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第2章 少年期 邂逅編
第三十二話「VSボスミノタウロス」
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半日ほど歩いたところで、再び休憩をとることにした。
森の中に広めの空間があったため、そこで火を焚いた。
昨晩は森の入り口だったからテントを張れたが、ここは魔物の蔓延る森のど真ん中。
いくら代わる代わる見張りをするとはいえ、テントの中にいてはすぐに戦闘態勢に入ることができない。
だから、今日はテントは張らずに寝袋だけ地面に置いて寝る。
しかも、寝袋には包まらずに下に敷くだけ。
この辺りは夜は冷え込むんだよなぁ……
焚いた火を取り囲むようにして、俺達は休憩をとる。
「この肉……不味いわ……」
「何も食えないよりはマシだろう」
今夜の食事は、途中で倒した虎の魔物の肉である。
魔物を倒せば、当然その場に倒れる。
それを剥ぎ取ることで、肉や毛皮、個体によっては戦利品などを獲得できるのだ。
ランスロットによると、ボスミノタウロスはすぐに消えることはないらしい。
つまり、倒すことができれば確実にボスミノタウロスの肉が食べられるというわけだ。
それにしても、この肉は不味い。
普通に考えて、虎の肉なんて食えたもんじゃないだろう。
でも遭遇した魔物といえばあの虎ぐらいだし、これ以外に食べられるものはない。
この辺りに生息している植物の中には食べられるものもあるらしいが、やめておいた方がいいらしい。
魔物のフンやションベンがかかっているかもしれないから、体を壊しかねないし。
俺やシャルロッテの水魔術で洗えば食えないことはないが、考えなしの行動は命取りになるからな。
人生の先輩からのアドバイスは、聞いておくべきだろう。
「二人とも、故郷を離れた生活はどうだ?」
「楽しいですよ」
「あたしも楽しいわ!」
最初は、不安でたまらなかった。
これからどうなってしまうのか。
ロトアとルドルフ、そしてリベラ、アリスはどうなってしまったのだろうか。
グレイス家の皆や、グレイス王国の国民達も心配だった。
だが、今はどうだ。
ランスロット、そしてシャルロッテのおかげで無事に生きていくことができている。
皆のことが心配なのは変わらないが、それでも当初の不安はかなり解消された。
そして何より俺を支えてくれている存在は、エリーゼである。
彼女が居なければ、俺は心が折れてしまっていたかもしれない。
もしエリーゼが俺と一緒にいなかったら、エリーゼはここではない別のどこかに飛ばされていた。
そして、たった一人で生きていくようなことになっていたかもしれない。
そんなこと、考えるのも嫌だ。
……本当に、エリーゼがいてくれて良かった。
「恐らく、明日にはボスミノタウロスと戦うことになるだろう。
俺が覚えている限りの奴の特徴を、ここで話しておこうと思う」
そういって、ランスロットは俺達に話し始めた。
基本的には、巨大な鎌のような武器を振り回して攻撃してくるらしい。
通常の個体の何倍も速く動く上に、体長も何倍もある。
そして極めつけに、ボスミノタウロスの周りには普通のミノタウロスが何体かいるという。
つまり、戦わなければならないのはボスミノタウロスのみではないということだ。
「本来、ボスミノタウロスの討伐任務はA級任務に属する。
そのくらい、難しい任務だ」
「どうして今回はB級の依頼になってるの?」
「対象が何らかの理由で弱体化しているからだろうな」
そんな仕組みもあるのか。
じゃあ、相手は100パーセントの力を出せないかもしれないってわけか。
それはありがたいが、もしA級任務のままだったらもっと報酬は弾んでいたのだろうか。
そう考えたら少しもったいないような気もするが。
「基本的に、奴の気は俺が引く。
その間に、ベルとシャルロッテ、エリーゼは周りにいるミノタウロスの相手をしてくれ」
「あたしもボスの相手がしたいわ」
「いや、お前は通常のミノタウロスの相手をしてくれ。
全て倒し終わったら、今度は全員でボスミノタウロスに攻撃を仕掛ける」
「えー……分かったわ」
「奴がダウンしたら、全員で一気に畳みかける。
大体の寸法はこんな感じだ」
いよいよって感じだな。
まさか二度目の冒険者任務でこんな強敵と戦うことになるとは。
心の準備はもうできている。
全力で戦い抜いて、絶対に撃破する。
そして、皆で楽しく打ち上げをするんだ。
ただし、俺はあまり調子に乗りすぎないように。
---
「――いたぞ」
翌朝。
俺達は朝早く出発し、再び森の奥地を目指した。
そして、ボスミノタウロスの姿を確認した。
強靭な漆黒の体に、二本の巨大なねじれた角。
その両手には、巨大な鎌のような武器を握って、胡坐をかいて座っている。
ボスミノタウロスの周りにはニ体のミノタウロス。
構図的には四対三である。
俺達は草むらの陰に身を潜め、敵の様子を凝視している。
「先制攻撃をしたいわね」
「なるべく、最初は真っ向から行くのは避けたいな」
「僕に任せてください」
そう言って、俺は草むらを離れた。
ゆっくりと音をたてないようにボスミノタウロスの後ろに回り込み、
声を潜めて『ストーンキャノン』と唱える。
俺の手のひらから放たれた『ストーンキャノン』は、ボスミノタウロスの巨躯に直撃。
耳をつんざくような大きな雄叫びを上げて、自らに攻撃を仕掛けた方向を振り返る。
その瞬間に、ランスロットが飛び出した。
俺はエリーゼとシャルロッテのいる場所に戻り、ボスの両隣にいる二体のミノタウロスとの戦闘に備える。
「よし、行くわよ!」
エリーゼの合図で、三人は一斉に草むらを飛び出した。
俺とシャルロッテは後衛、最前線に出たのはエリーゼだ。
俺は、今回は後方支援型に徹することになっている。
というか、まだ前線を張るには力量や速度が足りないとランスロットに指摘されたため、当面の間は後衛を担当することにした。
動きが遅いのに前線を担当するなんて利敵行為でしかないし、仕方ない。
「ウオオオオオオオオオ!」
二体のミノタウロスも、ボスミノタウロス同様に大きな雄叫びを上げる。
そして、二体同時にエリーゼに向かって飛び掛かってきた。
「ふっ!」
エリーゼはそれをしなやかな動きで躱し、自らの剣を抜く。
「『盛炎』!」
空中で身を捻り、剣を振り上げる。
ミノタウロスはそれを手に握っている鎌で弾き、もう一体のミノタウロスがエリーゼを蹴り飛ばした。
「がはっ……!」
「エリーゼ!」
エリーゼは背中から勢いよく木に激突した。
テメェ、よくも俺のエリーゼを……!
そう思って前に出かけた俺の腕を、シャルロッテが引いた。
「考えなしに突っ込むのは危険です。
それに……」
「『炎の太刀』!」
どうやら、俺の心配は杞憂だったようだ。
物凄い速度で叩き付けられたエリーゼは、既に戦線に復帰していた。
目立った外傷はなさそうだが、少なからずダメージは入っているはずだ。
エリーゼに任せきりではいけない。
俺達も、エリーゼをカバーしなければ。
「『雷殺』」
「『火弾』!」
ほぼ同時に唱え、互いの手からそれぞれ魔術が放たれる。
シャルロッテの放った雷魔術と俺の放った火魔術は、空中でぶつかり合って大きな音を立てて爆発した。
ミノタウロスに直撃こそしなかったものの、ミノタウロスは突如聞こえた爆発音に僅かに怯んだ。
その隙を、エリーゼは見逃さなかった。
「はぁっ!」
今度は地面から剣を振り上げ、ミノタウロスを袈裟斬りにしようとする。
しかし、もう一体のミノタウロスの鎌がそれを邪魔してしまった。
エリーゼは剣を弾かれた反動で体勢を崩され、その場に倒れる。
その直前で、ランスロットがエリーゼを抱えてこちらに退いてきた。
「ランスロットさん! そちらの状況は?」
「少なくとも、俺一人で勝てる相手ではない。
俺が稼げる時間も限られているから、なるべく急いで二体のミノタウロスを殺して欲しい」
「分かったわ……!」
エリーゼはかなり息を切らしている。
まだ12歳の少女が、最前線であんなに激しく戦ったんだ。
戦い慣れた大人ではないから、消耗が激しくて当たり前だ。
そして……。
このミノタウロス、強い。
その辺のミノタウロスより三倍は強い。
そんなミノタウロスを二体同時に相手するのは、正直かなりきつい。
これがB級の依頼だなんて馬鹿げている。
いちゃもんつけてやりたいレベルだ。
無事に戻ったら報酬の上乗せを要求しよう。
二体のミノタウロス、そしてボスミノタウロスは、俺達を見つめて涎を垂らしている。
これ、負けたら食われるのだろうか。
いや、負けた時のことを考えるべきじゃないな。
「では、任せたぞ」
ランスロットはその場から飛び上がり、俺達が戦っている個体よりも遥かに巨大なミノタウロスに向かって槍を振り下ろした。
「どうにか工夫をしなければ、倒せそうにありませんね……」
「森を丸ごと焼いてもいいなら、僕の『フレアストーム』がありますが……」
「……なるほど」
「何か思いついたの?」
シャルロッテは俺の隣で、閃いたような表情をする。
「私に、考えがありま――」
「ウオオオオオ!」
「危ない!」
エリーゼが咄嗟に俺達の前に出て、ミノタウロスの攻撃を弾いた。
あまり悠長にしてはいられない。
「あたしが時間を稼ぐから、作戦を立ててちょうだい!」
エリーゼはその場を素早く離脱し、ミノタウロスの方へ飛び出した。
「それで、何を思いついたんですか?」
「まず……」
シャルロッテは、かなり手短に考え付いた作戦を俺に説明した。
その作戦は、あまりにも合理的だといえる。
今すぐに実行したほうがいいだろうが、まずはランスロットとエリーゼにその作戦を説明しなければならない。
「エリーゼ! ランスロットさん!
作戦を伝えます!」
俺は腹から声を出して、二人を呼ぶ。
剣と鎌、そして槍と鎌がぶつかり合う金属音が鳴り響く森の中、俺の声も負けじと響き渡る。
俺は、シャルロッテから教わった作戦をそのまま二人に伝えた。
こちらに退くことは無理そうだったので、俺が大声を出して作戦を伝えた。
相手が同じ人間じゃないから、堂々と作戦を口にできる。
「それでは、作戦開始します!」
シャルロッテはそう言って、右手を天に掲げた。
そして、口を開いて詠唱する。
「『豪雨積乱雲』!」
唱えた瞬間、青く晴れた空が徐々に曇り始める。
ゴロゴロという雷鳴の音が、あちらこちらで聞こえ始める。
お、思ったよりも規模が大きいな。
これが天候操作ではないとか、魔法協会もガバガバだな……。
いいや、今はそんなことはどうでもいい。
敵を倒すことだけに集中するんだ。
すっかり暗くなった空から、今度は冷たい雨が降り始めた。
人為的に降らせている雨とはいえ、雨水を浴びるのはかなり久しぶりな気がする。
「二人とも、こっちへ!」
天に右手を掲げたままのシャルロッテ。
俺は声を出せないシャルロッテに代わって、なおもミノタウロスと戦い続けるランスロットとエリーゼを呼び戻す。
「誰かが気を引いておいた方がいいだろう。
ギリギリまで俺が前に出ておく」
「お願いします!」
ランスロットの機転によって、こちらに寄ってきていたボスミノタウロス達が再びランスロットに集中し始めた。
準備は整った。
俺も、シャルロッテと同じように右手を天に掲げる。
そして、唱える。
「『フレアストーム』!」
俺は、冗談で言ったつもりだったこの魔術を、ボスミノタウロス達目掛けて放った。
普通ならば、絶対に森の中で使ってはいけないような大規模な火魔術。
だが、シャルロッテの『キュムロニンバス』のおかげで、火は発生しない。
『フレアストーム』は、ただの竜巻に火を加えることで威力が倍増したものである。
雨が降っていては、その威力は半減してしまうことは間違いない。
しかし、威力が落ちたとしても、天高く打ち上げられることで、それは致命傷になり得る。
一種の賭けではある。
だが、シャルロッテの考えた作戦だ。
俺たちのリーダーの、作戦だ。
――信じてみるしかないだろう。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は自分の出せる最高出力を『フレアストーム』に注ぐ。
まあ、火は消えているからただの『ストーム』だが。
「ランスロット! 退いて!」
エリーゼの叫びで、ランスロットはこちらに戻ってきた。
ミノタウロス達は、狙い通り竜巻に巻き込まれ、空高く舞い上がった。
流石にあんな巨大な体でも、自然の猛威には勝てないだろう。
眩暈がしだしたくらいで、俺は魔術を止めた。
ミノタウロス達は空から落ちてきて、地面に激突した。
「エリーゼ! とどめです!」
「『気炎万丈』!」
エリーゼは地面から弧を描くように、剣を振り上げた。
その剣は、まとめて落ちてきたミノタウロス達の首を、綺麗に斬り落とした。
……終わった、のか。
あ、やべ。
フラグ立てちゃった。
「もう動くことはないだろう。
俺達の勝ちだ」
……そうか。
この世界には、「死亡フラグ」なるものは存在しないんだった。
俺達は無事、任務を達成した。
森の中に広めの空間があったため、そこで火を焚いた。
昨晩は森の入り口だったからテントを張れたが、ここは魔物の蔓延る森のど真ん中。
いくら代わる代わる見張りをするとはいえ、テントの中にいてはすぐに戦闘態勢に入ることができない。
だから、今日はテントは張らずに寝袋だけ地面に置いて寝る。
しかも、寝袋には包まらずに下に敷くだけ。
この辺りは夜は冷え込むんだよなぁ……
焚いた火を取り囲むようにして、俺達は休憩をとる。
「この肉……不味いわ……」
「何も食えないよりはマシだろう」
今夜の食事は、途中で倒した虎の魔物の肉である。
魔物を倒せば、当然その場に倒れる。
それを剥ぎ取ることで、肉や毛皮、個体によっては戦利品などを獲得できるのだ。
ランスロットによると、ボスミノタウロスはすぐに消えることはないらしい。
つまり、倒すことができれば確実にボスミノタウロスの肉が食べられるというわけだ。
それにしても、この肉は不味い。
普通に考えて、虎の肉なんて食えたもんじゃないだろう。
でも遭遇した魔物といえばあの虎ぐらいだし、これ以外に食べられるものはない。
この辺りに生息している植物の中には食べられるものもあるらしいが、やめておいた方がいいらしい。
魔物のフンやションベンがかかっているかもしれないから、体を壊しかねないし。
俺やシャルロッテの水魔術で洗えば食えないことはないが、考えなしの行動は命取りになるからな。
人生の先輩からのアドバイスは、聞いておくべきだろう。
「二人とも、故郷を離れた生活はどうだ?」
「楽しいですよ」
「あたしも楽しいわ!」
最初は、不安でたまらなかった。
これからどうなってしまうのか。
ロトアとルドルフ、そしてリベラ、アリスはどうなってしまったのだろうか。
グレイス家の皆や、グレイス王国の国民達も心配だった。
だが、今はどうだ。
ランスロット、そしてシャルロッテのおかげで無事に生きていくことができている。
皆のことが心配なのは変わらないが、それでも当初の不安はかなり解消された。
そして何より俺を支えてくれている存在は、エリーゼである。
彼女が居なければ、俺は心が折れてしまっていたかもしれない。
もしエリーゼが俺と一緒にいなかったら、エリーゼはここではない別のどこかに飛ばされていた。
そして、たった一人で生きていくようなことになっていたかもしれない。
そんなこと、考えるのも嫌だ。
……本当に、エリーゼがいてくれて良かった。
「恐らく、明日にはボスミノタウロスと戦うことになるだろう。
俺が覚えている限りの奴の特徴を、ここで話しておこうと思う」
そういって、ランスロットは俺達に話し始めた。
基本的には、巨大な鎌のような武器を振り回して攻撃してくるらしい。
通常の個体の何倍も速く動く上に、体長も何倍もある。
そして極めつけに、ボスミノタウロスの周りには普通のミノタウロスが何体かいるという。
つまり、戦わなければならないのはボスミノタウロスのみではないということだ。
「本来、ボスミノタウロスの討伐任務はA級任務に属する。
そのくらい、難しい任務だ」
「どうして今回はB級の依頼になってるの?」
「対象が何らかの理由で弱体化しているからだろうな」
そんな仕組みもあるのか。
じゃあ、相手は100パーセントの力を出せないかもしれないってわけか。
それはありがたいが、もしA級任務のままだったらもっと報酬は弾んでいたのだろうか。
そう考えたら少しもったいないような気もするが。
「基本的に、奴の気は俺が引く。
その間に、ベルとシャルロッテ、エリーゼは周りにいるミノタウロスの相手をしてくれ」
「あたしもボスの相手がしたいわ」
「いや、お前は通常のミノタウロスの相手をしてくれ。
全て倒し終わったら、今度は全員でボスミノタウロスに攻撃を仕掛ける」
「えー……分かったわ」
「奴がダウンしたら、全員で一気に畳みかける。
大体の寸法はこんな感じだ」
いよいよって感じだな。
まさか二度目の冒険者任務でこんな強敵と戦うことになるとは。
心の準備はもうできている。
全力で戦い抜いて、絶対に撃破する。
そして、皆で楽しく打ち上げをするんだ。
ただし、俺はあまり調子に乗りすぎないように。
---
「――いたぞ」
翌朝。
俺達は朝早く出発し、再び森の奥地を目指した。
そして、ボスミノタウロスの姿を確認した。
強靭な漆黒の体に、二本の巨大なねじれた角。
その両手には、巨大な鎌のような武器を握って、胡坐をかいて座っている。
ボスミノタウロスの周りにはニ体のミノタウロス。
構図的には四対三である。
俺達は草むらの陰に身を潜め、敵の様子を凝視している。
「先制攻撃をしたいわね」
「なるべく、最初は真っ向から行くのは避けたいな」
「僕に任せてください」
そう言って、俺は草むらを離れた。
ゆっくりと音をたてないようにボスミノタウロスの後ろに回り込み、
声を潜めて『ストーンキャノン』と唱える。
俺の手のひらから放たれた『ストーンキャノン』は、ボスミノタウロスの巨躯に直撃。
耳をつんざくような大きな雄叫びを上げて、自らに攻撃を仕掛けた方向を振り返る。
その瞬間に、ランスロットが飛び出した。
俺はエリーゼとシャルロッテのいる場所に戻り、ボスの両隣にいる二体のミノタウロスとの戦闘に備える。
「よし、行くわよ!」
エリーゼの合図で、三人は一斉に草むらを飛び出した。
俺とシャルロッテは後衛、最前線に出たのはエリーゼだ。
俺は、今回は後方支援型に徹することになっている。
というか、まだ前線を張るには力量や速度が足りないとランスロットに指摘されたため、当面の間は後衛を担当することにした。
動きが遅いのに前線を担当するなんて利敵行為でしかないし、仕方ない。
「ウオオオオオオオオオ!」
二体のミノタウロスも、ボスミノタウロス同様に大きな雄叫びを上げる。
そして、二体同時にエリーゼに向かって飛び掛かってきた。
「ふっ!」
エリーゼはそれをしなやかな動きで躱し、自らの剣を抜く。
「『盛炎』!」
空中で身を捻り、剣を振り上げる。
ミノタウロスはそれを手に握っている鎌で弾き、もう一体のミノタウロスがエリーゼを蹴り飛ばした。
「がはっ……!」
「エリーゼ!」
エリーゼは背中から勢いよく木に激突した。
テメェ、よくも俺のエリーゼを……!
そう思って前に出かけた俺の腕を、シャルロッテが引いた。
「考えなしに突っ込むのは危険です。
それに……」
「『炎の太刀』!」
どうやら、俺の心配は杞憂だったようだ。
物凄い速度で叩き付けられたエリーゼは、既に戦線に復帰していた。
目立った外傷はなさそうだが、少なからずダメージは入っているはずだ。
エリーゼに任せきりではいけない。
俺達も、エリーゼをカバーしなければ。
「『雷殺』」
「『火弾』!」
ほぼ同時に唱え、互いの手からそれぞれ魔術が放たれる。
シャルロッテの放った雷魔術と俺の放った火魔術は、空中でぶつかり合って大きな音を立てて爆発した。
ミノタウロスに直撃こそしなかったものの、ミノタウロスは突如聞こえた爆発音に僅かに怯んだ。
その隙を、エリーゼは見逃さなかった。
「はぁっ!」
今度は地面から剣を振り上げ、ミノタウロスを袈裟斬りにしようとする。
しかし、もう一体のミノタウロスの鎌がそれを邪魔してしまった。
エリーゼは剣を弾かれた反動で体勢を崩され、その場に倒れる。
その直前で、ランスロットがエリーゼを抱えてこちらに退いてきた。
「ランスロットさん! そちらの状況は?」
「少なくとも、俺一人で勝てる相手ではない。
俺が稼げる時間も限られているから、なるべく急いで二体のミノタウロスを殺して欲しい」
「分かったわ……!」
エリーゼはかなり息を切らしている。
まだ12歳の少女が、最前線であんなに激しく戦ったんだ。
戦い慣れた大人ではないから、消耗が激しくて当たり前だ。
そして……。
このミノタウロス、強い。
その辺のミノタウロスより三倍は強い。
そんなミノタウロスを二体同時に相手するのは、正直かなりきつい。
これがB級の依頼だなんて馬鹿げている。
いちゃもんつけてやりたいレベルだ。
無事に戻ったら報酬の上乗せを要求しよう。
二体のミノタウロス、そしてボスミノタウロスは、俺達を見つめて涎を垂らしている。
これ、負けたら食われるのだろうか。
いや、負けた時のことを考えるべきじゃないな。
「では、任せたぞ」
ランスロットはその場から飛び上がり、俺達が戦っている個体よりも遥かに巨大なミノタウロスに向かって槍を振り下ろした。
「どうにか工夫をしなければ、倒せそうにありませんね……」
「森を丸ごと焼いてもいいなら、僕の『フレアストーム』がありますが……」
「……なるほど」
「何か思いついたの?」
シャルロッテは俺の隣で、閃いたような表情をする。
「私に、考えがありま――」
「ウオオオオオ!」
「危ない!」
エリーゼが咄嗟に俺達の前に出て、ミノタウロスの攻撃を弾いた。
あまり悠長にしてはいられない。
「あたしが時間を稼ぐから、作戦を立ててちょうだい!」
エリーゼはその場を素早く離脱し、ミノタウロスの方へ飛び出した。
「それで、何を思いついたんですか?」
「まず……」
シャルロッテは、かなり手短に考え付いた作戦を俺に説明した。
その作戦は、あまりにも合理的だといえる。
今すぐに実行したほうがいいだろうが、まずはランスロットとエリーゼにその作戦を説明しなければならない。
「エリーゼ! ランスロットさん!
作戦を伝えます!」
俺は腹から声を出して、二人を呼ぶ。
剣と鎌、そして槍と鎌がぶつかり合う金属音が鳴り響く森の中、俺の声も負けじと響き渡る。
俺は、シャルロッテから教わった作戦をそのまま二人に伝えた。
こちらに退くことは無理そうだったので、俺が大声を出して作戦を伝えた。
相手が同じ人間じゃないから、堂々と作戦を口にできる。
「それでは、作戦開始します!」
シャルロッテはそう言って、右手を天に掲げた。
そして、口を開いて詠唱する。
「『豪雨積乱雲』!」
唱えた瞬間、青く晴れた空が徐々に曇り始める。
ゴロゴロという雷鳴の音が、あちらこちらで聞こえ始める。
お、思ったよりも規模が大きいな。
これが天候操作ではないとか、魔法協会もガバガバだな……。
いいや、今はそんなことはどうでもいい。
敵を倒すことだけに集中するんだ。
すっかり暗くなった空から、今度は冷たい雨が降り始めた。
人為的に降らせている雨とはいえ、雨水を浴びるのはかなり久しぶりな気がする。
「二人とも、こっちへ!」
天に右手を掲げたままのシャルロッテ。
俺は声を出せないシャルロッテに代わって、なおもミノタウロスと戦い続けるランスロットとエリーゼを呼び戻す。
「誰かが気を引いておいた方がいいだろう。
ギリギリまで俺が前に出ておく」
「お願いします!」
ランスロットの機転によって、こちらに寄ってきていたボスミノタウロス達が再びランスロットに集中し始めた。
準備は整った。
俺も、シャルロッテと同じように右手を天に掲げる。
そして、唱える。
「『フレアストーム』!」
俺は、冗談で言ったつもりだったこの魔術を、ボスミノタウロス達目掛けて放った。
普通ならば、絶対に森の中で使ってはいけないような大規模な火魔術。
だが、シャルロッテの『キュムロニンバス』のおかげで、火は発生しない。
『フレアストーム』は、ただの竜巻に火を加えることで威力が倍増したものである。
雨が降っていては、その威力は半減してしまうことは間違いない。
しかし、威力が落ちたとしても、天高く打ち上げられることで、それは致命傷になり得る。
一種の賭けではある。
だが、シャルロッテの考えた作戦だ。
俺たちのリーダーの、作戦だ。
――信じてみるしかないだろう。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は自分の出せる最高出力を『フレアストーム』に注ぐ。
まあ、火は消えているからただの『ストーム』だが。
「ランスロット! 退いて!」
エリーゼの叫びで、ランスロットはこちらに戻ってきた。
ミノタウロス達は、狙い通り竜巻に巻き込まれ、空高く舞い上がった。
流石にあんな巨大な体でも、自然の猛威には勝てないだろう。
眩暈がしだしたくらいで、俺は魔術を止めた。
ミノタウロス達は空から落ちてきて、地面に激突した。
「エリーゼ! とどめです!」
「『気炎万丈』!」
エリーゼは地面から弧を描くように、剣を振り上げた。
その剣は、まとめて落ちてきたミノタウロス達の首を、綺麗に斬り落とした。
……終わった、のか。
あ、やべ。
フラグ立てちゃった。
「もう動くことはないだろう。
俺達の勝ちだ」
……そうか。
この世界には、「死亡フラグ」なるものは存在しないんだった。
俺達は無事、任務を達成した。
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地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
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【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
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穴場スポットへやってきた!
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テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
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「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
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