空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

文字の大きさ
54 / 81
第3章 少年期 ミリア編

第五十三話「変わり果てた景色」

しおりを挟む
 エリーゼは目が覚めると、水浸しの地面に横たわっていた。

「うーん……。ランスロット? シャルロッテ?
 ……ベル?」

 応答はない。
 エリーゼは、仲間たち全員とはぐれてしまった。
 それもそのはず。

 監獄のあった方角から押し寄せてきた津波によって、エリーゼ達は街の中へ流されてしまった。
 それぞれがどこまで流されたのか、そもそも無事に生きているのかすらも分からない。

「……酷いわ」

 360度、どこを見ても同じような光景。
 先ほどまでそこに建っていた建物は、一軒残らず倒壊してしまっている。
 跡形も、残っていない。

 幸い、腰に提げていた剣は無事だ。
 最悪何かがあっても、戦うことはできる。

「何で急に、あんなことに……」

 なんの予兆もなく、突如として吹き荒れた突風。
 それからすぐに押し寄せた、巨大な津波。
 エリーゼ以外に生きている人間は、かなり少ないだろう。

 倒壊した家ばかりであるからか、やけに見晴らしがいい。
 遠くの方まで、よく見える。

 エリーゼは膝をついて立ち上がる。
 しかし、立ち上がった途端、胃の中から何かが込みあげてくる。

「ゲホッ……ゴホッ……!」

 長時間波に流されていたため、大量の海水が胃の中に入り込んできていた。
 その全てを吐き出してから、エリーゼは立ち上がって歩き出した。

 目立った外傷はない。
 その代わり、体が上手く動かない。
 エリーゼの体温は、著しく低下している。

 体が冷たい。
 吹く風が、エリーゼの体を凍えさせる。
 エリーゼは覚束ない足取りで、どこへ行くあてもなく歩いていく。

 様々な感情が、脳内で交錯する。
 ランスロット、シャルロッテは無事なのだろうか。
 一緒にいた衛兵は、生きているのだろうか。

 そして、ベルの安否。
 津波が押し寄せてきたのは、監獄があった方角からだった。
 つまり、あの監獄もあの巨大な波に飲まれてしまった可能性も十二分に有り得る。

「……クーン」

 よろめきながら歩くエリーゼの視界に、動けなくなっている動物が入った。
 小さな犬のような動物が、瓦礫の下敷きになっている。

 エリーゼはその動物に駆け寄り、瓦礫を退けようとした。

「……っ!」

 手を伸ばした瞬間、その動物は瓦礫を抜け出した。
 そして、エリーゼを攻撃しようと、飛びついてきた。

「何なのよっ!」

 エリーゼは咄嗟に剣を抜き、その攻撃を弾く。
 弾き飛ばされた動物――否、犬の魔獣は、再びエリーゼに向かって突進してくる。

「――しっ!」

 エリーゼが剣を振ると、犬の魔獣は真っ二つに斬り裂かれた。
 そして、間もなく塵になって消えた。

「助かったわね。
 あんたのおかげで、体が温まったわ」

 皮肉混じりに、エリーゼはそう吐き捨てるように言った。
 剣を握ったまま、エリーゼは再び歩き出そうとした。
 だが、

「なっ……! 嘘でしょ……?!」

 先ほど殺したはずの犬の魔獣が、今度は何十体も、エリーゼの目の前に立っていた。
 エリーゼは煩わしそうな顔で、低く構えた。
 呼吸を整え、目を閉じる。

 魔獣の鳴き声と共に、エリーゼは地面を強く蹴った。

「『炎天えんてん』!」

 向かってくる魔獣を、地面から天へ弧を描くように剣を振って斬り刻む。
 魔獣は一斉にかかってくることはなく、一体ずつ飛び込んでくる。
 そのおかげで、エリーゼは全て一振りで仕留めることができる。

 次々に飛び掛かってきては斬り捨てられる魔獣。
 ――エリーゼは半ばこの戦いを楽しんでいた。

 久々の実戦。
 ただでさえ何週間も剣を振っていなかったのだ。
 腕が鈍っているかと思えば、そんなことはない。
 あれだけ数がいた魔獣は、一分足らずで全て斬り伏せられてしまった。

「はぁ……はぁ……」

 ようやく、エリーゼは剣を鞘にしまった。
 遅れて、疲労がエリーゼの体を襲った。
 倒れそうになりながらもなんとか踏ん張り、瓦礫の方へ歩く。
 そして、座り込んだ。

「これは……しばらく動けなさそうね……」

 この数分、エリーゼはアドレナリンのおかげで動けていた。
 普通ならば、とっくに倒れてしまっていた。
 体温が上昇したのも一時的なものであり、海水による低体温症に近いものに陥っていることに違いはない。
 目を閉じれば、そのまま目が開かないかもしれない。
 しかし、エリーゼの体力は既に限界であった。

 エリーゼの体から、力が抜ける――、

「――エリーゼ!」

 その寸前、聞き覚えのある声が聞こえた。

「シャル……ロッテ?」
「そうです! シャルロッテです!
 今すぐ治療します!」

 エリーゼは思ってもみない形で、シャルロッテと合流した。

「ありがと、シャルロッテ」
「いえいえ。何より、無事でよかったですよ。
 ところで、ランスロットはどこにいるか分かりませんか?」
「分からないわ。目が覚めたらここにいて、魔獣に襲われたの」
「魔獣?! 大丈夫だったんですか?」
「あたしを誰だと思ってんのよ。
 ちょちょいのちょいだったわ」
「ここで倒れそうだったのにですか?」
「うぐっ……うっさいわね!」

 エリーゼは少し顔を赤くして、プイッとそっぽを向いた。
 それから二人は立ち上がり、ランスロットを探して歩き出した。



---ベル視点---



「ゲホッ!」

 どこだ、ここは。
 さっきまで監獄にいて、サメの魔獣と戦って……。
 それで、俺はどうなったんだ?

 あの巨大な波に飲まれて、流されたはずだ。
 サメに食われた……ってわけでもなさそうだな。
 ここはどう見たって陸地だし。

 だが、何だこの惨状は。
 恐らくだが、ここはミリアの街中だろう。
 でも、どうしてこんなに街が酷いことになってるんだ。
 この壊れ方は、火事とかそういうものじゃないだろう。
 地面は水浸しだし、船が何隻も乗り上げていて、そのどれもが大破している。
 もしかして、ここもあの波に飲み込まれたのか?

 ――だとしたら、まずいだろ。
 ゾルトやダリア、それにシェインや他の囚人たちも、崩落した監獄と一緒に海に落ちたはずだ。

 そして、エリーゼ達はこの街にいるはず。
 つまり、あいつらも流されたってことじゃ――

「おっ、目が覚めたかな?」
「うわ! びっくりした!」

 全く聞いたことのない声が、隣から聞こえてきた。
 女の声だ。

「驚かせてごめんね。
 あっ、わたしは敵じゃないから安心してね」
「……分かりました。
 もしかして、助けていただいたんですか?」
「そうだよ。海で溺れそうになっていたところをひょいひょいっとね」

 指でひょいひょいってされても、全く想像がつかないんだが。
 でもとにかく、助かった。
 この人が居なければ、俺はきっと溺死していたか、サメに食い殺されていたところだっただろう。

「ってのは嘘で、本当は君と一緒にここまで流されただけなんだよね。
 あははは」
「嘘なんかい! ゲッホ!」
「大丈夫?!」

 なんの嘘だよ、全く……。
 思わずツッコミを入れたら、急にむせてしまった。

 でも、運良く生きて陸地に上陸することができた。
 この人も無事な人間の一人だし、俺の他にも無事な人間がいてよかった。

「わたしはエルシア。君の名前は?」
「ベルです」
「あ、もしかして、貴族の徽章を盗んだって男の子?」
「そうです。いや、そうじゃないんですけど」
「冤罪ってこと?」
「そうです」
「えっ! 可哀想!」

 察しが良いな。
 そうですよ。
 俺はとんでもない冤罪をかけられて投獄されたんですよ。
 あのドワーフ、マジで見つけたらただじゃおかねぇからな。
 あ、でも、こうも街が壊滅してると、流石に生きてるか怪しいか。

「こんなに小さいのに濡れ衣着せられるなんて。
 ベル、今何歳?」
「9歳です」
「わたしの二分の一歳じゃん!
 しっかりした子だな~」

 それほどでもないけどね。
 というか、エルシアは18歳ってことか。
 とても高校三年生の歳には見えないスタイルだな。
 グラマラスというより、程よく引き締まったいい体だ。
 俺も将来こんな感じの引き締まった肉体を目指さねば。
 俺が女だったら、ペタペタと腹筋を触っていただろう。
 ついでにもう少し上の方も。

「とりあえず、じっとしてても何も始まらないし、歩こっか」
「そうですね」

 安全策をとるならこの場から動かない方がいいが、そういうわけにもいかない。
 思わぬ形で街に戻ってきた以上、やるべきことは一つ。

 ――皆を、捜す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...