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第2章 少年期 邂逅編
第二十五話「長い旅へ」
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翌日。
俺達は結局、この洞窟の中で一夜を明かした。
あの後少しだけ雑談を楽しんで、仲良くなった。
優しいが寡黙なタイプかと思っていたが、全然そんなことなかった。
優しいのはもちろんのことだが、結構笑ってくれる。
豪快な笑い方ではないものの、「フフ」と柔らかく微笑んでくれるのだ。
俺が女なら普通に惚れている。
「えっ、えりーじぇです」
「これからよろしく頼む、エリージェ」
「エ! リ! イ! ゼ! 噛んだの!」
「そうか」
こういう風に、人をいじることだって普通にする。
意外と人間らしい。
あ、悪口じゃないぞ。
「俺は必ず、お前達を無事に故郷に送り届ける。
道中で何があろうとな」
「お願いします」
「まずは、どうやって大陸を渡るかだ」
そうか。
ここは天大陸であり、俺達がいた中央大陸からはかなり離れている。
距離にしてどれくらいなのかはあまりわからないが、海を渡らなければならないことは確かだ。
「選択肢としては二つある」
ランスロットは、木の枝で地面に簡易的な世界地図を描いたあと、線を引き始めた。
「一つは、このルートだ。
今俺達がいるのが、天大陸の南端。
ここから東に進んでボレアス大陸を経由する。
そしてもう一つは、西に進んでデュシス大陸を経由するルートだ」
「どうして北に進んで、ケントロン大陸の方を突っ切らないのよ?」
「天大陸とケントロン大陸の間にある『ヤワニ海』は、渡るにはあまりにも危険すぎる。
ここを渡っていけば、半年もあれば中央大陸に渡れるだろう。
だが、この海を渡れた人間は一人たりともいない」
なるほどな。
急がば回れというやつか。
ショートカットをしようとして命を落とすとかバカバカしいしな。
なんだか柔らかそうな名前の海なのに、その素性はとんでもなかった。
「どっちの方が早いんですか?」
「ボレアス大陸ルートの方が若干早く辿り着けるだろう。
ただ、こっちの方が危険だ。
途中に、『飛龍山脈』という長い山脈がある。
その山脈には強いドラゴン系の魔物が飛び回っているから、並の人間であれば越えることはできないだろう。
あの『七神』でさえも、その場所を通るのは避けるくらいだ」
「それなら、デュシス大陸の方から渡りましょ」
珍しいな。
こういう時、エリーゼは絶対に危険な方を選ぶはずなのに。
成長したんだな。
おじさん泣きそうだ。
俺もエリーゼの意見には激しく同意だ。
一刻も早くグレイス王国には帰りたいが、途中で死ぬわけにもいかない。
そんなに危険な山脈があるなら、少しでも危険度の低いデュシス大陸の方から回っていった方が賢明だろう。
あの『七神』でも避けて通るレベルの山脈を越えるなんて、いくらなんでも無理ゲーだ。
まだランスロットがどれほどの強さなのかは知らないが、なるべく安全にグレイス王国まで帰りたい。
無事にたどり着けたら、まずはロトアとルドルフを探そう。
あの二人に限って簡単に死ぬなんてことはないだろうが、息子として二人の安否は心配だ。
「西側のルートから行った場合、どのくらいかかるんですか?」
「道中で何があるか分からないから何とも言えないが、最短でも一年……いや、二年はかかるな」
「二年?!」
一年と二年じゃえらい違いですけども。
飛行機や新幹線がない以上、自分の足で歩かないといけないからな……。
ランスロットが描いた世界地図を見る限りだと、やっぱりこの世界って広いんだな。
あんまりちゃんと世界地図を見たことがなかったから、どの大陸がどこにどのように浮かんでいるのかをよく知らなかった。
ランスロットの言った通り、道中で何が起こるか一切分からない。
だから、場合によっちゃ三年以上かかる可能性もあるということだ。
「まあ、そう焦って帰る必要もないだろう。
昨晩ベルから聞いた話だと、父は『剣帝』、母は特級魔術師だそうじゃないか。
簡単に死んだりはしないはずだ」
「そうですね」
「早く家に帰りたいところだけど、ゆっくり帰るってことね。
無事に帰れるなら、それでもいいわ……ふぁ……」
安心はできない。
でも、急いで帰ろうとして途中で死ぬのは以下略。
竜人族の戦士は特に高い戦闘能力を誇るというし、この人がいれば必ず守ってくれるだろう。
そう信じて、旅を始めよう。
――――――絶対に、生きて帰る。
---
俺達は計画通り、西の方角を目指して歩き出した。
何年かかるかわからない、途方のない旅。
決して楽観視はできないが、せっかくだから楽しく旅をしようじゃないか。
こんな機会がまた訪れるとは思えないしな。
「冒険! 楽しみだわ!」
エリーゼもこんな感じでこの状況を楽しんでいる。
過酷な旅になるかもしれないが、ランスロットがいるなら安心だ。
「ここから最寄りの集落までは、歩いて半日くらいだ。
途中で魔物に遭遇するだろうが、心配するな」
「僕達も戦えますよ」
「俺に全て任せておけ」
「あたしも戦うの!」
「……」
ランスロットに全て任せてしまえば魔物なんて敵じゃないだろうが、ランスロットに負担をかけすぎるのはよくない。
不安な俺達を気遣ってくれるのはありがたい。
でも、完全キャリーをしてもらうのは些か悔しいというか。
わがままなのは分かっているが、俺達としても頼り切りにするわけにはいかない。
「……分かった。だが、無理はするなよ」
「はい」
「分かったわ!」
エリーゼの元気のいい返事が、広い荒地に響き渡った。
村に辿り着いた。
まあ……大変な道のりだったな。
道はゴツゴツしてるし、高低差もあるし。
見たことのない魔物にも遭遇して、かなり苦戦した。
地上戦なら何とかなるんだが、その魔物は空を飛び回るタイプの魔物だったからな……。
俺達は三人とも近接戦闘タイプだから、あまりにも分が悪かった。
俺が辛うじて放った魔術がたまたま当たってくれたおかげで何とかなったが、下手をすれば危なかったかもしれない。
上級魔術師であるとはいえ、魔術の精度はまだまだ改善の余地がある。
おかげで到着がだいぶ遅くなってしまった。
時間は分からないが、もう空は暗い。
夜になると魔物が強くなるらしいから、この大陸にいる間は野宿をするのはやめておいた方が良さそうだ。
「疲れただろう。
ゆっくり休んでいくといい」
「ありがとうございます」
もちろん、相手は竜人族。
俺も頑張ってコミュニケーションをとっているが、やはり竜人語は難しいな。
夜の訪問だったのにも関わらず、住人の男の人は快く滞在を許してくれた。
この村は、お世辞にも大きな村とは言えない。
家の形状は至って普通だが、その数は数十軒程度。
泊めてもらう村に大きさは問わないが。
「ねえ、ランスロット。
この村の人達、ランスロットと全然違う見た目だけど、どうしてなの?」
確かに、それは俺も気になった。
ランスロットは白い肌に美しい銀色の髪の毛。
しかしこの村の人たちの肌の色は、人間と同じ肌色。
髪の毛の色は緑色だ。
「竜人族の中にも、いくつか種類がある。
俺はソガント族。この村の人々はミトール族だ」
ミトール族を見とる俺、つってな。
やべ、声に出してすらないのに冷や汗出てきた。
「いくつくらい種族があるんですか?」
「竜人族だけでも五十はあるな」
「多すぎるわ!」
「しーっ! もう夜なんですから!
うわっ! くすぐったい!」
俺がエリーゼの口を手で塞ぐと、エリーゼは俺の手のひらをベロベロと舐め回してきた。
なんか既視感があるような気がするが。
まあこのままでいいや。
拭くの面倒くさいし。
「手を拭かなくていいの?」
「ご褒美なので」
「気持ち悪」
酷いなぁ。
悪いこと言ってるわけじゃないんだけど。
「そういえばランスロットって、ベルのよく話してた『銀髪の英雄』の主人公の名前と同じよね」
「……」
ランスロットは険しい表情をする。
昨日、俺がその話を出した時にエリーゼは起きていたはずだが。
眠たそうにしていたからあまり記憶がないのだろうか。
「……これから長い旅になるから、話しておいたほうがいいかもしれないな」
突然神妙な顔になったランスロット。
俺とエリーゼも座り直して、真面目に聞く体勢になる。
「その本に出てくる『ランスロット』とは、多分俺のことだ。
ソガント族の中に、俺と同じ名前の奴はいなかったはずだからな。
だが、本に書かれたような活躍はしていない。
……むしろ、俺は竜人族の名誉に泥を塗った」
「泥?」
「……俺は、訳の分からない呪いのせいで、数多くの同族を殺してしまったのだ」
呪い。
俺の知る呪いといえば、天候操作を使った魔術師に対する呪いくらいだが。
ランスロットは槍で戦うタイプの戦士だから、魔術は使わないだろうし。
……呪いなんて、探せばいくらでも出てくるか。
「俺はそのせいで、ソガント族の村を追放された。
親も兄弟も、全員戦争で死んだから、俺はこうして長いこと流浪している」
「長いことって……。
戦争が終わってから150年以上もの間、一人で放浪してるってことですか?」
「そうだ。まあ、安心しろ。
俺の悪名は、時代とともに風化しているだろう。
ソガント族の村に行くことがあれば、きっとゴミを見るような目で見られるだろうがな」
この優しさの裏に、酷い仕打ちを受けた過去があったんだな。
というか、弁明の余地はなかったのだろうか。
本人は呪いだと言っているのに、誰にも取り合ってもらえなかったのか?
得体の知れない子供を助けるくらいの心の持ち主なんだから、俺達に嘘をついているということはなさそうだし。
「じゃあ、あの本に出てくる『ランスロット』っていうのはどういうことなのかしらね」
「『帝王』と『魔王』を撃破し、戦乱を鎮めたと記されていたらしいな。
それを成し遂げたのは、『龍王』フィリアスだ。
お前たちが読んだ本は、俺を小馬鹿にする目的で書いたのだろう」
そういうことだったのか。
だがそれだと、色々と話がややこしくならないか。
ランスロットは一族の汚点として村を追われたという事実があるのに、
どうしてわざわざそんな風に捏造したのだろうか。
フィリアスがその功績を上げたなら、フィリアスを英雄として本に記せばよかったはず。
あの本の作者は性格が悪いな。
まんまと騙されてしまった。
「ランスロットさん」
「何だ」
「ソガント族の人達には認められなかったかもしれませんけど、僕達はランスロットさんを信じてますからね」
「命を助けてもらった上に、グレイス王国まで送り届けようとしてくれてるんだもの。
そんな人のどこが悪者なのよ。
ソガント族の奴らは揃って馬鹿なんでしょうね」
おっと、言い過ぎは良くないぞエリーゼ。
ランスロットも、いくら貶された相手だとはいえ、同族を馬鹿にされるのは流石にいい気はしないだろうし。
「……ふっ。お前達は、いい子供だな」
ランスロットはそのゴツゴツとした手を俺とエリーゼの頭に乗せ、わしゃわしゃと撫でた。
あまり撫で慣れていない手つきがくすぐったいが、悪い気はしない。
無事に帰ることができたら、ロトアとルドルフを探すとともに、ランスロットの呪いの解明、そして名誉回復を手伝おう。
こんなにいい人が悪者扱いされているというのは、あまりにも理不尽だからな。
俺達は結局、この洞窟の中で一夜を明かした。
あの後少しだけ雑談を楽しんで、仲良くなった。
優しいが寡黙なタイプかと思っていたが、全然そんなことなかった。
優しいのはもちろんのことだが、結構笑ってくれる。
豪快な笑い方ではないものの、「フフ」と柔らかく微笑んでくれるのだ。
俺が女なら普通に惚れている。
「えっ、えりーじぇです」
「これからよろしく頼む、エリージェ」
「エ! リ! イ! ゼ! 噛んだの!」
「そうか」
こういう風に、人をいじることだって普通にする。
意外と人間らしい。
あ、悪口じゃないぞ。
「俺は必ず、お前達を無事に故郷に送り届ける。
道中で何があろうとな」
「お願いします」
「まずは、どうやって大陸を渡るかだ」
そうか。
ここは天大陸であり、俺達がいた中央大陸からはかなり離れている。
距離にしてどれくらいなのかはあまりわからないが、海を渡らなければならないことは確かだ。
「選択肢としては二つある」
ランスロットは、木の枝で地面に簡易的な世界地図を描いたあと、線を引き始めた。
「一つは、このルートだ。
今俺達がいるのが、天大陸の南端。
ここから東に進んでボレアス大陸を経由する。
そしてもう一つは、西に進んでデュシス大陸を経由するルートだ」
「どうして北に進んで、ケントロン大陸の方を突っ切らないのよ?」
「天大陸とケントロン大陸の間にある『ヤワニ海』は、渡るにはあまりにも危険すぎる。
ここを渡っていけば、半年もあれば中央大陸に渡れるだろう。
だが、この海を渡れた人間は一人たりともいない」
なるほどな。
急がば回れというやつか。
ショートカットをしようとして命を落とすとかバカバカしいしな。
なんだか柔らかそうな名前の海なのに、その素性はとんでもなかった。
「どっちの方が早いんですか?」
「ボレアス大陸ルートの方が若干早く辿り着けるだろう。
ただ、こっちの方が危険だ。
途中に、『飛龍山脈』という長い山脈がある。
その山脈には強いドラゴン系の魔物が飛び回っているから、並の人間であれば越えることはできないだろう。
あの『七神』でさえも、その場所を通るのは避けるくらいだ」
「それなら、デュシス大陸の方から渡りましょ」
珍しいな。
こういう時、エリーゼは絶対に危険な方を選ぶはずなのに。
成長したんだな。
おじさん泣きそうだ。
俺もエリーゼの意見には激しく同意だ。
一刻も早くグレイス王国には帰りたいが、途中で死ぬわけにもいかない。
そんなに危険な山脈があるなら、少しでも危険度の低いデュシス大陸の方から回っていった方が賢明だろう。
あの『七神』でも避けて通るレベルの山脈を越えるなんて、いくらなんでも無理ゲーだ。
まだランスロットがどれほどの強さなのかは知らないが、なるべく安全にグレイス王国まで帰りたい。
無事にたどり着けたら、まずはロトアとルドルフを探そう。
あの二人に限って簡単に死ぬなんてことはないだろうが、息子として二人の安否は心配だ。
「西側のルートから行った場合、どのくらいかかるんですか?」
「道中で何があるか分からないから何とも言えないが、最短でも一年……いや、二年はかかるな」
「二年?!」
一年と二年じゃえらい違いですけども。
飛行機や新幹線がない以上、自分の足で歩かないといけないからな……。
ランスロットが描いた世界地図を見る限りだと、やっぱりこの世界って広いんだな。
あんまりちゃんと世界地図を見たことがなかったから、どの大陸がどこにどのように浮かんでいるのかをよく知らなかった。
ランスロットの言った通り、道中で何が起こるか一切分からない。
だから、場合によっちゃ三年以上かかる可能性もあるということだ。
「まあ、そう焦って帰る必要もないだろう。
昨晩ベルから聞いた話だと、父は『剣帝』、母は特級魔術師だそうじゃないか。
簡単に死んだりはしないはずだ」
「そうですね」
「早く家に帰りたいところだけど、ゆっくり帰るってことね。
無事に帰れるなら、それでもいいわ……ふぁ……」
安心はできない。
でも、急いで帰ろうとして途中で死ぬのは以下略。
竜人族の戦士は特に高い戦闘能力を誇るというし、この人がいれば必ず守ってくれるだろう。
そう信じて、旅を始めよう。
――――――絶対に、生きて帰る。
---
俺達は計画通り、西の方角を目指して歩き出した。
何年かかるかわからない、途方のない旅。
決して楽観視はできないが、せっかくだから楽しく旅をしようじゃないか。
こんな機会がまた訪れるとは思えないしな。
「冒険! 楽しみだわ!」
エリーゼもこんな感じでこの状況を楽しんでいる。
過酷な旅になるかもしれないが、ランスロットがいるなら安心だ。
「ここから最寄りの集落までは、歩いて半日くらいだ。
途中で魔物に遭遇するだろうが、心配するな」
「僕達も戦えますよ」
「俺に全て任せておけ」
「あたしも戦うの!」
「……」
ランスロットに全て任せてしまえば魔物なんて敵じゃないだろうが、ランスロットに負担をかけすぎるのはよくない。
不安な俺達を気遣ってくれるのはありがたい。
でも、完全キャリーをしてもらうのは些か悔しいというか。
わがままなのは分かっているが、俺達としても頼り切りにするわけにはいかない。
「……分かった。だが、無理はするなよ」
「はい」
「分かったわ!」
エリーゼの元気のいい返事が、広い荒地に響き渡った。
村に辿り着いた。
まあ……大変な道のりだったな。
道はゴツゴツしてるし、高低差もあるし。
見たことのない魔物にも遭遇して、かなり苦戦した。
地上戦なら何とかなるんだが、その魔物は空を飛び回るタイプの魔物だったからな……。
俺達は三人とも近接戦闘タイプだから、あまりにも分が悪かった。
俺が辛うじて放った魔術がたまたま当たってくれたおかげで何とかなったが、下手をすれば危なかったかもしれない。
上級魔術師であるとはいえ、魔術の精度はまだまだ改善の余地がある。
おかげで到着がだいぶ遅くなってしまった。
時間は分からないが、もう空は暗い。
夜になると魔物が強くなるらしいから、この大陸にいる間は野宿をするのはやめておいた方が良さそうだ。
「疲れただろう。
ゆっくり休んでいくといい」
「ありがとうございます」
もちろん、相手は竜人族。
俺も頑張ってコミュニケーションをとっているが、やはり竜人語は難しいな。
夜の訪問だったのにも関わらず、住人の男の人は快く滞在を許してくれた。
この村は、お世辞にも大きな村とは言えない。
家の形状は至って普通だが、その数は数十軒程度。
泊めてもらう村に大きさは問わないが。
「ねえ、ランスロット。
この村の人達、ランスロットと全然違う見た目だけど、どうしてなの?」
確かに、それは俺も気になった。
ランスロットは白い肌に美しい銀色の髪の毛。
しかしこの村の人たちの肌の色は、人間と同じ肌色。
髪の毛の色は緑色だ。
「竜人族の中にも、いくつか種類がある。
俺はソガント族。この村の人々はミトール族だ」
ミトール族を見とる俺、つってな。
やべ、声に出してすらないのに冷や汗出てきた。
「いくつくらい種族があるんですか?」
「竜人族だけでも五十はあるな」
「多すぎるわ!」
「しーっ! もう夜なんですから!
うわっ! くすぐったい!」
俺がエリーゼの口を手で塞ぐと、エリーゼは俺の手のひらをベロベロと舐め回してきた。
なんか既視感があるような気がするが。
まあこのままでいいや。
拭くの面倒くさいし。
「手を拭かなくていいの?」
「ご褒美なので」
「気持ち悪」
酷いなぁ。
悪いこと言ってるわけじゃないんだけど。
「そういえばランスロットって、ベルのよく話してた『銀髪の英雄』の主人公の名前と同じよね」
「……」
ランスロットは険しい表情をする。
昨日、俺がその話を出した時にエリーゼは起きていたはずだが。
眠たそうにしていたからあまり記憶がないのだろうか。
「……これから長い旅になるから、話しておいたほうがいいかもしれないな」
突然神妙な顔になったランスロット。
俺とエリーゼも座り直して、真面目に聞く体勢になる。
「その本に出てくる『ランスロット』とは、多分俺のことだ。
ソガント族の中に、俺と同じ名前の奴はいなかったはずだからな。
だが、本に書かれたような活躍はしていない。
……むしろ、俺は竜人族の名誉に泥を塗った」
「泥?」
「……俺は、訳の分からない呪いのせいで、数多くの同族を殺してしまったのだ」
呪い。
俺の知る呪いといえば、天候操作を使った魔術師に対する呪いくらいだが。
ランスロットは槍で戦うタイプの戦士だから、魔術は使わないだろうし。
……呪いなんて、探せばいくらでも出てくるか。
「俺はそのせいで、ソガント族の村を追放された。
親も兄弟も、全員戦争で死んだから、俺はこうして長いこと流浪している」
「長いことって……。
戦争が終わってから150年以上もの間、一人で放浪してるってことですか?」
「そうだ。まあ、安心しろ。
俺の悪名は、時代とともに風化しているだろう。
ソガント族の村に行くことがあれば、きっとゴミを見るような目で見られるだろうがな」
この優しさの裏に、酷い仕打ちを受けた過去があったんだな。
というか、弁明の余地はなかったのだろうか。
本人は呪いだと言っているのに、誰にも取り合ってもらえなかったのか?
得体の知れない子供を助けるくらいの心の持ち主なんだから、俺達に嘘をついているということはなさそうだし。
「じゃあ、あの本に出てくる『ランスロット』っていうのはどういうことなのかしらね」
「『帝王』と『魔王』を撃破し、戦乱を鎮めたと記されていたらしいな。
それを成し遂げたのは、『龍王』フィリアスだ。
お前たちが読んだ本は、俺を小馬鹿にする目的で書いたのだろう」
そういうことだったのか。
だがそれだと、色々と話がややこしくならないか。
ランスロットは一族の汚点として村を追われたという事実があるのに、
どうしてわざわざそんな風に捏造したのだろうか。
フィリアスがその功績を上げたなら、フィリアスを英雄として本に記せばよかったはず。
あの本の作者は性格が悪いな。
まんまと騙されてしまった。
「ランスロットさん」
「何だ」
「ソガント族の人達には認められなかったかもしれませんけど、僕達はランスロットさんを信じてますからね」
「命を助けてもらった上に、グレイス王国まで送り届けようとしてくれてるんだもの。
そんな人のどこが悪者なのよ。
ソガント族の奴らは揃って馬鹿なんでしょうね」
おっと、言い過ぎは良くないぞエリーゼ。
ランスロットも、いくら貶された相手だとはいえ、同族を馬鹿にされるのは流石にいい気はしないだろうし。
「……ふっ。お前達は、いい子供だな」
ランスロットはそのゴツゴツとした手を俺とエリーゼの頭に乗せ、わしゃわしゃと撫でた。
あまり撫で慣れていない手つきがくすぐったいが、悪い気はしない。
無事に帰ることができたら、ロトアとルドルフを探すとともに、ランスロットの呪いの解明、そして名誉回復を手伝おう。
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