空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第3章 少年期 ミリア編

第六十四話「ミリアでの日々・上」

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 あれから、二週間が経過。
 俺達は、ミリアの復興活動に勤しんでいる。

 復興活動は、急ピッチで進められている。
 その大きな力となっているのは、ブルタ王国からの支援だろう。

 二人の九星執行官の襲撃による災害によって甚大な被害を受けたことを聞きつけて、
 一週間ほど前にブルタ国王の使いが何百人という人々を率いてやってきた。
 金銭、人員、そして食料や生活用品なんかを大量に支援してくれたのだ。
 更にその翌日、今度は別の使いが数千人の大群を従えて、実働的な支援を始めてくれた。
 流石は都市国家だな。
 王国との繋がりが深い。

 こうして復興活動を手伝っていると、何だかラニカ村を思い出すな。
 街の規模から何まで違うが、破壊されて復興に向かっているということに変わりはない。

「よく働いておるな」
「こんにちは、お爺さん。
 いえいえ。いち早くあの綺麗な景観を取り戻して欲しいですから」
「小さいのに、立派なことじゃ」

 サンタクロースばりの髭を引っさげたお爺さんが、杖をつきながら歩いてきた。
 穏やかな顔で、可愛らしいおじいちゃんって感じだな。
 こういうご老人は大事にするべきだ。

「――こっ、国王陛下?!」

 ……え?
 今、国王陛下って聞こえた気がするんだが。
 いや、まさかな……。

 だって、どこからどう見ても普通のお爺さんだろう。
 国王ならもっとこう、豪勢な服装だろうし。
 俺の着ている半袖短パンとそう変わらないじゃないか。

「あの、その……」
「そう畏まることはない。
 確かに私は国王、ポグマンじゃが」
「――もっ、申し訳ございませんでしたぁぁぁ!」

 やってしまった。
 「こんにちは、お爺さん」とか言っちまったじゃねえか。
 ブルタ王国のトップともあろうお方に、俺はなんて無礼な……
 腹を斬ります。あなた様の目の前で。

「それより、君が噂の、ベル君なのかい?」
「はっ、はい。ベル・パノヴァです」
「おお、君がそうだったのか。
 君が、あの九星執行官を撃破した勇敢な子供じゃったのか」
「は、ははは。まあ」

 正確には、俺が倒したわけではない。
 とどめを刺したのは、シャルロッテの自爆魔法だ。
 どうやら、俺が撃破したという噂が広まっているらしい。

「ありがとう。我がブルタ王国が第一の都市国家を、滅亡から救ってくださった。
 君はまさに、我が王国の英雄じゃ」
「英雄だなんて、そんな……」

 そう言われるべきなのは、俺じゃない。
 俺は、何もできなかったんだ。
 あの時魔術を撃つ決断すら、自分ひとりじゃできなかったほどの腰抜けだ。

 ポグマンは、にこやかな表情で俺を見る。
 守りたい、この笑顔。

「これから、復興にどれだけかかるか分からない。
 じゃが、この街は我が王国の大切な都市国家なのじゃ。
 どうか、復興をさせてくだされ」
「……お任せください。
 絶対に、以前のミリアを取り戻してみせます」

 ポグマンは何度もうなずいて、ゆっくりと歩いて行った。
 挨拶をして回っているようだ。

 なんか、いい意味で国王らしくなかったな。
 結局、ああいう人に人々はついていくのかもしれない。

 ミリアの街は、三分の二が破壊された。
 建物は流され、瓦礫がそこら中に散らばっている。
 だからまずは、瓦礫の処理からやらなければならない。

「やっ! おはよう、ベル」
「おはようございます、エルシア」
「今日も頑張ってるね~!
 後で膝枕してよしよししてあげる」
「お願いですから、エリーゼの前では絶対にそんなことしないでくださいね。
 本当に僕が殺されかねないので」
「誰の前でなんだって?」
「――ひっ!」

 心臓が口から出そうになった。
 いや、多分ちょっと出た。
 俺の頭に手を伸ばしかけたエルシアの背後に、エリーゼが腕を組んで立っていた。

 エリーゼもまた、動きやすそうな服装だ。
 言ってしまえば、かなり薄着だな。
 組んだ腕で、二つの山を持ち上げている。

「ベルは、あたしの膝枕じゃ満足できないって言うの?」
「別に、そうとは言ってないじゃないですか」
「あたし、この前見たわよ。
 あんたがエルシアに膝枕されて鼻の下伸ばしてたの」
「ははは。ご冗談を」
「冗談でこんなこと言うわけないでしょ」
「ですよね」
「まあまあ、二人とも喧嘩しない」

 エルシアが仲間に加わってからというもの、
 エリーゼは彼女に謎の対抗心を燃やしている。
 まあ、理由は何となく察しが付くが。

 エルシアは、あの日からかなり距離が近い。
 俺を見つけた途端に駆け寄ってきて、俺を抱きかかえたり、撫でてきたりする。
 全然、嫌な気はしないけどな。
 エルシアも、エリーゼに負けず劣らずの美人だ。
 それに、程よいサイズのバスト。
 そして極めつけは、このフレンドリーな性格。
 正直、好みのタイプだ。

 そんなエルシアを、エリーゼは嫌っているように感じるんだよな。
 嫉妬心を燃やしているのは可愛いが、仲が悪くなるとそれはそれでまずい。
 エルシアは俺にそんな気はないってことは知ってるし、
 エリーゼにもそれをわかって欲しいんだけど……。
 そもそも、エルシアは18歳。対して俺は9歳だ。
 高校三年生が小学三年生に恋心を抱くなんてことはないだろう。
 ないとは言い切れないかもだけど。

「エルシアは、ベルが大好きだもんね」
「ちっ、ちちちち違うわよ!
 ぶった斬るわよ!」
「分かった分かった、冗談だって……うわっ! 本当に剣を抜くのはダメだよ!」
「はぁ……」

 エリーゼは剣を抜いて、エルシアに斬りかかった。
 勘弁してくれ。
 仲違いされるのは違う。

「エリーゼ、分かりましたから。
 後で、一緒にお昼を食べましょう」
「夜も一緒よ!」
「はいはい」

 何というか。
 また、日常が戻りつつあるな。

---

 更に二週間。
 被災から一か月が経った。
 復興活動は順調である。

 ようやく、全ての瓦礫の除去が完了したらしい。
 ここから少しづつ、家が建っていくのだろう。
 あの美しい景観が戻る日はまだ遠そうだが、当初の状況に比べると大きな進歩を遂げたと言えるだろう。

 そういえば昨日、俺達の今後について話し合った。

 どのくらい、ここに滞在するか。

 俺達はそもそも、ラニカ村に戻るために旅をしている。
 ぶっちゃければ、あまり長い時間ミリアの復興を手伝っていると、どんどんラニカに帰るのが遅くなってしまう。
 俺達の事情を優先させるなら、今すぐにでも出発して少しでも進んだ方がいいだろう。

 だが、それはあまりにも非情というもの。
 街を守るためとはいえ、俺達は多少なりとも街を破壊した。

 そして、恐らく数年はかかるであろうこの復興活動を、俺達は手伝うという結論に至った。

 もちろん、完全復興するまで手伝うというわけにもいかない。
 具体的な期限は設けていないが、極力街に残って支援をすることになった。

 心配なのは、金銭面だ。
 俺が衛兵に捕まる前にいた、あの綺麗な冒険者ギルド。
 あれも、全て流されてしまった。
 そして、ここから一番近いギルドのある街までも、かなりの距離がある。

 つまるところ、金を稼ぐ手段が全くないということだ。
 今はまだいいかもしれないが、今後のために貯蓄を増やしておきたかったんだよな。
 まあ、ないものねだりをしても仕方がない。

「――はっ!」

 エリーゼの声と金属音が聞こえる。
 今日もやってるんだな。

「うん、いいね。かなりいい動きしてるよ」
「当然よ。お父さんの教えをしっかり守ってるんだから」

 リベラの教えも守ってやってくれ。
 リベラの方が教えていた歴としては長いんだから。

 ここ数日、エリーゼはエルシアとの剣の打ち合いに励んでいる。
 しかも、鳴っているのは金属音だ。
 そう、二人は本物の剣で打ち合っているのだ。
 下手をすれば死にかねないし、少し心配だ。

 まあ、エルシアの実力は本物だから大丈夫だとは思うが。
 あれだけの速さで動くエルシアを目の当たりにした俺が言うんだ。間違いはない。

 だが、

「――!」

 俺は思わず息を吞んだ。
 エリーゼ、あんなに速かったっけか。
 エルシアには遠く及ばないが、最後にエリーゼの剣術を見た時よりも速く感じる。
 街で魔物と対峙したとはいえ、一か月ぶりのはずなのに、動きが鈍っていない。

 船の上で鍛錬を積むこともできただろうが、エリーゼは船酔いがひどすぎたからな。
 ほとんど剣すら握っていなかったのに、どうしてここまで速くなったんだ?

 それでも、エルシアはいとも簡単にその剣撃を受け流す。

 ――これが、上級剣士と聖級剣士の差だっていうのか。

 風剣士は全属性の中で最も速く動く剣士ではあるが、
 それでもエルシアの速さは今まで見た中で一番速い。
 瞬発的な動きはもちろん、走る速度だってかなり速い。

「はい、ストップ!」
「はぁ……はぁ……」

 エルシアの合図で、エリーゼは剣を振るのをやめた。
 てっきり、振り続けるのかと。

「お疲れ様です、二人とも」
「ありがと」
「エリーゼちゃん、強いね。
 流石は『剣帝』の弟子って感じ」
「僕も驚きました。
 一か月以上もブランクがあるはずなのに」
「何か分からないけどね。
 エルシアに教えてもらい始めてから、ちょっとだけ速くなった気がするの」

 なるほど。
 何となく合点が行った。

 エルシアは剣術の威力も凄いが、何より彼女の魅力はその「速度」にある。
 以前のエリーゼも十分戦えるくらい速かったが、
 屈指のスピードを誇るエルシアからの指導は貴重なのだろう。
 いいな、人から教えてもらえるの。
 教えてくれる人は、もういなくなってしまったからな。

 悲しいことを考えるのはやめにしよう。
 とにかく、エリーゼが更に強くなろうとしているのだ。
 これは素直に喜ぶべきだろう。

 でも、シャルロッテがあの時俺に全てを委ねてくれたおかげで、俺は聖級魔術師になることができた。
 まさかシャルロッテの言った通り、上級の雷魔法が使えない聖級魔術師になってしまうとは。
 結構、この世界における階級の基準ってガバガバなんだよな。
 剣術にしても、称号を与えられた指導者の独断で決められるわけだし。

 ……っていうか、

「エルシアは、剣術の指導資格を持ってるんですか?」
「免許は貰ってるから一応ね。
 称号は貰えなかっただけで」

 あ、そうか。
 ルドルフやリベラのように称号を貰っていなくても、
 免許を持っていれば教えられるのか。
 俺も剣術が使えたなら、エルシアに教わりたい。
 ルドルフの指導は痛かったからな。

「ベルも剣術やってみればいいのに。
 あれだけの速さで動けるなら、素質はあると思うけどなぁ」
「魔術で手一杯なので、まだ剣術はいいですかね」
「じゃあ、魔術を完全制覇したら剣術もやるってこと?!
 その気なら、ベルにも教えてあげるよ」
「ま、まあ、考えておきます……」

 魔術を完全にマスターするということは、神級魔術までという意味だ。
 つまり、俺は剣術を学ぶ気はさらさらない。
 剣術も魅力的だが、俺には魔術の方が合っている。
 適材適所って言葉があるように、俺は魔術、この二人は剣術を担当すればいいんだ。

 俺も早く、魔術の練習がしたい。
 だが復興支援で忙しいのと、場所がないためしばらくは難しいだろう。

 俺は、シャルロッテの遺志を継ぐと決めた。
 だから、極める属性は雷に決めた。

 今までは、「何となくかっこいいから」というごく単純な理由で火魔法を極めるつもりでいた。
 でも、今回は明確な理由をもって決めることができた。

 シャルロッテの後継者となり、そして、シャルロッテを超える。
 俺は、世界随一の雷魔術師になるのだ。

 だが、一つ迷っている点がある。

 俺は、近接型の魔術師だ。
 最近新しいオリジナル技まで編み出して、それを実戦で使うことに成功している。
 結論から言えば、今までのような近接戦闘をする上でこの杖は邪魔になってしまう。
 こっちの短い杖の方が、俺の戦闘スタイルには適している。

 おまけに、聖級以上の魔術はほとんどが「大技」となっている。
 シャルロッテが使ったあの「ライディング・ヴォルト」は唯一の突撃系の聖級魔術だが、あそこまで詠唱が長いと短期決戦では不利になる。

 ……改めて考えてみると、俺みたいな戦い方で雷魔法を極限まで極めるのは難しいかもしれない。
 何より、この杖が逆に足枷となってしまう。
 でも、俺はこの杖を手放したくはない。

 ――いや、何も超近接戦闘にこだわらなくてもいいんじゃないか?
 大きな杖を持っているからと言って、接近戦が全くできないわけではない。
 上手く立ち回って上手く使えば、これまで以上にいい戦い方ができるかもしれない。

 色んな戦い方を磨くための、冒険者だろう。
 色んな魔物を倒すことで、多彩な戦闘術を磨けるじゃないか。

 それに、俺は一人じゃない。
 仲間たちと協力すれば、十分いい戦い方ができるはずだ。

「鍛錬はそのあたりにしておいて、こっちを手伝え、三人とも」
「……はーい」

 まあ、冒険者活動を再開できるのは、いつになるか分からないけどな。

---

 冬になった。
 雪が降る中、ミリアにいる人々は手を休めることなく働いている。
 吐く息は白く、薄着で外出しようものなら凍り付くような寒さだ。

 民家の建設にも徐々に着手し始め、だんだんと家が建ってきた。
 ラニカ村の時も思ったんだが、家が建つのがとても早い。
 人員の数が半端じゃないから、作業効率がいいんだろう。
 ブルタ王国に感謝してもしきれないな。

 そういえば昨日、エリーゼが誕生日を迎えた。
 あんなに小さかったエリーゼも、13歳になった。
 すらっと背が高く、程よく肉のついたいい体だ。
 剣士として模範となるべき体だな。

 そんな彼女は最近、あることにハマっている。

「出来たわよ!」

 エリーゼは両手に皿を持って、笑顔でこっちに歩いてくる。
 ハマっていることとはズバリ、料理である。
 最近とは言っても、数日前からだが。

 海が近いということもあって、魚が豊富にとれる。
 被災直後は魚が激減していたが、半年近く経つとその数もかなり増えてきた。
 一時はどうなるかと思った食料難だったが、王国側からの支援もあって何とかなった。

「今日は魚の煮付けですか」
「きっと美味しいはずだわ! 今度こそ!」
「い、いただきます」

 エリーゼの手料理が食べられるなんて、こんな幸せなことはない。
 なんて思っていたのは、初日だけだった。
 エリーゼの作った料理を食べる時は、覚悟を決めなければならない。

 何故なら、

「どう? 美味しい?」
「おっ……美味しい……です……」

 あまりこんなことは言いたくないんだが、エリーゼの料理は決して美味ではない。
 言ってしまえば、不味い。
 でもそんなことを言ったら怒るだろうから、俺は毎日残さず食べている。
 食事の時間がこんなに苦痛に感じるなんていつぶりだろうか。

 まだ始めたばかりなんだから、これから伸びしろしかない。
 そうだ。これからに期待だよな。

「うぷっ……!」
「……不味いの?」
「いっ、いえ……ゲップが出ました」
「そうよね」

 やばい。
 これ以上口に入れたら全部出てしまう。
 かといって残すのは、せっかく作ってくれたエリーゼに申し訳ない。

 ここは、意地で食べきるんだ。
 ネプと戦った時よりしんどいかもしれない。

「……分かってるわよ。本当は、あんまり美味しくないんでしょ」
「……そんなこと、ないですよ」
「いいのよ。顔見てたら分かるわ。
 もっと上手くなりたいけど、料理って難しいわね」

 バレた。
 顔に出すぎたか。

 料理は、慣れるまでは難しいだろう。
 俺も、レシピさえ見れば作れるだろうと一度だけ挑戦したことがあったが、
 それでも全く美味しくできなかった。
 これは生前の話だが、きっとこっちの世界でも同じことだろう。

「どうして急に、料理なんて始めたんですか?」
「そっ、そりゃ、将来のための練習よ」
「将来? 誰かに振る舞うってことですか?」
「むぐッ……なっ、何でもないわ! 早く食べるか残すかしなさい!」

 顔を赤くしたエリーゼ。
 ははーん、そういうことか。
 まあ、皆まで言わないでおいてあげようじゃないか。
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