28 / 81
第2章 少年期 邂逅編
第二十六話「31歳の少女」
しおりを挟む
翌日。
俺達は早朝に出発する予定だったが、アクシデントがあった。
エリーゼが、風邪を引いてしまった。
---
体調を崩してしまったエリーゼを無理矢理旅に連れていくわけにもいかないので、俺は村を散策してみることにした。
外が明るくなってくると、人々が活動を始めた。
とはいっても、人は少ないから賑やかであるとはいえない。
ラニカ村がいかに活発な村だったのかがわかる。
でも、これはこれでいいな。
賑やかではないものの、逆に静かで心が落ち着く。
「こんにちは」
「こんにちは。おや、人族の子供かね。珍しいのぉ」
「わけあって、旅をしてるんです」
「その年でかい? 立派な子だねぇ」
おじいちゃんなのかおばあちゃんなのか分からないが、ご老人は目を細めて笑った。
一から事情を話すとなるとかなり長くなってしまうから、これからはこれで済ませよう。
「わしはミトール族の族長のアルカじゃ。
何もなくてつまらない村じゃが、好きなだけゆっくりしていっておくれ」
「はい、ありがとうございます」
初っ端から族長に出会ってしまった。
親切なご老人でよかった。
「人族は竜人族の敵じゃ!」とか言われて追放されたりしたらたまったもんじゃないからな。
魔人竜大戦なんてもうずいぶん前なんだし、そこまで根に持っている人はいないかもしれないが。
確か、この世界における西暦である『明龍暦』は、魔人竜大戦が終戦したその年を元年とした暦だったよな。
小さな頃に読んだ本に書いてあったのをなんとなく覚えている。
俺が転生したのが、ちょうど明龍暦150年だったはず。
それから9年経ったから、今は明龍暦159年ってことだな。
カレンダーとかがないからややこしくて困る。
ラニカ村にいた時は村内放送で年月日を毎日教えてくれていたから、便利だったな。
全世界の全自治体で実施するべきだ。
さて、散策をするといっても何をしようか。
族長さんが言った通り、言っちゃ悪いが何もない。
都会なら歩き回るだけでも飽きないが、こうも狭く小さな村となると行き場に困る。
うーむ……。
大人しくランスロットと一緒にエリーゼの看病をした方がいいだろうか。
となると、本当にやることがなくなってしまう。
別にエリーゼの看病が嫌だとかいうわけではなく、
エリーゼの身の回りの世話は全てランスロットがやってくれるのだ。
風邪なんて一日じゃ完治はしないだろうから、
完治しないまま旅を再開して悪化させてもいけないし……。
一人で魔物と戦ってみるか?
いや、無理はするなってランスロットにも言われてるしやめておいた方がいいか。
天大陸の魔物は、ラニカ村周辺に湧く魔物に比べてかなり手強い。
こんなとこで死ぬわけにもいかないしな。
「あの」
「はい?」
背後から女の声が聞こえた。
振り返るとそこには、竜人族の少女が立っていた。
あれ、そういえばこの村の人達には角がないな。
角がない竜人族なんて、もはや人族との違いが分からないけど。
緑色の髪を三つに編み、それが二つに分かれている。
そして、わお、整ったお顔。
中学生くらいの見た目だが、本当の所はどうかわからないな。
長命族って、見た目に反して結構歳をとってたりするし。
「うぅ……その……」
顔を赤くしてこちらを見ている少女は、モジモジと体をくねらせている。
おしっこならお手洗いへどうぞ。
可愛い子は好きだが、しょんべんをかけられる趣味は持ち合わせていない。
「えっと……どうかしましたか?」
「……」
黙り込んだまま、なおもモジモジしている。
言いたいことがあるんだったらはっきり言ってもらわないと。
内気な女の子なのだろうか。
それなら見知らぬ男の子に声をかけたりなんてしないか。
「……私のパンツ、返してくれませんか?」
「……?」
パンツ?
流石に下着ドロボーをするほど非常識な人間ではないと自負しているんだけど、ひどいなぁ。
パンツなんて、一体どこに……。
「パンツ発見!」
「声が大きいです!」
---
その少女のパンツは、どういうわけか俺のローブに引っ掛かっていたらしい。
頭に降ってきたとかなら気づけたが、服に引っ掛かったとなると気づくことは難しい。
ちゃんと返して、謝罪した。
「こっちですよ、ベル」
その後、何故か仲良くなった。
そういう趣味なのだろうか。
人の服に自分のパンツを引っ掛けて喜ぶのか。
なんて良……悪趣味だ。
この少女の名前は、シャルロッテというらしい。
何とも強キャラ感のあるかわいらしい名前だ。
「この村は、見ての通りとても小さく、何もない村です。
ですが、この辺りでは唯一の人のいる村。
一番近い集落でも、ここから歩いて五日はかかります」
「五日も!?」
そんなにかかるのか……。
野宿はやめておいた方がよさようとか思ってたが、せざるを得ないか。
それも経験だ。うん。
「ベルは、旅をしているんでしたよね」
「どうして分かったんですか?」
「……パンツが引っかかっているのを見つけて、後ろを付けてましたからね。
族長とそんなことを話しているのを聞いていました」
「す、すみません……」
俺、女物のパンツを引っかけたまま村を歩いていたのか。
たまにクスクスと笑い声が聞こえていたのは、もしかして俺に対してだったのか?
恥ずかしくなってきたな。
「いえ、別に怒っているわけでは……。
洗濯物を干していた時に、パンツが風に飛ばされてしまったんです。
それがたまたまベルのローブに引っ掛かってしまっただけなので、仕方ないです」
ふむ、なるほど。
ラッキースケベというやつか。
穿いてるやつが脱げて俺のローブに引っ掛かったわけじゃないならまだよかった。
もしそうなった場合、向こう三年は脳に焼き付いたままだろう。
なんたって、俺はまだ童貞だからな。
ははは。
「はぁ……」
「どうかしました?」
「あ、いえ」
ため息が漏れていたようだ。
自分で言っていて虚しくなってしまった。
「族長も言っていましたが、その年で旅をするなんて、凄く立派ですね。
一人で旅をしているんですか?」
「いえ、三人です。
一人は僕の三つ上の王女様で、もう一人は竜人族の人です」
「王女様、ですか。
ちなみに、どの国の?」
「中央大陸の、グレイス王国という国です」
「中央大陸!?
どうしてまた、そんな遠いところの王女様と?」
「……話せば、長くなります」
シャルロッテとは仲良くなったし、事の経緯を話してもいいかもしれない。
俺は、この大陸に来るまでのことをなるべく簡潔に話した。
「転移隕石……聞いたことがあります」
「目が覚めたら、ソガント族の戦士の方に助けていただいて。
それで、何とかこの村まで辿り着きました」
「大変なんてレベルじゃ、ありませんね……」
確かに、「大変でしたね」なんて言葉じゃ済まされないくらいの非常事態ではある。
普通に生活していたはずが、あの一瞬で全てが変わってしまった。
あの村には思い入れもあったし、残念だ。
あんなとんでもない衝撃と光が村を飲み込んだのだ。
無事に村が残っているわけがない。
「……あの、もしよければ、私も旅に同行してもいいですか?」
「えっ? 何を言って……」
「話を聞いて、居ても立っても居られなくなったというか……。
それに、私自身、冒険というものに興味があるので」
旅に同行って……。
何年もかかると思われる旅に、自ら志願するなんて。
そりゃ、味方は何人いても困らないけど……。
「お願いします。
ちゃんと役に立てるかは分かりませんが、私はこれでも聖級魔術師です。
戦闘面でいえば、ある程度は戦えます」
聖級魔術師だと。
強そうな名前の通り実力者だった。
でも、勝手に連れて行っても大丈夫なのだろうか……。
この村の住人だということは、家族や友人なんかもいるだろうし。
それに、
「ぼ、僕は全然構わないですが、もう二人に聞いてみないことには勝手に判断ができません。
なので、一度僕の仲間と顔を合わせて、話をしてみましょう」
「分かりました。
もちろん、ダメだと言われれば素直に引き下がる覚悟はできていますので」
ダメとは言われないと思うが。
俺一人が全て判断してしまうのはよくない。
俺とエリーゼ、そしてランスロットの三人で一つの「パーティ」なのだから。
---
「初めまして。シャルロッテ・ミトーリアです」
「この村の住人か」
「はい。えっと、そちらのお嬢さんが、エリーゼ様ですか?」
「シャルロッテ。エリーゼに様をつけたら殴られますよ」
「そんなに野蛮なお嬢様なんですか?」
「何言ってるの、ベル……あたしが殴るのは、あんただけよ……」
何で?
そんな個人的な恨みを買うようなことしたか、俺。
でも思えば、エリーゼが俺以外の人を殴っているところは見たことないような気がする。
……いや、何で?
「その、あなたのお名前は?」
「俺の名を聞いて、取り乱さないと約束できるか?」
「え? そんな失礼なことがありますか?」
シャルロッテは微笑まじりにそう言っているが、実際どうだか。
「時代とともに風化しただろう」と言っていたランスロットだが、果たして。
もしシャルロッテが泣き叫んでしまって大変な騒ぎになれば、村を追われるかもしれない。
第一印象としては冷静な少女というイメージだが、果たしてどうなるか。
「俺は、ソガント族のランスロットだ」
「ソガント族のランスロット……。
もしかして、魔人竜大戦の時に同胞を大量に殺したという、あの?」
「そうだ」
シャルロッテは僅かに表情を揺るがせたが、恐れおののくという様子は見られなかった。
良かった。理解のある人間だったか。
「俺が、怖いか?」
「驚きはしましたが、怖くはないです。
その話を初めて聞いた時は怖かったですけど、この目で姿を見て少し安心しました」
「安心?」
「……本当は、見知らぬ子供の命を助ける程の、優しい心の持ち主なのだと知ったからですよ」
「――」
そうだ。
ランスロットは、優しいんだ。
「同族の大量殺戮」という過去の行いが消えることはないが、
それは抵抗のしようがない呪いによって脳が支配されていたためだ。
何も知らない奴らが勝手にランスロットを責め立てて追い出しただけ。
ランスロットという一人の人間は、誰よりも優しい心の持ち主なのだ。
「それで、何をしに来た?」
「私も、あなたたちの旅に同行させてはいただけませんか?」
シャルロッテの言葉を聞いて、ランスロットは考え込むような仕草を見せる。
俺としても、悩みどころではある。
シャルロッテか見た目から考えるに、エリーゼの二つか三つ上くらいの年齢に見える。
人族とは違う長命族だから、言い切れはしない。
でも、こんなに小さな少女を壮大な旅に連れていくとなると、少々気が引ける。
…………俺、九歳だったわ。
偉そうに小さな少女だとか言ったけど、俺の方が明らかに年下だった。
それに、さっき彼女は自分で聖級魔術師だと言っていた。
無駄な心配でした。すんません。
「どうして、旅に同行したいのだ?」
「はい。二人の事情を聞いて、私も何かしらのサポートがしたくなったんです。
ですが、もうすぐに旅立つと聞いて。
それなら、一緒に旅をすることしか私にできることはないと思いました」
何だこれ。就職面接か?
シャルロッテの誠意は十分に伝わる。
全く面識のない子供のためにここまで動いてくれるなんて、世界のどこを探してもこんなにいい人はいないだろう。
ランスロットは「ふむ」と声を漏らし、顎に指を当てた。
そして顔を上げて、シャルロッテの顔を見た。
「分かった。
正直、俺一人では不安だったのだ。
旅についてきても良いだろう」
シャルロッテはその言葉を聞いて、目を輝かせた。
もしかすると、彼女自身、「旅」というものに興味があったのかもしれない。
「だが、その歳で俺のサポートができるのか?」
「私を何歳だと思っているんですか」
「14歳くらいか?」
「失礼ですね。もう31です」
えっ!?
こんなに小さいのに31歳なのか。
胸の話じゃないぞ。
身長でいうなら、145センチくらいだろうか。
まあ俺が言えたことじゃないんだが。
「一応、聖級魔術師なので、ある程度は戦えます」
「後衛型か?」
「はい。近接戦闘は苦手なので」
後衛型なのは助かる。
なにせ、俺達三人は全員前衛型だからな。
得意魔術は、髪の色的に風魔法とかだろうか。
大体こういうのって、髪の色と繋がっていることが多い。
「得意な属性は?」
「雷です」
「風じゃないのかよ!」
「えっ、どうしてですか?」
「あっ、何でもないです」
俺の中の法則性が破綻してしまった。
この見た目で雷落としたりするのか。
ちなみに、雷魔法は天候操作に含まれない。
手や杖から雷を飛ばしたり、聖級以上なら魔法陣から雷を落としたり。
なにも、雷雲を作ってそこから落とすというわけではないからな。
もとより、雨を降らせたりする天候操作系の魔法を使ってはいけない理由は、「その魔術によって人為的に災害を起こすことができる可能性があるため」である。
………でも、雷降らせまくれば、別に災害くらい起こせるよな。
その辺が割とガバガバだから、よく分からないんだよな。
呪いが発動するにしろしないにしろ、人為的な災害を引き起こした人間は極刑だろうけど。
「確か、この子たちは中央大陸から来たと聞きました。
その故郷に送り届けるということですよね?」
「ああ、そうだ。
ここから更に西に進んで、船でデュシス大陸に渡る。
それから中央大陸にも船で渡る。
大体早くて二年くらいだろう」
「二年……」
「今からでも、やめておくという選択肢はある。
お前が一人暮らしをしているとしても、家族と過ごしているとしても、最低四年はこの村に帰ることはできない。
その上、旅は過酷なものとなる。
船に乗って大陸間を移動するには莫大な金が要るから、冒険者をするなりして金を稼がなければならないしな」
「冒険者?!」
びっくりした。
寝ていたはずのエリーゼが突然飛び起きた。
エリーゼは昔から冒険者に興味を持っていたな。
思わぬところで夢が叶うかもしれないということで、体が勝手に反応してしまったのだろう。
どんな体してるんだよ。
そうか、忘れていた。
これから長い長い旅をする中で一番必要なのは、金だ。
金がないことには、途中で寄る町で宿を借りたりすることもできないし、飯を食うこともできない。
飯は最悪魔物を狩って食えばいいが、ずっと野宿を続けるのは流石に危険だ。
いくら聖級魔術師とソガント族の戦士が一緒とはいえ、確実に安全であるとはいえない。
そんなに長いこと働いて金をつくるとなると、かなり長い年月を要する。
手っ取り早く稼げるのは、冒険者くらいしか思いつかない。
「それでも、私はついていきます。
私自身、旅をするということに興味はありましたし。
もちろん、そんな生温い覚悟で言っているわけではありませんよ」
「……そうか。それなら、良いだろう」
俺の予想は当たっていたらしい。
シャルロッテは「ありがとうございます」と言って、ホッと胸を撫で下ろした。
本当に就職面接をしているかのような雰囲気だった。
ともあれ、心強い仲間が新しく加わってくれた。
ランスロット一人でも十分安心だったが、更に戦力が補強されただろう。
俺のローブに引っ掛かってくれたパンツよ、よくやった。
俺達は早朝に出発する予定だったが、アクシデントがあった。
エリーゼが、風邪を引いてしまった。
---
体調を崩してしまったエリーゼを無理矢理旅に連れていくわけにもいかないので、俺は村を散策してみることにした。
外が明るくなってくると、人々が活動を始めた。
とはいっても、人は少ないから賑やかであるとはいえない。
ラニカ村がいかに活発な村だったのかがわかる。
でも、これはこれでいいな。
賑やかではないものの、逆に静かで心が落ち着く。
「こんにちは」
「こんにちは。おや、人族の子供かね。珍しいのぉ」
「わけあって、旅をしてるんです」
「その年でかい? 立派な子だねぇ」
おじいちゃんなのかおばあちゃんなのか分からないが、ご老人は目を細めて笑った。
一から事情を話すとなるとかなり長くなってしまうから、これからはこれで済ませよう。
「わしはミトール族の族長のアルカじゃ。
何もなくてつまらない村じゃが、好きなだけゆっくりしていっておくれ」
「はい、ありがとうございます」
初っ端から族長に出会ってしまった。
親切なご老人でよかった。
「人族は竜人族の敵じゃ!」とか言われて追放されたりしたらたまったもんじゃないからな。
魔人竜大戦なんてもうずいぶん前なんだし、そこまで根に持っている人はいないかもしれないが。
確か、この世界における西暦である『明龍暦』は、魔人竜大戦が終戦したその年を元年とした暦だったよな。
小さな頃に読んだ本に書いてあったのをなんとなく覚えている。
俺が転生したのが、ちょうど明龍暦150年だったはず。
それから9年経ったから、今は明龍暦159年ってことだな。
カレンダーとかがないからややこしくて困る。
ラニカ村にいた時は村内放送で年月日を毎日教えてくれていたから、便利だったな。
全世界の全自治体で実施するべきだ。
さて、散策をするといっても何をしようか。
族長さんが言った通り、言っちゃ悪いが何もない。
都会なら歩き回るだけでも飽きないが、こうも狭く小さな村となると行き場に困る。
うーむ……。
大人しくランスロットと一緒にエリーゼの看病をした方がいいだろうか。
となると、本当にやることがなくなってしまう。
別にエリーゼの看病が嫌だとかいうわけではなく、
エリーゼの身の回りの世話は全てランスロットがやってくれるのだ。
風邪なんて一日じゃ完治はしないだろうから、
完治しないまま旅を再開して悪化させてもいけないし……。
一人で魔物と戦ってみるか?
いや、無理はするなってランスロットにも言われてるしやめておいた方がいいか。
天大陸の魔物は、ラニカ村周辺に湧く魔物に比べてかなり手強い。
こんなとこで死ぬわけにもいかないしな。
「あの」
「はい?」
背後から女の声が聞こえた。
振り返るとそこには、竜人族の少女が立っていた。
あれ、そういえばこの村の人達には角がないな。
角がない竜人族なんて、もはや人族との違いが分からないけど。
緑色の髪を三つに編み、それが二つに分かれている。
そして、わお、整ったお顔。
中学生くらいの見た目だが、本当の所はどうかわからないな。
長命族って、見た目に反して結構歳をとってたりするし。
「うぅ……その……」
顔を赤くしてこちらを見ている少女は、モジモジと体をくねらせている。
おしっこならお手洗いへどうぞ。
可愛い子は好きだが、しょんべんをかけられる趣味は持ち合わせていない。
「えっと……どうかしましたか?」
「……」
黙り込んだまま、なおもモジモジしている。
言いたいことがあるんだったらはっきり言ってもらわないと。
内気な女の子なのだろうか。
それなら見知らぬ男の子に声をかけたりなんてしないか。
「……私のパンツ、返してくれませんか?」
「……?」
パンツ?
流石に下着ドロボーをするほど非常識な人間ではないと自負しているんだけど、ひどいなぁ。
パンツなんて、一体どこに……。
「パンツ発見!」
「声が大きいです!」
---
その少女のパンツは、どういうわけか俺のローブに引っ掛かっていたらしい。
頭に降ってきたとかなら気づけたが、服に引っ掛かったとなると気づくことは難しい。
ちゃんと返して、謝罪した。
「こっちですよ、ベル」
その後、何故か仲良くなった。
そういう趣味なのだろうか。
人の服に自分のパンツを引っ掛けて喜ぶのか。
なんて良……悪趣味だ。
この少女の名前は、シャルロッテというらしい。
何とも強キャラ感のあるかわいらしい名前だ。
「この村は、見ての通りとても小さく、何もない村です。
ですが、この辺りでは唯一の人のいる村。
一番近い集落でも、ここから歩いて五日はかかります」
「五日も!?」
そんなにかかるのか……。
野宿はやめておいた方がよさようとか思ってたが、せざるを得ないか。
それも経験だ。うん。
「ベルは、旅をしているんでしたよね」
「どうして分かったんですか?」
「……パンツが引っかかっているのを見つけて、後ろを付けてましたからね。
族長とそんなことを話しているのを聞いていました」
「す、すみません……」
俺、女物のパンツを引っかけたまま村を歩いていたのか。
たまにクスクスと笑い声が聞こえていたのは、もしかして俺に対してだったのか?
恥ずかしくなってきたな。
「いえ、別に怒っているわけでは……。
洗濯物を干していた時に、パンツが風に飛ばされてしまったんです。
それがたまたまベルのローブに引っ掛かってしまっただけなので、仕方ないです」
ふむ、なるほど。
ラッキースケベというやつか。
穿いてるやつが脱げて俺のローブに引っ掛かったわけじゃないならまだよかった。
もしそうなった場合、向こう三年は脳に焼き付いたままだろう。
なんたって、俺はまだ童貞だからな。
ははは。
「はぁ……」
「どうかしました?」
「あ、いえ」
ため息が漏れていたようだ。
自分で言っていて虚しくなってしまった。
「族長も言っていましたが、その年で旅をするなんて、凄く立派ですね。
一人で旅をしているんですか?」
「いえ、三人です。
一人は僕の三つ上の王女様で、もう一人は竜人族の人です」
「王女様、ですか。
ちなみに、どの国の?」
「中央大陸の、グレイス王国という国です」
「中央大陸!?
どうしてまた、そんな遠いところの王女様と?」
「……話せば、長くなります」
シャルロッテとは仲良くなったし、事の経緯を話してもいいかもしれない。
俺は、この大陸に来るまでのことをなるべく簡潔に話した。
「転移隕石……聞いたことがあります」
「目が覚めたら、ソガント族の戦士の方に助けていただいて。
それで、何とかこの村まで辿り着きました」
「大変なんてレベルじゃ、ありませんね……」
確かに、「大変でしたね」なんて言葉じゃ済まされないくらいの非常事態ではある。
普通に生活していたはずが、あの一瞬で全てが変わってしまった。
あの村には思い入れもあったし、残念だ。
あんなとんでもない衝撃と光が村を飲み込んだのだ。
無事に村が残っているわけがない。
「……あの、もしよければ、私も旅に同行してもいいですか?」
「えっ? 何を言って……」
「話を聞いて、居ても立っても居られなくなったというか……。
それに、私自身、冒険というものに興味があるので」
旅に同行って……。
何年もかかると思われる旅に、自ら志願するなんて。
そりゃ、味方は何人いても困らないけど……。
「お願いします。
ちゃんと役に立てるかは分かりませんが、私はこれでも聖級魔術師です。
戦闘面でいえば、ある程度は戦えます」
聖級魔術師だと。
強そうな名前の通り実力者だった。
でも、勝手に連れて行っても大丈夫なのだろうか……。
この村の住人だということは、家族や友人なんかもいるだろうし。
それに、
「ぼ、僕は全然構わないですが、もう二人に聞いてみないことには勝手に判断ができません。
なので、一度僕の仲間と顔を合わせて、話をしてみましょう」
「分かりました。
もちろん、ダメだと言われれば素直に引き下がる覚悟はできていますので」
ダメとは言われないと思うが。
俺一人が全て判断してしまうのはよくない。
俺とエリーゼ、そしてランスロットの三人で一つの「パーティ」なのだから。
---
「初めまして。シャルロッテ・ミトーリアです」
「この村の住人か」
「はい。えっと、そちらのお嬢さんが、エリーゼ様ですか?」
「シャルロッテ。エリーゼに様をつけたら殴られますよ」
「そんなに野蛮なお嬢様なんですか?」
「何言ってるの、ベル……あたしが殴るのは、あんただけよ……」
何で?
そんな個人的な恨みを買うようなことしたか、俺。
でも思えば、エリーゼが俺以外の人を殴っているところは見たことないような気がする。
……いや、何で?
「その、あなたのお名前は?」
「俺の名を聞いて、取り乱さないと約束できるか?」
「え? そんな失礼なことがありますか?」
シャルロッテは微笑まじりにそう言っているが、実際どうだか。
「時代とともに風化しただろう」と言っていたランスロットだが、果たして。
もしシャルロッテが泣き叫んでしまって大変な騒ぎになれば、村を追われるかもしれない。
第一印象としては冷静な少女というイメージだが、果たしてどうなるか。
「俺は、ソガント族のランスロットだ」
「ソガント族のランスロット……。
もしかして、魔人竜大戦の時に同胞を大量に殺したという、あの?」
「そうだ」
シャルロッテは僅かに表情を揺るがせたが、恐れおののくという様子は見られなかった。
良かった。理解のある人間だったか。
「俺が、怖いか?」
「驚きはしましたが、怖くはないです。
その話を初めて聞いた時は怖かったですけど、この目で姿を見て少し安心しました」
「安心?」
「……本当は、見知らぬ子供の命を助ける程の、優しい心の持ち主なのだと知ったからですよ」
「――」
そうだ。
ランスロットは、優しいんだ。
「同族の大量殺戮」という過去の行いが消えることはないが、
それは抵抗のしようがない呪いによって脳が支配されていたためだ。
何も知らない奴らが勝手にランスロットを責め立てて追い出しただけ。
ランスロットという一人の人間は、誰よりも優しい心の持ち主なのだ。
「それで、何をしに来た?」
「私も、あなたたちの旅に同行させてはいただけませんか?」
シャルロッテの言葉を聞いて、ランスロットは考え込むような仕草を見せる。
俺としても、悩みどころではある。
シャルロッテか見た目から考えるに、エリーゼの二つか三つ上くらいの年齢に見える。
人族とは違う長命族だから、言い切れはしない。
でも、こんなに小さな少女を壮大な旅に連れていくとなると、少々気が引ける。
…………俺、九歳だったわ。
偉そうに小さな少女だとか言ったけど、俺の方が明らかに年下だった。
それに、さっき彼女は自分で聖級魔術師だと言っていた。
無駄な心配でした。すんません。
「どうして、旅に同行したいのだ?」
「はい。二人の事情を聞いて、私も何かしらのサポートがしたくなったんです。
ですが、もうすぐに旅立つと聞いて。
それなら、一緒に旅をすることしか私にできることはないと思いました」
何だこれ。就職面接か?
シャルロッテの誠意は十分に伝わる。
全く面識のない子供のためにここまで動いてくれるなんて、世界のどこを探してもこんなにいい人はいないだろう。
ランスロットは「ふむ」と声を漏らし、顎に指を当てた。
そして顔を上げて、シャルロッテの顔を見た。
「分かった。
正直、俺一人では不安だったのだ。
旅についてきても良いだろう」
シャルロッテはその言葉を聞いて、目を輝かせた。
もしかすると、彼女自身、「旅」というものに興味があったのかもしれない。
「だが、その歳で俺のサポートができるのか?」
「私を何歳だと思っているんですか」
「14歳くらいか?」
「失礼ですね。もう31です」
えっ!?
こんなに小さいのに31歳なのか。
胸の話じゃないぞ。
身長でいうなら、145センチくらいだろうか。
まあ俺が言えたことじゃないんだが。
「一応、聖級魔術師なので、ある程度は戦えます」
「後衛型か?」
「はい。近接戦闘は苦手なので」
後衛型なのは助かる。
なにせ、俺達三人は全員前衛型だからな。
得意魔術は、髪の色的に風魔法とかだろうか。
大体こういうのって、髪の色と繋がっていることが多い。
「得意な属性は?」
「雷です」
「風じゃないのかよ!」
「えっ、どうしてですか?」
「あっ、何でもないです」
俺の中の法則性が破綻してしまった。
この見た目で雷落としたりするのか。
ちなみに、雷魔法は天候操作に含まれない。
手や杖から雷を飛ばしたり、聖級以上なら魔法陣から雷を落としたり。
なにも、雷雲を作ってそこから落とすというわけではないからな。
もとより、雨を降らせたりする天候操作系の魔法を使ってはいけない理由は、「その魔術によって人為的に災害を起こすことができる可能性があるため」である。
………でも、雷降らせまくれば、別に災害くらい起こせるよな。
その辺が割とガバガバだから、よく分からないんだよな。
呪いが発動するにしろしないにしろ、人為的な災害を引き起こした人間は極刑だろうけど。
「確か、この子たちは中央大陸から来たと聞きました。
その故郷に送り届けるということですよね?」
「ああ、そうだ。
ここから更に西に進んで、船でデュシス大陸に渡る。
それから中央大陸にも船で渡る。
大体早くて二年くらいだろう」
「二年……」
「今からでも、やめておくという選択肢はある。
お前が一人暮らしをしているとしても、家族と過ごしているとしても、最低四年はこの村に帰ることはできない。
その上、旅は過酷なものとなる。
船に乗って大陸間を移動するには莫大な金が要るから、冒険者をするなりして金を稼がなければならないしな」
「冒険者?!」
びっくりした。
寝ていたはずのエリーゼが突然飛び起きた。
エリーゼは昔から冒険者に興味を持っていたな。
思わぬところで夢が叶うかもしれないということで、体が勝手に反応してしまったのだろう。
どんな体してるんだよ。
そうか、忘れていた。
これから長い長い旅をする中で一番必要なのは、金だ。
金がないことには、途中で寄る町で宿を借りたりすることもできないし、飯を食うこともできない。
飯は最悪魔物を狩って食えばいいが、ずっと野宿を続けるのは流石に危険だ。
いくら聖級魔術師とソガント族の戦士が一緒とはいえ、確実に安全であるとはいえない。
そんなに長いこと働いて金をつくるとなると、かなり長い年月を要する。
手っ取り早く稼げるのは、冒険者くらいしか思いつかない。
「それでも、私はついていきます。
私自身、旅をするということに興味はありましたし。
もちろん、そんな生温い覚悟で言っているわけではありませんよ」
「……そうか。それなら、良いだろう」
俺の予想は当たっていたらしい。
シャルロッテは「ありがとうございます」と言って、ホッと胸を撫で下ろした。
本当に就職面接をしているかのような雰囲気だった。
ともあれ、心強い仲間が新しく加わってくれた。
ランスロット一人でも十分安心だったが、更に戦力が補強されただろう。
俺のローブに引っ掛かってくれたパンツよ、よくやった。
0
あなたにおすすめの小説
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる