空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第2章 少年期 邂逅編

第二十四話「『銀髪の英雄』」

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「――」

 ……何が起きた?
 いきなり空がおかしくなって、青白くて眩しい光に追われて……。
 それで、エリーゼを庇って……。

「――!
 エリーゼ?! どこにいるんだ?!」
「うーん……」

 あぁ……良かった……。
 マロンは周りを見渡してもどこにも見当たらないが、エリーゼの無事は確認できた。
 馬の命を蔑ろにする気はない。
 ただ、俺が守ろうとしたエリーゼが無事に生きていてくれてよかった。

 ここは……洞窟だろうか。
 周りは岩に囲まれているし、俺がエリーゼを呼ぶ大きな声が響いていたし。

 エリーゼは俺の隣で薄い布にくるまって眠っている。
 ……ん? 布?
 エリーゼは寝ているし、俺も今目を覚ました。
 じゃあ、一体誰が……?

『――覚めたか』
「……!」

 洞窟の外から、男の声が聞こえた。

 真っ黒い二本の湾曲した角。
 この特徴だけで、もう分かる。

 この人は、竜人族だ。

『え、えーっと……。
 は、はじめまして?』
『ん? 竜人語が話せるのか?』
『少しだけなら、なんとか』

 初めて英語を使って英語圏の人と会話した時のようなぎこちない喋り方だが、一応通じているらしい。
 肌の色は真っ白で、角の色とのコントラストが素晴らしく映えている。
 なんて感想を言っている場合ではない。
 まったく状況が掴めないんだが。

「ベル……おはよ……」
「あ、おはようございます――」
「――いやぁぁぁぁぁぁ!
 竜人族!? 誰なの?!
 ベル! ねえ!」
「お、落ち着いて下さい」

 エリーゼは竜人族の姿を見た途端に取り乱し始めた。
 竜人族ってそんなに悪いイメージがあっただろうか。
 ライラと初めて出会った時のエリーゼのあの反応は間違いなく嫌悪によるものだろうが、今回はどちらかというと恐怖によるものだろう。

「すまん……そんなに怖がらせるつもりはなかったのだが」
「人間語が話せるんですか?!」
「それはこちらの台詞だ。
 何故お前のような人族の子供が竜人語を話すことができる?」
「少しだけ勉強していたもので……」
「何で平然と会話してるのよ!
 怖いと思わないの?」

 エリーゼはまだ声を荒げている。
 そんなに怖がられたら、この人もいい気はしないだろう。

 それに、この状況からしてみるに、俺達を助けてくれたのはこの竜人族の人だろう。
 命の恩人をぞんざいに扱うなんて失礼だ。
 敬意をもって接するべきだ。

「その……僕達を助けてくださったのは、あなたですよね?」
「ああ。食糧の調達をするためにたまたまここを通りかかったところ、
 お前達が抱き合うようにして倒れているのを見つけた。
 それで、近くにあったこの洞窟に運び込んで、俺の上着を赤髪の方にかけておいた」
「だ……だ……?!」

 エリーゼは顔を赤くしている。
 俺はエリーゼを守るようにして覆いかぶさっていたはずだが、エリーゼの方も俺のことを抱きしめていたのか。
 意識があるうちに体感したかった。
 もう少し早く起こしてくれよ。
 惜しいことをしたな。

「とにかく、助けていただいてありがとうございました。
 えっと……」
「ランスロットだ」
「――何ですって?」
「ランスロットだ」
「貴方のお名前ですよ?」
「ランスロットだ」

 冗談だろ。
 俺の知ってる竜人族のランスロットといえば、あの『銀髪の英雄』に出てくるあのランスロットしかいない。

 もしや、この人は本物の『銀髪の英雄』なのだろうか。
 竜人族であること、そして名前まで同じだ。
 残る条件と言ったら、あと一つ。

「……もしかして、魔人竜大戦の時に生きてましたか?」
「む? ああ。
 竜人族の戦士として戦った経験がある」

 エリーゼはキョトンとしているが、俺は自分の心臓の鼓動が高鳴っていくのを感じる。
 あ、恋ではないぞ。

 名前も、種族も、生きていた時代も一致する。

「銀髪の、英雄……」
「何だそれは」
「かつての戦役で名を馳せた竜人族の戦士を謳った本があるんです。
 主人公の名前がランスロットなので、もしかしたらあなたはその人なんじゃないかと思いまして」
「……俺は、大した功績を残していない。人違いだろう」
「そ、そうですか……」

 ランスロットは目を伏せてそう言った。
 なんか嫌な過去があったのだろうか。
 掘り返すようなことをしてしまった。
 ……俺、やっぱデリカシーないのかな。

「あたしは眠いから寝るわ……。
 ふぁぁ……」
「はい。 おやすみなさい」

 マイペースだな、ほんと。

---

「ランスロットさんは、この辺りに住んでるんですか?」
「いや、俺は流浪人だ」
「流浪人?」
「俺には家も家族もない。
 だから、大陸中を歩き回って生活している」

 家も、家族も……。
 それってもしかして、魔人竜大戦に関係があるのだろうか。
 あの戦争で全てを失ってしまったから、さっきはあんな顔をしたのかもしれない。
 だとしたら、本当に申し訳ないことをしてしまった。

 流浪人、か。
 生活するのはかなり大変なんじゃなかろうか。

「俺は食料を集めにこの辺りまで来た。
 ここは人通りがほとんどない分、魔物が出やすいからな」
「魔物を殺して食べているってことですか?」
「ああ」
「動物の肉じゃダメなんですか?」
「そんな贅沢なことを言っていたら、何も食えん」

 魔物の肉なんて、食えたもんじゃないだろう。
 虫を食べたほうがマシな気がする。

「お前がどれほどの間あの場所で倒れていたのかは知らないが、腹は減っているだろう。
 肉を分けてやろう」
「え、あの……」
「腹は減っていないのか?」
「そ、そうですね。
 長い間寝てたからか、そんなにお腹は空いていな……」

 言いかけている時、俺の腹が鳴った。
 いくらなんでもタイミングが悪すぎるだろ……。

 まあ命を助けてもらったんだし、あんまりわがままは言うのもよくないな。
 お言葉に甘えさせてもらおう。

「……美味っ」
「そうだろう。
 ミノタウロスの肉は普通の牛と比べても遜色ないくらい美味い」

 ごめんなさい、ミノタウロスさん。
 虫の方がマシとか言ってごめんなさい。

 それにしても美味いな。
 そりゃ、エリーゼの家で食べたご馳走とか、ロトアの作る料理に比べたら劣るなんてもんじゃないが、バクバク行けるくらいには美味い。

 いい人生経験になりました。

「ランスロットさん。
 コロコロ話が変わって申し訳ないんですが、ここは一体どこなんですか?」
「どこ、というのはどういう意味だ?」
「僕達は今さっきまで、中央大陸にあるグレイス王国の、ラニカ村という所にいたんです。
 急に空から何かが降ってきて、青白い光に飲まれて……。
 それで目が覚めたら……」
「ここにいた、というわけだな」
「はい」

 あれは一体、何だったんだろうか。
 小さすぎてよく見えなかったが、何かがアヴァンの辺りに直撃したことは覚えている。
 そこからは死に物狂いでその光から逃げていたから、あまり記憶がない。

「……もしかすると、『転移隕石』かもしれんな」
「転移隕石?」

 何だそれは。
 でも、その字面から大体予想はできる。

「その名の通り、人を転移させる隕石だ。
 魔力の宿った隕石が何かに直撃することでその魔力が爆発し、あらゆるものを飲み込んでいく」
「……」
「その隕石が出現する前、空の様子や天気がおかしかったことはあるか?」
「ありました。
 何年か前から天気はおかしくて、空の色がおかしくなったのは何週間か前からでした」
「ふむ。それなら、もうそれ以外に可能性は考えられない」

 そんなに前から、前兆があったなんて……。
 誰もこのことを予測できなかったのか?

「最後に転移隕石が観測されたのは、四千年前だ。
 だから、古い文献にも詳しいことが明記されていなくてもおかしくはない」
「そうなんですか……」
「中央大陸にいた、と言ったな」
「はい。間違いありません」

 ランスロットは「聞いて驚くなよ」と前置きを置いた。
 これは、驚くべき事実が告げられるフラグでしかない。
 俺は覚悟を決めて、ランスロットの目を見て頷いた。

「――ここは、天大陸だ」
「――っ!」

 声と感情を殺したが、驚きはやはり隠し切れなかった。
 転移隕石によって、俺とエリーゼは大陸を渡ってしまったのだ。

 状況は辛うじて理解できた。
 だが、ワケは分からない。
 四千年ぶりに隕石が落ちてきて、俺達はそれに巻き込まれた。
 とんでもない悪運だ。

 ――アヴァンに落ちたってことは、ルドルフとロトアはどうなったんだ?

 いや、考えなくても分かる。
 あの隕石の光に飲まれたとすれば、あの二人も俺達と同じようにどこかに飛ばされただろう。
 当然、二人がどの大陸のどのあたりに飛ばされたのか、何の情報もない。

「名は、何と言ったか」
「ベル・パノヴァです。
 こっちの子がエリーゼ・グレイス」
「グレイス……。
 お前達がさっきまでいた国の名前も、グレイスだったな。
 つまり、この娘は王族か」
「そうです」

 忘れがちだが、エリーゼは一国の王女である。
 今でこそ関わり方に慣れてはきたものの、最初のうちはどう接していいかわからなかったもんな。

 エリーゼはもうぐっすり眠っている。
 膝枕とかしてやりたいが、寝相が悪いがあまり蹴飛ばされても困る。

 ……なんて、悠長なことを考えている場合ではない。
 ランスロットに助けてもらったのはとてもありがたいが、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないし。
 かといって、俺とエリーゼの二人だけではどうすることもできないだろう。
 全く見ず知らずの土地、それも魔物の蔓延る危険なところを子供二人だけで、どう生き抜いていくというのだ。

「……怖いか?」
「怖い、ですか?」
「予期せぬ事態によって見ず知らずの場所に飛ばされて、怖いか?」
「……そりゃあ、ね」

 無論だ。
 俺は今、めちゃくちゃ怖い。
 これから俺達がどうなってしまうのか、ロトアとルドルフは無事なのか、など。
 ポジティブな考えは、一つだって浮かばない。

 でも、エリーゼだけは守らなきゃならない。
 俺の命を懸けてでも、この子だけは守り通す。

「仕方のないことだ。
 お前達はまだ子供で、世界の厳しさを知らない。
 無知とは、色んな意味で恐ろしいものだ」
「……」
「安心しろ。俺がお前達を故郷まで送り届ける」

 ランスロットは表情を変えずに、しかし真剣な眼差しで、俺の目を見つめた。

「……そんな、迷惑でしょう。
 ここから中央大陸まで、そしてグレイス王国までどのくらい離れているかわかりませんし。
 ランスロットさんの貴重な時間を奪ってしまうのは申し訳ないです」
「子供は大人の心配をしなくていい。
 それに、俺は長命族だからな」

 だから時間を奪ってもいい、とはならないんだけどな。
 それにしても、さっきからやけに子ども扱いしてくるな。
 俺は見た目は子供、頭脳は大人なんだからな。
 大体30歳だぞ。

「竜人族の名誉にかけて、一度約束したことは決して破ったりはしない」
「……本当にいいんですか?」
「ああ」

 ランスロットは、仲間になりたそうな目でこちらを見ている。
 本心でいえば、これ以上迷惑はかけたくない。
 でも、ここまで本気な目をされたら、頼るしかないな。

「…………ありがとう、ございます」

 ランスロットが、仲間になった。
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