空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第2章 少年期 邂逅編

第二十七話「聖級の手腕やいかに」

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 二日経って、エリーゼの風邪も完治したところで、俺達は出発することにした。
 どうやらシャルロッテは普通に実家で暮らしているらしく、両親からの見送り付きで村を出た。
 とても優しいお父さんとお母さんで、ミトール族に伝わるお守りを渡してくれた。

 加えて、族長率いるミトール族が全員で見送ってくれた。
 本当に温かい村だった。
 また天大陸に来る機会があれば、この村に寄ろう。
 また来ることはしばらくなさそうだけど。

 村が小さくなっていくのを尻目に、次なる「町」を目指しているところだ。

 次の目的地は、アルベーという町。
 ミトール族の村に比べるとかなり大きな町らしい。

 天大陸に大きな国はなく、村や町がそれぞれ独立しているという。
 かといって、領土争いなんかは起こらないような平和な大陸だ。

 アルベーまでは、シャルロッテの言った通り五日もかかる。
 道中に集落はないから、着くまでは野宿は避けられないな。
 前世でも野宿はしたことがなかったから、新鮮な体験ができるかもしれない。

 でも多分、代わる代わる見張りをしなきゃならないんだろうな。
 寝ている時に起こされるのはこの上なくストレスだから、果たして耐えられるかどうか。
 頭がおかしくなって魔術をぶっ放したりしないか心配だ。

「この大陸には、どんな魔物が出るのかしら」
「『炎鷹フレイムホーク』や『ウィンドコンドル』、『ミノタウロス』。
 他にも、色んな魔物が出ます。
 魔大陸に比べればまだ魔物は強くはないですが、それでも駆け出しの冒険者なんかは苦戦を強いられることもあります」
「魔大陸の魔物はそんなに強いんですか?」
「字面からも分かる通り、魔の大陸だ。
 他の大陸には存在しないような強い魔物がたくさんいる。
 『世界四大魔獣』の一角を担う魔物もいる」
 
 初日にランスロットが描いた世界地図だと、確か魔大陸は天大陸の正反対の場所に存在するはず。
 生きているうちに魔大陸に行くような機会はあるのだろうか。
 でも、かなり遠いしな。

 この世界には転移魔術なるものは存在しない。
 色んな所に行きたいなら、自分の足で歩くしかないということだ。
 新幹線やら飛行機やらがあればなぁ……

「ベルとエリーゼは、戦えるんですか?
 ……あっ、こんなに小さな子供に戦わせるのは酷ですね。すみません」
「僕は火上級魔術師で、エリーゼは火上級剣士ですよ。
 魔物の相手くらいならできます」
「上級!? それは失礼しました……。
 今どきの子供は見くびってはいけませんね……」

 そうだぞ。
 子供だからと言って油断していてはいけない。
 成人するまでには聖級魔術師になっておく予定でいるんだからな。

 この世界における成人は、15歳である。
 となると、俺はあと6年で習得しなければならないのか。
 グレイス王国に帰るまでに三年かかると見積もっても、魔術を学ぶ猶予は三年しかない。
 ロトアから教わるつもりだったのに、あの忌々しい隕石のせいで……。

 …………あ、そうだ。
 いいことを考えた。

「シャルロッテ」
「何ですか? ベル」
「僕に、魔術を教えてくれませんか?」
「私がですか?」

 シャルロッテはやや驚いたような反応を見せる。
 そんなに意外だっただろうか。

「その歳で上級魔術師なんですから、十分だと思いますが」
「この歳で上級だからこそ、まだまだ上を目指したいんです。
 母さんのように、凄い魔術師になりたいので」
「ベルのお母さんは、そんなに凄腕なんですか?」
「特級魔術師です」
「特級!?」

 今日はやけに大きな声を上げて驚くな。
 特級魔術師は世界に100人程度しかいないらしいし、驚くのも無理ないが。

 約束したんだ。
 いつか、ロトアのような魔術師になると。
 無論、俺は彼女を超えるくらいの魔術師になるつもりだが。

「私は聖級魔術までしか教えられませんが、いいんですか?」
「もちろんです。
 まずは聖級を習得しないことには、それより上に行けませんからね」
「せ、聖級よりも上を目指すつもりですか?
「母さんは特級なのでね」

 シャルロッテは口をあんぐりと開けて俺の顔を見ている。
 やっぱ、それだけ特級魔術師ってのは神格化されてるんだろうな。
 そうなってくると、神級魔術師はどんな扱いを受けているのかが気になるところだ。
 もし俺が神級魔術師になれたりしたら、シャルロッテは目の前で気絶してしまうかもしれないな。

「――敵だ。警戒しろ」

 ランスロットの低い声を聞いた瞬間、俺達は各々身構えた。
 竜人族の、というかソガント族の能力なのかは知らないが、ランスロットは空間察知能力に優れている。
 微かな物音でも捉えることができるため、索敵に長けているのだ。

 ランスロットは槍を、エリーゼは剣を、シャルロッテは杖を取り出し、辺りを見回す。
 俺は……何も持っていない。
 き、近接戦闘型の魔術師だから……な?

 まだ姿は見えない。
 空を見上げても、それらしき影は見当たらない。
 ランスロットが言ったんだから、どこかにはいるはず――

「ベル! 下だ!」
「!?」

 ランスロットの叫びに、咄嗟に横っ飛びした。
 俺が先ほどまでいた場所を、大きな魔物が突き破っていた。

「シャァァァァァァァ!」

 蚯蚓みみずのような魔物は口を大きく開けて、大きな咆哮をあげた。
 先のとがった無数の歯がむき出しになり、陽光に照らされて光っている。
 気持ち悪っ!

「はァッ!」

 ランスロットが地面を蹴って飛び出した。
 長い槍を振り回し、蚯蚓を斬り付ける。

 ランスロットはフルスイングで振り下ろしたはずだが、蚯蚓には傷がついたくらい。
 巨大な体から、紫色の血が飛び散った。
 耐久力が高そうだから厄介だな。

 俺も魔術で攻撃しなければ。

「『炎爆フレイムブラスト』!」

 大きな炎の球を、蚯蚓の頭部目掛けて放つ。
 蚯蚓は悲鳴を上げて、土の中に潜った。
 うわ、めんどくせえタイプの魔物だ。
 もぐら叩きみたいに色んなとこから顔を出してくるんじゃないか。
 あれイライラするから嫌いなんだよな。

「皆さん! 足元に注意してください!」

 シャルロッテはそう言って、自らの長杖を地面に突き刺した。

「『土震アースクウェイク』!」

 シャルロッテが唱えると、地面が途端に揺れ出した。
 なるほど、地震を起こすタイプの魔術か。
 それで蚯蚓を地上に引っ張り出そうって考えだな。

 狙い通り、蚯蚓は再び姿を現した。
 俺は手を前に出し、もう一度魔術を放つ準備をする。
 しかし、それよりも先に、エリーゼが飛び出した。

「みんな仕事はしたんだから、最後は何もしてないあたしが決めるわ!」

 エリーゼは剣を片手に蚯蚓目掛けて突っ込んでいく。
 あんなに速かったっけ?

 握っている剣に炎が宿る。
 強く地面を蹴り上げ、高々と飛び上がった。
 気合入ってるな、エリーゼ。

「はぁぁぁぁぁっ!」

 雄叫びと共に、剣を振り下ろした。
 そして、蚯蚓は縦に真っ二つになった。
 
 ランスロットが斬れなかったあの巨体を、エリーゼが斬っただと。
 そんなに強くなったのか、エリーゼ。

「見事だ、エリーゼ」
「当然よ!」
「ランスロットが斬れなかったのに、エリーゼはいとも簡単に……」
「奴は火に弱いからな。
 実際、ベルの火魔術でも怯んでいただろう」

 確かに。
 ランスロットの槍には何も宿っていなかったが、エリーゼは火剣術を使った。
 こんなに属性の有利不利が顕著に出るもんなのか。

 何か今の戦闘、楽しかったな。
 なんというか、全員で戦った感があった。

 ランスロットが先陣を切って傷を付け、俺が火魔術で体力を削る。
 怯んで潜ったところにシャルロッテの土魔術、
 たまらず顔を出した瞬間にエリーゼがとどめを刺した。

 ちゃんとプロセスを辿っている。すごい。
 フローチャートに書き起こしたいくらいに綺麗な工程を踏んでいた。

「シャルロッテは、土魔術も使えるのね」
「土魔術は上級です」
「他には何か使えるの?」
「私は雷聖級らいせいきゅう魔術師ですが、一応全ての属性で中級以上の魔術は習得しています」
「凄いですね、師匠」
「師匠はやめてください。
 そんなに大層な魔術師じゃないので」

 俺よりも階級が上である時点で、尊敬に値する。
 よって、今日から師匠と呼ばせていただくことにする。

 それにしても、得意魔術以外もしっかり強化しているのは偉いな。 
 「偉い」だなんて上から目線で言うのはあれだが。

「ベルも大きくなったら、学校に行ってみてはどうですか?」
「学校……」

 嫌な響きだ。
 俺は学校で酷いいじめを受けたせいで、全てが狂ったんだ。
 …………嫌なことを思い出してしまった。
 
 いや、シャルロッテは悪くない。
 俺の前世の記憶なんて知ったこっちゃないだろうし。
 俺は未だに誰にも、この世界に転生してきたことを話していない。
 これからも話すつもりはないが。

「今や世界中に、魔法を学べる学校があります。
 有名どころでいうと、ケントロン魔法学院や、クレア魔術学校などでしょうか。
 ちなみに、私は前者の学校の卒業生ですよ」
「クレアというと、中央大陸にある王国だな」
「あたしたちが通るところ?」
「そうだな」

 クレアの方は聞いたことがないが、ケントロン魔法学院は聞いたことがある。
 世界最高峰の魔法学校だと聞くが、通うとしてもだいぶ先になりそうだな。

 そんな学校を卒業しているということは、正真正銘のエリートなのか。
 学校に通うのは正直、あまり気が乗らない。
 前世の俺の二の舞になりそうで怖いし。
 せっかく充実した生活を送れているのに、また同じように人生を棒に振ってしまうのは嫌だ。

 ロトアとルドルフを見つけて、またロトアから魔術を教わるんだ。

「聖級魔術師ってことは、かなり上の成績で卒業したのでは?」
「あの学校を甘く見ないほうがいいですよ、ベル。
 私はクラスで半分よりも下の成績でしたから」
「聖級魔術師って、凄いんじゃないの?
 上から三番目の階級でしょ?」
「私以外に、何人も聖級魔術師はいましたよ。
 特級魔術師には届かないながらも優れた魔術師というのが、たくさんいましたからね。
 今頃は、あの中から何人かは特級魔術師が現れていてもおかしくありません」

 そんなエリート校ですらも、特級魔術師を輩出するのは難しいのか。
 教え方云々だけではなく、その人が持っているポテンシャルも関係はあるだろうけど。

 そう思うと、ますますロトアの凄さを実感してしまう。
 あの人、とんでもない魔術師だったんだな。
 相当な努力を積み重ねたのだろう。
 人よりも何倍、何十倍も努力した末に、あの境地へ辿り着いたのだ。

「魔術が使える時点で、俺からしてみれば十分に凄い。
 俺も一度だけ試してみたが、成功する気がしなかった」
「今度、シャルロッテに教わりましょうよ」
「それは難しい。
 竜人族というのは、大体が魔術が使えない種族だ。
 だからこそ、シャルロッテは異端だ。
 もちろん、いい意味でだが」
「私は何故か、小さな頃から魔術が使えていました。
 ミトール族の村では色んな人から褒められたものですが、魔法学院では差別を受けたこともありましたね」
「差別? 酷いわね!」

 その通りだ。
 魔術が使えることに越したことはないだろう。
 ……って、そういう問題ではないか。

 詳しい事情はよく分からないが、人種差別と似たようなものだろうか。
 周りとは違う人間が身近に存在し、そのせいで固定観念が壊れることによって差別は起こる。
 普通は魔術が使えない竜人族が魔術を使い、それも世界で随一の魔法学校にいるということがどうしても許せなかった輩がいたんだろうな。

 もしかすると、そいつらはシャルロッテよりも成績が悪かったのかも。
 自分にはないものを持っているシャルロッテが羨ましかったのだろう。
 ケッ。いじめっ子の典型例だな。
 
「ベルは、お母様から魔術を教わったんですか?」
「最初のうちはそうですね。
 中級あたりからは、家に置いてあった魔術教本を使って練習しました」
「ほとんど独学、ということですか……。
 独学で上級魔術を習得する人なんて、見たことがありませんよ。
 それもこの歳で」
「照れますね、ぐへへ」
「笑い方どうにかならないの?」

 これから五日間、アルベーに向けての長い道のりを行く。
 長丁場になるかもしれないが、この旅事態の長さを考えると短いようなものだ。
 無事に、アルベーに到着できますように。
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