空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

文字の大きさ
52 / 81
第3章 少年期 ミリア編

第五十一話「異変、そして絶望」

しおりを挟む
---ベル視点---



 二日後。
 俺達は、作戦を立てた。

 まず、この牢獄を仕切っている鉄格子。
 一緒に脱出するなら、まず四人が一緒になることが重要だ。
 しかし、どうやってこの仕切りを無くすのか。
 簡単な話だ。

 俺の土魔術で、地盤を緩くする。
 そうすることで、鉄格子は簡単に機能しなくなるだろう。
 試しに少しだけやってみたが、やはり俺の読みは正しかったらしい。
 でも、問題はどうやって外に出るかだ。
 もう盛大にぶち壊してもいいんだが、それだと監獄の今後にかかわる可能性があると言われた。
 今から脱獄しようとしてるやつがそれを言うかね。
 とにかく、乱暴な方法ではだめらしい。

 一応、まだ四人の合流はしていない。
 不用意に合流なんてして、見回りに来た奴に見つかったらそこでゲームセットだ。
 作戦は一気に決行したほうが良いだろう。

「窓の一つや二つくらいあれば何とかできそうでしたけどね……」
「アタイらの上の階よりも上には、鉄格子でできた小窓があるんだけどね」

 なんやて工藤。
 一番下の階層であることが裏目に出たか。
 窓さえあればなあ……。

「やっぱ、ベルに壁をぶっ壊してもらうのが一番手っ取り早いんじゃねえの?」
「それはダメだと言っているだろう」
「じゃあ他に方法があるってのかよ!」
「今それを話し合っているんじゃないか」
「はいはい、喧嘩しない」

 シェインとゾルトは、いつもこんな感じなんだよな。
 仲がいいんだか悪いんだか。
 喧嘩するほど仲がいいなんていうし、本当は仲良しなんだろうけど。
 でなきゃ同じ盗賊グループになんて入らないだろう。

 でも正直、力業以外に方法が思いつかない。
 鉄格子と同じように、土魔術で地盤をいじることもできるが、それだとこの建物全体の崩落に繋がりかねない。
 そうなれば、この中にいる人間もろとも、海の底に沈んでしまうだろう。

 ドラ〇もん、通り抜け〇ープ出してくれ。
 それさえあれば全てが解決するんだ。

「ちなみに、そのトイレから出るってのはナシだよな?」
「前にも言ったけど、それだけは勘弁だね。
 そもそも、排管がどのくらいの大きさなのか分からない以上、危険だろ」
「人一人通り抜けられるくらいの大きさならいいですが、そうでなかった場合は確実に死にますね。
 知らない人間の糞尿もろとも」
「うぇ、最悪だ……気持ち悪くなってきた……」

 俺も自分で言っておきながら気持ちが悪くなった。
 絶対にここから出るのはナシだな。
 となると、いよいよ可能性が潰れてくるな。
 さて、どうしたものか。

 壁を壊すのも、地盤をいじるのも、トイレからの脱出も消えた。
 ダメだ、何も思いつかない。

 と、その時。

「――おい、お前ら。
 海から異常が感知されたらしい。
 早めに、屋上に上がって来い」
「海から異変?」
「そうだ。詳しい話は、囚人が揃ってから聞かせる。
 とにかく、下にいては危ないそうだ」

 他の海に比べてかなり穏やかな海であると聞かされていたが、そんなこともあるんだな。
 せっかくいい感じに計画が進んでいたのにな。
 何もなければいいが。

 俺達は導かれるまま、監獄の屋上に上がる。

「異変って何だろうな?」
「さてな。今までこんなことなんてなかったしよ」

 顔に入れ墨の入った屈強な男たちの会話が聞こえる。
 ありゃ何人か殺してるだろうな。
 あれで万引きとかだったらちょっと面白いが。

「私はここに来てから長いが、こんなことは初めてだな」
「ああ。ただごとではないような気がする」
「ふ、不安になるからやめてくださいよ」
「そうだぞ。ベルはしっかりしてるが、一応まだ子供なんだぜ?
 大人が子供を不安にしてどうすんだよ」

 俺が女なら、ゾルトに惚れていたな。

 一緒に屋上へと上がる囚人たちは、絶えずざわめいている。
 何事もなければいいが。

---

「探すって言っても、探すあてなんてどこにもないわよ?」
「ベルが監獄に囚われているのは確かだ。
 ベルの行方を追うというよりも、どうやって監獄に向かうかを探さなければならん」
「そうだったわね……。
 でも、どうやって向かうかなんて、あたし達に知る術なんてあるの?」
「一番手っ取り早いのは近隣の人達に聞き込みをすることですね。
 それか、古い文献を漁ってみるか……」

 日が昇ってから、エリーゼ達はベルの捜索を始めた。
 捜索というより、監獄の場所を突き止めるというべきか。
 ベルの行方は分かっているが、肝心の居場所が分からないことには助けようがない。

「本なんて読んでたら日が暮れちゃうわ。
 聞き込みが早いんじゃないの?」
「同感だ」
「ですが、かえって怪しまれませんか?」
「どうしてよ?」
「だって、自ら監獄に向かおうとしている人間なんて怪しくないわけないじゃないですか」
「シャルロッテ。冷静に考えてみろ。
 囚人と面会をすると言えば、何も怪しいことはないだろう」
「あっ……」

 シャルロッテは察したような顔をした。
 何も、自首をしに行くわけではないのだ。
 いくら世界随一のセキュリティを誇るミリアの監獄でも、囚人との面会は許される。
 なにせ、脱獄を試みる人間も、囚人を連れ出そうとする人間も、ならば現れないのだから。

 エリーゼ達は、衛兵に話を聞いてみることにした。

「すみません」
「はい?」
「ミリア監獄に捕らえられている囚人との面会を希望しているのですが、行き方を教えていただけませんか?」
「ミリア監獄ですか。
 ちなみに、囚人のお名前は?」
「ベル・パノヴァよ」
「ベル……もしかして、上流貴族の徽章を盗み出した罪を犯した、あの?」
「そうだ」

 衛兵は少し考え込むように顎を引く。

 ベルの犯した……正確にはベルではないのだが、ベルが着せられた濡れ衣というのは、国や地域によっては極刑になってもおかしくないレベルの犯罪である。

「会わせていただけないでしょうか?」
「いいでしょう。私についてきてください」

 衛兵はそう言って、一行を連れて歩き出した。

「大丈夫かしら、ベル」
「投獄されているだけのはずですから、身の危険はないでしょうけど……」
「世界随一のセキュリティを誇る監獄ですからね」
「そもそも、ベルは何もしてないのよ。
 無実の罪で捕まっちゃったの」
「!?」

 衛兵はぎょっとした表情をして足を止めた。
 カタカタと、体が震えだす。

「どうかしましたか?」
「……いえ、その……」

 衛兵の額に、噴き出すように脂汗が浮かぶ。
 違和感に気づいたシャルロッテは衛兵に声をかけるが、狼狽のあまりまともに会話ができる状態ではない。

「――申し訳ありませんでした!」

 道行く人間が揃って振り向くほどの大きな声で、エリーゼ達に頭を下げた。
 否、土下座した。

「どっ、どうしたのよいきなり?」
「彼を捕らえたのは、他でもない私です!」
「――!」

 その瞬間、エリーゼが剣を抜いた。
 地面に突く衛兵の頭に剣先が届く寸前で、ランスロットの槍がそれを弾いた。

「どうして止めるのよ!」
「簡単に剣を抜くな」
「でも、こいつは何もしてないベルを気絶させて投獄までしたのよ!」
「それでも、剣を抜いていい理由にはならない」

 剣を弾かれたエリーゼは、ランスロットの胸ぐらを掴んで激高する。
 ランスロットは全く動揺する素振りも見せず、エリーゼを諭す。
 シャルロッテもエリーゼの肩にポンと手を置き、「落ち着きましょう」と一言言った。

「今すぐに皆様をミリア監獄へお送りいたします」
「早くしてちょうだい。
 転移する魔術とか使えないわけ?」
「そ、そう言われましても……」
「送り届けてくれればそれでいい。
 そう焦ることはない」
「そうですよ。
 誰にだってミスはありますから、そう抱え込まなくても大丈夫です」
「皆さん……ありがとうございます」

 衛兵は涙を流しながら、再び歩き出した。

「エリーゼはもう少し、寛容にならないとですね」
「気持ちは分からんでもないが、悪意があってやったことではないのだ。
 それに、もうエリーゼは怒っていないだろう?」
「ま、まあね!
 悪かったわね、えっと……衛兵さん」
「エリーゼ様は謝るべきではないです。
 私なんか、謝られる立場ではないので」

 シャルロッテとランスロット、二人の大人に宥められる衛兵を横目に、エリーゼは遠くに見える大きな建物に目をやる。
 海上に浮かぶ、大きな建物。

「ねえ、もしかしてあれがミリア監獄?」
「はい、そうです」
「思っていたよりもはっきり見えるな」
「今は快晴なので綺麗に見えます。
 ですが――」

 衛兵が何かを言いかけたその時、耳をつんざくような轟音と共に、衝撃波に近い突風が吹き荒れた。
 下手をすれば体ごと飛ばされそうな風。
 それぞれが持っている武器を地面に突き刺して、力いっぱい踏ん張る。
 エリーゼは薄目を開けて、周りの状況を確認する。

 突如吹いてきた突風に飛ばされる人。
 突風によって飛ばされた物に当たって飛ばされる人。
 エリーゼ達のように踏ん張る人もいるが、次々に飛ばされていく。
 そして突風が止み、エリーゼは広い海の方を見る。

「――っ!」

 エリーゼは、目を見開いた。
 広大な海に浮かんでいた巨大な監獄は、一瞬のうちに見えなくなった。

 ――――見上げるような巨大な波が、凄まじい速度でこちらに向かってきていた。

 そして一瞬のうちに、エリーゼ達は波に飲み込まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...