可愛いな。
村でも好かれていそうだ。
「じゃ、行こうか」
俺達は再びヘコネ村へと歩き始めた。
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