空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第3章 少年期 ミリア編

第五十六話「VS『海王』」

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 体の震えが止まらない。
 怖い。怖い。

 かつてルドルフとロトアが対峙した執行官とは別人であり、序列も一番下だ。
 それでもなお、ひしひしと伝わってくる強者のオーラ。
 威圧感で倒れてしまいそうなくらいだ。

「一つ、いいですか?」
「! ベル?」
「何だ」

 彼は、話も聞かずに殺しにかかってくるタイプではないらしい。
 少し賭けの要素はあったが、話せばわかるタイプなのかもしれない。

「この街の惨状、やったのはあなたですか?」
「ああ。我の権能で海の水を巻き上げ、街を飲み込むように操作した」

「……何のために、こんなことを?」
「貴様らには関係のないことだ」

 関係のないこと。
 何故だか分からない。
 だが、その一言はベルの逆鱗に触れた。

「無数の罪のない人々を殺しておいて、それはお前達には関係がない、と」
「そう言っているではないか」
「――ふざけるなよ!」

 隣に立っているエルシアは、体をビクンと震わせた。
 ベルは顔の血管が浮き出る程に、声を荒げた。

 ネプは全く動じる様子も見せず、ただ毅然と、無表情を貫いている。
 ベルはその、ある意味無神経な態度に、更に激昂した。

「お前はどれだけのものを壊したと思っているんだ!
 人も! 建物も! 未来も!
 それでも、俺達には何の関係もないって、そう言うのか!?」
「うむ」

 ベルは感情任せに、脳に浮かんでくる言葉を投げつけた。
 なおもその場を一歩も動かず、表情一つ変えず、ネプはベルを見つめる。

 ベルは強く拳を握っている。
 その手のひらには爪が食い込み、地面に血が滴り落ちている。

 ――そして、ベルの周りに無数の火の玉が現れた。

「ほう。我と戦うか」
「違う」
「ならば、それは何だ?」
「――殺すんだ」

 ベルは生み出した無数の炎を、ネプに向けて一斉に放った。
 その炎は、無くなることはない。
 ベルが魔力を解き放っている限り、それは永久的に生み出され、放たれていく。

 魔術を初めて覚えてから七年間で培ってきたその魔力量は、既に常人を超えている。
 その魔力量を以て、ネプを仕留めるつもりなのだ。

 ベルは、息を切らすほどの量の炎を放った。
 だが、不思議と手ごたえは薄かった。

 通常、魔術が命中すると、確かな手応えを感じる。
 それは魔物であっても無機物であっても同じ。
 しかし、今回はほとんど手応えを感じなかった。

 ベルは杖を抜いて、その杖先を土煙の中へ向ける。

「――!」

 土煙が晴れた。
 ベルは確かに、かなりの数の魔術を浴びせた。
 ところが、ネプは変わらず目の前に立っていた。
 それも、無傷である。

 ベルの瞳孔が、左右に揺れる。
 杖を構えた手が、プルプルと震える。

「良かったのは威勢だけだったようだな」
「……」

 ネプは初めて、ニヤリと笑った。
 そして、一瞬のうちにベルの目の前まで来た。
 その拳が、ベルの鼻骨を砕く――

「ぐっ……!」

 その間際、エルシアの大剣が拳を弾いた。
 拳と剣から起こったとは到底思えない金属音が、ベルとエルシアの耳に突き刺さる。
 ネプはまるで分っていたかのように後ろに飛び退き、エルシアの反撃を躱した。

「わたしもいるってこと、忘れられちゃ困るよ」
「何だ、戦えたのか、女。
 この小僧の背に隠れているだけかと思っていたが」
「この二本の剣を見てもそんなことが言える?」

 エルシアは二本の剣を誇示するように両手に握り、鋭い眼光でネプを睨みつける。

「大人しくしていれば、楽に殺してやることもできたが……。
 命知らずというのは、末恐ろしいものだな」

 ネプは吐き捨てるようにそう言った。
 そして、地面を蹴った。

 ――狙いは、ベルだ。

 エルシアはベルを抱えて横っ飛びで攻撃を躱す。
 体勢が崩れたところを、ネプは見逃さない。

 鋭い蹴りでエルシアを吹き飛ばすと、今度はベルに拳を振り上げる。

「――」

 それを再び阻んだのは、エルシアだった。
 吹き飛ばされた直後に体勢を立て直し、
 積み上がっている瓦礫を壁にしてそれを蹴り飛ばし、
 物凄いスピードで二人の間に入ったのだ。

 エルシアは、風聖級剣士だ。
 一般に、風剣士は他の属性の剣士よりも動きが速い。
 動きだけならば特級レベルの風聖級剣士だって、決して珍しくはない。

 エルシアは、の聖級剣士である。

 想像以上の速度で追撃をしてきたエルシアに、ネプは少しばかり動揺した。
 だが、彼にとってそれは何の問題でもない。
 エルシアの剣撃をのらりくらりと躱し、エルシアの腹に一発殴りを入れた。

「かはっ……!」

 視界が一瞬ぐらついたのち、エルシアは先ほどと同じような形で蹴り飛ばされた。

「『ライトニングブラスト』!」

 ベルの杖先から、紫紺の稲妻が放たれた。
 それは一直線に、ネプの頭を捉える。
 しかし、難なく躱されてしまった。

 ベルはそれに動じることなく、更なる追撃をする。

「フレイムブラスト!」

 先ほどよりも遥かに大きな炎の球を、ネプ目掛けて放った。
 だがやはり、手応えはない。

 (躱されてんのか? それとも、食らってるけど無効化している……?)

 思考を巡らせるベル。
 これまでの人生で回したことがないくらい頭脳を回して、打開策を考える。

「がっ……!」

 そんないとまも許さないのが、九星執行官。
 ベルを殴り飛ばしたネプは一気に畳みかけようと、再び地面を蹴る。

「はぁっ!」

 ベルは後ろ向きに飛ばされながらも、飛び掛かってくるネプに魔術を放つ。
 ネプはそれを、腕で防いでみせた。
 目を凝らして腕を見ても、傷はついていない。

「あぁぁぁぁあ!」

 何発魔術をぶつけても、全てを腕で防がれる。
 躱しているのではなく、攻撃は確かに当たっていた。
 だが、食らってはいないのだ。

「終わりだ、小僧――」
「――させない!」

 三度みたび、エルシアが割って入った。

「邪魔をするな、女!」
「あの子だけは、絶対に守る!」

 エルシアの叫びが木霊する。

 ネプはその手のひらから、潤色の水魔術を放った。
 ――詠唱無しで。

 初級魔法にも満たない、「フレイム」や「アクア」のような初歩的な魔法ならば、無詠唱で使える人も多い。
 だが、今ネプが使った魔術は、誰の目に見ても初歩魔法ではないのが明らかであった。

「『風刃ふうじん』!」

 自らの体に迫り来る水を、風で斬り裂いた。
 その水魔法は左右真っ二つに割れ、二人の遠く背後にあった瓦礫を破壊した。
 直撃していれば即死は免れなかっただろう。

 エルシアは、既にかなりの傷を負っている。
 瓦礫に勢いよく衝突したことによって、全身を強く打ち付けた。
 切った額からは、赤い血が流れている。

「邪魔だと言っておる!」
「どうしてベルから狙うの?!」
「弱者から殺すのが、戦いにおけるセオリーであろう」
「――ベルは弱くない!」

 エルシアは、大剣を振り回しながらそう叫ぶ。
 技を使っていないのにも関わらず、エルシアの剣からは万物を斬り裂く程の風が起こっている。

 魔剣、『風龍ふうりゅう』。

 五行相生が元となった、「土」を除く四種類の魔剣、

 『炎龍剣えんりゅうけん
 『水龍剣すいりゅうけん
 『風龍剣ふうりゅうけん
 『雷龍剣らいりゅうけん』からなる『世界四大魔剣』の一つである。

 エルシアが使う二本の大剣は、二本で『風龍剣』として数えられるのだ。
 片方を失くしてしまえば、能力は半減してしまう。
 だから、戦う時は必ず二本で戦わなければならないのだ。

「――しっ!」

 エルシアは随時ネプから距離を取り、その大剣でくうを斬る。
 文字通り、「空を斬る」のだ。

「なっ!」

 目には見えない風の斬撃が、ネプの判断を曇らせる。
 近づきたくても、斬撃が飛んでくるために近づけない。

 ネプは、瞬時に思考を巡らせる。

 一瞬にも満たないその隙を、見逃さなかった。



---ベル視点---



 痛い。
 怖い。
 憎い。

 俺の中で、様々な感情が入り乱れる。

 今すぐにでも、逃げ出したい。
 本当に、ただ生き延びることだけを目的とするなら、
 エルシアを置いてここから逃走をするのが一番手っ取り早い。

 でも、そんなことできるはずがないだろう。

 エルシアとは、まだ出会って数時間程度だ。
 それでも、エルシアは何度も俺を救ってくれた。
 エルシアが居なければ、俺はとっくに殺されていただろう。

 そんなエルシアを、『命の恩人』を見捨てて、逃げるわけないだろ。

 初めて、九星の執行官と戦った。
 正直、レベルが違う。
 エルシアの戦闘能力は俺の予想をはるかに上回っていたが、それ以上に力量の差を感じる。

 だがしかし、エルシアは諦めずに戦っている。
 それも、この戦いに勝つために戦っているんじゃない。

 俺を守り抜くために、戦っているんだ。

 さっき俺が飛ばされたとき、エルシアの叫ぶ声が聞こえた。

 ――ベルを、絶対に守り抜くと。

 ――――ベルは、弱くないと。

 ……ああ、そうだよ。
 俺は、弱くなんてない。

「ふぅ…………」

 深く息を吸い、そして吐く。
 この一連とも呼び難い動作は、いつも魔術の練習を行う時に怠ることはないルーティーンである。

 そう、俺は今から、魔術を使う。
 だが、今まで使ってきた魔術とは少し違う。

 杖を懐にしまい、低く構える。
 指先を地面に突き、更に体勢を低くする。

 俺はその指先を、コツンと踵に当てた。

 俺の足は、三秒も経たないうちに熱を帯びた。
 パチパチと、何かが弾けるような音、感覚。
 ちゃんと使うのは、当然初めてである。

 エルシアが時間を稼いでくれている。
 エルシアのおかげで、ネプは足止めを食らっている。
 今しかない。
 決めるなら、今だ。

 俺が天大陸にいた頃からずっと温め続けてきた、秘伝の技――

「――――『雷脚らいきゃく』!」

 雷鳴のような轟音が、俺の足から鳴り響く。
 鼓膜が破れる程の、大きな音。
 鼓膜の安否なんて、気にしている余裕はない。

 稲妻のように速く、ネプ目掛けて突撃する。
 その道中で、エルシアが剣を片方、左側に差し出していた。
 合っているのかは分からないが、
 エルシアはきっと、「これを使え」という意図で左手のみを出していたのだろう。

 俺は剣を受け取り、呆気に取られているネプに剣を振り上げる。

 剣術は、滅法だめだ。
 だから、いい振り方とか、いい斬り方とかは、よく知らない。
 でも、これまでに見てきたたくさんの剣士達の剣の振り方は、なんとなく覚えている。

「――――はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 腹の底から沸き立つような雄叫びをあげながら、剣を振り下ろした。

 ――確実に、斬った。
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