空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第3章 少年期 ミリア編

第五十二話「同刻、監獄にて」

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--- 少し前 ---



「異変つっても、別に特に何も感じないんだが?」
「そうやって油断してたら、海の方からお前の顔になんか飛んでくるかもしれないぞ、ダリア」
「誰がいつ油断したってんだ」
「まあ、何も感じないのは事実ですし……」

 屋上に来てから、数十分が経った。
 その間、特に何もなかった。
 あるのはとてつもない便意のみ。
 ああ、めっちゃウンコ行きたい。
 って言ってみたんだが、トイレに行くことも許されないらしい。
 そう言って、その隙に脱獄なんてされたら困るからだという。

 まさか、そんなことするわけないだろう。
 まさかね。
 囚人は満足に用を足すことすら許されないらしい。

 それにしても、何故ここまで連れてこられたのか分からないくらい、何も起こらない。
 何も起こらない方がいいのは当たり前だが、わざわざこうして連れてこられて、トイレにも行けないんだぞ。
 早く部屋に戻ってトイレしたい。

「オレもウンコしてえな……」
「ダメです 僕が先に行きますからね」
「ベルよ。この世は年功序列の世界だって知らないようだな?」
「今、ゾルトさんは何歳なんですか?」
「23だ」

 はん。
 なら俺の方が年上だな。
 本当はもうアラサーだからな。

「では、ここはジャンケンで決めましょう」
「いいだろう。昨日教えてくれたヤツだな」

 ゾルトはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
 ほほう、この俺に負ける気がしないってか。
 絶対に負けられない。

 男には、勝たねばならぬ時がある。

「ジャン! ケン!」
「ポン!」
「のおおおおおおお!」
「っしゃあああああ!」

 普通に負けた。
 てか、そんな大きな声出すなよな。
 怖い大人がうじゃうじゃいるんだから、目を付けられたくない。
 それはそれとして、この戦いには絶対に負けてはならなかった。
 かくなる上は、

「三回! 三回勝負!」
「あぁ? 何言ってんだ?」
「三本先取で行きましょう!」
「何を今更! 敗者は床でも舐めとくんだな!」
「酷いです!
 ダリア! ゾルトさんがいじめてきます!」
「ウンコの順番賭けた勝負なんて、しょうもないことすんなよ……」
「しょうもないとはなんですか!」

 これは男と男の真剣な戦いなんだぞ。
 しょうもない戦いなんかじゃないぞ。
 このジャンケンに勝つのと負けるのとでは死活問題だ。
 下手すりゃパンツが茶色に染まることになる。

「あまり騒ぐな。
 私達は、海で異変があったから集められているのだぞ」
「お前もウンコがすぐそこまで迫ってきている状況になれば気持ちがわかるだろうさ……!
 こちとら命かかっとんじゃ……」
「うんうん!」

 激しく首を縦に振ったから首が外れそうになった。

「さ、さあゾルトさん。
 あと二回、僕に勝てますか?」
「何勝手に続けようとしてるんだ?」
「問答無用!
 出さんもんが負けよ!」
「おい! ズルいぞ!」
「ジャンケン!ポン!」
「えっ……」
「――」

 声にならない叫びをあげた。
 どうして俺は、こんなにジャンケンが弱いんだ。
 エリーゼ達とやった時も全然勝てなかったのに……!

 まだだ。
 まだ一回チャンスはある。
 ここから三連勝する確率は27分の1。
 よ、4パーセント……。
 いいや、俺ならやれる。
 奇跡を起こせる存在だ。
 こんなところで諦めてたまるか。
 ここから三回連続で勝って、薔薇色の排便をするんだ。
 ここで負けたら、命はない。
 そのくらいの心意気で、戦うぞ。

「ラスト!
 ジャン! ケン!」
「ポン!」
「がああああああ!」

 4パーセントを引くことは、叶わなかった。
 それどころか、一勝もできずに終わってしまった。
 俺の夏は、ここまでらしい。

「ご、五回勝負に……」
「もうやめだ。
 部屋に戻ったら、絶対に俺が先にトイレしてやるからな」
「うう……」

 当然、部屋にトイレは一つだ。
 その上、仕切りもあってないようなものだ。
 つまり、見放題、見られ放題ってことだ。
 あいにく、人のトイレを観察するような趣味は持ち合わせていない。
 逆も然りである。

「――おい、何か海がおかしくねえか?」
「本当だな。何かが動いているのか?」

 囚人のうちの二人が、そう話しているのが聞こえた。
 その声に、他の囚人たちもぞろぞろとその二人の周りに集まっていく。
 何かが動いているってのは、もしかしたらサメのことだろうか。
 そりゃサメだって動物なんだから、動きもするだろうが。
 変な動きでもしているのだろうか。

 うわ、あまりちゃんと観察したことがなかったが、改めてみるとデカいな。
 俺の知ってるサイズよりも遥かに大きいし、カジキみたいな巨大な角がある。
 動物ってより、魔獣だな。

「なあ、あのサメ、こっち見てないか?」
「ああ、あいつだな。
 こうして見ると意外と可愛いじゃないか――」

 その瞬間だった。
 俺の目の前の囚人が、額を撃ち抜かれた。
 そして後ろ向きに倒れ、そのまま足から海へ落ちていった。

 身を乗り出して手を伸ばした囚人もまた、撃ち抜かれた。
 体の一部を出したら、確実に危ない。
 俺は顔だけを覗かせ、下の状況を見る。

「――!」

 おい、嘘だろ。
 あいつ……あのサメ……!

「皆さん! 今すぐ屋内に避難してください!」
「どうした、ベル!」
「奴が飛んできているんです!」
「なんだと?!」

 俺は冗談を言っているのではない。
 確かに、見たのだ。
 あのサメが、真上に向かって、水中を泳ぐようにして飛んできているのを。

「ベルも逃げるぞ!」
「僕は迎撃します」
「馬鹿言え! あんなサメをどうやって……」
「誰かが何かしなければ、全員この監獄ごと海に沈む可能性だってあるんです」
「それは、お前じゃなくても――」
「早く逃げて!」

 ゾルトが腕を引いて避難を促してくるが、俺は応えられない。
 誰かが迎撃しなければ、どうなってしまうか分からない。
 全員パニック状態だから、仮に俺以外に戦える人間がいても、到底この場に戻ってはこれまい。

「……絶対、生きて帰って来いよ」
「どっちにしろ、トイレは先に取られちゃいましたね」
「……お前が帰ってくるまで、我慢しといてやる」
「いや、それは申し訳ないのでしてください」
「分かった。とにかく、無事に帰って来いよ」
「ええ」

 ゾルトは俺の腕から手を離し、逃げ惑う囚人たちに混ざって屋内へと避難して行った。

 それと同時に、サメがその全貌を現した。

「いや、おかしいだろ……」

 サメというより、クジラだ。
 こんなのが、監獄の周りをうろついていたのか。
 改めて、色んな意味でとんでもない監獄だな。

 サメは大きな口を開けて、角から俺に向かって光線を放った。
 いや、怖!

 俺も反撃をしなければ。

炎爆フレイムブラスト!」

 俺の放った魔法は、サメの頭に向かって一直線に飛んでいく。
 しかし、その魔法はサメの顔を掠めただけで、直撃はしなかった。
 避けられたのだ。あの巨躯に。

 なら、もう一度――

「おわっ!」

 サメは素早い動きで、俺を突き飛ばすほどの勢いで、床に突進してきた。
 もしかして、俺のことがあまり見えていないのか?
 視力はそこまでよくない感じなのだろうか。
 
 それなら、まだ俺にも勝機が――

「――!?」

 立ち上がってもう一度魔術を放とうと杖を構える。
 どういうわけか杖は没収されていなくて助かったぜ。

「『消雷バニッシュヴォルト』!」

 最近シャルロッテに教わった中級雷魔術。
 杖先から放たれた雷魔術は、一瞬消えたかと錯覚するほどの速度で、サメの頭に直撃。
 よし、確実に一発入ったな。

 サメの魔獣は飛べなくなったのか、目の前に落ちてきた。
 ここから一気に畳みかけ――

「――!」

 ――――なんだ、あれは。

 俺の視線の先には、とんでもない大きさの波。
 監獄を丸ごと飲み込むような勢いで、こちらに迫ってきている。

 逃げることもできない。
 ここは、監獄の屋上だ。
 飛び込んで逃げようにも、下には人喰いザメがいる。

 体が、震えだす。
 全く、体に力が入らない。

 ――――――『あの時』と、光景が重なる。

「――ぁ」

 あっという間に、俺は波に飲み込まれた。

 その後、体が波に流されるような感覚に陥り、意識が遠のいていった。
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